Billboard JAPAN


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<インタビュー>今のWANIMAだからこそ“あなた”に届けられる歌



インタビュー

 WANIMAから6thシングル『Chilly Chili Sauce』が到着した。こちらはバンド初の3部作。昨年9月のミニアルバム『Cheddar Flavor』、そして次作をもって完結する3人のメッセージは、会いたくても会えないコロナ禍の特別なお楽しみとなるだろう。また、同時期に配信リリースされるのは、福岡ソフトバンクホークスが立ち上げた『ファイト!九州』プロジェクトのテーマとなる「旅立ちの前に」。ネガをポジに変えていくエネルギーこそ変わらないが、より丁寧に、じっくりと練られていった新曲群には、変わりつつある今のバンドが映し出されている。3人に話を聞いた。

少しでも聴いてる人たちに寄り添えるように

――まずはこの1年を振り返っていきます。ツアーが途中から中止となり、そこからどんなふうに気持ちを切り替えていったんでしょうか。

KENTA:【COMINATCHA!! TOUR】は半分以上が中止になり、予定していたものが一旦全部白紙になった状態で、そこから全部新しく自分たちで組み立てていきました。ほんと一日一日、一週間、一か月と、自分たちで考えながら進めていったから、どこを切り取ってもすぐ思い出せる。正解か不正解かはわかりませんが全て答えられます。毎日何が良いのか、何がやりたいのかを考えていました。

――ポカンとして立ち止まったり、どうしていいかわからなくなったり、そういう空白のニュアンスはなく?

KENTA:なかったです。一個のライブに対してすごく慎重に準備していたし、来てくれるお客さんたちも安くないチケット代を払って、その日を楽しみにして来てくれる。そういう日がなくなったわけじゃないですか。その大きさは知っていたので。だから中止になったのは仕方ないけど、世の中が変わっていく中でなんとか音楽を伝えられないか、伝え方は変わってもなんとか繋げていきたいという思いでした。もともと【COMINATCHA!! TOUR】のファイナルはZOZOマリンスタジアムでやる予定だったんですけど、そこでは無観客の配信ライブをやって、その日に9曲入りのミニアルバムをサプライズで発売したり。



WANIMA 「JOY」・「春を待って」 from 『COMINATCHA!! TOUR FINAL』 at ZOZO MARINE STADIUM


――はい。びっくりしました。

KENTA:もともとはフルアルバムを発表しようと思っていました。『COMINATCHA!!』でできなかったこと、伝えきれなかったことを全部詰め込んだようなアルバムを。でも、この状態になって、長いスパンでWANIMAを聴いてくれるお客さんたちと楽しみを少しずつ分け合っていけるように、今回の3部作を考えて。もともと出そうと思ってた曲もあれば、追加で創った曲もあって。で、3部作にするならしっかり作品の繋がりが見えるように。『Cheddar Flavor』の最後が「Milk」で、そのあとに今回『Chilly Chili Sauce』の4曲がある。ライブをイメージできるような流れも考えてました。

KO-SHIN:こういうときだからこそ僕らの音楽を通して、日々辛い思いをしてる人たちに、より寄り添えるように。そう思ったら止まる選択肢はなかった。今僕らにできることをみんなで考えて、その中で配信だったりインスタライブだったり、初めてのこともチャレンジしようって感じでした。

KENTA:例えば飲食もそうですけど、お店がやれないならデリバリーをやったり、みんな何とか戦ってるじゃないですか。人をディスったり弱音を吐いたりするのは簡単ですけど、心が折れそうなときに<誰かに歌うな 自分に歌え>というテーマを唱えながらまず『Cheddar Flavor』を創って。今聴き直したら「もうちょい力抜いてもいいんやない?」と思うくらい力が入ってるんですよ。でも、自分に言い聞かせるためにもそれが必要で。そこから今の『Chilly Chili Sauce』は、少しでも聴いてる人たちに寄り添えるように。全曲を通して温かみだったり、そういうのはプラスされてると思います。



WANIMA「LIFE」・「Cheddar Flavor」OFFICIAL MUSIC VIDEO


――えぇ。今回はじっくり聴かせる曲が多い。早口言葉みたいな曲とか、きわどいエロソングは必要なかった?

KENTA:そうですね。まぁ「枯れない薔薇」とかはエロ格好いい要素も入ってますけど。それよりも...そうですね。『Chilly Chili Sauce』の4曲もほんと自然な流れで。自分たちに正直に歌うということと、少しでも寄り添いたいと考えていたら、自然とそういうふうにはならなかったです。

――しかも「ネガウコト」で終わるところが、今は大事だったんだろうなと思います。

KENTA:はい。「ネガウコト」は今WANIMAがいるところから、WANIMAが願うことを歌ってる。歌詞にもあるように、聴いてる人の周りの空気だけでも変わったらいいなって。僕たちが傍に行ってどうこうすることはできなくても、歌が鳴ってるときぐらいはいい方向に向かえる、いい空間にいられたらいいなぁって。これは3人にとってすごく大事な曲ですね。このメロディができたときから「大事にしたい曲になる」とわかったので。

FUJI:今までWANIMAがやってたロックバラードとはちょっと違うものになる予感もあったし、しっかり起承転結のある曲になるんだろうなって、初めて聴かされたときから思ってました。そこからほんとに何パターンも試していって、自分たちが納得するところに行き着いた感じです。


自分たちが出してるバンドサウンドをもう一度信じようと

――漠然とした質問ですけど、コロナがあってWANIMAにとって良かったこと、何かあると思いますか。

KENTA:あー...でもZOZOマリンで無観客ライブをやったときも、お客さんの大切さというか、お客さんの存在の大きさ、それを知ることができましたね。改めて僕たちはロックバンドなんだなとすごく思ったし、やっぱり一人じゃ何もできない。音楽でしか繋がることができない。だったら音楽で返していくしかないというのはすごく思えた年でしたね。

KO-SHIN:僕も、被ってしまうんですけど、改めて、ライブに来てくれる人の大切さに気づきました。僕らは3人だけでは成り立たないバンドなんだなって。

FUJI:あと、色々なことにチャレンジできた年でもありました。この状況だからこそ、さらに自分たちで何ができるのか探したし、それに取り組む時間もあったし、そういうチャレンジができたことは、ひとつ良かったなと思いますね。もうひとつは、自分たちの仕事場はライブステージの上だなと強く思えたことで。仕事場に行けないという感覚はすごく強かったです。

――私が思う、コロナによる良かった変化は、今こうして話してるような誠実な3人の顔が、そのまま音楽に出てくるようになったことで。

KENTA:誠実?

――もちろん今までが不誠実だったわけじゃないですよ。ただ、とにかく笑顔で元気なイメージ。外に出ていくときはハイテンションで、みたいな前提が要らなくなった気がします。

KENTA:あぁ、でも言われてみればそう。僕たちの中ではそうですね。今回の3部作では、いつ振り返っても「あぁ、あのとき出してた音は間違いなかったね」と言える土台を作りたかったので。自分たちから出るもの、責任を持って残したかったんですよ。自分たちが出してるバンドサウンドをもう一度信じようと思いました。

――今まで、大きな祭りを「開催しまーす!」と言えば、みんな一斉にドカンと盛り上がっていた。でも今のWANIMAは「この歌をあなたに直接手渡します」と言っているようで、リアリティや体温の伝わり方が違うなと思います。

KENTA:はい。こういうインタビューだと「お前らライブではあんななのに、そんな感じなんや」とわかってもらえると思うんです。「もっと普段からハチャメチャにやれよ」みたいに思われるかもしれないですけど。でも、わりとみんな心配性で、普段はマイナス思考なところがあって、それゆえにしっかり準備をしないとダメな3人でもあるので。そこを一個一個積み重ねてきたことが、音に表れてにじむと思うので。そこに僕らの温度を感じてもらえたら嬉しいです。やっぱり人間が出してる音なので。

――はい。ただ、失礼ながら、パリピのお祭りバンドだろうと思っている人たちは「イメージ変わったね」と言うかもしれない。

KENTA:...あの、自分たちでパリピとも思ってなければお祭りバンドとも思ってないんですよ。みんなが楽しいと思う、自分たちがいいなと思う企画を今までやってきただけで。例えば海のビーチでライブした映像の切り抜きと僕らの笑顔だったり、そこだけを見てそう思う方もいるでしょうけど。でも、ライブに来た人たちは僕らのほんとの部分、わかってると思うんです。

――はい。ライブはそうだと思います。

KENTA:で、今出してるWANIMAの音、昔の自分たちが見ても「あぁ、今のほうが格好いい」と思うと思います。しっかりその曲で伝えたかったことを伝えることができるようになってる。だから「イメージ変わったね」と言われても「そう、今が一番いいんよ!!」と胸を張って言えますね。自分たちが今どういう音を鳴らしたいか、どういう音を残したいか、3人でしっかり方向を決めて、確かめ合いながら音を出せているので。

――「イメージ変わった」じゃなくて、「大人になったね」という言葉が正しいんですかね。今はヤンチャなキャラも必要ないというか。

KENTA:そうですね。出たばっかりの頃はなんとか爪痕を残そうとしたし、自分たちの存在にまず気づいてもらうために、他の人たちがやっていない何かをできないか考えていました。今は、どうやったらしっかり内側まで届けることができるかなって。うん、そう考えると「大人になったね」と言われたら嬉しいし、「いやいや、まだまだ格好いいとこ見せますよ」とも言えますね。


今のWANIMAだからこそ歌える曲

――期待してます。そして、同時期に配信リリースされるのが「旅立ちの前に」です。きっかけはソフトバンクホークスからの依頼だったとか。

KENTA:はい。『ファイト!九州』という、ソフトバンクが立ち上げたプロジェクトが「WANIMAにテーマソングを書いて欲しい」と言ってくださって。僕ら3人とも熊本出身で、東京在住熊本出身と色々なところで言ってますけど、どこかでこう、九州を背負って出てきた感覚もあって。いつか九州に恩返しできないかなと思っていたので。このタイミングで「九州を盛り上げたい、そして全国へ」という話をいただけたから、嬉しかったですね。

――チームの歌、九州の歌となるとテーマは必然的に大きくなりますよね。

KENTA:大きくなりそうなんですけど、結局ライブも一人に対して届けたい思いで歌ってるし、自分に対して歌ってる。だから、踏ん張ってる一人の人に届けばいいなって、その思いは変わらなかったです。ただ、綺麗なことだけを歌いたくはなかったので。<何をやっても上手くいかず>という歌い出しもそうですけど、今の僕たちもそうだし、僕たちより辛い状況の方たちはたくさんいて。そういう人たちに共通して言えること、何か支えられることがないかなと思ったので、創らせてもらいました。

KO-SHIN:この曲、僕らが今まで使ってこなかった「頑張れ」って言葉が強くサビに入ってるので、それなりの覚悟を僕らも持って仕上げていったのは覚えてます。

KENTA:僕ら、普段は「頑張れ」を使わずに背中を押したいと思っていて。「頑張れ」ってプラスにもマイナスにもなる言葉だし、ライブに来る子たちが普段頑張ってるのも知ってるし、大丈夫じゃないのも知ってるから。でも、今回は「頑張れ」という言葉を使って、メンバー3人、チームの中でも、みんなで気持ちを一致させる必要がありました。じゃないと配信すらしたくないと思っていて。全国で苦しい人たちに届けるためにも、「まぁ頑張れよ!!」みたいな感じに聴こえないかどうか。僕が歌うにあたって、KO-SHINの言う覚悟みたいなものが宿ってるかどうか。それは声のトーンとかもあるやろうし。だから、時間もかかりましたし、歌うときには気合が入りましたね。

――「頑張れよ」と「頑張るよ」が二つ入っているのも同じことですよね。一方的に言うんじゃなくて自分に言い聞かせる必要があった。

KENTA:はい。自分に歌ってるところもある。聴いた人たちが自分の歌だと思って欲しいし。創ってるときはけっこう僕も落ちてるときで、そういう時期に自分で立ち上がることができた曲でもありますね。

FUJI:さっき『Chilly Chili Sauce』の話で「よりリアリティが出てきた」って話になりましたけど、そういう今のWANIMAだからこそ歌える曲なのかなって感じはします。しっかり積み重ねてきたからこそ。それこそヤンチャなイメージのままのWANIMAが歌ったら、ただの応援歌だと思われたかもしれないし。でも、この曲はそうじゃないし、自分たちにも歌ってる、自分たちに言い聞かせてることだったりするので。この曲も、今のWANIMAがしっかり詰まっているなと思います。



WANIMA「旅立ちの前に」OFFICIAL MUSIC VIDEO


――後半の大合唱、これ、いつか実際にスタジアムで大合唱が起こったら、たまらない光景でしょうね。

KENTA:みんな歌ってくれたら僕も少しでも楽できるかなぁって(笑)。でもほんと、WANIMAはお客さんの歌に助けられてきたバンドなので。お客さんがとにかくみんなともに歌ってきてくれた。...今となれば懐かしいですけど。

――でも、まったく同じ前の風景に戻りたいと思います?

KENTA:このコロナの状況で戻ると思いますか? ダイブ、モッシュはまた起きると思います? 

――うーん……なくてもいい気がします。今のWANIMA。

KENTA:俺も起きなくてもいいと思ってます。だって、今でも俺ら3人で全然音楽やれてるし、オンラインでも無観客でもやれたので。それに音楽には変わりない。モッシュが当然の文化にずっといたし、起きたらやっぱりテンション上がるじゃないですか。でも、今マスクしていて声が出せなくても、この前のライブではみんな楽しそうでした。ホールも、アリーナも、いろんなところでやってきましたけど、結局お客さんと音楽をするというのは変わらないので。だから、今後どうなろうと...例えば声出してはいけない、ずっとマスクしてなくちゃいけなくても、お客さんを楽しませる自信はあります。だからライブでも、新しいスタイルをお客さんと作っていきたいなって、今は気持ちも傾いてますね。

FUJI:だから、今後より自然な形になると思います。しっかり規制されたうえで起こることだったら。

――大事なのは数じゃないしフェスの本数でもなくて、あなたひとりに届くかどうか。そういう話をWANIMAはしてきたバンドですからね。

KENTA:そうですね。今の3人で出していて楽しい音、ほんとに「格好いいなぁ」と自分たちで思える音、たった一人にだったら伝えられる気はします。

Interview&Text by 石井恵梨子

WANIMA「Chilly Chili Sauce」

Chilly Chili Sauce

2021/04/14 RELEASE
WPCL-13273 ¥ 1,540(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Chilly Chili Sauce
  2. 02.最後になるなら
  3. 03.月の傍で
  4. 04.ネガウコト

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