Billboard JAPAN


Special

博報堂コンテンツビジネスラボによる『音楽ヒット予想研究Vol.6』 ~音楽ヒットの中心にいるTikTokユーザーはオンラインライブを活発利用!~オンラインイベント成功の鍵とは?



top

Text: 博報堂コンテンツビジネスラボ 谷口由貴 l Photo: Masanori Naruse, Yuma Totsuka

デジタルコンテンツ市場が加速した2021年

 コロナ禍で生活が一変し、約1年。音楽コンテンツの消費の仕方も同様に変化した。ライブは、オンラインライブが中心の1年だった。再びリアルでのライブやフェスも開催されつつあるが、オンラインライブにすっかり慣れた人も多いだろう。博報堂コンテンツビジネスラボの「コンテンツファン消費行動調査2021」のデータを見てみても、ライブやフェスなどを含む「リアルイベント市場」の規模は減少しているが、オンラインイベントなどを含む「デジタルコンテンツ市場」は一気に増加している。コロナ禍におけるこの1年では、デジタル接点でファンを惹きつけることのできたアーティストを中心に盛り上がりを見せたといえるだろう。



top

<表1: 音楽コンテンツ市場におけるカテゴリ別市場規模(出典:「コンテンツファン消費行動調査2021」より>



2021年も引き続きTikTokヒットアーティストが好調

 先日発表されたBillboard JAPAN 2021上半期チャートHOT100を見てみると、優里やYOASOBI、Adoといった、TikTok発のヒットアーティストが上位を占めており、引き続きTikTokヒットアーティストが好調な傾向が見られる。3位のBTSも、TikTok発とは言えないであろうが、TikTok内で楽曲が多用されており、人気を後押しする効果はあっただろう。

 ここで、2020年以降の優里のBillboardチャート推移を見てみると、楽曲リリースタイミングでオンラインライブにも多数出演し、その直後にストリーミング指標が伸びていることがわかる。TikTokやYouTube等の動画サービス、もしくはストリーミングサービスで優里の楽曲を知った人に、ほとんどタイムラグゼロの状態でオンラインのライブ体験を味わってもらうことができた点が、盛り上がりにつながった要因なのかもしれない。



top

<図1: 優里 Billboardチャート+Wikipedia閲PV数の時系列グラフ※数値は非公開のため非表示>



 オンラインライブは普通のライブと比べ、金額的・物理距離的な参加ハードルも低く、参加されやすいという点も後押しにつながったと考えられる。ヒットチャートを席巻するアーティストたちがオンラインコンテンツをうまく使っていることから、これからは、音楽もデジタルコンテンツとして扱うことが大事になりそうだ。このようなコンテンツビジネスのデジタルシフトについては、こちらhttps://seikatsusha-ddm.com/article/11662/の記事でも参考になりそうな議論をしているので、是非ご覧いただきたい。

コンテンツ調査2021から見えたTikTokユーザーの新たな特徴

 図2は、オンラインサービスについて、無料で利用したものを調査対象者全体とTikTokユーザーで比較したグラフである。これを見てみると、TikTokユーザーの新たな特徴として、「オンラインライブの利用率が高いこと」があげられる。他にも、TikTokユーザーは、ウェビナーなど様々な項目についても利用率が高くなっていることから、多種多様なオンラインイベントを楽しんでいるようだ。

top

<図2: オンラインサービスでの行動(出典:「コンテンツファン消費行動調査2021」より)>



 TikTokとBillboardによるオンラインライブも盛り上がりを見せていた。



top

『LIVE BEACON 2021』(2021/1/11)
https://www.billboard-japan.com/livebeacon/



top

『NEXT FIRE 4 HOUR SPECIAL』(2021/6/12)
https://www.billboard-japan.com/nextfire/



 もはや音楽ヒットにおいて存在感のあるプラットフォームとなったTikTok。今回のコラムでは、音楽ヒットの中心にいるTikTokユーザーたちが楽しんでいるオンラインイベントの成功の鍵を探っていきたい。

オンラインライブ成功の鍵は、「ファンのエンゲージメントを高める、個人特化のタテ型体験」と「世界観に没入できる、みんなでつながるヨコ型体験」

 「コンテンツファン消費行動調査2021」によると、実は、オンラインライブ参加者のうち有料オンラインライブ参加者は約4割。ライブ配信サービス等で、”無料慣れ”している人も多いのだろう。

 そこで、まずはオンラインコンテンツサービス(音楽に限らない)にお金を使う人の傾向を見ていきたい。

 オンラインサービス(音楽に限らない)についての重視点の差分TOP5を見てみると、「コロナ対策で会場の人数制限を気にせず参加できる」、「職場や家などどこにいても見られる」、「実際のライブのようにその時一度だけしか視聴できない」といった、有料/無料関係なくどのオンラインライブにも共通する項目を除くと、「自分もライブに参加しているような体験を持てる」、「普段見えない距離や角度からライブを見られる」といった項目が上位だった。



top

<表2: 有料オンラインサービス利用層のオンラインサービス(音楽に限らない)についての重視点(全体差分TOP5) (出典:「コンテンツファン消費行動調査2021」より)>



 また、図3は、2020年から2021年にかけて「音楽に関してお金を使った項目」のうち、「お金を使った」と答えた人の割合の上昇率順に並べたグラフである。コロナの影響により、ストリーミングサービスやライブ配信サービスへの支出率の増加が顕著だが、実は最も変化が大きかったのが、「ABEMAでの音楽番組やライブ・コンサート番組の視聴」であった。ABEMAでお金を支払ってライブ等を見た人が、音楽コンテンツ利用者のうち、去年は約15%程度であったのに対し、今年は約34%と、2倍以上になっていたのである。コロナ禍に対応して”PayPerView(ペイパービュー)”という有料のオンラインライブの機能をリリースしたことも大きいだろう。



top

<図3: 音楽に関する支出項目の2020年, 2021年変化 ※音楽コンテンツ利用層ベースの値(出典:「コンテンツファン消費行動調査2021」より)>



 そこで、有料オンラインサービス利用層のオンラインサービス重視点として浮かび上がってきた「自分もライブに参加しているような体験を持てる」、「普段見えない距離や角度からライブを見られる」という項目を、ABEMAで行われた過去のオンラインライブ事例を見ながら紐解いてみたい。

 PayPerViewには、CGやARを用いたライブができる「バーチャル撮影システム機能」、ライブ中に出演者へスタンプを送ることができる「応援機能」や出演者と双方向のコミュニケーションができる「コメント機能」、さまざまなアングルからオンラインライブを視聴できる「マルチアングルライブ」機能などが存在するという。

 ここでは、2020年11月にPayPerView機能を用いて実施されたももいろクローバーZの『PLAY!』というオンラインライブを例に見ていきたい。(https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/94197)

 ライブ中では、マルチアングル機能で自分好みのアングルを楽しめたり、アンケート機能でライブ中に楽曲投票を実施、セットリストをリアルタイムで視聴者とともに決めていく企画が用意されていた。上記の重視点である、「自分もライブに参加しているような体験を持てる」、「普段見えない距離や角度からライブを見られる」という要素、まさに両方である。

 マルチアングル機能による視点の選択は、”個人に特化した”プライベートな体験を提供する。今までのリアルのライブでは、参加者全員が同じ景色を見ていたが、オンラインライブで視点の選択が可能になったことによって、自分だけの視点で楽しむことができるようになった。このような個人に特化した体験は今後、たとえば、ユーザーの好みに応じた演出やメッセージのデジタル表示、多くの選択肢からおすすめの視点がレコメンドされるなどといった機能になっていくことで、より個人に特化した体験をリッチにし、ライブを拡張していくのではないかと思う。その特別感は、すきなアーティストへのエンゲージメントを高めることにもつながりうる。つまり、オンラインライブ成功の鍵一つ目は、「ファンのエンゲージメントを高める、個人特化のタテ型体験」だと言えるだろう。

 さらに、ももクロのライブでは、視聴者がライブの前後にも盛り上がれるように、開演前にオンライン上でファンが集うことができる“カウントダウンラウンジ”と、終演後に余韻に浸りながら感想を寄せあうことができる“アフターラウンジ”を開設していた。最近では、King Gnuがシークレットライブ(リアル、オンライン両方)を開催するにあたり、会場を当てることができた人のみ参加できるという企画や、YOASOBIがオンラインライブ後にnoteでレポート募集する企画など、ライブ本番だけでなく、その前後にも参加性のある企画が用意されているライブは、側から(SNS等で)見ていても盛り上がっていると感じられる。オンラインライブだと、ライブ前に友達と会場へ向かうワクワク感や、ライブ後に友達と余韻に浸る帰る道も存在しない。そういうライブ前後の体験がライブ全体の体験価値を高めていたことに気付かされる。



top

<図4: 音楽についての重視点 ※差分は音楽コンテンツ利用層との差分を表す(出典:「コンテンツファン消費行動調査2021」より)>



 さらに、実は、図4の音楽重視点のグラフを見てみると、有料オンラインサービス利用層は、「世界観・コンセプト」や「ライブ」を重視するという特徴がある。ライブ前後にもコンテンツを用意することで、ひとつながりのストーリーがつくりやすくなり、結果としてライブ全体の世界観醸成に寄与する。そして、その体験がインタラクティブで参加性のあるものになっていることで、アーティストだけでなく、ファンみんなの気持ちも含めた世界観に没入できる。リアルのライブで感じていたような、”みんな”の一体感を、(体験設計によってはそれ以上の一体感を、)感じることができるのである。つまり、オンラインライブ成功の鍵二つ目は、「世界観に没入できる、みんなでつながるヨコ型体験」であると言えるだろう。

 このように、オンラインライブ成功の鍵として、「ファンのエンゲージメントを高める、個人特化のタテ型体験」と「世界観に没入できる、みんなでつながるヨコ型体験」の2つが浮かび上がってきた。

無料オンラインサービスユーザーへのフックを用意

 一方、無料オンラインサービス利用層(※1)にもオンラインライブの盛り上がりを気付かせるためには、SNSなどでの拡散が有効そうだ。表3のように、無料オンラインサービス利用層は、まとめサイトやSNSでコンテンツの情報収集をするのが特徴だ。



top

<表3: 無料サービスユーザーのコンテンツに関する行動(全体差分降順) (出典:「コンテンツファン消費行動調査2021」より)>



 先ほどのYOASOBIのnoteでのレポート募集企画のように、UGC(User Generated Content: 一般ユーザーによりつくられたコンテンツ)は、一般人によるもののため、共感を生みやすく、また、その切り口の多さが新たなファン獲得に繋がりやすい。今までのライブ・フェスは、写真禁止であるイベントが多かったが、オンラインライブについては、参加者に自由にライブをトリミング・編集してもらい、UGC作成を誘発したほうがよいのかもしれない。まとめサイトやSNSなど、デジタル上での情報収集を積極的に行う無料サービスユーザーにオンラインイベントの盛り上がりを伝えて、「次は参加してみたい」と思ってもらえるようなフックを設計すべきである。このように、無料ユーザーに有料イベントを体験してもらうためには、ライブ会場外(SNS等)でUGCを誘発し、イベントの盛り上がりを伝える設計が必要である。

 以上のように、「コンテンツファン消費行動調査2021」から見るオンラインライブ成功の鍵は、「①ファンのエンゲージメントを高める、個人特化のタテ型体験」「②世界観に没入できる、みんなでつながるヨコ型体験」の2つであり、有料サービスユーザー獲得のためには「③ライブ会場外での盛り上がり伝達設計」が重要と言えるだろう。これから、オンラインライブがどのように進化していくのか期待して、今後もウォッチしていきたい。

(※1)無料オンラインサービス”のみ”利用層のことで、有料オンラインサービスを利用していない層を指す。

top
独自調査「コンテンツファン消費行動調査」の知見をもとに、近年企業のニーズが高まっているコンテンツを起点とした広告やビジネス設計の支援を行う専門チーム。独自に提唱する「コンテンツファン発火モデル」を用いて、企業やコンテンツホルダーが実施するコンテンツを起点とした広告コミュニケーションの設計支援や、新規事業・サービス展開のマーケティング支援等を行っている。博報堂のマーケティングプラナーと研究開発職員、博報堂DYメディアパートナーズのコンテンツビジネス開発の専門家などで構成されるメンバーは、スポーツ、ドラマ、アニメ、ゲーム、音楽など、さまざまなカテゴリの熱心なファンでもあり、コンテンツに対する豊富な知見と情熱を有している。


関連キーワード

TAG