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中川英二郎、エリック・ミヤシロ、本田雅人によるSUPER BRASS STARS、有観客公演に向けた直前インタビュー

インタビュー

 トロンボーン奏者の中川英二郎、トランペッターのエリック・ミヤシロ、アルト・サックス奏者の本田雅人。そんなジャズ界を代表する名手3人が歩み寄ったユニットが、その名もSUPER BRASS STARSだ。2020年9月に開かれた、8時間に渡るオンライン・フェスである<BLUOOM X SEP 2020>のためにこの3人は集まり、無伴奏で音を重ねて好評を博した。そして、今度は観客を前にすみだトリフォニーホールで3人が顔を合わせる。その第1部はそれぞれのソロ演奏から2〜3人による演奏曲まで、まさに“裸の、スーパー・ブラス表現”が送り出される。また、第2部では新日本フィルハーモニー交響楽団との共演というプログラムが披露される。普段から顔を合わせることが少なくないこの3人の素顔を紹介しつつ、このスペシャルな公演に対する3人の思いや意欲を語っていただいた。

Interview & Text:佐藤英輔 l Photo:Masanori Naruse

中川英二郎、エリック・ミヤシロ、本田雅人の共通点

ーー3人とも、付き合いは長いですよね。

エリック・ミヤシロ:ぼくは日本に来てもう30年経つんですけど、そのころ英二郎は中学生だったかな。JAZZ-AID(ALL JAPAN JAZZ AID。1980年代後期に開かれていた日本人ジャズ・ミュージシャン大集合のチャリティ・コンサート) で出会って、本田さんもT-SUQAREに入ったばかりの頃でした。もう、30年越しの付き合いになりますね。

ーー本田さんと中川さんは、エリック・ミヤシロ・ビッグ・バンドのメンバーですよね。また、本田さんのビッグ・バンドであるB.B.ステーションには、エリックさんと中川さんが入っています。

中川英二郎:入っているんですよ、実は。

エリック:ほんと、いろいろ重なってきていますね。

ーー本田さんとエリックさんが同世代で、中川さんは一回り下ですよね。

中川:そうですね。僕も若い時から先輩たちといたので、自分が若いという考えもないし、実際、毎日のように一緒にいますからね。昨日もレコーディングで一緒でした。

本田雅人:感覚はほとんど同じ。英二郎が若いのに、老けているんですよ(笑)。

ーーだって、中川さんは高校生のときにメジャーからアルバム・デビューをして、しかもニューヨーク録音ですからね(『EIJIRO NAKAGAWA & FUNK '55』)。

本田:英二郎はデビューが早いので、ほとんど変わらないような芸歴、職歴があるんだよね。

ーー持ち楽器もそれぞれ違いますが、3人には共通点もありますよね。父親がミュージシャンとか音楽の先生だったりして、音楽的に恵まれた環境で育っていること。また、音楽大学(本田は国立音大、エリックは米バークリー音大、中川は東京藝大)できっちり学んでいる事。そして、そうであるにも関わらず、ジャズもクラシックもポップ・ミュージックも分け隔てなく関わってきています。

エリック:英二郎と似ているんだけど、父親がプロのトランペッターだったので、僕は当たり前のように子供の頃から現場に行っていたんです。もちろん、常に家の中には音楽があった。同時進行でクラシック、ポップス、ジャズといったように、様々な音楽があったわけです。僕はハワイで生まれ育ったんですけど、音楽という大きな括りで、それらに自由に接していたんじゃないかな。

中川:僕の場合はトロンボーンなんですが、トロンボーンってかなり幅広くいろんなジャンルに関わる楽器なんですよ。もう、この楽器を吹いてやっていないジャンルはないんじゃないかと思うほどで、和楽器との共演もしていますしね。

本田:音楽環境が恵まれていたというのは皆そうだと思いますが、僕の場合はとても田舎なので、恵まれていない部分もあります。だから、自由に楽器が演奏できたと言うのはありますが。僕は山に向かって、隣近所に気兼ねすることもなく、音を出せましたから(笑)。両親が教師をやっていた関係で、田舎なりには恵まれていた環境だとは思います。

ーーこの3人は、どういう所が一番ウマがあうのでしょう?

エリック:付き合いも長いし、お互いに正直に物事を言えるんですよ。タレントのサポートとか音楽番組とか本当にいろんなことをやっていて、お互いの癖とかも知り尽くしていますね。だから、あまり話し合う事なく、楽に仕事を進められるんです。また、僕は英二郎の侍ブラスというグループにも入っていますから。それは、ちょうどレコーディングが終わったばかりなんです。

ーー中川さんは、SUPER BRASS STARSの言い出しっぺになるんですよね。

中川:そうですね。このコロナ禍で開かれたオンライン・フェスに出演するために、いろいろ考えたんです。まず一人で演奏して、次にデュオで、そしてトリオでやろうかなと考えていき、一緒にやって楽しくて演奏も素晴らしい人ということで、エリックさんと本田さんに声をかけました。

ーー実際に、その昨秋の共演はどうだったのでしょう? 印象に残っていることはありますか?

中川:この時は40分ぐらいやったのかな。めちゃ、面白かったですね。この3人の中で僕の楽器はなんでもしなきゃいけない役どころなので、ずっと吹きっぱなしでした(笑)。

本田:いつものビッグ・バンドでもそれぞれにリードのパートも吹いているので、気持ちの部分ではあまり変わらないんです。でも、こういう少ない人数でやるとより凝縮されると思いましたね。

エリック:最初3人だけでやると聞いて、何を考えているのかと思いました(笑)。でも、やってみたら、ああいい音楽になるじゃんとなりましたね。

中川:リーダーをやっているので、こういった3人の時でも、それぞれがリーダーシップを取ることが自然にできるんです。やっぱりいいセクション・プレイヤーになるためには、いいリーダーにならなきゃいけない。その2つの要素を3人は持っているので、ほとんど練習することはなかったですね。

ーーそのときの映像も拝見しましたが、まず人数が少ないのというのはいいなと思いました。それぞれの楽器の音色の綺麗さや息遣いがものすごい伝わりますし、3本しかいないのに倍音の効果もあり、重なり方によっていろんな形や色を発することができていて、腕いいミュージシャンが管楽器のアカペラという感じで重なるとマジックが起こるんだなと思いました。

中川:ジャズ・プレイヤーの管楽器2~3人だけという編成は、あまりないですよね。やはり、そこにピアノかリズム・セクションが入りますから。普段やっていないことをできて、僕たちも新鮮に楽しめました。

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公演への意気込み

ーーさて、6月29日に行われる、すみだトリフォニーホールで開かれるコンサートのことをお聞きしたいと思います。第2部構成で、1部はこの3人でいろいろやるんですよね。

中川:はい。第1部は基本3人か2人か、1人でやろうと思っています。トリフォニーって、すごく響きの良いホールじゃないですか。だから、ホールの響きを使って小人数の演奏を気持ちよく届けることができると思います。また、第2部には信頼のおけるリズム・セクション(ピアノの宮本貴奈、ベースの川村竜、ドラムの髭白健)にも入っていただくので、1部にも少し出てもらい、にぎやかにやる場面もあると思います。

本田:最近はビッグ・バンドでやることが多いんですが、少人数でやるのも好きなので、とにかく楽しみですね。最近よく思うのが、各楽器の音色の力が大事だということ。綺麗な音色というより、引っ張る力がある人が3人いるとすごくパワーになるんですよね。

ーー2人なり3人で演奏すると、ビッグ・バンドでやるよりお互いの音がよく聴こえるじゃないですか。それで、より刺激を受け合うことはあるのでしょうか。

本田:そうですね。お互いの音もそうだし、自分の音にもより責任が出てきて、逃げることができなくなりますね。

エリック:コロナ禍でお客さんや仲間と離れて1人の時間がすごく多くなったことで、仲間のありがたさや自分がやりたかったことが明確に分かったんですよ。この時期は自分たちにとっては試練でもあったけど、鍛えられたとも思いますし、その結果を生で聴いてほしいですね。

ーーそして、第2部は新日本フィルハーモニー交響楽団との共演になります。

中川:今回オーケストラと一緒にやるというのは新しい試みで、アレンジもエリックさんがいろいろ書いてくれています。とにかく、こういう形でオーケストラとご一緒する機会はなかなかないですし、本当にうれしいですね。そして、やるからには成功させて、お客さんを喜ばせたいというのは皆の思いだと思います。

ーー第2部はオーケストラ用の譜面を用意する必要上、すでに曲が決まっているんですね。曲ごとに、聴き所など話していただけますか。

中川:まず、この1月に亡くなったチック・コリアの曲「スペイン」をやります。

エリック:1月にチックが亡くなり、それで「スペイン」をピアノで弾いたりしたんです。そしたら、彼にはすごい影響を受けていたんだなとじわじわと実感してしまったんです。そこで、コードを変えたりしながら自分のビッグバンド用の譜面を書いたんですが、この話がきてそれをオーケストラに広げてみました。悲しみやありがとうの気持ちを込めたチックへのオマージュになればと思います。

ーーエリックさんは、時々大きいオーケストレーションの仕事はおやりになっているんですか。

エリック:そうですね、10年ほど前からオーケストラと共演をするようになりました。独学なので、やっては反省の繰り返しですが。今回、どんなサウンドになるか楽しみですね。しかも、この3人でやるので。

ーー2曲目は、スタンダードの「スターダスト」を演奏しますね。

中川:本田さんをフィーチャーします。もともと僕のために兄(作編曲家の中川幸太郎)に書いてもらったオーケストレーションがあって、せっかくだからこれをやろうと思いました。僕は本田さんのバラードの演奏がすごい好きなので、この曲は本田さんに吹いてもらいたいと思いました。

本田:実はオーケストレーションのキーが、アルト・サックスに合わないんですよ。それで吹くとめっちゃ高くて、ずっと裏声で歌っているみたいな感じになるんです。でも、これはこれで新しい感じかなと思いますね。

ーー映画『ロッキー』のテーマ曲もやりますね。

エリック:元のアレンジは、10年以上前に大阪フィルハーモニー交響楽団とやったときに僕が書きました。「ロッキー」自体はトランペッターの定番みたいになっていて、僕も高校生の頃からイヤっていうほど吹いている曲なんです。もし、この曲のマイレージ・カードがあれば富豪になってしまうほどですね(笑)。この曲って、どうしてもソリストとオーケストラの伴奏というように両者が離れてしまうことが多いので、僕はオーケストラ自体もソリストと同等の位置にいるようなものにしたかったんです。そこを聴きとっていただければ嬉しいですね。

ーー中川さんは自作の「Trisense」で、ソロを取りますね。この曲って、組曲仕立てで複雑ですよね。

中川:一昨年の12月に札幌交響楽団と演奏した際に作ったオーケストラ版をやったことがあり、ある程度作っていたのものを兄に見せてオーケストレーションし直してもらいました。この曲はジャズジャズしていないし、長めな曲だったりしてどうしようかと悩むところはあったんですが、自分らしい曲なので、今回はやらせていただきます。

ーーそして、デイヴィッド・フォスターの1988年冬季カルガリーオリンピックの公式テーマ曲「ウィンターゲームス」が、本編最後の曲となります。この曲も、エリックさんの編曲ですね。

エリック:これも大阪フィルと一緒にやったときのアレンジなんですが、僕自身すごく大好きな曲なんです。これは今回、3人が入るアレンジに直しています。

中川:第2部はいろいろ相談してこういう形でやるんですが、「スペイン」などがどうなるか楽しみです。3人で自由に吹ける部分もたくさんあるし、今はポップスやジャズが好きな若いオーケストラのメンバーも増えているのでノリノリでやってくれたら嬉しいです。

本田:響きのいいホールで、PAを使わずにできるのがいいですね。自分たちもアコースティックな楽器なので、そこに楽しさがあります。最小限でやる1部、大きな2部と、極端ですけどね。どちらも生音でやるので、力まずに楽しみたいです。

エリック:3人というメインの役者がいて、そこにオーケストラという大きな支えが付くので、今からワクワクしています。3人とも自分の音楽を強く持っているので、オーケストラに対抗できるパワーがあるので、それをお客さんに感じていただけるというのはポイントになると思います。ポップス、クラシック、ジャズというジャンルで分けて感じるのではなく、それらを“楽しい音楽という枠”で感じていただけるまたとない機会だと思っています。とにかく、こんな機会を作っていただいて感謝ですね。吹奏楽ファン、ジャズ・ファン、フュージョン・ファン、クラシック・ファンの方々、それぞれが楽しめる企画だと思います。

ーーところで、当日は正装するのでしょうか。1部と2部とで、衣装を変えるとか。

中川:それは、自由でいいんじゃないでしょうか。あまり合わせると恰好悪いような気もします。

本田:僕は黒タキを持ってない、葬式用のしか……。

エリック:じゃ、僕は白タキで本田さんは喪服、英二郎は赤(笑)。オーケストラはいつもの黒で。それで、いいんじゃないかなあ。

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