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<インタビュー>Crystal Kay メロディ・歌詞・声にフォーカスした最新アルバム『I SING』
Crystal Kayが、キャリア初となるカバー・アルバム『I SING』をリリースする。本作には、ファンやスタッフからのリクエストを考慮に入れつつ、数多くの候補曲を一つひとつ実際に歌ってみながら本人が厳選した、平成初期から令和にかけてのJ-POPの名曲たちが並んでいる。Yaffleや島田昌典、笹路正徳、UTAら豪華プロデューサーが手がける、歌とメロディと歌詞にフォーカスを当てたアレンジによって、J-POPが持つメロディの美しさ、歌詞の奥深さ、そしてCrystal Kayの「歌」の素晴らしさに改めて気づかされるような、素晴らしい内容だ。前回のインタビューでは、カバー・アルバムを作るに至った経緯や、カバー曲の選び方などについて彼女に聞いたが、今回はそれぞれのプロデューサーとどのようなやり取りをしたのか、名曲をカバーするにあたってどんなことに気をつけたのか、制作エピソードについてじっくりと語ってもらった。
――聴かせてもらって、本当に素晴らしいアルバムでした。
Crystal Kay:ありがとうございます!
――「J-POPってこんなに素晴らしいメロディなんだ!」と改めて気づかされたというか。
Crystal Kay:めちゃめちゃ嬉しいです……。おっしゃる通り、今回はメロディの素晴らしさをしっかり味わっていただきたくて、原曲からそれほどドラスティックにアレンジを変えたくなかったんですよね。とにかく今回は、歌とメロディと歌詞、この3つの要素が一番引き立っていて、聴いている人の心にスッと届くようにしたかった。しかも、その中にも「私らしさ」をちゃんと出したくて、その辺りのバランスがとても重要でした。プロデューサーの皆さんが、それぞれの作風の中で本当に素晴らしいアレンジを作ってくれて、自分でも心から納得のいく作品に仕上がりましたね。
――本来の生楽器の良さを追求しているからこそ、より普遍的な楽曲の良さが前に出ているのかも知れないですね。
Crystal Kay:生楽器と打ち込みをバランスよく混ぜたいなとは思っていました。カラオケのカバー・アルバムみたいにはしたくなかったんですよね(笑)。「あれ、この曲知ってる!」、「え、Crystal Kayが歌ってるんだ」みたいな感じで聴いてもらえたらベストかなと。
――前回のインタビューでは、初めてタッグを組んだYaffleさんのお話を聞かせてもらいました。今回は、他のプロデューサーのエピソードもお聞きしたいのですが、まずアルバムの冒頭を飾るスピッツの「楓」のカバーは前田和彦さんによるアレンジですね。
Crystal Kay:このアレンジも大好きです。前田さんは確か「think of U」のリミックスをやっていただいたのが最初の出会いだったと思うんですけど、その時に「このリミックス、誰がやったの!?」とびっくりして(笑)。そこからオリジナルも作ってもらうなど交流が始まったんですけど、今回は久しぶりにお願いして良かったなと思いました。グルーヴのあるアレンジで、アルバムの中で一番「今までの私らしい曲」に仕上がっているかなと思いますね。コーラスワークもその場で考えたりして。
――EXILEの「ただ...逢いたくて」や、RADWIMPSの「なんでもないや (movie ver.)」のカバーをプロデュースした島田昌典さんとは初タッグですか?
Crystal Kay:テレビ番組でご一緒したことはあったのですが、レコーディングは今回が初めてです。ストリングスのアレンジが素晴らしくて……レコーディングに立ち会った時は感激して涙が出てきました。島田さんのスタジオにもお邪魔したのですが、きっとビートルズが大好きなんだろうなと思うような機材や楽器が並んでいて(笑)。今回のアレンジにも、かなりビートルズっぽさが入っていると思います。私と「ビートルズ」がこういう形で出会うのも面白いなと。
――確かにそうですね。Official髭男dismの「I LOVE...」は、シングルカットされた川口大輔さんのアレンジと、Kan Sanoさんによるアップテンポなアレンジの2種類がアルバムに収録されていますね。
Crystal Kay:前回のインタビューでも言いましたが、オリジナルが素晴らしいだけに、それを超えるくらいの勢いでやりたくて。リリースされたばかりの曲ということもあってプレッシャーもあったのですが、最初のデモ作りの段階でちょっと遅めのテンポで歌ってみたら、それがすごくハマって。「バラードでいこう」という話になり、川口さんに作ってもらったら期待以上のものになりました。これも私っぽいというか、R&B風のアレンジに仕上がっています。
――川口さんアレンジは、テンポを落としたぶん、メロディの美しさとCrystalさんの歌のアーティキュレーションがより引き立ちましたよね。
Crystal Kay:ありがとうございます。そう思ってもらえたら嬉しいですね。
――Kan Sanoさんとも初コラボですか?
Crystal Kay:そうです。去年の【BLOCK.FESTIVAL】に出演したら、CHARAさんのサポートメンバーにSanoさんがいらっしゃって。CHARAさんが「彼、いいよ〜」と言ってくれて(笑)、それで作品を聴いてみたらすごく好きな感じだったんです。同じように「I LOVE...」を、チルでフィールグッドな感じにしてほしいとお願いしました。
――ホーンセクションがとてもいい感じですよね。
Crystal Kay:ホーンセクションは私のリクエストです(笑)。レコーディングにも立ち会って、その場でフレーズを色々試したりもしてすごく楽しかったですね。
――MANABOONさんがプロデュースしたDREAMS COME TRUEの「す き」は、ピアノ、パーカッション、そしてギターを基調としたシンプルかつアンプラグドなアレンジです。
Crystal Kay:これ、実は4年くらい前に「せーの」で一発録りしたものなんですよ。思い入れという意味ではこの曲が一番かもしれない。というのも、小学校4年生の頃に叔母がよく聴いていて、一緒に聴いているうちに大好きになってずっと歌っていたんです。なので、「す き」を歌わせたら日本で右に出る者はいないと自負しています。ドリカムの25周年ライブで歌わせてもらったときは、ものすごく緊張しましたけどね(笑)。
――(笑)。BUMP OF CHICKENの「天体観測」が、今作では一番意外なセレクトでしたよね。一体どんなアレンジになるんだろうと思いました。
Crystal Kay:すごく人気のある曲じゃないですか。私よりもちょっと上の世代の人たちからすごく愛されていて、スタッフからも「絶対にこれは歌って欲しい!」と言われていたんです。私、エイトビートとか苦手で、ついつい32分音符で取ってしまうクセがあるので難しかった。それに、ロックって雰囲気で歌えてしまうところがあるじゃないですか。今回はちゃんとメロディを聴かせたくて、でも原曲の畳み掛けるような疾走感も出したかったので、落としどころを見つけるまでに時間がかかったんです。それと同じ意味で、「なんでもないや」や「I Love...」も難しかったのですが。
――そのぶん、これまで知らなかったCrystalさんの新しい魅力を発見した気持ちにもなりましたね。
Crystal Kay:ありがとうございます。結局、素直に歌うのが一番いいのかなとやっていて改めて思いましたね。もちろんカバーをやると決めた時から、「Crystal節を絶対に入れよう」みたいなことは考えていなかったんですけど(笑)。
リリース情報
『I SING』
- 2021/4/21 RELEASE
- UICV-1113 2,727円(tax out.)
衣装クレジット
Photos by 辰巳隆二
Hair by TAKAYUKI SHIBATA
Style by NARUMI OKAMURA
ファースト・アルバムのサウンドを
もう一度追求したいと思っている
――河野伸さんのプロデュースによる「瞳をとじて」(平井堅)のカバーは、今作の中で一番「Crystalさんらしい」というか。安心して聴いていられました。
Crystal Kay:淡々とした楽曲なだけに、かえって難しかったかもしれない。ちゃんと1曲の中にメリハリをつけて、聴き手の耳を惹きつけるというか……歌い方のバランスを見つけるまでが大変でした。「ただ...逢いたくて」やこの「瞳をとじて」は、すでにみんなの中で耳馴染みが良すぎて、自分が歌っているのが何だか変な感じがしました。
――笹路正徳さんとも初めてのコラボレーションですか?
Crystal Kay:テレビ番組やイベントでご一緒したことはありますけど、自分の楽曲でプロデュースしていただくのは初めてでした。
――「サウダージ」(ポルノグラフィティ)はケレン味のある、「ザ・歌謡曲」というべきアレンジに仕上がっていますね。
Crystal Kay:思いっきり「ラテン」に振り切りました。ライブではすごく盛り上がるんですよ。みんな知っている曲だし踊れるし。「踊れる曲っていいな」と、歌っていて改めて思いました。
それと、やっぱり生楽器っていいですね。こんなに贅沢な編成を組んで、スタジオでレコーディングをする機会もなかなかないですから。この曲もレコーディングに立ち会ったんですけど、アレンジにはかなり意見を言いました。「ここはもっと、こんな感じで演奏してください」みたいな。笹路さんはきっと面倒くさかったと思いますが(笑)、せっかく作るならとことんまで細部にこだわりたかったんです。
――山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」は?
Crystal Kay:原曲のアコースティックな感じがすごく好きなので、割と忠実にアレンジしてもらいました。この曲もライブで結構歌っていたので、いつか音源化したかったんです。ハマっ子としては、桜木町という地名が出てくる歌詞にも親近感を持っていましたしね(笑)。
――アルバムを締めくくる「白い恋人たち」(桑田佳祐)は、UTAさんのアレンジです。
Crystal Kay:これも「す き」と同じく4年前に録っていて、それからずっと寝かせていました(笑)。「いつ出せるかな……」と思っていたので、やっと出すタイミングが訪れて嬉しいです。前回のインタビューでも言いましたが、こうやってカバーしてみると、おじさんの曲が私には合うんだなと思いましたね(笑)。
――(笑)。この曲もそうですし、「楓」や「I LOVE...」、「I LOVE... (Uptempo Ver.)」などコーラスが印象的な曲が多いですが、アレンジはCrystalさんが考えているのですか?
Crystal Kay:はい、私が勝手に入れています(笑)。スタジオに入ってその場で重ねていく感じ。超得意だし、やっていて楽しいですね。ハモるのが大好きなので。
――今回、J-POPのカバーに挑戦してみて率直にどんな感想をお持ちですか?
Crystal Kay:やっぱり「いい曲多いなぁ」と思いました。しかも、どの曲も詩的な表現ですよね。ただ、音数がすごく多いんですよ。日本人って音数が多いのが好きじゃないですか。「こんなにいいメロディが聴こえにくくなっちゃうの、もったいないよなぁ」と思うことが多かったんです。だから今回、歌やメロディ、歌詞を聞かせるために音数を絞ることがとても多かったです。
――やっぱり、日本はミニチュアや箱庭の文化なんですかね。決められた枠の中で緻密に物を配置していくというか(笑)。着物の柄とかもとても細やかだったりするし。
Crystal Kay:ああ、なるほど。それはあるかもしれない。とにかくJ-POPはウワモノが多くてシャリシャリしているイメージがあって、そこから脱却したいなと思っていました。マスタリングは、いつも海外のマスタリング・エンジニアにお願いしているんですけど「とにかくボーカルを前に出して、ウワモノのシャリシャリした音はなるべく抑え、ミッドレンジを包み込む暖かい感じにしたい」とリクエストしましたね。
ただ、J-POPも少しずつ変わってきている感じはしています。若いバンドやシンガーのレベルが高くなってきて、音も洋楽っぽくなってきているというか。それによって、リスナーの耳も肥えてきていると思う。それはとてもいい傾向ですよね。
――今回、カバー・アルバムを作ったことが、今後のCrystalさんの作品作りにもフィードバックされそうですか?
Crystal Kay:そう思います。曲を作っていると、どうしても派手さやフックの強さみたいなものを求められることが多いんですけど、やっぱりまずはメロディと歌詞と声にフォーカスすべきだなと。実は、次の作品は私のファースト・アルバムのサウンドをもう一度追求したいと思っているんですよ。自分にとって特に思い入れが強いし、音の作り方とか今聴いても色あせていなくて。あのリッチなサウンドを、大人になった今の私が取り入れたらどうなるのか聴いてみたくて、そこに今作で受けた刺激をフィードバックしたいですね。
――今作を是非ライブでも聴いてみたいです。
Crystal Kay:それが、実はまだライブが決まっていないんですよ! いろんな人から「ライブやらないの?」、「ライブで一緒に歌いたい」と言ってもらうので、やりたいんですけどね。Billboardさんで是非やらせてください(笑)。
リリース情報
『I SING』
- 2021/4/21 RELEASE
- UICV-1113 2,727円(tax out.)
衣装クレジット
Photos by 辰巳隆二
Hair by TAKAYUKI SHIBATA
Style by NARUMI OKAMURA
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