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<対談インタビュー>無印良品とNexToneが『MUJI BGM』配信に至るまで



全国の無印良品を運営する良品計画が、5月19日、各種ストリーミング配信サービスにて、無印良品の店内で流れる『MUJI BGM』の配信をスタートした。

2001年より始まった『MUJI BGM』は、世界各国の伝統音楽を紹介するBGMシリーズ。「暮らしの中から生まれ、時代を超えて暮らしに息づく世界の音楽」をテーマに、その地に根ざした活動を続ける音楽家たちの演奏を、すべて現地にてレコーディングが行われてきた。この20年間にリリースしたCDは累計24作におよび、世界16か国・地域の暮らしや文化と密接に結びついた楽曲の数々は、時代に消費される音楽とは一線を画すタイムレスな響きを放っている。

資料的価値も高い上にBGMとしても楽しめる『MUJI BGM』シリーズ、その一斉配信はSNSを中心として瞬く間に話題となり、すでに世界中で合計1,200万回以上再生されているという。そもそも良品計画が自主原盤で楽曲制作を始めたのは、どのような背景があったのだろうか。また今回、ストリーミング配信するにあたってどのような戦略を描いていたのか。良品計画の大西克史、I&S BBDOの石原正敏、プロデューサーのトミープラン佐々十美、デジタルディストリビューションとマーケティングを展開する、NexToneの垣内貴彦、4名に話を伺った。

1週間で500万回再生に達した『MUJI BGM』

▲良品計画 大西克史(左前)、NexTone 垣内貴彦(右前)、トミープラン 佐々十美(左奥)、I&S BBDO 石原正敏(右奥)

――まずは良品計画が、楽曲制作を始めた経緯を教えてください。

大西克史:1980年に西友のプライベートブランドとして誕生した「無印良品」は、1983年の直営第一号店の青山店からオリジナルBGMを店内で流していました。そのときは国内アーティストに制作をお願いし、以降2000年まで様々な国内アーティストを起用させていただいたのですが、次第にお客様から「ぜひともCDを出してほしい」というご要望をいただくようになりまして。

石原正敏:20周年目の2000年に、これまで良品計画さまが「無印良品」の店内で流していたオリジナルの店内BGMをCD3枚に収録したオムニバスアルバム『MUJI BGM1980-2000』をリリースしました。その反響もかなりいただきまして、次の企画として上がったのが「世界の伝統音楽」をテーマにしようというものでした。

大西:当時、弊社の宣伝販促室長を務めていた庵豊さんが『MUJI BGM2 Paris』からスタートした「伝統音楽シリーズ」は、2020年にリリースされた最新作『BGM25 Ireland』まで続いており、今回はそのシリーズを配信させていただきました。

――では、その配信に至るまでの経緯についてもお聞かせください。

佐々十美:庵さんと私は同業種、同じ音楽プロデュースで40年ほど前にワーナーミュージックで同僚だったんです。以降はお互いにプロデュース作業を続けていく中で、ちょうど20年前に「実は無印良品でBGMシリーズを手がけるんだよ」という話を聞いていて、その頃から注目させていただいていました。

私は私でアーティストやCM音楽の配信を手掛けるようになり、NexToneとは、以前から様々な配信案件でご一緒しておりました。その上で庵さんにも「そろそろ配信やりましょう」と10年くらい前からラブコールを送り続けてきまして、今回ようやく念願叶ったという次第です。

垣内貴彦:私どもの方でも、お話を頂いた際には、在宅需要が高まっている中でインスト音楽の需要もすごく増えてきていたタイミングでのお話だったので、ここは是非、ご提案させていただきたいなと。張り切って企画を練らせて頂きました。

――より音楽が日常に浸透してきている感じはありますよね。

垣内:そう思います。ツール(スマホやスマートスピーカー)は多くの方の手元にあり、サブスク配信も皆さんに浸透しつつあった。在宅時間の増加はそんな配信の普及に決定打になったと思います。在宅の仕事中や、学生であれば勉強中であったり、そういった要素での再生時間も増えてきているようです。

佐々:ちなみに配信するにあたってこだわったことの一つは、無印良品のロゴをジャケ写に使うということ。世界中の人が知っているロゴでアイキャッチにもなる。その辺の価値観の共有をしながら進めていきましたね。

――今回の配信は、Twitterなどでも大きな話題となっていますよね。「流した瞬間に部屋が無印になった」とか、「行ったことがないはずなのにまるでその都市にいる気分になった」など、ユニークな意見もたくさん見受けられます。

垣内:配信初日からTwitterを中心に広がりを見せて、配信翌日にトレンド入り。口コミから大きな反響が生まれました。仕事柄、多くのミュージシャンや音楽レーベルの方とお会いする機会があるのですが、SNSで話題になっていることを皆さんご存知でして、話題にしていただくことがとても増えました。SNSで見かけた記事で印象的だったのですが、「こんなレジェンドがレコーディングに参加しているのか!」といった反応もあるようです。

石原:例えば『BGM11 Hawaii』は、ジョージ・ナオペという「フラの神様」とされ、「アンクル・ジョージ」の呼び名で親しまれているレジェンドが参加しています。リリース当時はものすごく反響がありました。

垣内:『MUJI BGM』は資料的な価値、ライブラリーとしての重要性という点でも、改めてこの配信施策にご一緒できたことを光栄に感じます。こうした素晴らしい音楽へのアクセスに選択肢が一つ増えたことは、とても意義あることだと考えております。

石原:今回、全アルバムを一斉に配信しましたので、それをサブスクリプションで楽しんでいただき、気に入った作品をCDで手に入れていただく、そんな流れができたら理想的だなと思いますね。

大西:段階的に配信をするべきか、一斉配信すべきかでも議論しましたよね。

垣内:そうでしたね。とにかく全アルバムにアクセスできる状態にしておくことが大事だと思いました。マーケティング的にも、データを収集してそこから戦略を組んでいくという意味でも。どのアルバムが、どこの国で、どのユーザー層によく聞かれているかなども分かる。データを見ていると面白いですよ。今、『MUJI BGM』が最も聴かれている都市は台北なんです。

――へえ!

垣内:それと、『MUJI BGM』の音源や商標がネット上で無断利用されているケースもかなりありましたので、一斉に配信することでそれを無くしていくという目的もありました。いずれにせよ1週間で500万回再生に達したのはさすが良品計画さんのブランド力に恐れ入りました。

Spotifyの急上昇チャートも、並いるJ-Popアーティストの中にワールドミュージックが入ってきたことでざわつきましたね。

――それだけ無印良品で流れているBGMが、私たちにとって馴染み深いものだったということですね。

大西:社内にいると、そこが分からなかったんです。今回、こうやって配信してみてその価値を再認識しましたし、例えば20年前にリリースした初期の『BGM』を聴いても全く古びていない、タイムレスな響きを放っていることも今回の反響を見ていて改めて実感したところです。

――NexToneが作成したプレイリスト「MUJI BGM Summer」は、すでに15,000名を超えるフォロワーがついています。

垣内:おかげさまで多くの反響をいただいています。各プラットフォームで配信するだけが我々ディストリビューターの仕事ではなく、こういったマーケティング活動を通じて、リスナーへ届けることも重大な任務だと考えています。300曲以上ある『MUJI BGM』をリスナーにどのようにして届けるかという課題に対して、『MUJI BGM』への入り口として制作したのが「MUJI BGM Summer」でした。楽曲のセレクトも独自に行い、無印良品らしさを意識して制作しております。無印良品の店内も四季折々で多くの表情を持っていますが、プレイリストも同じように四季に応じて更新していきます。無印良品に繰り返し足を運んでいただくように、プレイリストも何度も聞いていただけると嬉しいです。店舗と同様に繰り返しお越しいただけると嬉しいです。


――最後に、今後の展望をお聞かせください。

大西:最新作が『BGM26』で、現在リリースを進めているところです。ヨーロッパのとある国をとりあげる予定になっています。まずはCDで発売してからデジタル配信を行うというやり方で、毎年1枚ずつ出せていけたらと思っていますので、楽しみにしていて欲しいです。

垣内:海外のリスナーにも届くようにグローバル対応を強化していきたいと思っています。まずは、中国・韓国などアジア地域での展開を予定しています。

大西:『MUJI BGM2 Paris』の時は、パリのミュージシャンに東京に来てもらって、バスキングをしてもらったことがあるんですよ。そういうこともまたやりたいですし、今ならライブ配信という方法もあるので、それができれば世界中の方にお届けできるのではないかと。

垣内:NexToneではライブ配信やライブビューイング事業も展開していますので、そういうスキームがお役に立てればと思っています。音楽コンテンツを活用したマーケティングを積極的にサポートし、企業様のブランディングに貢献できるよう、様々な施策を展開していきたいと思っております。

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