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<インタビュー>和楽器バンド 音楽シーンに合わせて変化を続ける彼らの最新作『Starlight EP』



和楽器バンドインタビュー

 和楽器バンドの最新EP『Starlight EP』が6月9日にリリースされた。昨年10月発売のアルバム『TOKYO SINGING』に続く本作は、WGB(和楽器バンド)名義で先行配信されたフジテレビ系月9ドラマ『イチケイのカラス』の主題歌「Starlight」を筆頭に、テレビアニメ『MARS RED』の主題歌である「生命のアリア」など話題曲を含む魅力的な内容だ。中でも、和楽器バンドであることを隠して発表された「Starlight」に対する注目度は非常に高いのではないだろうか。なぜ彼らはこのような形で同曲を発表したのか。その制作過程を鈴華ゆう子(Vo.)、いぶくろ聖志(箏)、蜷川べに(津軽三味線)、町屋(Gt. / Vo.)に語ってもらった。
左から:いぶくろ聖志、鈴華ゆう子、町屋、蜷川べに

――「Starlight」が月9ドラマ『イチケイのカラス』の主題歌として初めてオンエアされたとき、WGB名義になっていましたが、この名前と楽曲によって僕は「あれ、和楽器バンドだ!」とすぐに気づきまして。

町屋:あ、気づいてもらえましたか?

鈴華ゆう子:それは知ってくださっているバージョンの反応ですね(笑)。

――気づかない方は全然気づいていませんでしたものね。

いぶくろ聖志:うんうん。

町屋:たぶん「和楽器バンド=千本桜」という側面で止まってしまっている方は気づかないんだと思います。

鈴華:和楽器バンドはビジュアルのインパクトも強いので、そのぶん先入観も強いでしょうし、そういう食わず嫌いな方々にも届けたいという思いがありました。あとは、ドラマの世界観を私たちのインパクトで壊してしまうのはよくないと思ったんです。その両方の意味合いからWGBを使ったんですが、ファンの間ではWGBという名称はデビュー当時からグッズなどで使っているぐらい馴染みがあるものなので、既存のファンの方々も置いてけぼりにしない、ちょうどいい落としどころだったんです。

――なるほど。そもそも月9ドラマ主題歌のオファーはいつ頃あったんですか?

町屋:1年ぐらい前ですかね。ドラマサイドもいろいろ模索している感じで、本当にいろんなものが欲しいという状態だったので、こちらもいろんなものを提示して。「Starlight」の元となった、ブラッシュアップ前の曲ができたのが今年の1月7日なんですね。

――あ、結構最近のことなんですね。

町屋:そうなんです。それまでは作ってはやっぱり違う、作ってはやっぱり違うというのを繰り返して。それで、1月7日にこの曲の元ができたんですが、やっぱり「違う」と(笑)。でも、ブラッシュアップしていく過程でまた浮上してきて、今の形に落ち着いたんです。

鈴華:それこそイメージ共有のために、「○○っぽく」みたいにいろんなアーティスト名を挙げてもらって、それを和楽器バンドに落とし込んだらこうなった、みたいな答え合わせを繰り返しながら、仮歌を入れて提出というのを繰り返しました。

町屋:でも、山ほど曲を書いた中で「これはイケる」と思った曲が2曲あって。そのうちの1曲が「Starlight」でした。当初はもっとテンポが速くて言葉も詰まっていたんですけど、劇中で流れてセリフと被ったときに言葉が詰まっていると演技とバッティングするので、言葉を間引いたり、テンポを落としたりというブラッシュアップをしました。

――そもそも月9主題歌を担当すると知ったとき、皆さんどう思いましたか?

いぶくろ:最初に聞いたときは、月9の印象と僕たちの印象が自分の中でマッチしなかったので、「どうしていくんだろう?」というのがありました。

鈴華:月9をよく観る世代だったので、「今の月9ってどうなんだろう?」というのも気になりました。私たちがよく観ていた頃は……

――いわゆるトレンディドラマと呼ばれる恋愛ものが中心でしたものね。

鈴華:そうそう。その頃と比べると、ドラマというもの自体が変わってきているとは思うんですが、そこに「今の和楽器バンドがどう入っていけるんだろう?」と気になって、最近の月9を改めて見返しました。

蜷川べに:私は申し訳ないんですけど、本当にテレビを観ないので、月9ドラマもまったく観てこなかったんです(苦笑)。でも、今回はこういう形の内容に寄り添いつつ、アレンジを考えました。

いぶくろ:純粋に音楽に対して向き合った感じだね。

蜷川:そうなんです。


――では、作詞に関してはドラマの世界観との親和性を意識したわけですよね?

町屋:はい。「(黒木華演じる)坂間千鶴が(竹野内 豊演じる)入間みちおを見て、インスパイアされていくという歌詞でお願いします」というオーダーでした。最終的にこうなったんですけど、途中、紆余曲折もありましたよ。「思いっきりラブソングにしてください」みたいなこともあったし、セリフと歌詞のバッティングを考えて「試しに英詞もお願いします」と言われて英詞で録ったけど、「やっぱり違いますね」ということもありました。でも、<自分の言葉そのままに 焦りや迷いも乗り越えたい>というフレーズは最初に作ったときのままなんです。「こういう感じで直しをお願いします」と依頼されても、ここだけは変えたくなかったので、ほかのところをうまく変えながら残しました。

――例えばドラマやアニメの主題歌のようにお題が用意されて制作する場合と、タイアップがない状態の楽曲制作では、その作り方に違いはあるんでしょうか?

町屋:そんなにないですよ。我々はもともとタイアップが多いバンドですし、作品に寄り添った曲もデビュー当初からたくさん書いているので、みんな慣れているんじゃないかな。

鈴華:テーマがあったほうが書きやすいと言う人もいるぐらい慣れてはいるんですが、今回の場合は私たちの意表を突くぐらいに「月9はこうやって歴史を重ねてきたんだ」と番組サイドのこだわりが強くて、それは今までにはない経験でした。こんなに時間をかけてギリギリまで揉んで、ちゃんと最後の最後までこだわり抜いて。だって、50回ぐらいやりとりを繰り返したんでしょ?

町屋:そう。でも、「このチームは千本ノックだよ」とあらかじめ聞かされていたし、こんなにひとつの作品に対してディスカッションしたり、こだわりをぶつけ合ったりする機会もそもそもないので。最初はバンド側と番組側でお互い台本を読んで、聴こえてくる主題歌のイメージが若干違ったと思うんですよ。要はそのベクトルを同じ方向に揃えるため、お互いのフォーカスを合わせていくための時間だったと思うんです。それがじっくりできたことは勉強にもなったし、作品にもいいことだったと思います。

鈴華:このタイアップに関しては、曲を書くのがまっちー(町屋)でよかったなとすごく思っています。アレンジャーとしてもエンジニアとしても、自分である程度作って落とし込むのを一番早く形にできるので。私だったら、ピアノで弾き語りをしたものをエンジニアを通して形にして、という手順が必要なので。彼のフットワークの軽さもあって、いろんな要望も生まれやすかったのかなと(笑)。

町屋:確かに(笑)。俺がもっと不器用だったら、こんなに注文されなかったかもしれないしね。

――ものすごく濃密な期間だったんですね。実際に完成した「Starlight」ですが、普段の和楽器バンドの楽曲との質感の違いを感じました。例えば和楽器の主張の強さがこの曲では若干抑え気味だったり、ゆう子さんの歌唱に関しても独特な節回しが封印されていたり。

町屋:この曲のタタキが出来上がった段階で、今のイメージがもう見えていて、音も聴こえていたので、それに沿ってレコーディングしただけなんです。例えば、今までは和楽器のチューニングのピッチをちょっと高めにして、わざと前に出していたものを、「Starlight」では全員統一していて。洋楽器440Hz、和楽器441Hzもしくは442Hzというのがうちの基本のピッチなんですけど、今回は440Hzで統一しました。実は、過去にも統一して録ったことがあって。「ピッチを統一したらどうなるんだろう?」と思って録ってみたら、和楽器の音が前に出てこなくて失敗だった経験があったんですよ。なので、今度はそれを逆手に取って、和楽器がしっかり鳴っているけれども前に出過ぎないという使い方をしてみました。

鈴華:歌い方に関しては月9のドラマの世界観を重視して、楽曲のより良いところを表現したまでのことなんです。それこそ初期の『ボカロ三昧』というアルバムを出した頃は、詩吟とか和楽器の特徴を出すために節調(せっちょう。詩吟独特の歌い回し)を入れることにこだわっていたんですけど、この曲に節調を入れたらセリフよりもそっちに耳がいってしまう。なので、ささやくような歌い方に寄っているのは、自然なことなんですよ。

いぶくろ:箏に関しては、よりアーバンテイストでタッチも弱めで、箏の音色というよりは箏の響きを前に出すアプローチをしています。今回は三味線からレコーディングしているんですよ。

蜷川:和楽器に関しては最近、基本的には三味線を録ってから箏、尺八という順番なんです。今回の楽曲はゴリゴリのデジタルサウンドで、その中で三味線的な技法とか三味線らしいアレンジを出す感じではなかったので、楽曲の雰囲気の邪魔をしないようなアプローチを心がけました。

――通して聴いたときの新鮮さがとにかく強くて、和楽器バンドの新たな魅力が伝わる楽曲だと思いました。

町屋:ありがとうございます。ポップスのシーンって、移り変わりが激しいじゃないですか。それに合わせてバンドのサウンドが変化していくのって、僕はごく当たり前のことだと思うんです。中にはひとつのスタイルやジャンルにこだわる人たちもいるけど、僕らは「ロックバンドという形式をとったポップス」にカテゴライズされているバンドだと思っているので、そうなるとその時代その時代のJ-POPシーンに合わせた楽曲を提供し続けなくちゃいけないですし、それにあわせて僕たちも変化していかなくちゃいけないと思っています。

鈴華:海外シーンとしっかり分けて考えていくのも、このバンドにおいては重要だという話もよくしていて。J-POPとワールドワイドなシーンはもちろん共通点もありますけど、別軸で発信している部分も多いので、そのためにもアンテナをしっかり張ってキャッチしていくのも大事かなと思っています。

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フル・アルバムを1枚聴くような
バリエーションの深さは出せたかなと思います

――今回のEPにはデジタルで先行リリースされた「Starlight」と「生命のアリア」に加え、EPで初出となる「ブルーデイジー」と「雨上がりのパレード」の2曲が収録されています。EPとしての全体のバランスに関しては、どんなイメージがありましたか?

町屋:僕の中ではわりと想像通りでしたね。「Starlight」って全体的にゆったりな印象が強いので、たぶん速い曲が必要だろうなとまず考えました。加えて、「Starlight」はデジタル要素も強いので、結構オーガニックなサウンドも求められるかなと。そういうところで、ちょっとスローテンポな「ブルーデイジー」と元気でテンポの速い「雨上がりのパレード」はハマりやすかったのかなと思います。でも、おかげさまで歌詞はレコーディングの当日か前日まで書き上がらなかったです(笑)。

鈴華:ひとつは前日の夜で、もうひとつは当日のレコーディング寸前(笑)。

町屋:すみません(笑)。

――ゆう子さんはそこで歌詞を受け取って、短時間でレコーディングに臨むわけですよね。

鈴華:なんだかんだ言って、自分の中に落とし込まないと表現しきれないと思っているんですが、プロとしてここまでやってきているんだから決められた時間でやらなくちゃいけないときもあるじゃないですか。これが初めてお仕事する作家さんだったら難しいと思うんですけど、彼のことはよく知っていますし。特に、今回は楽曲のイメージを先に送ってもらっていたのも大きくて。

町屋:イメージマップね。

鈴華:それを観ることで曲のイメージに近づく時間を短縮できたんです。あと、「Starlight」ありきのEPになっていくと想像していたので、その中で歌い方のバリエーションもどう見せていくか、バランス感を考えていました。特に最後の「雨上がりのパレード」は「爽快ロックで歌うのか、ちょっと可愛らしく歌うのか、私の中でこの2パターンが想像できるけど、どっちがイメージに近いですか?」というのをまっちーに投げて、選んでもらって。私としての読み解き方を提示して、最終的に可愛い感じのほうを選んでもらって録りました。

町屋:スカッとした気持ちでこのEPを聴き終えてほしかったので、4曲目に関しては可愛い感じで歌ってもらいました。「ブルーデイジー」はちょっと泥臭い感じがあるし、「生命のアリア」は和楽器バンドの十八番みたいなナンバー、そして1曲目に我々の新しい側面としての「Starlight」があるので、頭からおしりまでバランスよく、フル・アルバムを1枚聴くようなバリエーションの深さは出せたかなと思います。

――箏や三味線のバランスというのは、このEPではどう考えましたか?

いぶくろ:曲の中でのバランスというのは、自然と作っていますね。

蜷川:きよぴー(いぶくろ)も私も曲を聴き込んで、どういう感じに仕上げるかを固めてからレコーディングに臨むので。ただ、最近はそこにかける時間が増えてきたかもしれません。それは自分の中で「こうしたいけど、こういう風にもしたい」というアイデアが増えてきたのが大きいですね。

いぶくろ:このバンドにおける和楽器の演奏者にとって、ずっといなくちゃいけないことが重要なポイントです。いいところだけ入って、いらないところは抜けるっていうアプローチではないので、基本的にすべての楽曲に対して居続ける。その中で存在感の濃淡をどうしていくかというのが、和楽器のメンバーに与えられた課題なんですよ。

蜷川:曲にもよりますけど、その楽器の特性とか一番綺麗に聴こえるフレーズがあると思うので、それをどのタイミングで聴かせるかというのも毎回考えどころですね。あと、イメージマップっていいなと思いました。私、毎回曲を相当聴き込んで「この主人公は今、何を思っているんだろう?」と考えているので、今後はぜひほかのメンバーにも共有してほしいです(笑)。

鈴華:今回は時間がなさすぎたから頼んだんだよね。

蜷川:でも、イメージで観たら理解が早いかも。

町屋:確かに、歌詞とメロディにイメージマップをくっ付けて「こんな感じです」と渡されたら、僕も作りやすい。イメージマップって音楽を作る上でも非常に強力に活用できるツールだよね。

――このEPを聴いたことで、和楽器バンドのここから先がまた楽しみになりました。

鈴華:また原点に帰りたくなるんじゃないですかね。

蜷川:『ボカロ三昧』をまたやろう(笑)。

鈴華:いろいろ経て思うのは、さっきも言いましたけどJ-POPシーンと海外シーンという両軸でいくのが、和楽器バンドとして一番ナチュラルだなと思っていて。どちらかに偏っても自分たちがやりたいことを表現しきれないので、どちらか一方に決めるのは無理なんですよ。なので、ジャンル的にはいろんなオイシイところをすべてやっていくことが大事なのかなと思います。

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