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<対談インタビュー>石崎ひゅーい×磯村勇斗が語り合う、スターへの憧れと表現者としてのルーツ
石崎ひゅーいの新曲「ブラックスター」のミュージック・ビデオに俳優の磯村勇斗が出演し、大きな話題を集めている。
「ブラックスター」は、サッポロ生ビール黒ラベルのCMのために書き下ろされた楽曲。「それぞれに、きっと大切な星がある。」をテーマに制作され、高揚感溢れるエレクトロ・サウンドと生々しい感情を込めたボーカルが印象的なナンバーに仕上がっている。
Billboard JAPANでは石崎と磯村の対談インタビューを実施。「ブラックスター」の制作エピソード、CMやMVの撮影、そしてアーティスト、俳優を志した時期の思いなどについて語り合ってもらった。
“憧れ”をテーマにした「ブラックスター」
――石崎さんと磯村さんは今回のプロジェクトが初対面だったとか。実際に会うまではお互いにどんなイメージを持っていたんでしょうか?
磯村:僕はひゅーいさんの楽曲やMVからすごくソウルを感じていたんですよね。本当に心から歌っているのが伝わってくるし、歌詞や音色にシビれまくっていたので、今回ご一緒できて嬉しかったです。どこか俳優に近い表情も感じるんですよね、ひゅーいさんは。
――実際、役者としてのキャリアもお持ちですからね。
石崎:いえいえ、そんな。磯村さんのイメージは……いちばん最近見た作品は『ヤクザと家族 The Family』で。大河ドラマ(『青天を衝け』)も見させてもらってますけど、役の幅が広いし、どんな役でも人間らしい演技をなさっている印象です。
――磯村さんは石崎さんの新曲「ブラックスター」のMVに出演。この楽曲はサッポロ生ビール黒ラベルのCMのために制作されたそうですが、中心となるテーマはどんなものだったのですか?
石崎:ザックリ言うと“憧れ”ですね。黒ラベルのキャッチコピーは「丸くなるな、星になれ」ですけど、デビューから星をモチーフにした曲を作ってきたし、それが表現の核の一つになっていて。今回の曲では自分の集大成みたいな歌詞を書こうと思っていたんですけど、星に対して何かを歌うことは、亡くなった母親に向けて歌っているところもあって。母親は自分のなかの芸術を形成してくれた人なんですよ。演劇を見せてくれたり、音楽を聞かせてくれたり、ライブに連れていってくれたり。母はデヴィッド・ボウイが好きだったんです。なのでこの曲には、母親やデヴィッド・ボウイに対する憧れもありますね。
――「ブラックスター」は黒ラベルのマークですが、デヴィッド・ボウイの遺作のタイトルでもありますね。
石崎:そうなんですよ。あのアルバムの「Lazarus」という曲に、<ここを見上げてごらん、僕は天国にいるよ(Look up here, I'm in heaven)>という歌詞があって。それに対するアンサーみたいな歌を作りたいという気持ちもあったし、すべてが合致したというか。
磯村:「ブラックスター」を最初に聴いたとき、すぐマネージャーさんに「いい曲ですね」と伝えました。疲れが吹っ飛んで、前に進める力を与えてもらえる曲だなって。知らないうちに自分についている疲れ、汚れ、要らないものを取り払ってくれるパワーを感じたんですよね。
【OFFICIAL PV】石崎ひゅーい - ブラックスター(Be a STAR ver.)by サッポロ生ビール黒ラベル
――サウンドにも高揚感がすごくありますからね。アレンジはトオミヨウさん。石崎さんとはデビュー前から一緒に制作しているクリエイターですが、「ブラックスター」のサウンドメイクも素晴らしいですね。
石崎:トオミさんは、僕が出会った天才たちのなかでも1位ですから。最近は楽曲の世界観が分かるような形にした状態でデモ音源を渡すようにしています。言葉から滲み出るものを感じ取ってもらうところからアレンジが始まるので。
――なるほど。ちなみに磯村さんにとって“スター”とは?
磯村:往年のハリウッドスター、昭和のスターのような、手の届かない存在というイメージが強いですね。自分がスターと言われる存在になれるか分からないですけど、俳優として輝ける場所があればいいなと思っています。
――でも、スターになりたいという気持ちもあるのでは?
磯村:輝き続けたいですけどね、それは。「ビッグバンを起こして、みんなを巻き込みたい」という気持ちになることもあるし。
石崎:スター願望みたいなものはたしかにありますね、少なからず。基本、普段は弱気なんですけど(笑)。
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「成功しなくちゃ」と思った瞬間
――「ブラックスター」は<そう、誰かの真似事じゃない/ひとりきりの革命前夜>というフレーズから始まります。夢や目標に向かって進み始める瞬間を切り取った歌詞だと思いますが、磯村さんにもそういう時期はありましたか?
磯村:はい、ありましたね。中学生のときに芸能界に興味を持って、東京に行こうとしたんですけど、出してもらえなかったんですよ。テレビに出ている俳優さんはみんな輝いて見えたし、「有名人になりたい」という気持ちがどんどん強くなっていきました。学校もつまらなくなってきて、「こんなところにいるのは違う」みたいな感じもあって……。“革命前夜”じゃないですけど、現状を変えたいという思いはすごくありました。
石崎ひゅーい - ブラックスター / OFFICIAL MUSIC VIDEO
――ギラギラした欲望を抱えた中学生だったんですね。その強い思いが「俳優になりたい」という目標のエンジンになった?
磯村:そうだと思います。人とは違う道に進みたいと思っていたし、今はここまで続けられてよかったなと。“革命前夜”はそのときの気持ちに近いし、僕もすごく好きです。
石崎:僕は中3のときにバンド活動を始めて、メンバーと一緒にライブを続けてきて、その後、シンガー・ソングライターになるんですけど、そのあたりで初めて「音楽で食っていこう」と思ったんです。
――バンド活動を止めて、ソロのアーティストになる直前ですね。
石崎:はい。ずっと活動してきたバンド・メンバーを裏切るような形になるし、一人でシンガー・ソングライターになるということが、人生にとって大きな選択だったことはたしかで。いちばん「成功しなくちゃ」と思った瞬間でもありましたね。
磯村:そうなんですね。
石崎:はい。そのためには逃げ場をなくすことが必要だと思って。メンバーがいれば甘えてしまうし、そこから抜けて自分を窮地に追い込まないといけないなと。
磯村:その気持ち、すごく分かります。僕は芝居をやれる大学に行っていたんですけど、どこか甘えている気がして、途中で大学を辞めたんです。演劇をやっている仲間を見ていても、大学で芝居をやっていることに満足しているような感じがしたし、「せっかく東京にいるんだから、もっと外に出ないといけない」と思って。親には迷惑をかけたんですけど、そこから小劇場の世界に飛び込みました。ちょうど二十歳前後ですね。
――未来への希望と現実のキツさが混ざった状態というか。その時期は楽しかったですか? それとも辛かった?
磯村:楽しさもありましたね。東京に出てきて1年が経って、おもしろいヤツらもたくさんいたので。二十歳になってお酒も覚えて、バカなこともやりつつ、でも「絶対に俳優になる」という気持ちもあって。『ONE PIECE』じゃないですけど、「困難はあるけど、仲間がいるからがんばれる」というか(笑)。
石崎:僕も似たような経験がありますね。バカみたいにライブやって、打ち上げやって。楽しい時期もあったんだけど、だんだん虚しくなるタイミングが来るんですよね。承認欲求も出てきて、「こんなことで満足してていいのか」と。
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少しでも前を向ける瞬間を届けられたら
――プロとして活動し、知名度を得てからも「このままじゃいけない」と感じることはありますか?
磯村:ありますね。ありがたいことに役をいただけるようになって、周囲から「観てます」「売れましたね」と言ってもらえることも増えて、それは嬉しいことなんですけど、同時に「流されちゃいけない」と思うんです。売れるためではなく、芝居をやりたいんですよね、僕は。そのためには自分に厳しくしないといけないし、鞭で叩いている感じもありますね。
――中学生の頃の「有名になりたい」という動機とはまったく違って、めちゃくちゃストイックですね。
磯村:自分でも不思議ですね。ただ、俳優になるという夢が叶った後も、自分を磨き続けていく感覚は変わっていなくて。褒められるより怒られるほうが嬉しいんですよ。そのほうが「よし、やってやる」と思うので。めんどくさいタイプです(笑)。
――ひゅーいさんは褒められるほうが嬉しいタイプのような気が……。
石崎:はい(笑)。怒られるとショボンとしちゃうので。
――(笑)。ひゅーいさんはメジャー・デビューから9年、この間の音楽活動に対する意識の変化はありますか?
石崎:自分が作った曲をもっと聴いてほしいという欲は、デビュー時よりも強くなってますね。そうじゃないと曲がかわいそうだなって。たくさんの人の人生のBGMになれるような曲を作りたいという意識は常にあります。
――「ブラックスター」のMVとCMの撮影はいかがでした?
磯村:僕は舞台が中止になってしまった俳優の役で、行き場のない怒りやモヤモヤを感じながらも、最後は星を見上げ、前に進んでいこうと決意する男を演じています。空想のなかで大きな星が飾られたステージに立つんですけど、撮影中も「ブラックスター」を流していました。実際の舞台でもゾーンみたいな状態になることがあるんですけど、その瞬間を思い出しながら演じられましたし、自然と身体が動きましたね。それも「ブラックスター」のパワーだと思います。
石崎ひゅーい - ブラックスター MVメイキング Teaser
――磯村さん自身の実体験も反映されている?
磯村:そうですね。僕はありませんでしたが、コロナの影響で舞台がなくなってしまった俳優仲間も多くて。その仲間たちの思いを背負って演じた部分もあったかも。この1年、「俳優には何ができるんだろう?」と考えましたし。
石崎:僕と磯村さんは違う世界線にいる設定なんですけど、想像のなかでステージに立ったり、あとは部屋のなかで作曲をしているシーンもあって。猫背なので背中が丸まらないように気をつけました(笑)。僕の撮影の日、スーパームーンだったんですよ。「ブラックスター」にも<誰も知らない場所へ/スーパームーン 連れてって>という歌詞があるんですけど、「そのままじゃん」と思って。サッポロ、すごいなって(笑)。
――「ブラックスター」という楽曲、MVやCMにも、この社会を生きる人たちを励ますようなメッセージが感じられます。
石崎:何かを目指したり、何かを作り出そうとしているとき、葛藤や渇望を抱えている瞬間に心のなかで流れると思いますね。表現者だけではなくて、企業に勤めている人もそうだし、いろいろな人に聴かれる曲になったら嬉しいです。
磯村:躓いているとき、止まっているときこそ自分自身にフォーカスが当たりがちだし、目線が下がることが多い気がして。「ブラックスター」を聴けば自然に顔が上を向くと思うし、星空も目に入るんじゃないかなと。CMやMVを通して、少しでも前を向ける瞬間を届けられたらいいですね。
Photo by Yuma Totsuka
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