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<インタビュー>eillなりの日本語詞との向き合い方 “一人ひとりでなきゃいけない”世代が綴る「花」の意味



シンガーソングライターのeillが、3rdデジタルシングル『花のように』を発表する。TVアニメ『東京リベンジャーズ』のエンディングテーマ「ここで息をして」、TVドラマ『ナイト・ドクター』に起用された「hikari」と、メジャー移籍後の新曲が各音楽チャートをにぎわせ、新たなアイコンとしての存在感を日増しに高めているeill。グローバルなポップスをバックグラウンドに持ちながら、「日本語の歌詞」により注力することによって、新たなJ-POPのスタンダードを築き上げつつあるとも言えそうだ。「自分を信じること」をテーマに〈咲き誇って 闘うのよ〉と歌う「花のように」の制作過程を紐解きながら、現在のeillがいかに日本語と向き合っているのかについて聞いた。

自分がないことが少し怖い、だからこそ自分のことを信じてあげたい

――4月にリリースされた「ここで息をして」は、TVアニメ『東京リベンジャーズ』のエンディングテーマに起用されたこともあって、各音楽チャートでも好成績を残し、新たな代表曲になったような印象があります。ご自身ではその手応えをどのように感じられていますか?

eill:アニメファンのみなさんとか、あと海外の方にすごく評価をしていただけたなって。びっくりしたのが、インスタとかで「ここで息をして」をカバーしてくれている海外の方が何人かいて、それがすごく新鮮だし、そうなるのは自分が憧れていたことでもあったので、嬉しかったですね。

――まさに、いまアニメのタイアップが付くということは、海外の方に聴いてもらえるチャンスが増えるということとイコールですよね。eillさんはもともとグローバルな視点を持って活動をしてきたと思うのですが、今回実際に海外からもリアクションがあって、何か気付きがありましたか?

eill:自分がもともと影響を受けたのは、R&Bとか、海外のポップスとか、K-POPだったりしたので、デビューして最初の頃は歌詞も英語で書いたり、あと海外のプレイリストに入ることを目標にしていたので、マスタリングも海外の方にお願いしてたんです。でも最近は日本語で歌詞を書くようになって、「ここで息をして」もそうだし、日本語の曲がちゃんと海外の人に届くっていうのがすごく嬉しくて。なので、自分の音楽がもっと日本語の美しい部分を知ってもらえるきっかけになれればいいなと思いました。

▲eill「ここで息をして」

――「日本語の曲が世界に聴かれる」という文脈で言うと、9月に全国公開される映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の主題歌として、竹内まりやさんの「プラスティック・ラヴ」をカバーしていますよね。

eill:私はあの曲の歌詞が好きなので、歌詞がちゃんと伝わればいいなと思いながらカバーをさせてもらいました。ダンサブルな曲だから、歌詞を重視してカバーをされている方があまりいない印象だったんですけど、今回は映画の主題歌ということもあるので、言葉を大事にしたいなって。なので、アレンジャーのYaffleさんにも「とにかく言葉が聴こえるようにしたいです」と言って、ちょっとテンポを落としたり、音数少ないところから始まる感じにしていただきました。

――やっぱり、今は日本語の歌詞というものにフォーカスしているんですね。新曲の「花のように」も言葉が伝わってくる楽曲だと感じました。

eill:アレンジやミックスに関しても、メジャーに行く前はキックに重きを置いていたのが、今はボーカルに重きを置いて、それに対してのアレンジを考えたりするようになったので、「どうやって言葉を聴かせるか」というのは今回も意識しましたね。

▲eill「花のように」

――実際のアレンジはストリングスをフィーチャーしつつ、全体的に音数は少なめで、やはり「言葉」を意識しているように感じました。

eill:もともと4つ打ちの曲じゃなくて、もっとバンドっぽいサウンドの曲だったんです。そこをあえてビートをプログラミングしていただいて、きれいなバンドサウンドの中に、歪なダンスの4つ打ちを入れて。あとボーカルはメイン一本だけで、コーラスは積まずに、その代わりボコーダーをつけて、ちょっとエレクトロニックな感じにしたり、いろんな要素の融合を意識して作りました。

――「ここで息をして」もわかりやすくいろんな要素が融合されたミクスチャーだったと思うんですけど、「花のように」はより歌や言葉に重点を置きつつ、よく聴くといろんな要素が、凝ったテクスチャーが盛り込まれている楽曲だと感じました。コーラスを積まずにメインのボーカル一本にしたのも、やはり言葉を大事にしたことの表れなのでしょうか?

eill:歌詞を見なくても歌詞が伝わった方がいいなと思ってるのに、自分の曲を聴くと「何て言ってるか全然わかんないじゃん!」っていうのがずっと悩みだったんです。その原因がもしかしたらコーラスを積み過ぎてるせいかもしれないと思って、「片っぽ」を作ったときに一本で勝負することにしたら、そこから「言葉が聴こえるようになった」と言われるようになって。でもコーラスの要素も欲しいから、ボコーダーを入れることで、より歪な感じも出るし、そうやって変わっていきましたね。

――「花」という歌詞のテーマはどのように出てきたのでしょうか?

eill:「花のように」は自分の心の中を描いた、人生の歌なので、自分自身と向き合う時間がどうしても必要で、自分の心から本当の言葉をすくい出すことに苦労しました。この曲では自分のことを花にたとえていて、同じ花がひとつもないように、私たちも一人ひとりが違う人間で、たったひとつの存在なんだけど、でも自分の色だけ見えなくなってしまうことがあると思うんです。周りの人はあんなにきれいに咲いてるのに、あんなに輝いてるのに、私だけが取り残されてる、追いつけていないような感覚になってしまう。それに対して、「自分色に咲き誇ろう」ということをテーマに歌詞を書きたいなって。

――「SPOTLIGHT」でも〈私は私で 何者にもなれないOnly one〉と歌われているように、「いかに自分自身であるか」というのはeillさんの楽曲の一貫したテーマになっていますよね。

eill:「SPOTLIGHT」はもうちょっとギャルマインドというか(笑)、まだ何も知らないからこそ、「私が主人公よ!」と言えた曲なんですけど、そうやって扉を開けて、そこから1~2年活動してきた中で、ただ光を当てるだけではなく、そこに自分の色を見つけていくことがすごく大事なんだなと学んだんです。ただ、自分の色が見えなくなったときに、「ちゃんと咲き誇ってる、大丈夫」と思えるかって、やっぱり簡単じゃないんですよね。それでも、ステージに立つとそう感じられたりして、そういう自分のことを肯定してあげる瞬間はすごく大事だと思うので、私自身はもちろん、いろんな人にとってのそういう場面に寄り添える曲になったらいいなと思って書きました。

――言ってみれば、メジャーという表舞台に立ったことで、そこにはいろんなシンガーがいて、比べられたり、比べてしまう中、自分の色を見失ってしまう瞬間もあるかもれしれないけど、そこでもう一度自分の色を見つめ直すことの重要性を歌っているというか。

eill:そうですね。現実を知ったギャル、みたいな(笑)。

▲eill「SPOTLIGHT」

――あはは。「花のように」では〈咲き誇って 闘うのよ〉と、強い言葉で歌われていることに、時代性を感じました。「花」をモチーフにした名曲ってたくさんありますけど、僕がパッと連想したのは「世界に一つだけの花」だったんですね。あの曲で歌われている〈NO.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one〉という歌詞は、もはや多様性の時代の前提になった。その上で、「より一人ひとりがそれぞれのやり方で輝けるといいよね」というのが現代だと思っていて、「花のように」の歌詞はそんな時代性ともマッチしているなって。

eill:〈咲き誇って 闘うのよ〉というのは、「自分のことを信じる」ということが言いたかったんです。私たちの世代はすごく個性を大事に育てられたというか、「一人ひとりでなきゃいけない」みたいな感じがあって、逆に言うと、自分がないことが少し怖いんですよね。周りの子と話していてもそれを感じることがあって、別に夢がなくても悪いことではないのに、「そうじゃなきゃいけない」みたいに育てられてきたからこそ、自分との葛藤があるんです。私自身も器用貧乏だと思っていて、「自分にしかないもの」って、今も正直わからなくて。でも、そういうときに心つなぎとめてくれる力って、何より自分のことを信じてあげることかなって。どういう自分であっても、それがあなただし、正解なんだって、そういうことをこの曲で言ってあげられたらなと思ったんです。

――〈もともと特別なOnly one〉が前提になることは、ときにプレッシャーにもなってしまうけど、そこから解放してあげるというのは、やはり現代的なメッセージだなと思います。そして、〈闘うのよ〉というワードのチョイスにeillさんの強さというか、ギャルマインドというか(笑)、アーティスト性を感じます。

eill:もともと負けん気は強いんですけど、ただ「誰かと比べる」ではないんですよね。私はとにかく自分に負けるのが嫌いで、「歌詞が書けない自分」とか「上手く歌えない自分」が許せなかったり、とにかく自分に負けることが嫌なんです。だからこそ、「強くなりたい」という曲を書き続けてるっていうのもあるし、そこと「いい音楽を作りたい」という欲がリンクしているので、それはすごく楽しいですね。

――では最後に、ツアーの話を聞かせてください。東名阪を終えて、追加公演のZepp DiverCityを残すのみですが、ここまでの手応えはいかがですか?

eill:今のバンドメンバーとは長くやってきているので、息がすごく合ってきて、ここに来てまたさらにレベルアップをした感じがあります。何も言わなくても同じタイミングで着地したりして、この一年一緒に曲を作ってきた中で、絆みたいなものが生まれた感覚があるんですよね。私は一人のシンガーソングライターなので、孤独な部分もあるんですけど、でも横を見たら手を繋いでくれる家族がいるような、そんな印象があるので、そういう周りの人たちをもっと大切にしたいなっていうのも、ここに来てまた思っています。

――eillさんのバンドメンバーはBREIMENやCRCK/LCKSのメンバーでもあって、非常に個性的だし、eillさんという存在がK-POPとJ-POP、さらにはバンドシーンをも繋いでいるような印象があります。メンバーそれぞれの活動をどのように見ていますか?

eill:ホントに最高! BREIMENのワンマンも観に行きましたし、ヒゲダン(Official髭男dism)の現場にレフティさん(宮田“レフティ”リョウ)が立ってるのを見ると、やっぱりかっこいいなって思うし、越智(俊介)さんのベースは唯一無二だし。みんなのことを本気でリスペクトしているので、「私なんかが」っていう気持ちもあったりするんですよ。最初の頃は特にそうで、同じステージに立ってても、私だけ追いつけてない感じがしてたんですよね。でも今は、やっと同じステージに立ててる気がして、「私の背中を見て!」って感じになってきました(笑)。Zepp DiverCityはこれまでで一番大きなキャパのライブなので、集大成を見せつつ、同時に未来も見えるようなライブにしたいと思っています。

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