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<インタビュー>音楽を届け続ける吉井和哉の 「いま」と「これから」



インタビュー

 長年タフな活動を続けている吉井和哉。2016年に再集結を果たしたTHE YELLOW MONKEYは、2019年に結成30周年を迎えながら、その記念ツアーがコロナ禍で中止〜再開催となるなど、彼もまたアーティストとしてこの時代と向きあってきた。その中で2020年夏からソロでのアコースティックライブ「UTANOVA」をスタートし、さらに東京・横浜・大阪のビルボードライブでのソロ・ライブの開催が発表された。そのキャリアの中に2020年〜2021年はどんな思いと共に刻まれているのか、そして2021年10月で55歳を迎える心境など、吉井和哉の「いま」を語ってもらった。

「いま」の自分にしか生み出せられない音楽を、すべての世代に届けたい

――アコースティックライブ「UTANOVA」の公演が続いている中、まさにお忙しいところ、お話しをうかがいます。まず、その「UTANOVA」開催に至った経緯を聞かせてください。


吉井和哉:昨年の春、THE YELLOW MONKEYの30周年ドーム・ツアーのその時点で残っていた公演が一度中止になってしまって、結果的には11月にやらせてもらいました。デリケートな1年でしたし、来ていただいたお客さん、スタッフが厳重な注意をはらってくれて達成することができた。そのことには本当に感謝しかないですね。
元々、そのツアーを終えたら、すぐにソロでのツアーの準備をする予定だったんですが、それも組み替えなくちゃならなくなって、少し休みを取りつつも、今年に入ってからソロの準備に入ったんですね。でも、今まで通りのバンド編成ではなかなか難しいという状況もあったし、僕は(コロナ禍のような)こういうことが起きると「こういうときにこそできること」を探すタイプなんです。  もちろんダメージは受けていなくはないですけど、そこであれこれあがいてもはじまらないなと思ったので、「これは老後の1年を先にもらっているんだ」っていうようなイメージで、わりとのんびりと時間を使っていましたね。その中でギター1本での弾き語りということにたどり着いたんですね。


――状況を逆手に取って、やってきていないことをやろう、と。


吉井和哉:そもそも弾き語りが苦手なんですよ(笑)。だから、今までやってこなかったんですけど、いろいろな条件も考えて、これからの活動も考えて、ギター1本で、ひとりで歌うことの重要性というか、そこに目を向けざるを得なかったというか。


――弾き語りが苦手、というのはちょっと意外でした。


吉井和哉:だから、2020年の7月の最初の「UTANOVA」は大変でしたね。曲をはじめる前に「もしかしたら、最後までできないかもしれない」なんてことわりを入れたりして(笑)。しかも、コロナ禍での開催ですから、間隔を空けた客席、マスクをしたお客さん、歓声なし、お客さんにも緊張感があるのか、何を言っても笑いも少ない……その中ではじめて弾き語りをやったんですよ。我ながら罰ゲームかって(笑)。
 まあ、冗談っぽく言ってますけど、持ち歌はあるのに、それを弾き語りで自由自在に歌えないっていうことに向き合って、バンドにもあらためて感謝しました。「ひとりでやってきたわけじゃない」って思わされましたね。


――それでも「こういうときにやるべきこと」だからチャレンジしてきた。


吉井和哉:そうですね。弾き語りもそうですし、あと僕はコンピュータで曲作りしてこなかったので、そんなことを覚えようかなとか。実際にはじめてみると難しいですね、3日ぐらい触らないと忘れてたりしますけど(笑)。ゲーム感覚も含めて楽しさはあるけど、あまりオペレーションのテクニックのところに入り過ぎちゃうと音楽が見えなくなる気がして、「ある程度のところまでいったら、それ以上は凝らない」っていうルールは決めました。昔、僕らが自宅でカセットテープを入れ替えながら録音していたときぐらいのイメージで、本格的な作業まではしないっていう方針でやってます。


――そんな初体験、コロナ禍の中での活動を経て、歌いたいテーマは変わってきましたか。


吉井和哉:コロナ禍の影響もありますが、どちらかといえばもうすぐ55歳になるということが大きいかもしれない。人生百年時代と考えれば、ちょうど半分を越えたところですよね。よく「過去は振り返らない」と言ってはいるんですが、そういうタイミングを迎えてみて、ちょっとそれも変わってきましたね。
 今までは、自分の人生が横続きに進んでいるようなイメージだったんですよ。つまり、過去は置いてきたものとして切り捨てがちだった。でも、実はそうじゃなくてスパイラルを描きながら上に向かって進んでいるのかなって思えてきたんですね。ぐるっと回って上ってきた、その蓄積の上をまたぐるっと回っていくようなイメージ。同じことを25歳の時にも表現しているんだけど、そのスパイラルの中にいると思うと、また違った表現の仕方がある、色彩が豊かになっているっていうか。



▲吉井和哉 - みらいのうた (Lyric Video)

――50代になって、見えている景色が変わってきたということですね。


吉井和哉: 振り返ってみれば、20代、30代、40代とそのときどきの言葉があって、平成の頃には平成ならではの「時代の言葉」を使った歌もありました。それはもう使わないような言葉だったりするけど、それはそれでその時々に生きていた僕たちの世代の言葉の組み立て方だった。だからこそ50代の自分にしか組み立てられない言葉があるだろうって思うんですね。きっとそれは極端に時代の記号的な言葉を使うことではないんじゃないかって思いますね。


――その20代〜50代を併走してきた同世代に向かって歌いたいという気持ちはありますか。


吉井和哉:うーん、少なくとも、あえて若い人には向けない(笑)。いや、若い人に向けたい時代もあったんですよ、40代の頃とか。そういうのを経ていまに至っていますから、ついてきてくれるならもちろん拒まないし、ありがたいことですが、わざわざ「向ける」ことはしなくていいと思ってますね。いまの自分の歌をどんな層にもこびを売らずに歌いたいなって。
 それはひっくり返せば、どの層にも、どんな世代にも伝わる歌が歌いたい。それは吉井和哉の「いま」でもあるし、「これから」に向かって歌うことかもしれない。


吉井和哉


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    「黄金の時代」を見据え、音楽家人生としての「これから」を語る
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「黄金の時代」を見据え、音楽家人生としての「これから」を語る

――55歳を迎えるという「いま」があって、そこにたまたまコロナが重なった。


吉井和哉:僕の世代だけじゃなくて、新社会人、大学に入ったばかりの学生さん、思春期の人たち、誰もが不安だと思うんですよ。でも、さっきの「こういうときにできること」じゃないけれど、結果的に何かを得られたと思いたいじゃないですか。逆境を活力にして欲しいと思いますよね。
 こういう時代を体験したからこそ、未来がこうなったんだっていう風にポジティヴに変換できるような、そんな曲を作っていますね。


――このあと3ヵ所のビルボードライブでのスペシャルなライブも待っています。ファンにはたまらないステージになりそうですね。


吉井和哉:もちろん僕も楽しみです。個人的にはビルボードライブ東京でハービー・ハンコックを見ましたし、最近だと宇崎竜童さんのビルボードライブ横浜でのライブに行かせていただきました。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「スモーキン・ブギ」を小学校1年生で買ったんですよ。その自分が、宇崎さんのステージを、しかも横浜で見るなんて、それはもう最高! としか言いようがないじゃないですか。
 そんなとてもスペシャル感を感じる場所ですから、通常のステージとは、ひと味違うステージをイメージしていますね。アレンジをジャジーにしたりするのも似合う会場ですし、そんな雰囲気も大好きなんだけど、僕の場合はやっぱりロック寄りですね。例えば、もしルー・リードがビルボードライブに立ったら、どんな感じになるだろうって想像してみたりして。「静かにノイジー」「静かにロック」みたいなイメージですかね。編成も小編成にする予定ですし、いい意味での「スキマ」を楽しんでもらいたいと思っています。


――「UTANOVA」以上にお客さんとの距離も近い、親密な空間というのもファンにも初体験になりそうですね。


吉井和哉:いや、正直なところ、近いの苦手なんです。結婚式のスピーチとかが苦手なタイプで、7万人は平気なのに、10人が苦手という(笑)。あ、ビルボードライブは、10人っていうことはないか(笑)。
 そんな僕ですが、きっと「UTANOVA」でやってきていることが身になっていると思うし、しかも弾き語りではなく素晴らしいサポート・メンバーがいてくれて心強いし、調子にのって第2回、第3回がやらせてもらえるようにしたいと思っています。
 人生のスパイラルで言えば、同世代のファンにとっても、きっと新鮮だと思うんですよね。50代を迎えて、これから60代に向かうという時期に見える豊かな色彩のひとつと言うか……あえて言えば「最先端のヘルスセンター」ですよ(笑)。


――「これから」の吉井和哉については、どんなイメージを描いていますか。


吉井和哉:きっとあっと言う間に60代を迎えそうですが、60代は、僕にとっては黄金の時代だと思っているんですね。とても豊かな景色、色彩を見られるんじゃないかって。その黄金の60代を最大に楽しみたいから、だからこそ、いま頑張っておこうかなって。
 もしかしたら、60代になったらできないことっていうのが待っているかもしれないと思うんですね。
急いでいるところも少しあるかもしれないですけど、やれることをやっておきたい。
 これって10代の最後の方と同じ感覚なんですよ。あの頃、20代になったらできないことがあるような気がしていたじゃないですか。それと似ているかな。
 弾き語りデビューしたのも、そういう意味もあるんですよ。誰かの言葉で「アコースティック・ギター1本は、オーケストラにも負けない」っていうのを読んだことがあって、ギター1本の弾き語りにもそれだけの説得力を持たせることができれば、年齢を重ねてもひとりでも旅にも出られるじゃないですか。今はなかなかそういう気楽な旅はできないですけど、この先、旅に出るような感覚で弾き語りのライブができる、そんな60代もいいなあって。


吉井和哉

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