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チープ・トリックが新作『In Another World』発表、リック・ニールセン(Gt)が“たっぷり”語る
通算20作目となるニュー・アルバム『In Another World』を完成させたチープ・トリック。70年代のブレーク以来、コンスタントに活動を続け、いまや大ベテランとなった彼らだが、過去のキャリアに寄りかかることなく、ラウドでユースフルなサウンドを颯爽と叩き出す。正にパワーポップの真骨頂。チープ・トリックらしさに溢れている。4年ぶりの新作に掛ける意気込みやその背景、若々しさの秘訣から日本のファンについてまで、ギタリストのリック・ニールセンがたっぷりインタビューに応じてくれた。
この1年間というもの、誰ひとり経験したことがない別世界にいるような感じだった
――新作『In Another World』は20作目のスタジオ・アルバムとなりますが、チープ・トリックの集大成的な作品を作ろうと、様々なアイデアを考察した結果でしょうか?
リック・ニールセン:いやいや、ところが全然そうじゃなくって、20作目だとは気付いてなかったほどさ。ホントにそう。先日の夜、プラチナ・レコードなどを飾っている部屋でアルバムのジャケット写真を撮っていたとき、初めて気付いたんだ(笑)。――リリースは当初の予定より1年ほどズレ込みましたが。
リック・ニールセン:コロナのせいだよ。みんなコロナせいでズレ込んだ。それにレコード会社も変わって、新たにBMGと契約したこともある。レコード会社はリリースを遅らせた方がいいと判断した。ツアーも延期されたし、チープ・トリックに限らず、みんながそうだよね。なら空いた時間にもっと新曲を作ろうかって話もあったけど、結局はやらなかった。ジャケットなどのアート・ワークを作ったのも、つい3カ月ほど前のこと。結局ドタバタだよ(笑)。――ツアーやライブからかけ離れた日常に違和感はなかったですか?
リック・ニールセン:もともと退屈しない方なんだけど、とにかく普段と違ってて、奇妙な感じだよね。昨夜も写真を見て思い出してたんだ。日本や世界を巡ってツアーしていたなぁって、すごく懐かしく思えたよ。――パンデミックの影響はアルバムにも反映されていますか?
リック・ニールセン:『In Another World』というタイトルにも反映されているんじゃないかな。この1年間というもの、誰ひとり経験したことがない別世界にいるような感じだったから。しかもアメリカに関しては、この4年間はホントにメチャクチャだった。そういうのも含めて、世界中のみんなが同じ船に乗っている感じじゃないかな。あと経済面も気になるよね。ビジネスが破綻して命を失う人が増えるんじゃないかって気が気じゃない。仕事仲間の全員にも関わっていることだし、この1年間、みんなずっと無職だよ。すごく大変な状況なんだ。――アルバム・タイトルにもリンクする「Another World」というナンバーは、2つのバージョンが収録されています。どちらがオリジナルだったのですか?
リック・ニールセン:オリジナルはスロウな方なんだ。速い方はラモーンズ・バージョン(笑)。カバーって、オリジナルに忠実なことが多いけど、個人的には違った解釈の方が面白いと思うんだ。特にそれがいい出来だったりするとね。同じ曲だけど、全然違って聴こえたりしたら、それこそ最高だよ。ほら、僕らの「Hello There」と、ライブでいつもラストにやる「Goodnight」が対になってるみたいにね。――アルバムには、ジョン・レノンの「Gimme Some Truth」のカバーも収録されていますが、これだけ数年前の録音ですか?
リック・ニールセン:そうだね、録音したのは数年前。だけど、他の曲と同様にアップデートされている。スティーヴ・ジョーンズが参加してくれたよ。彼のラジオ番組『ジョーンズィズ・ジュークボックス(Jonesy’s Jukebox)』に出演した際に弾いてもらったんだ。スティーヴのことはセックス・ピストルズの頃からずっと大好きで、彼のジャジャジャーン!っていう激しいリズム・ギターって、少し僕のスタイルに似ていたりもするし。ギタリストである前にソングライターってところでも共通している。彼はキース・リチャーズやピート・タウンゼントのように、格好いいリズム・ギターをプレイする。そのラジオ番組に出演していたときに“一緒に弾いてくれないかい?”って頼んだら、二つ返事で“いいよ”と承諾してくれた。ここにある62年製のカワイギターをあげるからって、上手く言いくるめたんだ(笑)。――スティーヴとはセックス・ピストルズ時代からの知り合いなのですか?
リック・ニールセン:当時から互いに知っていたし、両方のグループと仕事をしている共通の知り合いもいた。それにロンドンではセックス・ピズトルズの住んでたアパートに行ったこともあったよ。彼らとの仕事に辟易とした人たちが、僕らと仕事をすると大歓迎してくれた(笑)。――ハハハ。ジョン・レノンの「Gimme Some Truth」はプロテスト・ソングですし、少し前にはデヴィッド・ボウイの「Rebel Rebel」をカバーされていましたが、積極的に意見を発していきたいと?
リック・ニールセン:だって「Gimme Some Truth」じゃないけど、ここ4~5年間というもの、僕たちには“真実”が与えられていなかったからね。正しくこの曲の通り。大声で訴える代わりに、ジョン・レノンの曲で代弁した。- 「Final Days」は世界の終末的なことを歌っている
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Interview&Text:村上ひさし
「Final Days」は世界の終末的なことを歌っている
――他にもニュー・アルバムには、政治的なメッセージや社会問題を扱った曲はありますか?
リック・ニールセン:「Gimme Some Truth」の他には「Final Days」かな。世界の終末的なことを歌っている。完全にマイナス思考というわけではないけどね。ブルース・ソングなんだけど、チープ・トリック流になっている。てことは、全然ブルース・ソングじゃないってことになるけれど…。シンプルなギター・リフを重ねていて…。でもやっぱり他のブルース・バンドとは全然違ってる。ジミー・ホール(ウェット・ウィリーのフロントマン)がゲスト参加してくれたよ。最高のハーモニカ演奏を聴かせてくれている。――今回もプロデューサーにはジュリアン・レイモンドが起用されていますが、もうかなり長い付き合いですよね。彼のどういう部分を気に入っていますか?
リック・ニールセン:そもそも彼はチープ・トリックの大ファンなんだ。それにソングライターとしても一流だよ。プロデューサーとして僕たちのベストな部分を引き出してくれる。ずっと探し求めていたプロデューサーって感じ。ホントにそう思う。おそらく誰よりも親身になってくれるプロデューサーだね。僕らのことを一番に考えてくれて、僕たちの歴史を大切にしてくれる。ブチ壊さないようにと配慮してくれる。曲作りにも協力してもらっているよ。――彼はシカゴ在住ではないですよね。彼との共作はどんな形で?
リック・ニールセン:彼はナッシュビルに住んでいるから、曲のアイデアなどは事前に打ち合わせをしておいて、実際の作業は会ったとき。これまでのレコード会社(ビッグ・マシーン)はナッシュビルにあったから、この5年間ほどはレコード制作になると、“さあ、ナッシュビルに乗り込むぜ!”って感じだった。――ナッシュビルは、いまでも音楽都市として、かつてのロサンゼルスのような賑わいですか?
リック・ニールセン:そうだね、みんなナッシュビルに住んでいる。他のどこよりも賑わっているよ。優れたミュージシャンがいっぱいいるからね。たまたま入ったレストランのウェイターが、腕利きギタリストだったりする。大勢いすぎて、余程じゃないとチャンスが巡ってこないかもね。でも僕らはチープ・トリックとして行くわけで、カントリー・ミュージックをやるわけじゃないから敵視はされないね。みんなから歓迎される。彼らの仕事を奪うわけじゃないからね(笑)。――NY 、LA、ロンドン、シカゴ、ナッシュビルと、これまで様々な都市でレコーディングをされてきましたが、やはり決め手となるのはプロデューサーですか?
リック・ニールセン:そうだね、ジュリアンと仕事をするときは、僕らがナッシュビルに行くわけだし、シカゴやLAに行ったり、地元のロックフォードに来てもらったこともある。ジャック・ダグラスとの時はNYに行ったり、他にも彼はスタジオを持っていた。チープ・トリックは時間さえあればどこでも録音できるバンドだし、いまは以前のように全てを同時録音しなくていいからね。リリース情報
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Interview&Text:村上ひさし
いまでも日本で初めて「今夜は帰さない」が1位になったときのことを思い出す
――グループとしてのキャリアは50年近くにもなりますが、こんなに長く続いたのは、やはり初期の成功があったからだと思われますか?
リック・ニールセン:ずっとヒットを連発してきたわけでもないし、成功もしたけど失敗もしたからね。もちろん成功がまったく無意味だとは思わないよ。だって、いまでも日本で初めて「Clock Strikes Ten」(今夜は帰さない)が1位になったときのことを思い出すんだ。100年以上も前の話だけど(笑)。つまり僕らは誰ひとり億万長者になったわけではないし、常にツアーをやって演奏しているだけで、待ち望んでくれるファンがいなければ、きっと辞めてたかもね。でも、いまでも僕らのことを楽しみにしてくれるファンがいて、チープ・トリックをやらせてくれるなら、僕らは続けるのみ。もちろんこの新作が、いままで以上に売れたら嬉しいけれど、それは神のみぞ知ること。それに僕らは自分たちのために曲を作っているからね。まずは自分たちが楽しんでるってことが大切で、そのうえで、みんなにも楽しんでもらえたらと思うんだ。僕らとしては20作目だろうと、21作目だろうと、19作目だろうとあまり関係なくて、いまやってることが大切なんだ。そう、僕にとっての成功とは、いまでもこうして活動を続けているって事実だね。――以前に“チープ・トリックは成長しない。それがチープ・トリックだ”と言われていましたが、いまでもそう思われますか?
リック・ニールセン:うん、鏡さえ見なければね。――アハハハ。いやいや、いまでも全然お変わりないですよ。
リック・ニールセン:そうかい、嬉しいな。んじゃあ、まあそうしておこうか(笑)。僕らの古い曲「Daddy Should Have Stayed In High School」のなかに“僕は30歳だけど、気分は16歳”という歌詞があるけれど、まったくその通りの気分なんだ。こうして君と話しながら笑ったり、ギターの話をしたり、音楽を演奏していると、本当に16歳のときと変わらない。若くいる秘訣ってことかな。とは言え、2時間も歯医者にかかるってのも事実なんだけど(笑)。おかげでロックンロールできるし、自分の好きなことをやれて、同じような仲間と一緒に演奏できるわけで、幸運だとは思うよ。――健康だから音楽を続けられるわけですよね。というより、逆に音楽を続けているから健康なのでしょうか。
リック・ニールセン:両方だといいよね(笑)。少なくとも頭の中だけは若いようだけど、嫌々やってる仕事だとそうもいかなくて辛いだろうね。でも、この仕事しかやったことないから、自分ではよく分からない。リックとはこういう人で?、とか自分で定義したこともないからね。変化はしたよ。けど、変わっていないんだ。――2016年には『ロックの殿堂入り』をされましたが、まだ実現していないことや、これから成し遂げたい夢はありますか?
リック・ニールセン:先のことを考えて計画するタイプじゃないんだ。でも、これまでに映画やテレビもやったし、CMもやった。そういった色んなこと全てが大好きなんだ。忙しくしている方が好きなんだよね。ただ、曲を作るときは、目標が必要かな。単に“何かいい曲を書いてほしい”と頼まれても困るんだ。速い曲、遅い曲、3コードで、といった目先の目標が必要かな。――最後に日本のファンにメッセージをいただけますか?
リック・ニールセン:早く日本に行ってみんなに会いたいよ。ウズウズしている。みんなのおかげで僕たちはこんなに素晴らしい音楽キャリアを築けて幸運だし、本当に感謝している。「Clock Strikes Ten」のときから、いまこの瞬間に至るまで、その全てに感謝しているよ。Interview&Text:村上ひさし
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Interview&Text:村上ひさし
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