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<インタビュー>MARiA、“隠れた私”が引き出された初のソロアルバム
2020年に結成10周年を迎えたばかりのGARNiDELiA。メンバーのMARiA(Vo)はソロ作品を制作し、その第1弾となるソロアルバム『うたものがたり』が5月26日にリリースされる。GARNiDELiAでは大半の楽曲で作詞を手がけるMARiAだが、このアルバムでは本間昭光のサウンドプロデュースのもと、橋口洋平(wacci)、山下穂尊(いきものがかり)、草野華余子、山崎まさよし、TAKUYA、宇宙まお、じんなどが作詞・作曲を手がけることで歌い手に専念。主人公の異なる10章の物語を、語りべとして表現した珠玉の作品集となっている。なぜMARiAはこのタイミングにソロという活動を選んだのか、そしてソロアーティストとして何を残したかったのか。その真意をじっくり語ってもらった。
“隠れた私”が引き出された初のソロアルバム
――GARNiDELiAは昨年結成10周年という節目を迎えましたが、そのタイミングにMARiAさん、tokuさんがそれぞれソロアルバムを制作するというのが非常に興味深いなと思いました。
MARiA:ありがとうございます。もともと私自身ソロ活動もしてみたいなとずっと思っていたんですけど、せっかくならtokuも同時にソロ活動を進めるというのもちょっと面白いなと思って。しかも、GARNiDELiAが活動を始めてから10年経って、また新しいスタートを切っていく今のタイミングはtokuにとっても私にとってもすごく大きなターニングポイントになると思うので、ここであえてソロ活動をして自分たちの引き出しを増やして、それをまたGARNiDELiAに持ち帰ることをやってみたいよねというところから、ここでお互いソロ活動をやることになりました。
――なるほど。通常は節目のタイミングって、ユニットとして何か大きなことを仕掛けることが多いのかなと勝手に思っていたので、より驚いたんです。でも、そういう時期に個人に特化した活動をすることは、その後のユニット活動につながっていくでしょうし。
MARiA:必ずつながると思います。これまでGARNiDELiAは作家のtokuと、ボーカルであり歌詞を書く私の2人だけでずっと続けてきたので、ここで新しい出会いを迎えることは歌を歌う人間として、すごく大きな意味があると思うんです。今回の私の『うたものがたり』に関しては、自分が10年間ずっと歌詞を書き続けてきて、自分の言葉でいろんなことを表現したものを、あえて全部違う作家さんに作詞をお願いすることで、私の中からは出てこなかった表現の仕方や言葉のチョイスとの出会いの作品にしたかったんです。
――そう考えると、今回のソロアルバムはかなり挑戦的な1枚ですよね。
MARiA:そうなんですよ。でも、それがすごく楽しくて。曲が届くたびにすごくワクワクしたし、この作品を作っている時間がとにかく幸せだったし、いろんなアーティストの方との気持ちの触れ合いができたし。自分にとってこのアルバムを作れたことは、本当にボーカリストとしてのターニングポイントになったんじゃないかなと思っているんです。
――本当にそうだと、実際にアルバムを聴いて思いました。ボーカリストとしてのMARiAさんの印象も、GARNiDELiAとは異なるタイプの楽曲によってここまで変わるんだという驚きがたくさん詰まった1枚ですし。
MARiA:自分でもびっくりするぐらい声の印象が異なる曲があって、自分で聴いても面白い作品になったなと思う、自信の1枚になりましたね。
――改めて順を追ってお聞きしますが、ソロ活動が決まり、そこから本間昭光さんにサウンドプロデュースをオファーしたんですか?
MARiA:そうです。本間さんは大変に有名な音楽プロデュサーですし、数々のアーティストと一緒に作品を作られてきた方ですし、ご一緒できたらいいなーと以前から思ってはいました。実際本間さんとお話させていただいたときに、優しく包み込んでくださるような方だったので、すごいなぁー、この物腰の柔らかさーとかひとりで勝手に思ってました。
――そこから、アーティストさんに楽曲をオーダーすることになるわけですが、この人選というのは?
MARiA:じんくんと(草野)華余子さんはもともと仲が良かったし、自分がソロをやるときには必ず2人にはお願いしたかったので、お声がけしたら「やりたい!」と言ってくれたんです。ほかの方々に関しては、本間さんと「どんな曲が欲しいか?どんな曲にするか?」とか、いろいろ話して、じゃあこういう人がいいんじゃないかと提案していただいて、そこからオファーしていきました。
▲『うたものがたり』クロスフェードデモ
――オファーする際、テーマやお題みたいなものは投げかけました?
MARiA:大まかには「MARiAにどんな歌を歌わせたいですか?」「あなただったらMARiAにどんな曲を書きますか?」という自由度の高いオファーでした。私自身、自分の歌を軸にしたときにどんな曲が来るんだろう?ということを自分の中で楽しみにしていた部分でもあったので。その上で、あまり偏りが出過ぎてもよくないから「ちょっと明るめの感じだとうれしいな」とか、そういうニュアンスは添えました。私としてはオファーさせていただいた作家さんとのコラボレ-ションを思いっきり楽しみたくて!(笑)。
――通常は皆さん、細かく指示を出しますものね。
MARiA:私も提供する側でもあるので、「キーはこんな感じで、ロックテイストで」とか細かいオファーも受けますし、歌詞に関しても「こういうキーワードを入れて」みたいな要望も多いんですけど、だからこそ私はオファーさせていただく今回は「書きたいものを書いてもらっていいですか?」という投げかけから、どういうものができるんだろうと楽しみだったんです。
――いや、それはめちゃめちゃ楽しそうですよね。
MARiA:本当にそうなんです! 受け取る側もすごく楽しいんですけど、作ってくださっている方々も「楽しかった!」「ワクワクした!」と言ってくれていて。キーワード縛りとかなくて、自由なことが楽曲作りなんじゃないかなぁと思うんですよね。自由度が高いぶん、みんな悩んじゃうかなと思ったけど、わりとみんな最初のほうから悩まず定まっていたみたいです。
――では、最初に数曲届いた時点で手応えは大きかった?
MARiA:はい。今回、アルバム2曲目の「憐哀感情」からレコーディングがスタートしたんですけど、この曲が最初のほうに届いたときは「こんなMARiA、たぶん誰も知らないよね」と自分でも思ったくらいでしたから。「憐哀感情」は今まで触れたことのないジャンルの曲で、この『うたものがたり』を作らなかったら絶対に出会わなかった曲だと思うんです。だから、この曲に出会えたことは自分の中でもすごく大きくて。今回は歌い方に関して、いつものMARiA節を封印してレコーディングに臨んだんですね。「どうしたらMARiA節が取れつつもMARiAの歌になるんだろう?」という答えも、この「憐哀感情」を1曲目に歌ったことでヒントがみつけられた気がしていて。
――そのヒントというのは?
MARiA:本間さんのディレクションの中で、「歌わなくていい」という言葉があったんです。GARNiDELiAの曲ではかなり歌い上げていて、そのスタイルが10年間で染み付いているから、自分の中ではどれが自分のクセなのかもわからないくらいになっていて。でも、本間さんの「歌わなくていい」という言葉を聞いて、この「憐哀感情」に関しては歌うというよりも語りみたいな表現の仕方をしようと思ったんです。それによって、歌うというよりも言葉を置いていくみたいな、自然に言葉がポロポロ出てくるみたいな言霊の表現を、自分の中で見つけたんですよ。それこそ、ひとり舞台で演じているようなイメージですね。それこそ、『うたものがたり』というアルバムタイトルも「憐哀感情」から引っ張られたところがあって。私が主役のひとり舞台で、「暗い舞台の上でスポットライトをすんと浴びながら、ぽつりぽつりと喋る自分」みたいな絵が浮かんだので、そのイメージを抱えてレコーディングしていったんです。
――1曲目からハードルが高かったものの、すべてが集約されていたわけですね。
MARiA:だから、最初はどう歌ったらハマるんだろうと、かなり悩みましたよ。それもあって、本間さんの「全部取り払っていい。何もいらない。歌おうとしなくて、本当に喋る感じでいいから」という言葉がすごく大きかったんです。
――僕もこのアルバムを聴いたときに独白感というか、ひとりで何かを語っているんだけど、でも誰かに届けたいという絵が見えたので、今のお話を聞いてすごく腑に落ちました。
MARiA:ああ、うれしい! 通じてますね。
――ほかのアーティストに書いてもらった、ご自身の中から出てきていない言葉だからこそ、その歌詞の主人公の思いをどう伝えるかに徹していると。
MARiA:そこは今回のアルバムに関して、かなり意識しました。
――しかも、それぞれの曲に異なる主人公がいるわけですし。
MARiA:GARNiDELiAに関しては「全部私!」って感じですし(笑)、「私が伝えたいこと、伝えたい言葉はこれだから、今これを歌っている」というのが絶対にいいと思うんですけど、「そうじゃない私ってどうなるんだろう?」ってところが今回はすごく面白くて。でも、これも全部私なわけで、私の中にいた“隠れた私”が引き出されんだと思うんです。そういう“隠れた私”はまだまだ眠っていると思うんだけど、自分でも気づいていなかった自分と出会えたのはすごく不思議な感覚でしたね。
――それを自分のスタイルがある程度固まったタイミングにやるのがすごいですよね。
MARiA:なかなかやらないですよね(笑)。でも、10年やってきたからこそ「どう表現したらいいんだろう? こんな声の出し方をやってみようかな?」と対応できたところもあるし。この10年の中でたくさん曲を作ってきて、いろんな曲を歌ってきて、知らない間に身に付いていたものがちゃんとあったんだなということがすごく感じられました。あとは、年齢も大きいと思うんですよ。きっと、もっと若い頃だったら「憐哀感情」は歌えなかったと思います(笑)。歌えたとしても、カッコよくないと思うし、自分で納得できなかったと思いますね。プライベートでも仕事でもいろんなことを経験してきて、いろんな人と出会ってきた私だから、表現できた歌じゃないかな。だから、これを今やることに意味があったんだなと思います。
リリース情報
『うたものがたり』
2021/05/26 RELEASE<初回限定盤>CD+Blu-ray
PCCA-06037 4,400円(tax in.)
<通常盤>CD Only
PCCA-06036 3,300円(tax in.)
1.コンコース
2.憐哀感情
3.ガラスの鐘
4.おろかものがたり
5.マチルダ
6.キスをしてみようか
7.あー今日もまた
8.Brand new me
9.光
10.ハルガレ
「うたものがたり」特設サイト
https://www.garnidelia.com/special/maria/
ツアー情報
MARiA Live 2021「うたものがたり」
2021年6月5日(土)東京・チームスマイル豊洲PIT
OPEN 16:00 / START 17:00
全席指定席:7,800円(tax in.)※1Drink別
関連リンク
Interview:西廣智一
Photo:Masanori Naruse
このアルバムを作ったことで
人間としてもかなり大きくなったんじゃないかな
――「コンコース」にしても、こういうシチュエーションを20代前半までに経験した人も多いんじゃないかと思うけど、さらに大人になった今だからこそ表現できるものもあるわけですしね。
MARiA:きっと若い頃だったらリアルすぎたり、近すぎて見えないものも絶対にあると思うんです。その事象を若干俯瞰で見ることができる立ち位置になれているから、包み込むような表現を出せたんじゃないかな。だから、今そのまっただ中にいる人たちにもすごく刺さると思うし、そこからちょっと大人になった人たちも「あの頃、こんなことがあったよね」という聴き方もできると思っています。そういう意味では私、このアルバムを作ったことで人間としてもかなり大きくなったんじゃないかな(笑)。
▲「コンコース」
――なるほど(笑)。楽曲に関してもうひとつ、メロディやアレンジに関して意外だったのが、マイナーキーの楽曲が多かったところでして。MARiAさんのイメージをメロディにすると、意外とこういう切ない感じなんでしょうかね?
MARiA:切なげなんですかね?(笑) でも、私自身の中身というよりは、声が大きいのかもしれないですね。MARiAの声がマイナーキーにハマるのかなあ。
――実際、めちゃめちゃ映えますものね。だからこそ、後半から終盤にかけて希望の光が刺すような構成が気持ちよく響きますし。でも、冷静に考えて「憐哀感情」みたいな曲と、TAKUYAさんが提供した「キスをしてみようか」のような奇想天外な曲が同じ作品の中で並ぶことって……。
MARiA:なかなかないですよ(笑)。
――かと思えば、草野華余子節全開の「おろかものがたり」があり、「光」や「ハルガレ」のようなポジティブな楽曲もある。一見バラバラなようでも、通して聴くとちゃんと1本芯が感じられる作りなんですよね。
MARiA:私の歌がつないでいるんでしょうね……そうだといいなと思っています(笑)。でも、個性的なアーティストたちが作ったすべてが異なるタイプの10曲だけど、みんながMARiAの声をめざして作ってくれているから、1本芯の通ったものになったんだろうなと思っていて。
――それぞれの曲でメロディや歌詞にあわせて、声の表情というのも少しずつ意識して変えている部分もあるかと思います。それこそ歌詞に関しては、男性アーティストと女性アーティストが書く歌詞によって描かれる主人公のイメージも変わってくでしょうし、そこが歌に影響を及ぼすこともあるんじゃないでしょうか?
MARiA:そうなんですよね。今回は男性の作詞家さんが多くて、女性は華余子さんと宇宙まおさんだけかな。いつもは自分が書いているわけじゃないですか。だから、女性目線だったり女の子が描く強さをずっと歌い続けてきたんだけど、それこそ「コンコース」は男性目線の恋愛だったりするし、そこは本当に全然違うなと思って。山下(穂尊)さんは「憐哀感情」ですごく文学的な表現を描いているし、やっぱり自分からは絶対に出てこない言葉遣いや言葉選びもたくさんあったから興味深かったですね。
――そういう男性目線の歌詞って、自分でいざ書こうと思っても……。
MARiA:ああ、書けないかも。だってわかんないもん、男の人の気持ち(笑)。だから「コンコース」を歌っていても、「ああ、男の人ってこういうふうに思ったりするんだ」という発見がありました。
――6月5日にはソロライブが控えていますが、このアルバムをステージで表現するのかも気になります。
MARiA:それこそ“うたものがたり”をやろうと思っていまして。音楽劇をお見せしたいんです。なので、今回はいつも私がGARNiDELiAで見せているライブとはちょっと違った形で、MARiAのソロ活動だからこそできる、ライブステージ作りをしたいなと思っています。
――これだけコンセプチュアルな作品なんだから、ライブもこだわりたいですものね。
MARiA:やりたくなっちゃうんですよ、やっぱり。1曲1曲がすごく濃いので、10章のストーリーを演じるつもりで臨みたいですね。
――それでこそ、ユニットとは異なるソロの意味があると思いますし。でも、これらの歌を吸収したMARiAさんから、次にどういう言葉が出てくるのかも楽しみです。
MARiA:それが自分でもめちゃくちゃ楽しみなんです。そもそも歌自体に影響を受けましたし、それこそ声の出し方にもすごく細かく向き合いましたし、10年自然にやってきたことに対して「どうやって声を出しているんだ?」と向き合う時間が増えたし。このあとに作るGARNiDELiAの作品では絶対変化すると思うので、早く作りたいですね(笑)。頑張ります!
――GARNiDELiAはもちろんですが、ソロ活動は今後どうしていきますか?
MARiA:始めたからには続けていきたいですし、実はもう次にやりたいことを話していたりもするんです(笑)。そもそもお互いソロができるユニットってめちゃくちゃ面白いじゃないですか。GARNiDELiAでは絶対にできないことをソロではやりたいので、今まで観たことない私をどんどん見せていくことになると思います(笑)。それがみんなにとっては毎回新鮮だと思うし、自分自身も新鮮なので、そのワクワクがずっと止まらないようなサプライズをずっと続けていきたいですね。
リリース情報
『うたものがたり』
2021/05/26 RELEASE<初回限定盤>CD+Blu-ray
PCCA-06037 4,400円(tax in.)
<通常盤>CD Only
PCCA-06036 3,300円(tax in.)
1.コンコース
2.憐哀感情
3.ガラスの鐘
4.おろかものがたり
5.マチルダ
6.キスをしてみようか
7.あー今日もまた
8.Brand new me
9.光
10.ハルガレ
「うたものがたり」特設サイト
https://www.garnidelia.com/special/maria/
ツアー情報
MARiA Live 2021「うたものがたり」
2021年6月5日(土)東京・チームスマイル豊洲PIT
OPEN 16:00 / START 17:00
全席指定席:7,800円(tax in.)※1Drink別
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Interview:西廣智一
Photo:Masanori Naruse
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