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<インタビュー>降幡 愛、最新シングル『AXIOM』で表現する理想像



近年若者の間で流行している80年代の音楽やファッション。その流れは音楽シーンにも波及しており、いたるところで当時のシティポップや80年代歌謡曲のテイストを聴くことができる。2020年秋にソロデビューを果たした声優・降幡 愛もまた、80年代テイストを愛する1人。これまで『ラブライブ!サンシャイン!!』Aqoursのメンバーとして聴かせてきたかわいらしい歌声とは一転、ソロでは大人びた歌声を聴かせ、音・ジャケット・衣装・ミュージックビデオと、当時を完璧にトレースした作風でファンを驚かせた。今作『AXIOM』は、ライブ会場限定で7インチシングルレコードを販売。制作におけるエピソードを紐解いてもらいながら、80年代の何が彼女を魅了するのか探った。

「AXIOM」というタイトルにかけた様々な想い

――これまで降幡さんはCDや配信とは別に、『Moonrise』のLPレコードや、カセットテープとプレーヤーがセットになったものを数量限定で販売されて来ました。今回は7インチシングルレコードということですが、やはり特別な思いがありますか?

降幡 愛:『Moonrise』のLPをリリースした時に、それを聴くためにプレーヤーを買ったという方がたくさんいらっしゃって、「またレコードを出さないんですか?」という声をたくさんいただいていたんです。そういう部分でも、早いタイミングでまたレコードが出せて良かったですね。それに今回はライブ会場でのみの限定販売予定で、配信はされていますけどCDは出さないつもりなので、とてもレアなものになると思います。

――カセットやレコードなどアナログ媒体の魅力はどんなところに感じますか?

降幡:レコードって気をつけないと割れちゃったりするし、ほこりが付かないように手入れしたり、収納場所だって取るし。そういう手間のかかるものだからこそ、丁寧に聴きたいと思うんです。そういう手間みたいなところに魅力を感じます。

――音については?

降幡:アレって何なんでしょうね?不思議と重量感があって、包まれるようなサウンドなのは。すごくきれいに聴こえるデジタルもいいけど、何とも言えない重みと温かみを感じます。スピーカーとか針とか高いものはすごく高くて、以前に最高級のもので聴かせていただく機会があったのですが、音が全然違っていて感動しました。私が持っているのは簡易的なレコードプレーヤーで、USBでパソコンにダビングできるものしか持っていないのですが、いずれはいろいろこだわってみたいです。

――今作は「AXIOM」というタイトルですが、これはどうやって思いついたのですか?

降幡:4月18日から横浜、名古屋、大阪、東京で【降幡 愛 1st Live Tour APOLLO】を開催するのですが、そこで披露するための曲を作ろうということで、誰も付けたことのないタイトルがいいと思って「宇宙・かっこいい言葉」で検索して、この言葉を見つけました。

――「APOLLO」は、月面着陸に成功したアポロ11号の?

降幡:そうです。私の在り方として、支えてくれるファンのみなさんからの光を受けて輝く、月みたいな存在だなと思っていて、それでデビューミニアルバムに『Moonrise』というタイトルを付けたんです。そんな私の象徴である月に、皆さんをお連れしようじゃないかということで、アポロ11号から名前を借りて【降幡 愛 1st Live Tour APOLLO】と付けました。

▲【降幡 愛 1st Live Tour APOLLO】メイキング映像

――ジャケットのイラストもいいですね。ロゴの感じからオリビア・ニュートン・ジョンの『ザナドゥ』が思い出されたし、土星がUFOっぽく見えて、エレクトリック・ライト・オーケストラやボストンのジャケットを思い出しました。あと歌謡曲で言うと、山口百恵さんの『メビウス・ゲーム』とかもあるし。

降幡:分かります(笑)。ボストンは私もよく聴いていますし、ジャケットはまさしくそういうものからインスピレーションを受けています。ビジュアル面は大切にしていて、Instagramでいろんな方のジャケットや写真を見て参考にしています。今回ジャケットを作ってもらうにあたっては、例えばトトのジャケットとか、ベタですけど映画『スター・ウォーズ』のポスターとか、ちょっと暗めの雰囲気のイラストで作ってほしいとお願いをして、こういったジャケットを作っていただきました。

――「AXIOM」のコンセプトは、プロデューサーの本間昭光さんにはどういう風に伝えたのですか?

降幡:すごく抽象的ですけど、宇宙とかギャラクシー、スペーシーといった言葉を並べながら、参考になるような写真やイラストを一緒にお送りして、山口百恵さんの『メビウス・ゲーム』みたいなイラストを見せて、「ジャケットはこういうイメージなんです」って。そうしたら本間さんからも「ダフト・パンクのようなキラキラしたサウンド感はどうかな?」って逆に提案してくださって。そういうやりとりで進んでいって、そういう会話をしている間にも、本間さんの頭の中ではすでに曲が鳴っていたそうです。

――いつも詞先だそうですけど、歌詞はどんなイメージで書いたんですか?

降幡:今までは自分とは別の物語を想像して書いていたんですけど、「AXIOM」に関しては初のZeppツアーで披露するという前提もあったので、ライブに来てくださる皆さんと盛り上がれるようにサビをキャッチーにしたりとか、ライブを意識して書きました。

――「AXIOM」という言葉自体は、辞書を引くと公理と書いてありましたが、それをライブとどう結びつけたのですか?

降幡:私の中で「AXIOM」は、説明できないものという解釈なんです。宇宙人と地球人の出会いとか、男女の出会いでもいいんですけど、出会いって偶然や必然のもっと先にある、本当に運命的なものだと思うんですね。出会いはそういう説明できない何かの引力で引き寄せられるもので、だから今こうしてみんなと出会ってライブを楽しんでいるんだよと、そういう感じで考えました。

――歌詞の中に“Don't think feel!”と、ブルース・リーのフレーズが出て来るのも面白いですね(笑)

降幡:きっと誰もが聞いたことのある英語のフレーズがここに入っていたら、印象強いんじゃないかと思ったんです。そこはウィスパーで歌っていて、本間さんのアイデアでした。本間さんのアイデアと言えば、冒頭などに入っている英語のアナウンスもそうで、全部レコーディングが終わった後に「何か物足りない。何かオープニング感が感じられるものを足したらいいんじゃないか」という話になって、本間さんが「ちょっと待ってね」と言って見つけてきた素材をハメたものなんです。始まり感があるし、宇宙飛行士と交信しているみたいでいいなと思って。

――“ロマンティックマシーン”とか“ドラマティックスペース”というワードも、どこかレトロ感がありますね。

降幡:80年代を表現するのにカタカナってけっこう重要で、だから歌う時も英語っぽくなく、わざとカタカナ英語で発音しています。前作の『メイクアップ』に収録されている「真冬のシアーマインド」という曲のレコーディングで、“スリーツーワン!”という歌詞を英語っぽく歌ったら、本間さんから「カタカナで言ってほしい」とディレクションされたことがあって。でも確かに80年代はそう歌っている曲が多かったなと思って、今回それを意識して歌いました。

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――そしてもう1曲の「うしろ髪引かれて」は、2月19日にBillboard Liveで開催された、降幡 愛スペシャルライブ【Ai Furihata “Trip to BIRTH”】で初公開された楽曲です。

降幡:もともと「春の曲が欲しいね」ということで、2020年11月のスペシャルライブ【Ai Furihata “Trip to ORIGIN”】が終わった直後くらいに作って。今作の発売がちょうど春の季節なので収録しました。

――タイトルは、おニャン子クラブのユニット「うしろ髪ひかれ隊」からのインスパイアですか?

降幡:そうです、そこからインスパイアさせていただきました(笑)。昔アニメ『ハイスクール!奇面組』のテーマソングをうしろ髪ひかれ隊さんが歌われていて、子供の頃に再放送を弟と一緒によく見ていたんです。今回春をテーマに制作することになった時に、春は別れのシーズンであるとか桜とか制服とか、いろいろ関連づけて書き出して行く中で、歌詞には出て来ませんけどセーラー服が出て来た時に、うしろ髪ひかれ隊さんのことがパッと浮かんで。そこから物語を考えて歌詞を書いた感じです。

――でも歌詞には缶ビールが出て来て、主人公は大人ですよね。

降幡:そうですね。80年代〜90年代のOLさんのイメージです。マニキュアを塗って着飾って男性に会いに行ったんだけど、別れちゃって「ちくしょー」って言いながら公園で缶ビールを飲んでいるみたいな(笑)。

――柴門ふみのマンガに出て来そうな?

降幡:そうそう。強い女性ではあるんですけど、ちょっとこじらせているところもあったりして(笑)。私、1人飲みができる女性とか、1人でバーにいる女性とか、かっこいいなって思うんです。自分はそれができないので、だから憧れの女性像みたいなイメージですね。

――歌の部分では、大人っぽく歌っている印象でした。レコーディングでは、何か意識しましたか?

降幡:2020年11月のライブ直後にレコーディングしたので、ライブ感を持ったままツヤッツヤな感じで歌えました。Billboard Liveさんの会場のイメージと言うか、大人な感じで歌えたと思います。これまでキャラクターとか役柄で歌ったことはあったけど、ソロアーティストの降幡 愛として歌うのは初めてだったので、どう歌えばいいのかずっと悩んでいたんです。そんな中で、2ndミニアルバム『メイクアップ』の最後にレコーディングしたのが「RUMIKO」という曲で、そこでやっと艶っぽいアダルトな、私が思い描いていた理想の歌が歌えました。その上でこの「うしろ髪引かれて」は、私のアーティストとしての歌い方みたいなものが、ちゃんと確立できたかなと思っています。

▲【Ai Furihata “Trip to BIRTH”】の様子

▲「うしろ髪引かれて」ライブ映像 from【Ai Furihata “Trip to BIRTH”】

――どういう歌い方が理想なんですか?

降幡:大人で芯があって、変にビブラートをかけたりせず、それでいて少しやさぐれている感じがあって(笑)。単なる歌謡曲やアイドルではない、というところですかね。

――昔の中森明菜さんとか?

降幡:分かりやすく言うとそういう感じです。

――確かに昔のアイドルとかは、若いうちからすごく大人びた歌詞を歌っていましたよね。

降幡:本当に信じられないですよね。例えば松原みきさんの「真夜中のドア〜stay with me」は、男性と別れた後の切なさを歌っているんですけど、当時の松原さんはたぶん18〜19歳で、それをいったいどういう心情で歌っていたんだろうって思うとすごく不思議です。韓国とかアメリカのシティポップ文化では、「真夜中のドア〜stay with me」などの和モノが流行っていると聞きます。そういう流れで私の活動も広まったらいいなと思います。

――少し話題を変えますが、「うしろ髪引かれて」は春の曲ということで、降幡さんの春の思い出って何がありますか?

降幡:春に上京する人は多いと思いますが、私もそうでした。声優を目指して長野から上京して5〜6年経つのですが、私は自分の夢を叶えるためだとポジティブな気持ちだったんですけど、最近になって妹から「お母さんは泣いていた」と聞いて驚きました。私が実家に帰って、東京に戻るたびに泣いていると。心配してくれているのは分かっていたけど、泣いているとまでは思ってなくて、お母さんもそんなそぶりを一切見せていなかったから。「ああ、そうだったんだな」と母の思いを改めて知って、切ない気持ちになりました。

――でもそれを知ってしまったら、うしろ髪引かれてじゃないけど、次に実家に帰った時は東京に戻りづらくなるんじゃないですか?

降幡:そうかもしれないですね(笑)。でも大人になってそういう話を聞くと、改めて感謝の気持ちがわいてきます。恩返しの意味でも、いずれは地元でもライブができたらいいなって思いますね。今回の「うしろ髪引かれて」を聞いて、そういった春にまつわる切ない経験を思い出したりしてもらうのもいいなと思います。

▲「うしろ髪引かれて」リリックビデオ

1stツアーへの意気込み

――では最後に、【降幡 愛 1st Live Tour APOLLO】はどんなツアーにしたいですか?

降幡:自分からみなさんのところに会いに行けるのが、とにかくうれしいです。今回はバンドメンバーに新しい方を迎えているので、サウンド面でどんな風になるのか自分でも楽しみですし、今までとはひと味違ったステージになると思うので、期待していてください。Billboard Liveの時は座って落ち着いた感じでしたけど今度はZeppですし、グッズでフラッグを作ったので、ライブハウスならではの感じで盛り上がれるのではないかと思います。もちろん座ったままでもいいし、それぞれの楽しみ方で音を楽しんでもらえたらいいなと思います。

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