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<インタビュー>シドが「Star Forest」に込めた再会の願い、待ち合わせは夜空の下で
1年前、実現することができなかった君との待ち合わせ、その夢を叶えるときがついにきた――。
2020年5月、コロナの影響で延期となってしまったスペシャル・ライブ【SID LIVE 2020 -Star Forest-】、その振替公演を5月15日、16日と2日間にわたって山梨・河口湖ステラシアターで開催することが決定したシド。そんな彼らは、このライブに向けて制作したテーマ・ソング「Star Forest」を、ライブ開催初日となる5月15日に完全生産限定盤(CD +アクリルキーホルダー)としてリリースする。スペシャル・ライブを直前に控え、新曲「Star Forest」に込めた思い、ライブへの意気込みをメンバー4人に語ってもらった。
星が綺麗に見えるシチュエーション
――「Star Forest」は同タイトルの公演のテーマ・ソングとして制作したものだそうですね。
マオ:はい。だから1年前なんですよ、これをレコーディングしたのは。新曲って大体は「最新の僕らをお届けします」というのがミュージシャンとして当たり前だと思うんですけど、今回に限っては「1年前の僕らをお届けします」という作品で。1年前の僕らが詰まってるのが逆にレアかなと。
――1年前、ライブに向けて用意していたものを、今回もう一度作り直そうという気持ちには。
マオ:ならなかったですね。5年ぐらい間が空いてたらなってたかもしれないけど。
――なるほど。ライブのテーマ・ソングを作ろうというアイデアはどこから出てきたんですか?
マオ:1年前のことなのではっきりとは憶えてないですけど、このライブをやろうと決めたときに「そういえば最近、新曲出してないよね」というところからの流れで出てきたのかな?
明希:うん。たぶん。
ゆうや:それで「新曲があってもいいよね」って。
マオ:「それならライブに向けて特別なもの。テーマ・ソングとかあったら面白いんじゃない?」ってなったのか。そのときは「それを会場限定で出したら面白いよね」という発想だったんです。結局それは叶わなかったんですけど。
――だから今作は完全生産限定盤になってるんですね。曲はいつものようにコンポーザー3人が各々書いてきて、それをみんなで聴いて、コンペ形式で選ぶというシドスタイルのなかで決まったものですか?
ゆうや:そうです。
Shinji:今回は「Star Forest」というタイトルが先に決まっていて、このタイトルで各々曲を作りましょうという始まりだった気がする。だから、山梨の星が綺麗に見える会場のシチュエーションをイメージしながら作った気がしますね。パソコンのデスクトップにその景色を入れて……というのはウソ。入れてません!
――嘘つき(笑)。
Shinji:はははっ。でも、星がすっごく綺麗に映ってる会場の写真を見たのは本当。
――その景色を思い浮かべながら曲ができたときの手応えはどうだったんですか?
Shinji:憶えてないなぁ。今回久々に聴き直してみたんですけど。それで「この曲、ギター・ソロどうしてたっけ?」と思ってたら、ギター・ソロがないでやんの(笑)。「でも、Dメロ入れてたんだ」と。それぐらい。
――当時の記憶が曖昧だというのは了解しました(微笑)。では、そもそもこの“Star Forest”というライブタイトルは誰がつけたものだったんですか?
ゆうや:タイトルは、このライブ自体が半野外になるからということで、みんなで案をいっぱい出し合って。むちゃくちゃ候補があったんですね。そのなかで最終的にマオ君が「これがいいんじゃない?」と言って、“Star Forest”に決まった感じでしたね。そこから、このタイトルで曲を作ろうという流れです。
――各々、当時作って提出した曲について、記憶はありますか?
ゆうや:仮タイトルだけははっきりと憶えてるんですよ。「スタフォレゆ」!
――ははは。まんまですね。
ゆうや:あ、そうだ! 実はタイトル以外にも、バラード調で星がキラキラしていて、あまり声を張り上げない感じの曲というのが最初からあったんだ。だから、僕も優しいテイストの曲を持っていきましたね。
明希:僕は記憶にないです。
ゆうや:お、裁判みたいになってきたぞ!
Shinji:明希だけはたしかオシャレな曲を持ってきてたんですよ。
――証人からこんな発言が出ましたが。
明希:オシャレな曲を持っていって落ちてるって、恥ずかしいなぁ。
Shinji:でも、最先端アレンジだったんだよね。
明希:よく考えたらこうしてライブをテーマにして、タイトルまで決め込んで、イメージがあるなかで曲を書くケースってなかなかないので。制作の入り口としてはレアですよね。
演者はこの4人、そこはずっと変わらない
――そうして3人が作った曲の中からShinjiさんの曲が選ばれて。この曲を聴いたときの印象はどうでしたか?
ゆうや:ゆったりした曲だけど、らしさが出てるなと思ったかな。
明希:ギター・ソロがなくて、歌に振りきった楽曲だなと感じましたね。
マオ:ライブ映えしそうで、いい曲だなと。
――この曲は最初からギター・ソロは入れてなかったんですか?
Shinji:そうですね。曲に導かれなかったら作らないという考え方なので。ゆったりした曲にギター・ソロまで入れると、分数も長くなるんですよ。昔は長い曲、(X JAPANの)「ART OF LIFE」とか大好きだったんですけど、最近はなるべく短くしたいなというのがあって。それで、ギター・ソロよりもDメロが欲しいと思ったのかもしれないですね。
――アコースティック・ギターは最初から入れてたんですか?
Shinji:はい。このライブに対して、1年前はアコースティッキーなイメージもあったので、その雰囲気を汲んで、曲を作るときからアコースティッキーなものを目指して作ったんです。
――アコギ以外にサウンドでこだわった部分は?
Shinji:ドラムがロールみたいな感じになってるところですかね。最初から僕の頭の中にあったんです、森とか山のなかで優しいロールが聴こえてくる雰囲気が。それでギターは、ルートは一緒なんだけど上だけ変わっていく。そういう森っぽい素敵なコード進行というのが僕のストックのなかにあったので、それをイントロに活用して。そこからギターがどんどん動くというよりも、ベースが動いていく雰囲気の曲にしたいというのはありました。
――レコーディングはどうでしたか?
ゆうや:Shinjiが言った通り、頭のAメロのところはボレロ調でロールを入れて。イメージは森の音楽隊じゃないですけど。
Shinji:ああー、それだね。
ゆうや:そこからサビに入ると、夜空で星がキラキラしていて、どこか懐かしい匂いがしてくる。そういう感じでドラムは印象重視で構築していって、余計なものは極力入れないようにしました。今回は今までのドラムの音と比べると、ずっと鳴ってるスネアの音がいつもよりも柔らかくてぷっくりしてるような、丸い印象で広がっていく感じがあると思うんだけど。これが硬くてトガった感じだと、音もすごく短くなって、優しさが足りない感じになるんですね。ネイチャーに包まれながらこのライブをやっている感覚をすごく意識して、それを音に落とし込んでいったらこういうものになりました。だから、バスドラもいつもより広めの音になってるはずです。
――音の細部までライブを意識した作りになってるんですね。
ゆうや:そうですね。聴いても分からない人には分からないと思うんですけど、そこまで(音を)設定することで、僕がこの曲の世界に入れるんですよ。僕はそういうのがすごく大事で。設定が欲しい、そこを大事にするタイプなんですよ。
――先にライブが決まっていたからこそ、そういう気質がより発揮されたんじゃないですいか?
ゆうや:だと思います。
――明希さんはレコーディング時、どんなものを大事にするタイプですか?
明希:この曲はどういう立ち位置にベースがいたらいいのかってことですかね。だから、ゆうやの言った設定とそこは同じだと思います。
――プレーヤーとしてのテクニックはもちろんですけど、それに加え、メンバー同士、各々が作る曲のあり方を尊重する気持ちが強くあるからこそ、シドはこれだけバリエーション豊かな楽曲を提供できるんだなと思いました。
明希:演者はこの4人、そこはずっと変わらないわけじゃないですか。そういう意味では、各々が曲に入り込んでというのを大事にしてるのかなと、いま言われて思いました。なのでこの「Star Forest」も、自分は曲を作ったShinjiがデモで入れてたものと大幅に変えたところはなくて。Shinjiがこの曲に抱いていたイメージに応えられたらなという思いで、ベースは入れていきましたね。
――1番と2番のブリッジ、アウトロでベースがぐいぐい歌うパートのフレーズもデモ通りなんですか?
明希:細かいところは自分が考えましたけど、大まかな雰囲気はすでにデモにあったと思います。メロディで繋ぐベース・フレーズはもともと好きなので、スラーで流れていくような雰囲気を作っていきました。
――アグレッシブなだけではない、明希さんのベースのプレー・スタイルがよく活きた曲にもなりましたよね。
明希:ありがとうございます。あと、この頃からベースはプレべ(フェンダーのプレシジョンベース)にハマり出していて。自分のモデルはESPですけど、レコーディングでは色んなベースを使うんです。そのプレべの雰囲気も(曲に)ハマったなと思います。
1年越しの待ち合わせ
――この曲におけるShinjiさんのギターの立ち位置は、全体を通して控え目ですけど。
Shinji:この曲のギターのテーマを一言で表すと“脇役に徹する”ですね。ウチってハードロックから歌謡まで、色々な曲があるんですけど、この曲をハードロックな心意気で弾くと、ギターはミスマッチなんですよ。この曲のギターの役目はコード感を出すことなので、自分はストロークに徹して、ギターよりもベースに動いてもらうという作りになってます。
――そのなかで、2番からヴァイオリンが独奏でカウンター・メロディを入れてくるアレンジもよかったです。
Shinji:壮大な感じではなく、1本で入ってくるところが曲にマッチしてますよね。
――歌詞のテーマは?
マオ:テーマは“5月にファンのみんなと待ち合わせ”。その場所は星が見えるところで、星がキラキラしていて、というイメージですね。そしてもう一つ、裏テーマがあって。それは、ウチの曲に「星の都」という曲があるんですけど。あれの“その後”的なものもちょっとだけ入れてます。
――そこで「星の都」を思いついたのは“Star”繋がりからですか?
マオ:そうですね。そこから、あれと繋がってる部分がちょっと出てきても面白いかなと。アニメとかでふと昔のキャラが出てきたりすると「あれ?」ってなるじゃないですか? シドを昔から知ってる人にはそういう楽しみ方をしてもらえる歌詞にもしたいなと思って。
星の都
――それで、歌詞に「星の都」で歌っている“星のカケラ”を歌い込んでみたり。
マオ:そうです。長いことシドのファンをしてくれてる人たちは「あれ?」と思うようなひっかかりを盛り込んだ歌詞にもなってます。“池町川”も、(マオの地元でもある)久留米までライブを観に来てる子たちはたぶん知ってる場所なんですよ。そうじゃない子は「あれ?」ってなって、ネットで調べて知って、とか。そういう謎解き的な感じでも楽しんでもらえるだろうし。あと、久留米にちょっとだけ戻って、またそこから東京に戻ってとか。時系列的な見方をしても楽しめる内容になってます。
――振替公演が1年前に予定していたのと同じ5月にできて本当によかったですよね。
マオ:ねっ。そこがズレたら危なかった。歌詞のど頭に“五月”を入れちゃってますからね。それで、また同じ5月にできることになったから、1年越しの待ち合わせみたいな感じがして、僕はすごくいいなと思ってます。
――この曲のミュージック・ビデオは作らないんですか?
マオ:はい。これはライブのテーマ・ソングだから。ライブを観に来た人が、ライブを観て、それぞれのMVを持って帰って、頭のなかで再生する。それでいいんじゃないかと。
――おぉー。そんな狙いがあったとは。
マオ:いや。いまたまたま思いついたことを言っただけで(笑)。撮ってないだけです。
――ジャケットのアートワークにはどんな意味が込められてるんですか?
マオ:これはデザイナーさんが作ってくれたものなんですけど、タイトルの“Star Forest”が星座になっていて。これ、よーく見たら、キランってなってる星が4つ散りばめてあるんですよ。
――ああー。本当だ。
マオ:こういうところも謎解き感覚で楽しんでもらえる仕掛けが施されてます。
僕らもすっごい飢えてます
――では、ライブのほうにはどんな仕掛けが?
マオ:いまちょうどセットリストの打ち合わせをしてたんですけど、こんな時期だし、やれたらなんでもいいなって話をしてます。もちろん中身はしっかり考えてます。でも、やれた時点で“勝ち”かな。いまは本当にそれに尽きますよね。どういうライブをしようというよりも。
――1年越しに待ち合わせの場所で会う約束が叶って。シドとファンが直に会うライブは1年半ぶりですよ?
マオ:ねっ。活動休止してるわけでもないのに。
――内容は2日間、違うものになりそうですか?
マオ:両日来る人も楽しめるものになってます。
――ライブを目前にして、いまはどんな心境ですか?
ゆうや:昨日かな、車に乗ってるときにそのことを想像してみたんですけど。ファンが僕らを生で観たい気持ちはすごく分かるけど、僕らもしばらくファンの前でライブをやってないんですよ。僕らもすっごい飢えてます、お客さんに。声が出せなくても、その目線だけでも欲しいんですよね。僕らって、観られてなんぼの職業なんですよ。それがやっとできるので、僕は1曲目が一番コワいです。
――思わず泣いちゃいそうで?
ゆうや:うん。お客さんも同じだと思うんです。“ジャーン”って1曲目が鳴ったとき。こっちはリハをやってるから、シドの音は分かってるんだけど。それを出したときに(配信ライブとは違って)お客さんの顔が見えた瞬間が一番ヤバいなと思ってるんだけど、それが一番見たいの。ジェットコースターのような気分ですよ。めっちゃコワいのは分かってる、けど乗りたい、みたいなスリルに近い感覚がありますね。「音を出した瞬間、お客さんは“だー”って泣いちゃうのかな?」「その顔を見たら、こっちまでもらい泣きしちゃうな」という妄想がすでに脳内で始まってます。こっちはこっちで、お客さんもお客さんで、ここに来るまで、いろんな感情で溢れてると思うんですよ。だから、そのぶつけ合いだと思いますね。まるで遠距離恋愛してた人たちが久々に会ったときのように。それでいいんですよ、今回に関しては。
明希:僕たちにとってもファンの方にとっても“当たり前”だったライブを開催すること自体、こんなにも難しくなってしまった状況のなか、こっちはライブをやりたい、ファンの方はライブに行きたい。その思いが溢れてしまっているなかでのライブなので、本当にどうなるのか想像がつかないというのが、いまの正直な気持ちです。制約はあれど、思いっきり楽しんで欲しいし、僕らも思いっきり楽しみたいし。いいライブを観せてあげたいですね。
――明希さんは泣いちゃいそうですか?
明希:どうかな? 泣かないようにしないと。
Shinji:僕は泣きそうだな。大勢のお客さんの前でライブをやりたいという、少年時代の願望からいまの自分は始まってるので、まさかそんな自分が無観客のライブハウスで配信ライブをやるなんて想像もしていなかったですからね。こうしてお客さんを目の前にしてやれることを久しぶりに味わったとき、自分は泣くのか泣かないのか。それぐらいの感情、意気込みで演奏したいですね。やっぱりライブありきのバンドなので、シドは。
――このライブのために書いた「Star Forest」を1年越しの約束の場所で披露できるのも。
Shinji:楽しみですね。景色にマッチしてくれるといいんだけど。
――そのためにも雨は降らないで欲しいですよね。
Shinji:そこはなんとも言えないです。これまでシドの野外は数々の雨に降られてるので。
――いまではそれも込みで、シドの野外ライブですからね。それでは最後に、マオさんからライブに向けてファンの方々にメッセージをお願いします。
マオ:単純にやれることがすごく嬉しいなという気持ちでいっぱいです。シドのファンは当日、会場に集まってくれる子たちだけではなく、全国各地、世界中の色んなところにいる。その子たちの声も、いまはSNSなどを通して日々届いてます。そのなかで、このライブに集まってくれる子たちはほんの一部。僕がいつもライブのときに思うのは、MCでもよく言うんだけど、「今日ここに来れなかった子たちの分まで楽しもうね」ということ。その気持ちが、今回に関しては自分のなかですごく強いです。ここに来れた子だけではなく、来たくても来れなかった子たち、泣く泣く諦めた子たちの分までしっかり楽しまなきゃいけないライブだと思います、今回は。セットリストを考えるときも、それがずっと頭の中でちらつくんです。だから、来れない子たちがセットリストを見ただけで、こっちと一緒にワクワクできるようなもの。そんなライブをやりたいなと思ってます。だから、当日参加してくれる子だけではなく、シドファンみんなで作り上げるライブにしたいです。
Star Forest
2021/05/15 RELEASE
KSCL-3298/9 ¥ 2,000(税込)
Disc01
- 01.Star Forest
- 02.Star Forest -Instrumental-
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