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<コラム>milet×『賭ケグルイ』刺激的なコラボレーションで解き放たれた“新しい可能性”
ヒップホップ要素を含んだ新機軸
シンガーソングライターのmiletが新曲「checkmate」をリリースした。『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』の主題歌に起用されたこの曲は、ヒップホップを取り入れた鋭利なトラック、そして、凛とした強さを感じさせるメロディが一つになった、milet史上もっとも刺激的なナンバーに仕上がっている。
まずはmiletのこれまでのキャリアを紹介しておきたい。東京出身、カナダで思春期を過ごした彼女は2018年から音楽活動をスタートさせ、Toru(ONE OK ROCK)プロデュースによる「inside you」で2019年3月にメジャー・デビュー。グローバル・ポップの潮流を感じさせる音楽性、壮大なスケール感と心地よいハスキーさを兼ね備えたボーカルによって、瞬く間に注目を集めた。8月にはTVドラマ『偽装不倫』主題歌を含む3rd EP『us』をリリースし、Billboard JAPANのダウンロード・ソング・チャート“Download Songs”では初登場5位を記録。各ストリーミング・サービスのランキングでは1位も獲得した。
2020年6月に発表された1stフルアルバム『eyes』は、Billboard JAPANの総合アルバム・チャート“Hot Albums”で2週連続1位(6/15付、6/22付)を記録。その後も8週連続でトップ10入りを果たすなどロングセールスを継続。『第71回NHK紅白歌合戦』に初出演し、デビュー曲「inside you」をパフォーマンスしたことも大きな話題となった。ジャンルと国境を超えた音楽性とボーカル力は、幅広い音楽ファンに受け入れられたと言っていいだろう。ストリーミング・サービスでの認知度の高さ、ボーダレスな存在感を含め、20年代のシーンを象徴するアーティストであると断言したい。
そんな彼女の最新スタイルを体感できるのが、新曲「checkmate」というわけだ。もともと『賭ケグルイ』シリーズのファンだったという彼女にとっても待望のコラボレーションと言えるだろう。
映画の原作は、『ガンガンJOKER』で連載中のコミック『賭ケグルイ』(原作/河本ほむら 作画/尚村透)。富裕層の生徒が通い、ギャンブルの強さで階級が決まる名門高校・私立百花学園を舞台に繰り広げられる“学園ギャンブルストーリー”は10代、20代を中心に大きな注目を集め、シリーズ累計部数600万部超え。2018年に浜辺美波、高杉真宙の主演により実写ドラマ化され、翌年5月には映画版第1作となる『映画 賭ケグルイ』が公開され、大ヒットを記録した。
【公式】『映画 賭ケグルイ絶体絶命ロシアンルーレット』5月12日(水)公開/本予告
『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』は、映画版第1作の続編で、原作者の河本ほむらの監修によるオリジナル・ストーリーによる作品。シリーズ史上最凶のキャラクター・視鬼神真玄(藤井劉生)の登場により、さらに熾烈なギャンブル・バトルが繰り広げられる。
主題歌の「checkmate」の作詞作曲はもちろん、milet自身が手掛けている。トラックメイク、メロディライン、歌詞、歌唱を含め、miletの新境地と呼ぶに相応しい楽曲だ。トラックの軸になっているのは、奥深いグルーヴをたたえたビート。さらに骨太のベースライン、不穏な空気を醸し出すシンセが絡み合い、これまでのmiletにはなかったダークな世界観を描き出している。特筆すべきは、オルタナ系ヒップホップの要素が含まれていること。エレクトロ、ロック、ダーク・ポップなどの要素を取り込みながら、グローバル・ポップの潮流をJ-POPシーンに持ち込んできた彼女だが、そこにヒップホップのテイストが加わることで、独自のハイブリッド感は新たな段階に入っている。「checkmate」を聴けば、洋楽とJ-POPの融合というスタイルがさらに研ぎ澄まされ、真のオリジナリティに到達しつつあることが明確に感じ取れるはずだ。また、ドラマティックに展開するメロディも印象的。シリアスな感情を反映したAメロ、そして、官能的な解放感をたっぷり含んだサビが生み出すコントラストも、「checkmate」の聴きどころだろう。
“新しい自分”の表現
英語と日本語を有機的に絡ませながら、独自のフロウへと結びつけるリリックもきわめて魅力的だ。メッセージの核になっているのは、「でも信じたいんじゃない/まだ這い上がりたいんじゃない/騙し合いも好きにさせる like every night」というライン。シリアスな運命に翻弄され、ときに大きなダメージを負いながらも、常に前を見て進んでいきたい――そんな思いがはっきりと伝わってくるのだ。このフレーズには、『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』の世界観やストーリーと重なりつつ、milet自身の感情とも強く結びついているのだと思う。EP『Who I Am』に関するインタビューのなかで彼女は、「歌うことを通して、〈私は何者なのか?〉を探っている感じもありますね」「(2020年の)STAY HOME期間中に〈私は曲を作ったり、歌うことで精神状態を保ってるんだな〉ということがわかって」と語っていた。曲を作り、歌うことで、自身のアイデンティティを確認し、更新していく――そのスタンスはまちがいなく「checkmate」にも反映されている。そう、「chackmate」には、現在進行形の彼女自身の思いがリアルに込められているのだ。
さらに特筆すべきは、彼女のボーカリゼーションだ。一聴するだけでリスナーの脳内に刻まれる個性的な声質――独特のエキゾチズムと凛とした意思を同時に感じさせる――がジャンルや地域性を超えたトラックと心地よく絡み合い、歌詞に込めれた強烈な世界観とメッセージが真っ直ぐに突き刺さる。(もちろん良い意味で、だが)媚びをまったく感じさせず、自律した女性像を強く感じさせるボーカルは、これからの日本のポップ・シーンにおける一つの軸になっていくかもしれない。
4月29日22時に公開されたミュージック・ビデオも紹介しておきたい。テーマはずばり“チェス”。チェス盤を挟み、男性と対峙するmilet。鋭い視線で駒を動かしていると、時空が変化していき、リアルと空想が行き来するような映像が挿入される。レトロ・フューチャー的な映像美、miletの力強い意思に貫かれた表情、スピード感あふれる編集がバランスよく共存し、「checkmate」の世界観をビビッドに描き出している。人生で初めて髪を染めた(しかも鮮やかな青!)というmiletのビジュアルも強烈。このMVについてmiletは「今回はチェスをモチーフにしながら、現実と夢を往来しながら戦っています。私と相手、果たしてどちらが「checkmate」を告げるのか。大胆で華麗で、すこしクレイジーな世界観を楽しんでいただけたらうれしいです」とコメントを寄せているが、彼女自身も“新しい自分”の表現を楽しんでいるようだ。
milet「checkmate」MUSIC VIDEO(『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』主題歌)
6月からは全11公演の全国ツアー【milet 1st tour SEVENTH HEAVEN】がスタート。2019年のデビュー以来、オリジナリティに溢れた楽曲とボーカル・スタイルを貫きながら、コアな音楽ファンから一般的なJ-POPユーザーまでを魅了してきたmilet。新曲「chackmate」と全国ツアーによって、彼女の活動は全く新しいタームへと突き進むことになりそうだ。
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