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<コラム>「歌い手」「ボカロP」「絵師」が鍵──yamaやAdoから考察する新たな音楽シーン
2020年、コロナ禍のステイホームの影響で、インターネットに触れる機会が圧倒的に増加した。音楽シーンにおいても、YouTubeやTikTokをきっかけに、YOASOBIやヨルシカなど、今までインターネット上で活躍していたボカロPの楽曲がヒット。 “歌ってみた”や“踊ってみた”といった、音楽を使って二次創作動画を作り出すUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)の増加も後押しし、2019年以前のヒットチャートとは大きく様相を変えた1年となった。その結果、ニコニコ動画やYouTubeなどで「歌ってみた」動画を投稿しているボーカリストを指す「歌い手」の存在も大きくなっている。今までは米津玄師(ハチ)や、まふまふ、Eveなど、歌唱や作詞作曲まで自身で手掛ける歌い手が、音楽シーンを牽引してきた。ところが2020年から、yamaやAdoのような「歌い手」「ボカロP」「絵師」という組み合わせで活躍するアーティストが、チャートの上位に現れるようになってきた。ここでは、そんなyamaとAdoが今までどういった活動をしてきたのか深く掘り下げていく。
「春を告げる」のブレイクは2回ある
「春を告げる」で知られるyamaは、高く透き通った天性的な歌声を持つアーティスト。2018年に歌い手として活動を開始し、カバー動画をYouTubeにアップし続けてきた。その中の「bin」では、弾けるようなドラムとワウの効いたギターが聴こえる中、"あぁ…不憫な私の世界を嗤う"といったシリアスな歌詞を、正反対な心地良い声で披露。TikTokで注目を浴び、動画再生数も480万を超えている(3月22日時点)。
▲yama「bin」
その後はボカロP・くじらの「ねむるまち」にボーカルとして参加し、4月17日に「春を告げる」でデビュー。そして、「春を告げる」は2021年1月4日付のBillboard JAPANストリーミング・ソング・チャート“Streaming Songs”で、累計再生回数が1億回を突破したことが分かった。ここでは、そんな「春を告げる」が何故ヒットしたのか、Billboard JAPANの 総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”、そして各指標の動きから紐解いていく。
「春に告げる」のチャート変遷
「春を告げる」は2020年の4月17日にリリースされた。その後、4週目の5月25日付のダウンロード、ストリーミング、動画で初めて100位内に登場。そして、6週目の6月8日付のHOT 100では、自身最高位の7位をマーク。その後は、コロナ禍にも関わらず定期的に楽曲をリリースしていったが、7月ごろから各指標が緩やかに下降していった。しかし12月に入り、「THE FIRST TAKE」に出演すると、Twitterを含め、再び各指標が上昇し、動画は6位まで上り詰めた。yamaは今までもそうだが、自身初のオリジナル楽曲である「春を告げる」をリリースしてから「THE FIRST TAKE」に出演するまでの約8か月の間、メディアで容姿を明かすことがなかった。公開されていたのは、ともわかが手掛けたジャケットと、歌詞とジャケットを使用したミュージックビデオのみ。2021年に入ってからも再び「THE FIRST TAKE」に出演し、配信ライブ【LIVE BEACON 2021】や『MUSIC STATION』と積極的に人前で披露。徐々に容姿が知れ渡っていくにつれて、各指標が緩やかに上昇傾向に入ったことが分かった。第一段階のピーク(2020年の6月)では、楽曲自体が評価されていたが、第二段階のピーク(2021年の12月~1月)は楽曲を含め、yama自身を知りたいという、世間の興味も加わった結果ではないかと推測する。
▲yama「春を告げる」
▲yama「春を告げる」THE FIRST TAKE
そんな「春を告げる」を手掛けたのはボカロPのくじらだ。2019年の4月、YouTubeとニコニコ動画に楽曲「アルカホリック・ランデヴー」を投稿し、本格的にボカロPとしての活動をスタートさせた。くじらが作る歌詞には、人間の暗い一面に着目したものが多い。それを、ファンキーな歌メロやキャッチーな曲調にうまく乗せているのが魅力的だ。その他にもyamaの「クリーム」「Downtown」「a.m.3:21」「あるいは映画のような」も手掛けている超新星だ。
▲くじら「アルカホリック・ランデヴー」
「春を告げる」のジャケットとミュージックビデオのイラストはともわかが担当。自身でも語っているように、ポップでキャッチー、そしてスタイリッシュなイラストが特徴的だ。yamaとくじらが表現する世界観を鮮やかに、そして儚く描いている。また、ともわかは、ブランド「DISCUS ATHLETIC」とコラボグッズを出したり、個展を開いたりするなど、活動の幅が広いイラストレーターだ。
「うっせぇわ」ヒットのきっかけはUGCにある
繰り返される"うっせぇわ"というフレーズが、何回も脳内再生されるAdoの「うっせぇわ」。Adoは、現代社会への不満を全力でぶつけるエモーショナルと、低音から繊細な高音まで出せる歌声に魅力がある新人の歌い手だ。前述したyamaの楽曲を手掛けているくじらや、jon-YAKITORY、biz、Linmuなど、多くのボカロPの楽曲にも参加した経験がある。ここでも再び、Adoの動きと「うっせぇわ」のHot100、各指標の動きをグラフ化した。
「うっせぇわ」のチャート変遷
10月23日に「うっせぇわ」のリリースとミュージックビデオを公開した後、最初に動画が圏外から25位に浮上。その後はしばらく楽曲が単体で話題に。12月2日に、本人のシルエットをうっすらと見ることができる「うっせぇわ Piano Ver.」が公開されると、全指標がぐっと上昇した。そして、1月後半からメディア出演が増え、本人の素性が少しずつ明らかになってくると、ほとんどの指標がうなぎ登りに。3月15日付のHot100では、初めての首位を獲得した。
▲Ado「うっせぇわ」
▲Ado「うっせぇわ Piano Ver.」
また、YouTubeでは11月に96猫が「歌ってみた」動画を上げたことを皮切りに、天月-あまつき-、まふまふ、そらるといった、大御所の歌い手に次々とカバーされていった。YouTubeの再生数のうち、UGCの再生数のみを集計することで、ネットでのバズを可視化したチャート"Top User Generated Songs"では、12月から上位をキープし続け、1月18日付で初の首位を獲得している。現在では、芸人の四千頭身やサンシャイン池崎など、業界を超えてカバーされており、今後もまだまだ熱は収まらなさそうだ。「うっせぇわ」は最初、楽曲自体が話題を呼び、その後、多くの人にカバーされたことで付加価値が付いてヒットした作品だ。
▲96猫「うっせぇわ」歌ってみた
そんな「うっせぇわ」を制作したのが、ボカロPのsyudou。2012年よりネット上で音楽活動を始め、楽曲は攻撃的な歌詞と本性を剥き出しにさせるような暴力的なメロディが印象的だ。「邪魔」や「ビターチョコデコレーション」、「コールボーイ」といった楽曲が人気を集めている。そして、「レディメイド」を手掛けたのは、2018年よりボカロPとして活動を始め、YouTubeの総再生数が約3,000万を突破しているすりぃ。最新曲「ギラギラ」は、2010年より同じくボカロPとして活動をしているてにをはが制作した。楽曲は和の印象が強いものや、ロック、メタルやポップスなど幅広いジャンルを手掛け、言葉遊びのある歌詞が特徴的だ。また、「性」とは何かと問いかけられているような歌詞を、中性的な声を持つボーカロイド「flower」を使って上手く表現している「ヴィラン」は、Top User Generated Songsで上位に立っている。
▲てにをは「ヴィラン」
そして、「うっせぇわ」のインパクトあるジャケットやミュージックビデオの絵を描いたのは、WOOMAだ。狂気溢れるタッチは、楽曲の刺激をより一層際立たせている。WOOMAは他にも、ボカロP・煮ル果実の「紗痲」や「キルマー」、同じくボカロP・柊キライ「ボッカデラベリタ」や「エバ」のミュージックビデオのイラストも手掛け、そこでも独特で画面に引きずりこまれるような描写と歌詞に負けない存在感を放っている。また、WOOMAはトマト名義で、yamaとボカロPの猫アレルギーとともに音楽ユニット「BIN」でも活動している。
2021年に注目されている新しい音楽の形
ここまでyamaとAdoを見てきたが、「ボカロP」と「絵師」という組み合わせで今話題のKanariaとChinozoも紹介しておきたい。
2020年の5月10日に発表したデビュー作「百鬼祭」が、重々しいビートかつ和風ボカロで話題となったボカロPのKanaria。YouTubeで現在2,000万回以上再生されている、第2作目「KING」は、Top User Generated Songsで通算8週首位に君臨している。YouTubeで「KING」と検索すると、まふまふやめいちゃんといった歌い手をはじめ、キズナアイやガチャピンなど様々な人物に"歌われている"。また、「KING」のジャケットはニコニコ静画主催の「ボカロ描いてみたイラストコンテスト」(2012年)で最優秀賞を取ったこともあるイラストレーター・のうが手掛けた。
▲Kanaria「KING」
最後に紹介するのが、2018年よりボカロPとして活動を始めたChinozo。2020年の4月に投稿した「グッバイ宣言」はニコニコ動画で殿堂入りとなり、TikTokでも楽曲を使ったダンス動画が投稿されるなど、バズを巻き起こしている。2021年の2月に動画再生数が1,000万を突破したミュージックビデオは、アルセチカが描くパーカーを着た女性と、歌詞が映し出されるシンプルなもの。YouTubeで「グッバイ宣言」の「歌ってみた」を検索すると、TikTokでバズを起こした「グッバイ宣言」のポーズをしている様々なサムネイルが表示されるので、チェックしていただきたい。なお現在、Top User Generated Songsでは最高位3位を獲得している。
▲Chinozo「グッバイ宣言」
KanariaやChinozoはボーカロイドを使用しているが、今後YOASOBIのAyaseや、くじら、syudouのように、ボーカリストとコラボして楽曲を出すかもしれない。そういった可能性のあるアーティストをいち早く見つけることができるのが、2020年の12月から新しく始まったTop User Generated Songsだ。「歌ってみた」という動画で、ユーザーに人気のある楽曲やトレンドが大きく反映されている。
コロナ禍の影響で、TikTok発のアーティストが目立った2020年。今後のヒットの鍵は、「歌い手」「ボカロP」「絵師」という組み合わせのアーティストだ。yamaの楽曲や、Adoがフィーチャリングした「金木犀」をくじらが制作し、yamaの音楽ユニット「BIN」やAdo「うっせぇわ」のイラストをWOOMAが手がけている。どの「ボカロP」の楽曲を、どの「歌い手」が歌い、どの「絵師」が世界観を作り上げるのか。こういった組み合わせが無限となっており、ヒットの可能性が広いことが分かった。はたまた、インターネット上の意図してないところで、新しい音楽のヒットの法則が生まれるかもしれない。