Billboard JAPAN


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<インタビュー>MANONが語る“HYPERPOP”と“ギャル”への憧憬、新曲「GALCHAN MODE」について



インタビュー

 きゃりーぱみゅぱみゅ、中田ヤスタカらを擁するアソビシステム所属のモデルであり、2017年からはアーティスト活動も行う、福岡出身で現在19歳のMANONが、2021年第1弾となるニュー・シングル「GALCHAN MODE」をリリースした。

 KOHH、BAD HOP、JP THE WAVYなどともコラボする音楽プロデューサー、Lil’Yukichiがトラックを、そしてMANON自身が作詞を手掛けた本作は、近年盛り上がりを見せるHYPERPOPのサウンドにチャレンジした意欲作で、なおかつ“ギャル”というユニークなモチーフを採用している点も特徴的。レトロな作風の3Dアバターがパラパラを踊る愉快なミュージック・ビデオには、SNSで見つけたという海外の17歳のクリエイターが参加した。

 その時々のトレンドに目配せしつつ、トラップやエモラップからオルタナティブ・ロックやドリーム・ポップまで、様々な表現に挑んできたMANON。そんな彼女が感じるHYPERPOPとギャル・カルチャーの魅力とは。本人に話を訊いた。

幼少期に慣れ親しんでいたデヴィッド・ボウイの影響

――Billboard JAPANでは初めてのインタビューになるので、まずはMANONさん自身について教えてください。アーティストとして活動していきたいと思い始めたのはいつ頃でしたか?

小学生の頃です。もともと音楽はすごく好きで、両親の影響もあって日本だけじゃなく、フランスとかヨーロッパの音楽も色々聴いていたんですけど、そしたら自然と自分でもやってみたいなと思うようになりました。

――お父さんがフランス人で、お母さんが日本人なんですよね。家でもずっと何かしらの音楽が鳴っていたような環境だった?

そうですね。家とか車とか、あと母が洋服屋さんをやっていて、お店で音楽がずっとかかってました。母はデヴィッド・ボウイが好きで、私も小さい頃からベスト・アルバムに付属していたDVDを見たりしていて。

――例えばデヴィッド・ボウイのどんなところに魅力を感じていたのでしょう?

年代によってチャレンジしている表現が全然違うところです。グラムロックをやっていたり、カントリー系の感じにもなったり、宇宙人みたいな恰好をすることもあったりして、同じ人とは思えなくて。あと、ファッションもすごく好きです。「Life On Mars?」っていう曲のミュージック・ビデオで、スカイブルーのアイシャドウをして、それと同じ色のスーツを着ていたのが衝撃的でした。



David Bowie – Life On Mars? (Official Video)


――MANONさんもモデルのお仕事をしている一方で、アーティストとしても様々な音楽にチャレンジしていますが、幼い頃に慣れ親しんでいたボウイの影響もあるのでしょうか?

たしかに、ルーツになっている気はします。

――2020年には1stアルバム『TEENAGE DIARY』をリリースしたMANONさんですが、当時と今とではやはり聴こえ方も違う?

全く違いますね。声もだいぶ変わってるし。あと、ジャケットの感じとかも今の自分じゃ絶対に作れない、できないような表現だなって思います。

――それは“作らない”ではなく“作れない”ですか?

はい。今の自分だとこういう発想は出てこないなっていう。そのときの自分のヴァイブスが詰まってる感じがしますね。

――あえてMANONさん自身に聞きますが、誰かに「MANONとは、こういうアーティストだ」と紹介するとしたら、どんなふうに言い表しますか?

カメレオンのようにどんどん変化していく人だと思います。前作と今作とでもガラッと変わってるように。もしかしたら熱しやすく冷めやすい性格なのかもです。



――これまでの活動で特に印象に残っている思い出は?

たくさんありますね。でも、一番最近のライブが衝撃だったかもしれない。

――というと?

大阪のライブだったんですけど、初めてのナイトイベントで。どんな雰囲気なんだろうってずっと気になっていたんですけど、朝の4時とか5時になってもみんな踊り狂っていて、なんか新しい世界を見た感じがしました。

――そうか、いま19歳ですもんね。18歳以上だからナイト・イベントにも出られるようになった。

それがけっこう嬉しくて。18歳ってお客さんは入れないじゃないですか。でも、出演者なら入れる。私はまだ未成年だけど、みなさんはお酒も飲まれていて、すごいテンションでした。私もいつか仲間に入れたらなって思います。人見知りなので、そこで何かが変わったりするのかなって思ったり(笑)。


グローバルに盛り上がる“HYPERPOP”と“ギャル”

――そして最新シングル「GALCHAN MODE」は“HYPERPOP×シブヤ・ギャル・カルチャー”というコンセプトを掲げた異色のナンバーです。そもそもHYPERPOPというシーンに興味を持ったきっかけは?

もともとヒップホップは好きでしたけど、HYPERPOPに関しては特にきっかけとかはなくて。気づいたらよく聴いてる曲がそういう音楽だったっていう。ジャンルとか全然詳しくないので、100 gecsとかも聴いていたんですけど、プレイリストの名前を見てようやくHYPERPOPと呼ばれていることを知りました。でも、聴いてるときは全然意識してなかったです。

――それこそ100 gecsはHYPERPOPシーンの代表格ですが、トラップとかエモラップを掘っていく中で辿り着いた感じ?

そうですね。あと、私もコラボさせていただいたことのあるケロ・ケロ・ボニトさんが楽曲に参加されていて。その曲に参加していたリコ・ナスティーもチャーリーXCXも大好きだったので、最初はそれがきっかけだったと思います。



100 gecs - ringtone (remix) [feat. Charli XCX, Rico Nasty, Kero Kero Bonito] {VISUALIZER}


――では、特に新しいジャンルを開拓しているような感覚でもなく、自然な流れで出会った感じだったのでしょうか?

でも、自分が今まで聴いてきた音楽とはちょっと違うなって感じはありました。歌声もそうだし、あとはギター・サウンドですかね。エモラップ系の音楽でもギターの音色をたくさん使ってる曲があると思うんですけど、もっと歪んでいるというか。気づいたらどんどんそういう曲がプレイリストの中でも増えていって、これは私自身、こういう音楽が好きなんだなと思って、自分でもチャレンジしました。

――節々が歪というか、キメラ的な不自然さが付きまとう音楽ですよね。

なんだか謎めいてますよね。人物像がよく分からないアーティストさんも多いし、歌声もフォルマントをいじったりしているから、性別のカテゴライズもないですし。色んな意味でボーダーレスなジャンルだなって思います。



――「GALCHAN MODE」の製作はどのように進んでいったのですか?

まだ言えないんですけど、友達と一緒に作った楽曲があって、それがHYPERPOPに近いテイストだったんです。それでますます自分の曲でもやってみたいと思うようになって、プロデューサーのLil’Yukichiさんにトラックを作っていただけることになったときに、リファレンスとしてそういう曲を送ってお願いしてみたら、すごい曲ができあがって。

――そこから自分でリリックとトップラインを組み上げていった?

そうです。

――“ギャル”というモチーフはどこから出てきたのでしょう?

フックパートで鳴っているトランスのシンセを聞いたときに「これはパラパラだ!」と思って、そこからリリックもギャル・カルチャー全開でいこうと思いました。すごい調べました、ギャル要素を。海外だと“GAL”じゃなくてローマ字の“GYARU”と表記されることも多いんですけど、一部ではギャル文化が流行ってるみたいで。日本でもリバイバルして流行ってきてますよね。水原希子さんがプロデュースしてる『OK』っていうブランドと『ESPERANZA』がコラボして、90年代のギャル風のアイテムを作って、ルックブックでは実際にギャルのモデルの方を起用していたりとか。

――どういうところを情報源にして調べていったのですか?

ギャル語辞典とか。あとはギャルのブランドを調べたり、ギャル雑誌の表紙のフレーズとかもチェックしました。ミュージック・ビデオとかジャケットのアートワークもちゃんとテーマに寄せたくて、ギャルの写真をネットで漁ったり。Blingeeっていう2010年代に流行っていた、好きな画像を装飾してGIFアニメーションにできるサイトも見ました。

――“GALCHAN”という語感もまた独特ですよね。

ギャルって言い切っちゃうと強い感じがするじゃないですか。でも、“GALCHAN”だと可愛いなって。あとは“ちゃん”とか“くん”をつけて呼ぶのって日本独自の文化じゃないですか。そういう日本らしさがあったほうがいいかなって思ったんです。

――リリックに関しては、ここまで英語の割合が高いのは初めてじゃないですか?

そうですね。HYPERPOP自体が海外で盛り上がっていることもありますけど、改めて世界に自分を発信していきたいなと思って。もちろんギャル語も盛りだくさんです。


宅録に初挑戦、ブースはクローゼットの中

――現在19歳のMANONさんから見て、00~10年代のギャル・カルチャーってどう映るのでしょう? どんなところが面白いと思います?

まだSNSがなかった時代なのに、みんなが渋谷とかに集まって遊んでいたというのが新鮮で。どうやって集まっていたんだろうって思います。ギャルサーっていうのもどうやって誕生したのか、みたいな。すごく不思議ですよね。たぶん雑誌で情報を集めていたんですかね。当時のギャルは唯一無二の存在だったと思います。今は色んなタイプの子が自分のことをギャルだと思ってるし。

――たしかに(笑)。ギャルの解釈も人それぞれになってますよね。

多様化してますよね。マインド的なギャルもいますし。



――ボーカルのレコーディングはいかがでしたか?

家で全部録ったんですけど、色んな歌い方を試したりして楽しかったです。今まではあまり意識してこなかったんですけど、今回はフレーズによって歌い方を変えていて。例えば<Show windowのBalenciaga~>のところはちょっとバカっぽく歌ってみたりとか。HYPERPOPはボーカルに強めのエフェクトをかけるから、いつも以上に変化をつけるイメージでした。

――苦戦したところは?

フックのメロディですね。やっぱり曲の一番の推しなので、そこは何回も録り直しました。「18」のときもそうだったんですよね。けっこうフックで苦戦しやすくて。メロディを自分で作り始めたのは去年からなので、まだ慣れてない部分もあるんですけど。

――宅録は今回が初ですよね?

はい。HYPERPOPは宅録で作るアーティストさんが多いイメージなので。家に防音の壁なんてないので、クローゼットの中に機材を持ち込んで歌いました。部屋だと響いちゃうけど、そこなら服で吸収されるかなと思って。

――ボーカルを乗せたデモについて、Lil’Yukichさんのリアクションはいかがでしたか?

実はLil’Yukichさんに送る前にライブで披露したんです。そのあとに事後報告的な感じで「すみません、いい曲になったので、勝手にやっちゃいました」みたいな。そしたら「僕も見ていて、すごく嬉しかったです」みたいな反応をもらえて。

――では、お客さんのリアクションは?

それがすごく良くて。そのときのライブはほとんど新曲でやったんですけど、みんな全然知らないはずなのにパラパラを踊ったりしてくれて。やる前はけっこう不安だったんですよね。今までと全然違う感じじゃん、みたいな。でも、全然そういう感じはなくて、みんな盛り上がってくれました。嬉しいです。

――ジャケットの3Dアバターもひと昔前のレトロな質感ですね。

海外の17歳のクリエイターの子に作ってもらいました。ミュージック・ビデオにも出てきます。パチンコの『海物語』ってあるじゃないですか。あれに一時期ハマったんですよ。いや、パチンコにハマったわけではないんですけど、キャラクターのビジュアルが好きで。ちょっとサイケじゃないですか。そんな感じにしたくて。



MANON - GALCHAN MODE (Prod.Lil'Yukichi)


――そのクリエイターさんはどういうふうに出会った方ですか?

コールド・ハートっていうラッパーのファン・アートを描いていた子なんですけど、コールド・ハート本人がInstagramでシェアしていたのを見て、すごいなと思ってプロフィールを見てみたら、17歳って書いてあって。趣味でやっていたらしいんですけど、趣味のレベルじゃないなって思えるぐらい可愛くて。それでオファーさせていただきました。

――では、今後どんな表現をしていきたいですか?

次に出す新曲もまたちょっと違う感じなんです。今までチャレンジしたことのないハードな感じで。ミクスチャーっぽいというか。「GALCHAN MODE」はすごくポップだけど、次はもう少しダークな感じです。「18」もどちらかと言えば切ない雰囲気の曲だったけど、それとはまた違う印象ですね。これから先も変化していくと思います。

Text&Interview by Takuto Ueda
Photo by Yuma Totsuka

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