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<インタビュー>シズクノメが語る、バンドの成り立ちと1stアルバムの手応え
2019年に結成し、YouTubeやTikTokなどで投稿している「マッシュアップメドレー」が大きな話題となっている5人組バンド、シズクノメが1stアルバム『単純的希望』をリリースした。アニメ『遊☆戯☆王SEVENS』2期エンディング曲の「Never Looking Back」などを含む計10曲入りで、バンド初のオリジナル曲「ワンナイトスタンド」とウェディング・ソング「ジューンブライド」は今作のために再録。結成からの約1年半、SNSや動画プラットフォームを活用してリスナー層を着実に広げる一方、ミュージシャンとして切磋琢磨してきた5人の初期衝動が込められた本作は、まだ何色にも染まっていない、どこにでも行ける、何にでもなれる自分たちの可能性を試すような、とにかくフレッシュでカラフルなアルバムになっている。9月に初の有観客ワンマンを控える中、完成したアルバムの手応えについて、5人に話を訊いた。
知ってもらうきっかけを
――まずはバンド結成の経緯をお聞きしてもいいですか?
ミチヒロモトキ:僕がボーカルのしゅんをSNSで見つけて、声を聴いて「いいな」と思ったが一番最初でした。しゅんはそのときに別のバンドをやっていたんですけど、そのバンドが解散したタイミングで声をかけたんです。
――もともと作りたいバンドのイメージがあった?
ミチヒロモトキ:目標はありました。今も掲げている「武道館」なんですけど、それを叶えるためにはどんなメンバーを迎えればいいのかって。それをしゅんとも話し合ってメンバーを探していきました。
ぐれむりん:僕とテツはバンドのメンバーを募集する掲示板みたいなところがあって、そのサイト経由でダイレクト・メッセージが届いたんです。そこから直接会って「こういうバンドがやりたいんだ」というヴィジョンを聞いて。その面接を経て加入しました。
宮本テツ:当時高校生だった僕にとってはけっこう年上の方たちだったので、普通に怖かったです(笑)。
――なるほど。ではYAHさんは? カメラマンがメンバーとして所属するバンドって珍しいですよね。
YAH:もともとフリーでカメラマンをずっとやっていて、フェスの写真を撮ったりしていたんですけど、昔はバンドをやっていたんですよ。その夢を諦めきれなくて。まず最初はバンドのお手伝いをしたいと思って、3年前ぐらいかな、TikTokで「歌が上手い人、いないかな」って探していたんです。そしたらしゅんちゃんを見つけて衝撃が走って、すぐに「カメラマンやらせてもらえませんか?」と連絡して。なので僕に関しては、シズクノメの前に組んでいたバンド時代からしゅんちゃんとは関わってました。そこからシズクノメが結成されて、僕もお手伝いをしながらYouTube活動をしていく中で、みんなが「もうメンバーでしょ」と言ってくれて加入した、って感じですね。
――しゅんさんは当時からTikTokを活用していたんですね。今と比べればまだそこまで認知されていないアプリだったと思うので、目のつけどころがいいというか。
しゅん:SNSが好きなんですよね。とりあえず自分の声を聴いてもらえるツールを全部活用していこうって。色んなプラットフォームで投稿していたら、現にこうやって声をかけてもらえたし。
――シズクノメといえば、YouTubeのチャンネルで投稿しているマッシュアップメドレー(アーティストやタイアップ作品をテーマにして、関連楽曲を繋げていくメドレー)が好評で、動画の再生回数もどんどん増えてきていますよね。そのあたりの反響はどのように受け止めてます?
ミチヒロモトキ:ああいうコンテンツに関しては、いきなりオリジナル曲だけを出しても聴いてくれる人がいないと広がっていかないし、だったらまずはきっかけを作ろうと思って始めたもので。なのでYouTubeチャンネルは二つあって、オリジナル曲のミュージック・ビデオを中心に上げるメインチャンネルと、カバー動画とかを上げるサブチャンネルで分かれてます。ありがたいことに動画がバズり始めるようになって、僕らとしてはホッとした気持ちです。
しゅん:だいぶ試行錯誤したもんね。
ミチヒロモトキ:まずは知ってもらうことが大事だと思っていたので、スタートラインに立つことができた、みたいな感覚かもしれないです。
【対決】Mrs.GREEN APPLEマッシュアップメドレー -Mrs.GREEN APPLE Mash Up Medley Battle-
――ちなみにマッシュアップメドレーのテーマは毎回、どのように決めているのでしょう?
しゅん:まずは僕がボーカルなので、僕自身が歌えるアーティスト、あとはモトキとぐれむりんも歌うので、この二人が歌えるアーティストで考えてます。ぐれむりんはJ-POP、モトキはロックが得意で、それぞれ通ってきた音楽が違うので、それに合わせていくような感じですね。
メンバーの音楽ルーツ
――メンバーみなさんの音楽ルーツもお聞きしたいです。
しゅん:僕は雑食ですね。自分が良いと思ったものを聴く感じなんですけど、逆に言えば特定のアーティストにのめり込むようなタイプでもないんですよね。だからこそ、ああいうメドレー企画ができたんだと思うんですけど(笑)。ただ、最初にライブに行ってみたいなと思ったのがAAAさんでした。あとはワンオクさん。その2組はだいぶ影響を受けているかもしれないです。あとはボカロとか。うちは家族みんな雑食なので、その影響もあると思います。
ぐれむりん:僕は昔からJ-POPを聴いてました。特にバラードが好きだったので、平井堅さんとかMISIAさんとか。楽器経験としてはピアノを最初に始めたんですけど、途中から歌もやりたいと思うようになって、高校生ぐらいから習い始めたんです。スティーヴィー・ワンダーがめっちゃ好きで。キーボードを弾きながら歌っているじゃないですか。それで弾き語りをやりたいなと思ったんですよね。
宮本テツ:僕は音楽を耳だけじゃなく目でも楽しむタイプなので、ヴィジュアル系とかK-POPが好きです。具体的にバンド名を挙げると、己龍とかvistlipとか。K-POPはパフォーマンスの見せ方が参考になるんですよね。うちはカメラマンも所属している通り、映像に強いバンドだと思うので、そういう意味では自分の好みとマッチしているバンドだと思っていて。ドラムに関しては、何か衝撃的な出会いがあったとかでもなく、サークルで新しいことを始めたいなと思って挑戦しました。ギターとかは競争率が高いだろうなって(笑)。
YAH:僕は大学3年生になって就活を始めるまではずっとバンドをやっていて、なんとか音楽で食っていけたらなと思っていたんですけど、やっぱり難しいじゃないですか。そこでいったん諦めてしまって。音楽以外だと映像も好きだったので、大学は映像系のところに通っていたんですけど、その関係もあってカメラマンとして働くようになりました。それまで組んでいたバンドに関しては3ピースで、僕はドラムをやってましたね。けっこう激しい感じで、オルタナとかグランジとか呼ばれる感じの。ただ、僕が個人的に一番尊敬しているのはGLAYなんですよ。あとはワンオクも好きで。なので、シズクノメの楽曲をけっこうドンピシャなんですよね。デモとか聴かせてもらうと毎回「めっちゃいい!」ってなります(笑)。
ミチヒロモトキ:僕はバンドを始めるきっかけがELLEGARDENだったんですよ。なのでロックとかエモとかパンクとか、けっこうラウドな音楽を聴いてました。海外の音楽もスクリーモを中心に聴いていて、そこからメタルやハードコアも漁るようになって。
――1stアルバム『単純的希望』がリリースされました。アルバムの制作モードはいつ頃から始まったんですか?
ミチヒロモトキ:半年ぐらい前ですかね。もともとフルアルバムにする予定じゃなかったんですよ。6曲ぐらいのEPを考えていて。でもその時期、曲がすごくたくさん作れたんですよね。それに前から溜めていた曲を合わせて9曲ぐらい集まったタイミングで「せっかくならもう1曲追加して10曲にするか」って。
しゅん:そしたらまた何曲かできちゃって入れ替えたりしてね(笑)。
ミチヒロモトキ:なんか調子が良かったんだよね。レコーディングも楽しかったし。
――「こういうアルバムにしたい」みたいなヴィジョンってあったんですか?
しゅん:なかったですね。タイトルも最後なので。
ミチヒロモトキ:収録曲が溜まっていく中でちょっとずつ寄っていく感じはありましたね。「このアルバムの全体像はこういうイメージなのかもしれない」みたいな。
ジャンプ主人公のイメージとリンク
――先行シングルとしてリリースされた「Never Looking Back」は、アニメ『遊☆戯☆王SEVENS』の主題歌です。バンドとして初めてのタイアップとなりますが、オファーを受けた際はどんな心境でしたか?
ミチヒロモトキ:最初はスタッフさんから何かのアニメのタイアップとだけ聞いていたんですよ。僕自身は普段、そこまでアニメをよく見るタイプではないので、あまり馴染みのないタイプの作品だったらどうしようかなと思っていたんですけど、いざ教えてもらったら『遊☆戯☆王』だし、もちろん僕もカードゲームは昔やっていたので、自分が遊んでいた作品と関われるというのは嬉しかったですね。
――楽曲は書き下ろしですか?
ミチヒロモトキ:そうですね。オファーを受けてから作りました。でも、そこまで『遊☆戯☆王SEVENS』のことを意識しすぎるのも違うと思って、もう少し発想を膨らませて、『遊☆戯☆王』の少年マンガとしてのイメージとリンクするような音や言葉を選んだ感じというか。『遊☆戯☆王SEVENS』なので、冒頭のコーラスを<na na na na na na>にしたというのはありますけど。
――その“少年マンガとしてのイメージ”について詳しく聞かせてください。
ミチヒロモトキ:わりと他の曲に関しては“一人の世界”を連想できるような書き方をすることが多いんですけど、この曲では<君と歩くなら>という歌詞がある通り、誰かと一緒に歩んでいくようなイメージになっていて、言ってみれば僕らも5人一緒になって歩んでいるわけで。「友情・努力・勝利」がジャンプの三大原則だとよく言われますけど、そうやって夢を持って歩んではいるけど、なかなかうまくはいかない、それでも切磋琢磨しながら進んでいく。そんなイメージが自分たちと重なるような感じはぼんやりとありました。ジャンプ作品の主人公ってやっぱりポジティブで努力家なキャラクターが多いとは思うんですけど、でもきっと弱気になる瞬間があったり、しんどい思いをしていたり、作品内で描かれていなかったとしても、どこかにネガティブな部分もあるんだろうなと思っていて、それでも頑張れるのは仲間がいるからだと思うんです。そういうイメージで歌詞を書いていきました。
シズクノメ - Never Looking Back [Official Video]
――先ほど「レコーディングも楽しかった」と仰っていましたが、作業は順調に進んでいきましたか?
宮本テツ:僕はレコーディング自体が初めてだったので、特に最初の曲のときとか、どういう流れでやればいいのか分からないレベルだったので、そういう意味では苦労しましたね。しかもフルアルバムの曲数なので。自分的に良かったと思っていたテイクが、ブースで改めて聴き直してみると「全然ダメじゃん……」ってなったりして、そのギャップに苦しんだりしてました。あまり表には出さないようにしてましたけど(笑)。
ぐれむりん:僕も同じで、初めてのレコーディングだったんですよ。しかも、最初に「がらくたのシェキラ」を録ったんですけど、あの曲がたぶん一番難しい曲で。でも逆に、最初にそこを乗り越えたおかげで、それ以降のレコーディングはスムーズだったというか、楽しくできたというのはありましたけど。とにかく無事に終わってよかったです。
ファンがいるからこそかなえられる夢
――それぞれ印象に残っている曲、お気に入りの曲などありますか?
しゅん:全曲良いのは前提として、1曲目の「パッと咲いて」のボーカルはモトキとのラリーになってる曲なんですよね。最初モトキから始まって、そのあと僕にパスしてもらって、またモトキに返して、サビで一緒になるっていう。その形がライブだと気持ちいいんですよ。歌っていて楽しくなる曲です。
ミチヒロモトキ:オンラインライブでパフォーマンスしたとき、1サビが終わったところでしゅんのほうを見てみたらニッコニコで。で、それを見てる僕もニコニコしてるっていう(笑)。この曲は僕も印象に残ってます。メンバーの影響を一番受けた曲で、特にしゅんの影響はかなり大きかったです。最初はイントロが全然違ったんですよ。もともと自分の中で表現したい世界観はあったけど、それを表せていないような感覚があって。それで一度全員に共有する前、まず初めにしゅんに聴いてもらったら「爽やかな朝に聴きたくなるような曲」と言ってくれたんですけど、でも僕は歌詞にも“砂漠”とある通り、広い砂漠の静かな夜をイメージしていて。なので、そこでイントロを全部変えました。
YAH:個人的には「ジューンブライド」ですかね。僕は結婚式のカメラマンもしていて、「結婚式の曲を作らないか」と提案したのも僕だったんですよ。その当時はまだYouTubeの登録者数がそこまで多くなくて、結婚式で曲を使ってもらえたら、もっと色んな人に聴いてもらえるようになるんじゃないかと思ったんですよね。僕は楽器を弾くわけじゃないので、みっちー(ミチヒロモトキ)に新郎新婦の想いだったり、実際に結婚式であるような出来事を伝えて、それで作ってもらったデモを聴いたら「めっちゃいいじゃん!」って。
ミチヒロモトキ:あれは苦労しました(笑)。YAHちゃんは映像の人だから、曲のイメージも結婚式の明るくて楽しい感じを表現してほしいと言ってくれたんですけど、なんか天邪鬼なところが働いて「違う形で表現できないかな」と思って。
YAH:それも話したね。歌詞に「雨」が入ってますけど、結婚式って雨だとあまり喜ばれないと思われがちだけど、実は雨って幸せを運ぶと言われたりもしていて。そういう雨の良いイメージもちゃんと込められてるし、MVでは自分が撮影した結婚式の映像も使ったりしているので、やっぱり思い入れがありますね。
シズクノメ - ジューンブライド[Official Video]
ぐれむりん:僕は「君の良いところ」ですね。そもそもバラードが好きなというのもありますけど、2番のBメロでみっちーが歌ってるところがめちゃくちゃ好きで。僕の解釈では恋愛の歌詞だと思ってるんですけど、そのBメロを聴くと恋愛をしていなくても泣けてくるんですよね。それぐらい感情移入しちゃって。
しゅん:恋愛してないの?
ぐれむりん:恋愛……したい。
全員:(笑)。
宮本テツ:僕は「ワンナイトスタンド」ですね。メンバーに初めて会ったときにデモとしてあったのがこの曲で。そのデモを聴いたときに「このバンド、いけるぞ」と確信したというか、そうやって自分とシズクノメを繋げてくれた曲という意味でも思い入れが深いです。YouTubeの企画でもこの曲に助けてもらった部分があるし。
――マッシュアップメドレー冒頭の「リズムに合わせて○○(そのメドレーのテーマ)」というジングル部分って、もしかしてこの曲が発端なんですか?
宮本テツ:そうです。
ミチヒロモトキ:もともと言ってなかったですからね。あれでゲーム性が増したというか。
シズクノメ - ワンナイトスタンド[Official Video]
――そして、9月21日にはアルバムのリリース・パーティーとして、SHIBUYA CLUB QUATTROでの有観客ワンマンライブが予定されています。有観客でのワンマンは初ですよね。
ミチヒロモトキ:現時点では有観客経験ないですからね。(※インタビューは7月)
しゅん:オンラインのみ。
――最後に意気込み、楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
ミチヒロモトキ:言ってしまえば「武道館」もそうなんですけど、僕らが掲げる目標は全部、好きでいてくれるファンの方々がいないと実現できないことだし、例えばコロナで予定が変わっちゃったこともあったけど、それでも変わらず応援してくれて、武道館に立つという夢も叶えられると本気で信じてくれている皆さんには、とにかく「ありがとう」と伝えたいし、そんな皆さんの目の前で音を出せるというのはめちゃくちゃ楽しみなので、ぜひ皆さんにも楽しみしていてほしいです。
Photo by Yuma Totsuka
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