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ガービッジの新作は“混沌の新世界に対する異議の記録”、紅一点カリスマシンガーが語る
90年代のオルタナティヴ・ロックの流れの中でデビューしながら、独自の美意識に則って、ダークで憂いを帯びた折衷的サウンドスケープをマイペースに追求してきたガービッジ。前作『Strange Little Birds』から5年を経て、7作目にあたるニュー・アルバム『No Gods No Masters』を送り出した。ダウンテンポでシネマティックな作品だったその『Strange Little Birds』に対し、今回はインダストリアル・ロックにも寄った、アグレッシヴな音を志向。昨今の世界の混迷を受けて、自分たちの立ち位置を明確に示して、希望の在り処を探し求めている。歯に衣着せずに社会の歪みを論じ、問題提起をする、カリスマティックで饒舌なフロントウーマン=シャーリー・マンソンに、そんなアルバム制作の過程を振り返ってもらった。
(「Waiting For God」は)ブラック・アメリカンたちが警察によって苦しめられてきたことについて、そして構造的な人種差別全般について歌っているんだけど、あの曲のムードがアルバムの形を決めた
--本作に着手するにあたって、4人のメンバーの間でどんな会話があったんでしょう?
私たちの場合、実を言うと、会話ってものがないのよね。私自身は人と積極的にコミュニケーションをとって、言いたいことを言うタイプなんだけど、ほかの3人は、コミュニケーションが苦手な人たちなの(笑)。そんなわけで、事前に相談することは一切ない。私には理解不能なんだけど今更彼らを変えることもできないし、仕方ないから、とにかく一緒に音楽を作るのよ。そして4人が集まった時に自然に生まれた音楽が、そのままアルバムになる。パーソナリティがぶつかり合って、何かが形作られる。まずは種が蒔かれ、芽吹いて、花が咲き、花園が出来上がって……それがアルバムなのよ(笑)。
--では、なんとなくアルバムの行き先が掴めたなと実感させたのは、どの曲でしたか?
私の記憶の中で印象に残っているのは、「Waiting For God」かな。ブラック・アメリカンたちが警察によって苦しめられてきたことについて、そして構造的な人種差別全般について歌っているんだけど、あの曲のムードがアルバムの形を決めたような気がしているわ。本当に力強い曲だから。ほかの3人がどう受け止めたのか分からないんだけど、この曲が生まれたセッションを振り返ってみると、エネルギー値において彼らは、私が綴った歌詞の重みに応える音を作ってくれた。そもそも私たちは似たような政治的・社会的価値観を共有していて、常に認識は一致している。だから私をバックアップしてくれるだろうと分かってはいたけど、アルバム全編で、素晴らしい仕事をしてくれたと思うわ。
--2017年に発表した、ディストピアンな世界を予言するシングル「No Horses」も本作の出発点だったように感じます。
その通りよ。元を糺せばレコードストアデイに発売した単発シングルなんだけど、どこからともなく生まれて、私たちのヒーローである、ブロンディとのダブル・ヘッドライン・ツアー【レイジ&ラプチュアー・ツアー】で、セットリストに加えたの。当時はまだリリース前だったのに、本当に大きな反響を得てビックリしたわ。きっと曲のエネルギーがああいうリアクションを引き出したんでしょうね。で、私の中のスイッチをオンにしてくれて、アルバムのソングライティングに向かう気持ちに、大いに刺激を与えたのよ。--アルバムはまさにその「No Horses」の延長にあり、本作を通してあなたたちは、今のクレイジーな世界の有り様を理解しようと試みたそうですね。冒頭を飾る曲「The Men Who Rule The World」で早速、“世界を支配する男たちは何もかもぶち壊しにした”と宣言しています。
これはある意味で、ノアの箱舟の物語の別ヴァージョンなの。ノアの箱舟をフューチャリスティックな設定で書き直した、とも言えるわ。神が地上を見下ろして人間たちの行動に絶望していて、ノアを遣わし、邪悪なものをあとに残して、神聖で美しいものだけを集めて保護するわけよ。何しろ、私たちを苦しめている今の世界は堕落し切っていて、老いぼれた白人の男たちが金儲けを企んでいて、地球上で暮らす人々のことはおろか、地球そのものがどうなろうと全く関知しない。彼らは利益を生み出すことに執着していて、地球を切り崩して売り飛ばしても構わないと思っている。そんな資本主義至上の世界に私は困惑させられるし、怖くて仕方ないのよね。
--ノアの箱舟の話が出ましたが、ジャケットが天使の写真だったり、曲のタイトルや歌詞に“神”という言葉が繰り返し登場したり、本作にはキリスト教にまつわるイメージやコンセプトがちりばめられています。今の世の中を語る上で、接点が多々あったのでしょうか?
多分無意識のうちにやっていたんだと思う。私自身、アルバムが完成した時にそれに気付いて、少しショックを受けたのよね。色んな人に指摘もされたし。でも考えてみると、私たちを支配している、グローバルな家父長制システムに抵抗することと、組織的宗教に抵抗することの間には、共通項があるんじゃないかしら。宗教もやっぱり凝り固まっていて、思いやりにかけていて、それが信仰心の根幹を成しているとは思えない。どんな宗教だろうと、信仰心って思いやりと寛容さに根差しているはずだから。そんなわけで私は、宗教的なものを含めて、子供の頃から自分を抑圧してきたルールの全てに抵抗し、フラストレーションを表しているんだと思うわ。
- 「No Gods No Masters(神も主もなく)」は1880年から存在する古いフランス語のフレーズで、アナーキストたちやフェミニストたち、パンク世代の若者たちに受け継がれてきた。
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Interview and Text by 新谷洋子
「No Gods No Masters(神も主もなく)」は1880年から存在する古いフランス語のフレーズで、アナーキストたちやフェミニストたち、パンク世代の若者たちに受け継がれてきた。
--こういった社会批評的な曲に加えて、本作には、「Uncomfortably Me」を筆頭に過去の自分を振り返る、今までになくパーソナルな趣の曲も含まれていますね。
ええ。なぜ今こういう曲を書いたのか、私にも分からない。いつもそうなのよ。バンドとしてソングライティングに臨む時は、常に心を開いた状態にして、3人が音で提示するアイデアに最高の形で応えられるよう心がけている。彼らが何らかのサウンドスケープを提示したら、何とかしてその内側に入り込む道筋を考える。それが、歌詞の方向性を左右するのよね。例えば「Uncomfortably Me」では、自分が全人生を通じて世の中に抱いてきた違和感を再認識している。一時期私が、音楽界で一番の人気を誇る女性アーティストだった頃も含めて、どこかはみ出しているような気がして、自分を偽っているんじゃないかと思い込んでいたの。そしてこの曲を書き始めてすぐに、「私っていまだに居心地の悪さを感じているんだ」と気付いたのよ(笑)。そして、そういう状態が自分に合っていることも悟ったし、私はこれからもずっと部外者であり続けるんだろうと確信した。ほら、バンドの中でさえ私ははみ出ているわ。ほかのメンバーより若いし、唯一の女性メンバーだし、ほかの3人はアメリカ人だけど私はスコットランド人でしょ? ただ、そういう意味ではガービッジにしたってどこにも属していない。私たちは誰にも似ていないのよ(笑)。ほかから切り離されて宙に浮いている存在で、なのにどういうわけかこんなに長く、素晴らしいキャリアを歩むことができた。それって一種の奇跡なんだけど、私たちはこれまでも部外者だったし、これからもそうあり続ける。自分自身とバンドが部外者であるってことがいかに美しいのか、ここにきて悟り、受け入れたのよ(笑)。
--アルバムタイトルは終盤に収められた曲「No Gods No Masters」に因んでいて、これは本作の中では、最も大きな希望を含んだ曲ですよね。
確かにこれは未来について希望を含んでいて、あとに続く世代のために、どうしたら世界をより良い場所にできるのかと、問いかけている。私たちは、変化をもたらし、物事を改善し、進化する可能性を秘めているのだと。そういう意味では、平等主義を信じる気持ちを込めた曲なのよ。実は「No Gods No Masters(神も主もなく)」は1880年から存在する古いフランス語のフレーズで(注:革命家・社会主義者のルイ=オーギュスト・ブランキの言葉)、これまでにアナーキストたちやフェミニストたち、或いはパンク世代の若者たちに受け継がれてきた。なぜってこのフレーズが訴えていることは究極的に、「私たちはみんな平等に生まれ、平等に扱われなければならない」ということ。ものすごくナイーヴに響くかもしれないし、実践するのは難しいんだけど、私は心の底から信じている。人種、信条、宗教、性とジェンダーにかかわらず、誰もが敬意と思いやりをもって扱われなければならないのよ。
--そんなポジティヴな1曲に続くフィナーレの「This City Will Kill You」は、非常に不穏で、“逃げないとだめよ”という警告で締め括られています。
私に言わせれば、これも希望の歌なのよ。なぜって、どんな困難に直面しようと、克服するのは不可能じゃないと私は思っているから。それを本当に望んでいて、柔軟に変化する勇気さえ持っていれば、どんな苦境からも抜け出せる。だからこの曲は希望の歌であって、自分が置かれているシチュエイションから逃げるしかない。でなければ命を落としてしまう。つまり、全ては自分次第だってことを歌っているのね。
--サウンド面では、いつも通り多様なインスピレーション源が察知できます。かねてから挙げていたロキシー・ミュージックに加えて、インダストリアル・ロック系のアーティストの影響もかなり色濃く表れていますよね。
そうね、ゲイリー・ニューマンはかなり参考にさせてもらったかな。あとはパティ・スミスにザ・キュアー、エコー&ザ・バニーメン、ギャング・オヴ・フォー……。スージー&ザ・バンシーズもね。スタジオに入る時にはいつも必ず、スージーを一緒に連れて行くの(笑)。でも、挙げ始めたらキリがないわ。私たちの音楽的守備範囲は途方もなく幅広くて、多様な要素を取り入れて、自分たちのサウンドを作り出そうとしているから。全員が熱狂的な音楽ファンで、自分たちのヒーローに、音で言及するのが好きなの。それは、私たちの人生と音楽を豊かにしてくれたことに対して、敬意を込めて感謝を捧げる最良の方法だと思う。だからこそ、自分たちに影響を与えたのが誰なのか、私たちの考え方を形作っているのが誰なのか、躊躇なく明かしているのよ。
--究極的には必ずガービッジの音になりますからね。
そうなのよ(笑)。良くも悪くも!
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Interview and Text by 新谷洋子
ビリー・アイリッシュはまさに、哀しみとダークネスとメランコリーを掘り下げることで大きな成功を手にし、みんなが彼女の例に倣っているのよ。
--少々抽象的な質問になりますが、本作はガービッジの現在地について、何を物語っていると思いますか?
このアルバムについて私が気に入っている点は、まるで、一般市民の証言であるかのように感じられるということ。今世界で起きていることに対する私たちの想いについて、証拠書類を作成したような気がしていて、性差別や女性蔑視、構造的な人種差別、排外主義、ホモフォビアへの異議が、ここに記録されている。私たちは、「他人の首を膝で押さえ付けて抑圧する人たちには同意できない」(注:アメリカ・ミネソタ州で20年に黒人男性ジョージ・フロイドが警官に膝で首を押さえ付けられて亡くなったことに言及していると思われる)と宣言して、正式に記録に残しているのよ。
--あなたたちは15年以降、ファースト『Garbage』とセカンド『Version2.0』のリイシューとアルバム再現ツアーを、相次いで行ないましたよね。ここにきて過去を振り返ってみて、バンドの功績を再確認したようなところはあったんでしょうか。
まずは何よりも、自分たちがどれだけ長く活動してきたか、再確認できたわ(笑)。それを思い知らされて、深い感謝の念を抱かずにいられなかった。だって私たちは、こんなに長い間活動を続けられるとは夢にも思っていなかったから。特にバンドって、安定したキャリアを築くのは本当に難しいのよね。そういう意味でこれらのリイシューを通じて、自分たちの軸みたいなものに触れることができて、素晴らしい体験だった。過去に遡って、かつて自分たちが立っていた地点に立ち返り、そこからどれだけ遠くまで旅してきたのか確認できたわけだから。
--そういえば前作を発表した時にあなたは、「世の中が闇に包まれている時にハッピーなポップ・ソングを聴かされることに辟易している」と話していましたが、近年のポップ・ミュージックはどんどんダークになり、ガービッジの世界に近付いています。この傾向をどう捉えていますか?
その点に関しては歓迎しているわ。ようやく同じ言語を話してくれるようになったわけだから。私は、悲しみとダークネスとメランコリーを介して世界と向き合っていて、自分と同じように感じて、同じことを求めている人が世界中に大勢いると思うと、安心感が得られるのよね。そんなトレンドを作り出したのはビリー・アイリッシュだから、彼女に感謝しないと! ビリーはまさに、哀しみとダークネスとメランコリーを掘り下げることで大きな成功を手にし、みんなが彼女の例に倣っているのよ。
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