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<コラム>TikTok・ネット音楽シーンのヒットを紐解く 泣き虫ファーストアルバム発売に寄せて



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コロナ禍、TikTok発アーティストが台頭した2020年

 2020年、新型コロナウイルスは様々な業界で、それまでの構造に変革をもたらした。音楽業界では、知名度に関わらず一様に逆境を強いられた中で、大きく飛躍したアーティスト・グループもあった。

 代表曲「夜に駆ける」が大ヒット、勢いそのままに『NHK紅白歌合戦』初出場を果たし社会現象となったYOASOBI。第34回日本ゴールドディスク大賞の<ベスト5ニュー・アーティスト【邦楽部門】>を受賞したほか、アルバム『盗作』がBillboard JAPANの総合アルバム・チャート“HOT ALBUMS”で総合首位を獲得し、さらに認知度を高めたヨルシカ。見応えあるアニメMVやSNSミステリー『Project:;COLD』とのタイアップなどを通して、独自のポジションを確立したずっと真夜中でいいのに。。アルバム『Smile』が6つのチャートでデイリー首位を獲得、映画『ジョゼと虎と魚たち』やアニメ『呪術廻戦』などタイアップにも続々抜擢され、大躍進の一年となったEve……。

 こうした既存アーティストの飛躍に加え、2020年のネット音楽シーンは、数々のニューカマーも生み出した。

 2020年のヒットの共通点はいくつかあるが、特に勢いを感じたのは「TikTok起点」のアーティストたちだ。TikTokに投稿される動画は、歌ものの曲を聴くにはいささか短い。その「物足りなさ」が、気になった歌声をもっと聞きたいと思わせる衝動に繋がっている。この性質と見事にはまったのが、オリジナル曲「知りたい」が若い層を中心に大ヒットした水野あつだ。心地よい癒し系の歌声に一目ぼれならぬ“一耳ぼれ”したリスナーが、彼のファンとなって他の曲も摂取しに行く過程は、容易に想像できる。

▲水野あつ「知りたい」

 優里もまた、TikTokで頭角を現したシンガーソングライターだ。2019年6月、SNSへの歌唱動画の投稿をスタート。同年12月インディーズより配信リリースした「かくれんぼ」によってシンガーソングライターとして、その名が知れ渡っていった。2020年8月「ピーターパン」でメジャーデビュー。10月に「かくれんぼ」のアフターストーリとしてデジタルリリースした「ドライフラワー」は、リリース13週目で男性ソロアーティスト史上最速1億回を突破した。そんな彼のYouTubeチャンネル“優里ちゃんねる”には、バラエティ豊かな動画が並び、彼のエンターテイナーとしての一面を垣間見ることができる。一発撮りで歌ったり、さらにはDIYにチャレンジしたりと、様々な動画を精力的に投稿し続けていることも、彼が支持される理由の1つだ。

▲優里「ドライフラワー」

 TikTok発として、異例のヒットを遂げたのが「りりあ。」だ。もともとはギター弾き語りによるカバー動画をアップしていたが、透明感のある歌声が「天使の歌声」と称され、若いリスナーの間で評判に。ぐんぐんフォロワーを伸ばしていき、現在では120万人を超えている。ファンの熱望に応えてリリースした初のオリジナル曲「浮気されたけどまだ好きって曲。」は、無所属にしてLINE MUSICのウィークリーチャートで1位を獲得したほか、YouTubeの再生回数が1年足らずで880万回を超えた。なお昨年11月より、ストリーミング特化型アーティストにフォーカスした新レーベル「VIA」(トイズファクトリー)に所属している。

▲りりあ。「浮気されたけどまだ好きって曲。」

 4月にはyamaが初のオリジナル曲「春を告げる」をリリースし、<Spotifyバイラルトップ50(日本)>で1位に輝いたことも印象的だった。素顔も性別も年齢も明かさず、その中性的な歌声の魅力ひとつで男女問わず熱狂的な支持を集めるyama。もともとは歌い手として活動していたが、その卓越した歌唱力はアンテナ感度の高いリスナーたちの目に留まり、ニコニコ動画では早期から「もっと評価されるべき」「なぜ伸びない」といったコメントが寄せられていた。カバー動画やボカロP・くじらが書き下ろした「春を告げる」がTikTokでバズり、先ほど述べたバイラルヒットへと繋がる。

▲yama「春を告げる」

 忘れてはならないのが、疾走感のある歌声のごとく一気にスターダムを駆け上がったAdoだ。早期からボカロPや作家にその才能を見出され、くじら、水槽、jon-YAKITORY、bizと、次々にコラボレーションが実現。主にTikTokとYouTubeでファンを増やしていった。2002年生まれ、高校在学中にメジャーデビューを果たした彼女は、デビュー直後に発表した初のオリジナル曲「うっせぇわ」が異例の大ヒット。TikTokでは音源を利用した二次創作動画が次々と投稿され、またYouTubeでも、兼ねてより彼女が尊敬していた先輩歌い手たちが次々とカバーしたことが話題となった。

▲ado「うっせぇわ」

他にもオリジナル曲『ぎゅっと。』が1800万回再生を突破したもさを。など、次世代を担う若手シンガーが続々とTikTokから台頭し始めている。TikTokユーザーの81.9%がYouTubeを利用、約半数は毎日利用しているというデータもあり、「TikTokで気になった音楽のフルバージョンをYouTubeでチェックする」という導線が見てとれる。今やYouTube登録者数は人気度の可視化として重要な役割を果たしているが、TikTokでのバズり具合が、その一部を支えていると言っても過言ではないだろう。

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Z世代に人気の覆面アーティスト・泣き虫

 さて、ここまで2020年にヒットした顔ぶれをおさらいしてきたが、2021年の大ヒット候補として、泣き虫についても紹介したい。SNS発アーティストとして、中高大学生、つまりZ世代から人気を集める覆面シンガーだ。自身で作詞曲も手掛けており、実は先に挙げたAdoやyamaともすでにコラボレーションをしている。YouTubeでさかのぼれる最古の動画は意外と最近で、2019年9月の「君以外害。」だ。同曲はすでに125万再生を突破。その次に発表した「大迷惑星。」は670万再生を超えている。

▲泣き虫「君以外害。」

 もともとネットを主戦場としてきた活動者が素顔を隠して活動することは、めずらしくない。それこそAdoやyamaも、現状は顔の大半を隠した状態で活動している。加えて年齢、出身地などのプロフィールも非公開と謎多き存在だった泣き虫だが、昨秋のFM802『802 Palette』でのメディア初登場に続き、『Radio Infinity』への出演、更に最近ではTOKYO FM『SCHOOL OF LOCK!』、J-WAVE『SONAR MUSIC』といったラジオ番組に出演するなど、徐々に自身について本人の口から語られる機会も増えてきている。

 2月10日、自身初のパッケージ作品となるアルバム『rendez-vous』(読み:ランデブー)がリリースされた。ミステリアスな彼に向けられる期待は厚く、2月度タワーレコード「タワレコメン」&HMV「エイチオシ」に抜擢されたほか、全国のタワレコ応援店27店舗で異例のポスタージャック企画が実施された。

 彼が綴る歌詞は、詩的でありながらどこまでもリアルだ。「最低でしょ」「離れたくないな」「今はそれなりに幸せ」「わがままだよな」「好きだった」「どうでもいいや」……LINEで交わされるような飾らない言葉。私たちの心から消せない、大切だった誰かに対する諦念が、独特のかすれた歌声で台詞のように紡がれる。

 また、先ほど挙げた「君以外害。」「大迷惑星。」といったタイトルからもわかる通り、リズム感を重視した言葉選びをする傾向にある。ラップとまではいかないが押韻が随所で散りばめられ、言葉の印象を強めながら耳に気持ちよく入り込んでくる。

 楽曲としてピックアップしたいのは、やはりゲストを迎えた2曲だ。Adoとのパワーボイスの共鳴がもはやバトル状態の「Shake It Now.(feat. Ado)」。1番は泣き虫が、2番ではAdoがメインパートを担い、初コラボとは思えないほど相性抜群の男女ハーモニーを楽しめる。

▲泣き虫「Shake It Now.(feat. Ado)」

 泣き虫が作詞作曲をしyamaが歌った「Hello/Hello feat. yama, 泣き虫」は、セブンイレブンのWebアニメ『レインボーファインダー~ときめきは、すぐそばに。~』の第一話で使用され、すでに話題となっている。さわやかな青春チューンにyamaの伸びやかな歌が風のように響き、普段ダークな曲を歌うことが多いyamaの、新たな魅力に触れられる一曲だ。アルバムには収録されていないが、YouTubeや配信で聴くことができる。一度フルで聴いてみれば、泣き虫のプロデューススキルやソングライティングの引き出しの広さに驚くだろう。

▲MAISONdes「Hello/Hello feat. yama, 泣き虫」

 なお、この曲はフルバージョンが「MAISONdes」というYouTubeチャンネルから投稿されている。「MAISONdes」が一体誰なのか、何かのプロジェクトなのか、その全貌は明らかになっていない。ただ、楽曲公開時にはTwitterアカウントから「本日より、#yama さん( @douhwe )#泣き虫さん( @rarirari_life )ご入居。記念すべき一部屋目の歌、是非お聴きください。」というツイートも投稿された。この内容を見るに、これからも入居アーティストは増えていくように予想できる。このコラボレーションが2人にとってどんな意味を持つのか、「MAISONdes」が一体何者なのか、合わせて注目したい。

 最後に、これからのネット音楽シーンを象徴するであろう言葉として、YOASOBI・Ayaseの言葉を引用したい。彼は2020年末、同じくボカロ出身の須田景凪(バルーン)との対談において“ここ1、2年で「ネット発」みたいな言葉は消えると思います”と話している。(引用元:「The VOCALOID Collection」特集第3回 須田景凪×Ayase|僕らは「ネット発」と呼ばれる最後の世代 - 音楽ナタリー)この発言に象徴されるように、ネット発であることが帯びていた特別性は、徐々に薄れてきている。ネット発のアーティストはすでに1つの強力なスタンダードとなっており、一方メジャーアーティストにとっても、ネットでの活動はもはや必須だ。音楽を特徴づける上でルーツが持つ意味はなくなり、楽曲の評価軸も、少しずつ変わっていくのかもしれない。

Text by ヒガキユウカ

泣き虫□「rendez-vous」

rendez-vous

2021/02/10 RELEASE
PCCA-4998 ¥ 2,750(税込)

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Disc01
  1. 01.からくりドール。
  2. 02.アイデンティティ。
  3. 03.くしゃくしゃ。
  4. 04.アルコール。
  5. 05.心配性。
  6. 06.夢遊。 (Acoustic Ver.)
  7. 07.Shake It Now. (feat.Ado)
  8. 08.POISON.
  9. 09.ケロケ論リー。
  10. 10.9
  11. 11.207号室。
  12. 12.ネモネア。

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