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<Billboard JAPAN×NTTデータ>脳科学で『THE FIRST TAKE』オーディションのファイナリストを分析



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 アーティストの一発撮りパフォーマンスを届けるYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』が、その影響力と話題性をますます高めている。

 2019年11月にローンチした『THE FIRST TAKE』は、それからわずか2年足らずでチャンネル登録者数475万人(8/5時点)を超え、動画の総再生数は12億8,000万回を記録、動画公開後にはSNS上ですぐさま話題となり、その反響は翌週のヒット・チャートにも色濃く現れる。また、コロナ禍におけるスピンオフ・シリーズ『THE HOME TAKE』や、ライブハウスからパフォーマンスを届ける『THE FIRST TAKE FES』も注目を集めた。

 YOASOBIやDISH//、優里やyamaなど、このチャンネルへの出演がひとつのきっかけとなりブレイクを果たした若手アーティストも多い。そんな『THE FIRST TAKE』が次なる才能を発掘するために用意した舞台が、2020年11月にスタートした一発撮りオーディションプログラム『THE FIRST TAKE STAGE』だ。グランプリ獲得者には『THE FIRST TAKE』への出演と、同チャンネル発の音楽レーベル<THE FIRST TAKE MUSIC>からのデジタルリリースが約束される。

 全国から集まった応募総数は約5,000組、そこから1~3次の選考を経て、一般向けにチャンネル内でパフォーマンス動画が公開されたセミファイナリスト14組の中から、さらに4次選考を通過したファイナリストは4組。そして7月9日、ついにグランプリが決定し、鹿児島県出身の現在20歳のシンガー・ソングライター、麗奈が見事栄光を掴んだことが発表されたが、惜しくもグランプリを逃した他の参加者たちも、今後の活躍が大いに期待できる原石のような輝きを秘めていたように思う。

 そこで今回は、Billboard JAPANとNTTデータおよびNTTデータ経営研究所が共同開発する、脳科学を活用した音楽ヒット予測技術『NeuroAI-Music』を使い、ファイナリスト4組のパフォーマンス動画を分析してみる。

 分析の方法は二つ。一つ目は、それぞれのパフォーマンス音源から“類似楽曲”の分析。秒単位で算出した音源聴取時の脳活動予測値を平均化し、その数値が近い曲を『NeuroAI-Music』の研究で分析対象とした約2,000曲の中から探索する。例えば図1と図2は過去記事で行った類似楽曲の分析結果で、瑛人「香水」の脳活動予測値はコブクロ「桜」、石川さゆり「天城越え」などと高い類似性を示していることが分かる。



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<図1>



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<図2>



 そして二つ目は、各パフォーマンス動画の音源と映像から名詞(認知対象)、動詞(認知動作)、形容詞(印象)の三つのカテゴリで解読できる印象内容の分析だ。ここでは主に広告効果の定量的な分析などで実用化されている技術『D-Planner』を転用した。

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類似楽曲の分析

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 ざきのすけ。はオリジナル曲「MINT」を歌唱した。本人がこれまで作ってきた曲の中で最も感情移入しやすいと語るこの曲は、実体験をもとにほろ苦い思い出を描いたラブソングだが、分析ではBAD HOPが2019年11月にリリースしたEP『Lift Off』の収録曲で、トラヴィス・スコットやヤング・サグ、リル・ベイビーらを手掛ける音楽プロデューサー、WheezyとTurboが参加した楽曲「Foreign(feat YZERR&TIJI Jojo)」と最も高い類似性を示した。また、2番目の類似楽曲はTikTokからヒットしたTones and Iの「Dance Monkey」で、4組の中で唯一、海外アーティストの楽曲とマッチする結果となり、このことからもグローバル・トレンドに敏感なリスナー層に刺さるポテンシャルを秘めていると予想できる。

 麗奈の「ワンルーム」も、実体験をもとに作られた切ないラブソング。類似楽曲は、平井大がピアノとストリングスだけの演奏で歌い上げる「ここにあるもの」、アコギの弾き語りを全面に押し出したあいみょんの「恋をしたから」、ピアノ伴奏とチルなマシンビートが絡み合うずっと真夜中でいいのに。の「優しくLAST SMILE」の3曲で、いずれも落ち着いた雰囲気のバラードとなっている。特に前者2組は“共感”という形で支持を集めるシンガー・ソングライターであり、ずっと真夜中でいいのに。もデジタル・ネイティブな若年層から人気を得ている。そういう意味でも麗奈は、SNS時代のJ-POPらしいアーティストと言えるのかもしれない。

 そのほか、DISH//の「猫」を歌ったhapiのパフォーマンスは、遊助「ひまわり」やyama「春を告げる」、平井大「祈り花」を歌った山下 優太郎のパフォーマンスは、BEGIN「島人ぬ宝」やUru「ドライフラワー」などと高い類似性を示した。

印象内容の分析

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 次に各パフォーマンス動画から人間の脳がどんな印象を知覚するかを予測してみる。まずhapi、麗奈、山下 優太郎の共通点として、名詞の最大知覚印象が「髪」となっている点が挙げられる。そのほかにも「服」「化粧」「瞳」「容貌」といった外見に関係するワードが多い一方、ざきのすけ。の予測結果を見てみると、名詞は「不明瞭」「不自然」「別人」、動詞は「ぼかす」「浮き出る」「ぼやける」、形容詞は「薄い」など、全体的にほか3人と違う印象を連想させるワードが多いのが特徴的だ。

 また、麗奈と山下 優太郎に関しては、形容詞のカテゴリで「弱弱しい」と「重々しい」という一見すると対照的なワードが上位になっており、こういったアンビバレントな印象を与えるパフォーマンスであることも予想できる結果となっている。いずれの動画も同じ背景、同じ機材を使用して撮影しているのにも関わらず、視聴者にはそれぞれ異なる印象を与えており、その差異から各人の個性を見出すことができるだろう。

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グランプリ・麗奈にフォーカス

 最後に、グランプリを獲得した麗奈のデビュー曲「僕だけを」について、セミファイナル時のパフォーマンス動画と、グランプリ獲得後にトオミヨウのプロデュースが施され、正式なデビュー曲として公開されたパフォーマンス動画をそれぞれ分析、比較してみる。まずは類似楽曲から。

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 シンプルなアコギの弾き語りで構成されたセミファイナルver.の「僕だけを」に対し、グランプリとなって披露されたTHE FIRST TAKE ver.は演奏の緩急、メリハリが増し、2コーラス目から美しいピアノの旋律も加わる。アップデートされた要素として、楽曲のスケール感やダイナミズムが拡大された印象を受けるが、類似楽曲は見てみると、1番目のEXILE「AMAZING WORLD」をはじめ3曲が共通する結果となっていることから、トオミヨウのプロデュースはあくまで素材の味を生かしたまま、曲本来の魅力を拡大させたブラッシュ・アップであることが窺える。

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 印象内容も比較する。全体的に透明感や儚げな印象を思わせるワードは共通するが、セミファイナルver.では「苦悩」「孤独」「哀しい」といった印象ワードが散見され、いわば陰のイメージが連想できる一方、THE FIRST TAKE ver.では「光る」「可愛らしい」「若々しい」といった陽のイメージが強まっているように見える。

 麗奈いわく「恋愛についても、自分の人生についてもすごく悩んでいた時期」に書いたという「僕だけを」は、好きなのに「こんな私じゃダメだ、強くなりたい」と離れて行く“君”と、それでも「ずっと一緒にいてほしい」と思う“僕”を描いた楽曲。前述の通り、麗奈の実体験をもとに歌詞が書かれており、ここで描かれる“君”こそが麗奈自身なのだという。それは単なる悲しいお別れの歌ではなく、前を向く“君”、つまり麗奈自身の明るい未来を見据えた歌でもある。その点を踏まえても、THE FIRST TAKE ver.のアレンジは素晴らしい変化をもたらしたと言えるはずだ。

 消費のスピードが速まり、トレンドも目まぐるしく変化していく昨今において、いつどんなところでヒット・ソングが生まれるかを予測することは非常に難しい。音楽をより広く届けるためには、そのアーティストの個性を見極め、魅力を最大限に引き出し、その音楽を愛してくれるリスナー層を的確に開拓していくこと。もしかしたらそのヒントは、人間の脳内にあるのかもしれない。

 

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