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サザン桑田監督映画『稲村ジェーン』が初のBlu-ray & DVD化、撮影裏話を映画プロデューサーが語る



FM COCOLOインタビュー

 1990年9月8日に劇場公開され、約350万人もの観客動員数を記録して、その年の国内興収ランキングの上位に入る大ヒットを記録した映画『稲村ジェーン』が、公開から31年の時を経て、初めてBlu-ray&DVD化された。“エモーショナル・リマスタリング”され、色褪せない数々の名曲の感動はそのままに、より鮮やかに仕上がった映像が観る者をその世界へと誘う。

 監督は桑田佳祐(公開当時34歳)。加勢大周や清水美砂、金山一彦、的場浩司といった後にトレンディドラマで活躍する若手株を中心に、伊武雅刀や草刈正雄らが脇を固める。ビートルズ来日直前、東京オリンピック開催の翌年1965年の鎌倉・稲村ヶ崎を舞台にした、その時代を生きる若者たちの苦悩と恋愛模様を、桑田が書き下ろしたバラエティ豊かな楽曲が彩る。本作から「真夏の果実」や「希望の轍」といったサザンオールスターズ・桑田佳祐を語るうえでは欠かすことのできない名曲が誕生し、サザンのメンバーはもちろん、アレンジに小林武史、そして小倉博和などのミュージシャンが多数参加したサウンドトラックは今でも名盤として愛されている(映画館というシチュエーションで、曲間に男女の会話(男性の声は俳優の寺脇康文)や映画のセリフが入るなど遊び心も満載)。

 去る6月27日にFM COCOLOでオンエアされた特集プログラム『Whole Earth RADIO』では、「稲村ジェーンスペシャル」と題して、『稲村ジェーン』のプロデューサー・森重晃氏を迎えて約1時間にわたってトークが繰り広げられた。聞き手はDJ加藤美樹だ。映画の制作秘話や森重氏だから知っている貴重なエピソードを中心に、その映画の魅力を語る。

 なお、本オンエアはradikoで聞くことができる(2021年7月4日(日)まで)。

「何もない青春を描きたい」という桑田の言葉に
僕は非常に心が動かされた

加藤美樹:森重さんはどのような形でこの映画に関わったのでしょうか?

森重晃:映画プロデューサーの立場で、監督の桑田佳祐と一緒に映画を作りました。公開は1990年9月ですが、撮影はその1年前の1989年の9月から11月に実施しました。私が参加したのは1989年の3月からで、脚本家の康珍化さんと桑田がその1年前から準備をしていたんです。具体的に映画の制作が動いた時にプロデューサーとして参加しないかと誘われました。


▲プロデューサー・森重晃氏

加藤:最初に桑田佳祐さんが映画を作るという話を聞いたとき、どんな印象でしたか?

森重:面白いと思いました。僕はアミューズで2~3本、映画にプロデューサーとして参加していたことがあって、アミューズの会長から「今度、桑田が映画を撮るから、プロデューサーをやらないか?」と誘われたんです。僕は彼のことをある程度は知っていましたけど、彼は僕のことを全く知らないわけで、実際に2人で2時間くらい喋る時間を設けてもらいました。僕が1つ年上なんですけど、そのとき、桑田は茅ヶ崎の小学生時代の話をしていました。僕は小学校が広島だったので育ちは違いますけど、彼と喋っていて、同じ時代の感覚があったんです。それで、僕としては「桑田がOKだったら引き受けます」と話しました。

加藤:そこから一緒に作ろうということになったんですね。「希望の轍」から、森重さんはどんな景色や桑田さんの表情が浮かびますか?

森重:映画の撮影を1989年の9月から11月までやって、編集作業中だった1990年の2月か3月ぐらいに、桑田が「希望の轍」を作って「この曲を映画に使いたい」と言ってきたんです。それで4月になってミゼットが走るシーンをもう1回撮影しに行きましたね。骨董屋の主人(草刈正雄)のところにヒロシ(加勢大周)がミゼットで行くシーンはある程度撮っていたんですけど、この楽曲を聴いていると、今あるシーンでは足りないということで、新たにミゼットが走るシーンを撮ったんです。

加藤:音楽ができてからシーンを足すというのは、ほかの映画ではあまりないことですよね?

森重:そうですね、ちょっと贅沢な話だと思います。「希望の轍」と「真夏の果実」はクランクアップした後にできたんです。だから、その楽曲に合わせて、プロモーションビデオ風と言ったらあれですけど、追加撮影を新たにやって編集しました。

加藤:映画の編集をされている間にそういった名曲が生まれるのは素晴らしいと思います。映画の制作を始めた時点で、すでにいくつか曲はあったのでしょうか?

森重:映画の中でいくつも出てくるライブシーン用の楽曲はありました。僕は桑田から「『忘れられたBIG WAVE』を主題歌として考えているんだ」という話をクランクイン前に聞いていまして、撮影しながら彼の中で色々と変わっていったんでしょうね。

加藤:最初、主題歌は「忘れられたBIG WAVE」という想定だったんですね。映画を作り始めたころ、桑田さんの言葉で印象に残っているものはありますか?

森重:最初に2時間くらい2人で喋っていたときに「この映画で何を描きたいんですか?」と聞いたら、「何もない青春を描きたい」と言ったんです。僕はそれに非常に心が動かされたというか、それはぜひ一緒にやりたいなと思いました。それがきっかけでこの映画を作り始めたんです。


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「愛は花のように(Olé!)」のシーンだけでも
2日間くらいかけて撮影しました

加藤:舞台は1965年ですが、どの時代にも通じる若者たちの悩みが描かれていて、そういう意味では普遍的な青春ストーリーだと感じています。それが何もない青春ということでしょうか?

森重:そうですね。これは後追いで僕の意見ですが、1964年に東京オリンピックがあって、1966年にビートルズが来日して、かたや学生運動が日本でも広がってきたのが1967~69年がピーク。この1965年にはいろんな分野の音楽があり、映画の中でも使われているラテンも、歌謡曲も演歌も、出始めたくらいグループサウンズも、ロックもありました。「これが一番」みたいな時代ではなく、いろんなものがあった時代だったので、そういう意味では1965年というのは、いろんなものがあるようで何もなかった時代かもしれない。

加藤:ドキュメンタリーの映像を見て、桑田さんが考える画には常に音が付いているというか、カメラマンに何か説明する時も音で表現されていたのが印象的でした。

森重:監督はどういう言い方をするのが正しいっていうのがないので、自分が作りたいものを作るためには、監督自らがスタッフ、キャストに自分の表現で伝えてほしいと思っています。言いたいことが言えない環境は作りたくなかったですし、結果、監督本人がやりやすかったのは本人のおかげでしょうけど、それなりに楽しんでもらう環境作りはできているかと気にしてました。


▲ドキュメント映像より、桑田佳祐監督

加藤:森重さんから桑田さんに監督をするうえで何かアドバイスをしたのでしょうか?

森重:初めて一緒にやるスタッフが多かったので、もしできるなら「こういう絵コンテで撮りたい」と説明できるように、絵コンテを毎日書いたほうがいいと言ったんです。撮影初日の前日の夜に絵コンテを描いてきて、当日メインスタッフにその絵コンテを使って説明してました。撮影が終わるまでずっと描いてきましたから、それは本当に素晴らしいなと思いました。

加藤:“音楽映画”、“ミュージシャンが作る映画”のこだわりをいろんなシーンで感じられますが、森重さんが「これぞ、桑田佳祐が作る映画だ!」と感じるシーンはどこでしょうか?

森重:やっぱり本人が歌っている劇中のライブシーンですね。「ビーナス」というライブバーを実際に建てたんですが、そこに100名近くのお客さんを入れて、スタッフを含めたら200人くらいのところに、バンドメンバーも8~9人、それにダンサーも入れてパフォーマンスをして、あれは本当にすごかったですね。お客さんを入れて演奏したのは1曲だけでしたが、お客さんが出てからも演奏しました。暗幕をかけて撮影したのか、どうだったか忘れてしまったんですが、「愛は花のように(Olé!)」のシーンだけでも2日間くらいかけて撮影しました。カメラ3台ほど使って、ダンサーの松本(圭未)のシーンはカット数も多くて、なかなか大変でした。

加藤:あのシーンはカッコよかったですし「あそこにいたい!」って思いました。森重さんには『稲村ジェーン』のサントラの中から1曲選んでいただいたんですが、「愛は花のように(Olé!)」に加えてもう1曲、「忘れられたBIG WAVE」も選ばれましたね。美しい曲ですが、森重さんが初めてこの曲を聞いた時、どんな印象を持ちましたか?

森重:最初にこれを映画のテーマとして聞かせてもらったので、自分の中で一番、どこか印象的に覚えている曲なんですね。すごい素敵だなと。桑田監督は当時ビクターのスタジオにこもりっきりで、打ち合わせがあるときは大体そのスタジオに行ってました。そこで初めて聞かせてもらったんですけど、本当にいい曲だなと素直に思いましたね。

加藤:オリジナル・アルバム『Southern All Stars』にも入っている曲で、ほぼ同時進行でアルバムも作られていたんでしょうね。本当に早くから映画に対して色々と構想を練られていたようですね。

森重:そうだと思います。僕が参加すると決めた1年かもっと前から、この映画の準備に動いていたと思うんです。桑田の中で曲のイメージが色々あったんだと思います。


加藤:ドキュメンタリーを見ても、桑田さんには画が見えてると感じたので、森重さんがおっしゃった絵コンテを描くことがすごく役立ったのではないでしょうか?

森重:それもありますけど、本当にスタッフみんな頑張ってくれて、美術スタッフは監督が細かく注文したものをよく用意してくれたと思います。サーフボードを切るトップシーンで見える倉庫に置いてある人形だったり、ヒロシがいる骨董屋のものだったり。骨董屋は伊豆の松崎の港のそばにある家を借りて作ったんですよ。

加藤:ものすごい数の品があって、これが実際に作られたことに驚きですし、とても丁寧に作られた映画なんですね。サウンドトラックには、1965年の音楽シーンが集められていますが、その中でもラテンの曲が多いのは非常に印象的でした。ストーリーの中で金山一彦さんがラテンバンドのリーダーを演じていますが、やはり桑田さんの中でラテン音楽は大きな存在だったんでしょうか? アルゼンチン出身のルイス・サルトールが作詞、そして演奏にも参加されてますね。

森重:そうだと思いますね。彼が小さい時、10歳ぐらいの時に茅ヶ崎に本当にああいうバンドがいたかどうかは知りませんが、昔、桑田から聞いた話では、お姉さんから得た音楽の情報から影響を受けたようで、ラテンがやっぱり一つの大きなポイントなんでしょうね。

加藤:映画にも出演され、サザンオールスターズのライブのほか、山弦でも活躍するギタリストの小倉博和さんが金山さんのギターを指導されました。サウンドトラックに収録の「美しい砂のテーマ」は桑田さんと小倉さんが最初に出会った曲ですね。

森重:これは後から聞いた話なんですが、おぐちゃん(小倉)が弾いたテイクがそのまま使われているらしいんです。

加藤:よっぽどそのテイクが印象的だったんですかね。

森重:それが、桑田が弾いているのを見て、「弾きましょうか?」と声を掛けたみたいです(笑)。

加藤:そうなんですか(笑)。でも、そこから深いご関係になるわけですもんね。映画には小倉さんの他に、ミュージシャン役として頭脳警察のPANTAさん、泉谷しげるさん、ゴダイゴのトミー・スナイダーさん、そして原由子さんが出演されています。原さん、可愛らしかったですね。桑田さんが原さんに演技指導している映像がドキュメンタリーに残っていまして、優しい顔をされていて、なんとも素敵でしたね。この映画の脚本を手掛けているのが康珍化さんで、作詞家が脚本を手掛けるというのも驚きです。

森重:最初、桑田と康さんの間でどんな話があったか分からないんですけど、康さんも映画好きですし、別の映画の脚本も一本書いてたんですよね。桑田も映画をよく見ていて、音楽も聴いてるけど、その当時の映画の話をすると、割と話が合うんです。

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劇中に登場する「ビーナス」と洞窟は…
今行っても何もないです

加藤:桑田さんの小学校、中学校の同級生で、サザンオールスターズの名付け親でもある、生まれも育ちも茅ヶ崎の宮治淳一さんのお話によると、映画公開後の茅ヶ崎は大変にぎわったようですね。

森重:映画公開前の8月下旬に一度、浜辺で試写会を行ったんです。当然、暗くならないと映画を流せないんですが、帰り道が大渋滞になっちゃって、大変だったみたいです(笑)。地元の方にはご迷惑をかけたかもしれないです、すみません。

加藤:公開直後は「ビーナス」など聖地巡礼で相当盛り上がったでしょうね。

森重:映画の中の「ビーナス」は、撮影のために南伊豆の弓ヶ浜に建てましたが国立公園だったので、撮影後に解体してしまいました。今行っても何もないです。でも弓ヶ浜は本当にきれいな浜辺です。

加藤:マサシとヒロシが洞窟の中で話をするシーンがありますが、夕日がきれいでした。

森重:ちょうど江ノ島が見えて、いいところですが……あの洞窟も本当はないんです。美術が作ったものを浜辺に持ち込んで撮影したので、岩場はあるけど、洞窟はないんですよ。

加藤:たくさんの方が探したと思います(笑)。映画に出てくるホテルパシフィックが地元の方たちの心を掴んだそうですね。

森重:はい、有名なホテルで、撮影時期はすでに閉館されていたのですが、建物は残っていたので使わせてもらいました。尾美としのりと設楽りさ子が演じたサーフィングループたちがパーティーをするシーンで、マサシとヒロシが裸になって演奏する部分があるんですけど、そのシーンはホテルパシフィックで撮ったんです。少し飾り替えして、照明もセッティングして撮影しました。桑田がそのホテルで撮りたいと言ったので、お借りしたと思うんです。

加藤:そもそも、湘南でも茅ヶ崎でもなく、なぜ稲村ヶ崎が舞台に選ばれたんでしょうか?

森重:僕も詳しくないんですが、桑田が新幹線で移動中に見つけた小冊子に稲村ヶ崎で大波をずっと待っているサーファーがいるという佐賀和光さんに関するコラムが載っていて、それを読んで映画にしようと思ったみたいです。映画にもタイトルが協力としてクレジットされています。当時はまだまだサーフィンが一般的な時代ではなく、ごく一部の人や映画の中でもあるようにアメリカ兵が楽しんでいたという状況だったと思うので、それが上手くその当時の感覚とともに映画の中で描かれたと思います。

加藤:『稲村ジェーン』のジェーンは、台風の名前から来ているんですよね。

森重:そうです。昭和20~40年代は海外の女性の名前が台風の名前に使われていて、実際にジェーン台風という台風が昭和25年にありました。稲村ヶ崎とジェーン台風をくっつけて『稲村ジェーン』ができたわけですが、これは桑田監督のセンスですね。

加藤:ここまで楽しいお話をしてくださってありがとうございます。『稲村ジェーン』のBlu-rayとDVDがサザンオールスターズのデビュー記念日である6月25日に発売されました。森重さんもこのタイミングで再度ご覧になりましたか?

森重:はい、30年ぶりに桑田監督と一緒にスクリーンで観まして、非常に気持ちよかったです。

加藤:新たな発見や改めて感じたことはありましたか?

森重:自分で言うのも変ですけど、デジタルリマスターしたことで昔よりも映像がきれいになっていて、30年前の劇場公開する前に観たときと同じ試写室で観たんですけど、一周まわって、いろんなものが楽しく見られて、見終わった後は、当時よりも今のほうが面白く感じました。

加藤:サウンドの色と映像の彩りがすごく合っていて、華やかに感じました。

森重:当時は“音楽映画”として売りだしたわけではないんですが、音楽映画としても非常にいい作品だと自分でも思ってしまいました。

加藤:この映画があったからこそ生まれた名曲がたくさんあります。そして30年前にこの映画を通して初めて聞いた曲が、この30年間の皆さんの思い出と重なっているとも思うんです。コンサートでの思い出はもちろん、プライベートの思い出など、その30年の思い出と映像を重ねるとより感慨深くなりますよね。

森重:そして、この映画をまだ観たことがない10代、20代の方たちが観て、どう思ってくれるのかも気になります。


加藤:桑田さんがこの映画を撮りたいと思ったのはなぜだと思いますか?

森重:なぜなんでしょうね。当時の桑田は、いろんな曲を作りたい、いろんなことをやってみたいというパワフルな時期だったと思うんです。当時はツアーやレコーディングと同時進行で撮影の準備や編集をしていて、本当に休む間もなくパワフルに動いていたと思います。僕なんかは彼がライブをしているときは、ゆっくりできるわけで、大変そうだなと横で見ながら思いつつ、元気な桑田は偉いなと、思っていました(笑)。

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¥2,619(税込)

KAMAKURA
サザンオールスターズ「KAMAKURA」

2008/12/03

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¥3,353(税込)

人気者で行こう
サザンオールスターズ「人気者で行こう」

2008/12/03

[CD]

¥2,619(税込)

綺麗
サザンオールスターズ「綺麗」

2008/12/03

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¥2,619(税込)

NUDE MAN
サザンオールスターズ「NUDE MAN」

2008/12/03

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¥2,619(税込)