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対談:玉置典子×栁澤寿男──最も近くで見てきた二人が語る「玉置浩二」
2021年、玉置浩二のプレミアム・シンフォニック・コンサート『THE EURASIAN RENAISSANCE “ОТТЕПЕЛЬ(オーチェペリ)” 』が1月22日からスタートする。昨年、予定されていた「THE EURASIAN RENAISSANCE “РОМАШКА(ロマーシカ)” -CURTAIN CALL-」公演を改めて上演する本公演は、コロナ禍で聴衆の前に立てなかった玉置にとって、1年2ヶ月ぶりのコンサート・ツアーとなる。ここでは、圧倒的な歌唱力と表現力でますますスケール感を増した玉置浩二の魅力と、その類い稀な音楽性について、マネージメント・サイドから玉置典子さん、玉置とは2015年来の付き合いで、ビルボードクラシックスで多くの指揮を執る栁澤寿男さんにおおいに語っていただいた。
「玉置さんは常に音楽のことしか考えていないようなとってもピュアな人」
――2021年の玉置浩二さんのプレミアム・シンフォニック・コンサートがいよいよ始まります。
玉置典子(以下、玉置):ようやく開催の運びとなりました。タイトルに冠した「ОТТЕПЕЛЬ(オーチェペリ)」は、ロシア語で「雪解け」を意味する言葉。やっと皆さんの前で公演ができる日を玉置も待ちに待っていました。
栁澤寿男(以下、栁澤):僕も同じです。2月11日の東京公演で予定されていたバルカン室内管弦楽団はこのコロナ禍により来日が中止になってしまいましたが、世界中の往来が厳しい今は致し方ないですね。
玉置:栁澤先生には東京と熊本公演で指揮をしていただくのですが、この素晴らしいコラボレーションを楽しみに玉置も張り切っております。
――昨年の大晦日の第71回NHK紅白歌合戦に玉置浩二さんは24年ぶりに出場し、栁澤さん指揮のオーケストラと共演。「田園」の熱いパフォーマンスが評判になりましたね。
栁澤:いやぁ、 本当に素敵なサプライズでしたね!昨年はコロナ禍で多くのコンサートが中止になりましたが、玉置さんは歌うのは久しぶりだったんでしょうか?
玉置:去年はコンサートがすべて中止になってしまったので、本人はスランプに陥ってしまい、歌うのを止めてしまおうかとすら思っていました。これまでずっと歌い続けてきた人ですので、歌う場がなくなると自分の存在価値を見出すことができなくなってしまって。そこで、6年ぶりにアルバムのレコーディングから始めて、だんだん調子を取り戻していった感じでした。
栁澤:去年の12月に発売された新作『Chocolate cosmos』ですね!
玉置:そうです。今まで数々のアーティストの方に提供した楽曲を新たなアレンジで自らが歌ったアルバムなんですが、この制作がなかったら紅白まで辿り着けなかったような気がします。
▲玉置浩二『Chocolate cosmos』MUSIC VIDEO
栁澤:玉置さんは常に音楽のことしか考えていないようなとってもピュアな人なんだと思うんですよね。僕なんかは仕事で音楽をやっていると、たまには音楽から離れたい!と思う時もあるんですが(笑)、玉置さんはそれがないんですよね。
玉置:まさにそうなんです。音楽はもちろん、音そのものが好きなんだと思います。
栁澤:去年は、我々も含めてどんなアーティストも歌うこと、演奏することができない1年でしたから、肉体的にも精神的にもブランクがあったわけですが、紅白の「田園」を目の前で聴いて、さすが玉置さん、声、まとめて来るなぁと感激していました。
玉置:普段からあえて時間を作って歌の練習をする人ではないんですけどね。
栁澤:演奏家は少しでも演奏していないと感覚が鈍ってしまうんです。指揮者もそうです。だから、玉置さんのブランクを一切感じさせない歌に驚きました。
玉置:WOWOWで放映された「玉置浩二 Chocolate cosmos ~恋の思い出、切ない恋心」の無観客ライブや、NHK BSプレミアムの「玉置浩二ショー」の収録があったことも大きかったと思います。
栁澤:年齢を重ねると普通は音程が下がってきたりするものですが、玉置さんはそれがまったくないですよね。
玉置:実を言うと、喉を鍛えるため声を無理に出して、一時はあえて声をつぶしたんです。紅白の時はちゃんと戻すことができてよかったです。
栁澤:玉置さんは、声を日々コントロールする精神力と繊細さがあるんですよね。
玉置:だから、公演が始まると大変なんですよ。期待が大きい分、喉に対するプレッシャーも相当だと思います。私の存在なんてあってないようなもので(笑)。
栁澤:ただ、玉置さんの活動に典子さんがいるという安心感は大きいはずですよ。
玉置:まぁ、そうですね、お互いに助け合って、補い合いながらなんとか生きています。
栁澤:玉置さんの歌声を待っている人はたくさんいますからね。2020年は大変な年だったので、大晦日に玉置さんの「田園」を聴いて救われた人もいると思います。
――「田園」のアレンジが、ベートーヴェン「田園」とのマッシュアップになっていて大きな話題になりました。
栁澤:去年はベートーヴェン生誕250周年イヤーでもあったので、玉置さんの「田園」×ベートーヴェンの「田園」がぴったりでしたね。
玉置:それはすごく反響をいただきました。
栁澤:僕は今まで「田園」といえばベートーヴェンの6番だったんですが、玉置さんと出会ってからは変わってしまいました(笑)。玉置さんもベートーヴェンも人が生きていく生命力や、そのスピリッツにおいては伝えたいことは同じことのような気がします。素晴らしいコラボレーションですね。
公演情報
玉置浩二 PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2021
『THE EURASIAN RENAISSANCE “ОТТЕПЕЛЬ(オーチェペリ)” 』
東京:2021年1月22日(金)開場17:00 開演18:00 東京文化会館 大ホール ※販売終了
東京:2021年2月11日(木・祝)開場16:00 開演17:00 東京国際フォーラム ホールA ※完売
大阪:2021年2月27日(土)開場16:00 開演17:00 フェスティバルホール ※残席わずか
大阪:2021年2月28日(日)開場15:00 開演16:00 フェスティバルホール ※残席わずか
熊本:2021年3月8日(月)開場18:00 開演19:00 熊本城ホール メインホール ※完売(キャンセル待ち受付中)
札幌:2021年3月23日(火)開場18:00 開演19:00 札幌文化芸術劇場hitaru
出演:玉置浩二
指揮:
栁澤寿男(東京・熊本公演)
円光寺雅彦(大阪・札幌公演)
管弦楽:
新日本フィルハーモニー交響楽団(1/22)
ビルボードクラシックスオーケストラ(2/11)
京都フィル・ビルボードクラシックスオーケストラ(2/27, 28)
九州交響楽団(3/8)
札幌交響楽団(3/23)
>>公演詳細はこちら
「音楽は苦難を乗り越える助けになることがある」
――玉置さんがオーケストラと共演するビルボードクラシックスの公演を始めたのは2015年。当初はどのような意識で取り組まれたのでしょうか?
玉置:玉置浩二は安全地帯でデビューして、ソロでも活動を重ねてきましたが、オーケストラとの出会いは彼の音楽観や歌い方を確実に変えたと思います。彼はどうしてもシンガーとしての存在感が注目されてしまいがちですが、作曲家として今までつくってきた曲の数々がオーケストラの編曲と演奏によってより際立つということを認識できたことは大きかった。例えば、「キラキラ ニコニコ」のような小さな日常を歌った楽曲が壮大なオーケストラの演奏ですごく生き生きとする奇跡を彼自身が感じたんだと思います。
栁澤:それは興味深いお話ですね。僕も今まで色んな歌手の方とクラシックとポップの融合を試みてきましたが、中には「オリジナルの方がいいんじゃないかな?」と思うこともあって、オーケストラとの融合が必ずしも成功するわけではないんだと思います。オリジナルからアレンジのイメージが離れすぎて、本人が本領を発揮できなかったり、オーケストラもうまく力が出し切れないというケースもありますから。でも、玉置さんは最初から凄かったですね。
――その違いはどこで感じられましたか?
栁澤:先ず、歌唱力が圧倒的ですし、皆さんがおっしゃるように音程が良くない時がない。あと、玉置さんがスゴいのはアンサンブルする能力ですね。オーケストラの音をホントによく聴いている。何十人もの音を聴き取り、その音の中で自分が合わせるツボを瞬時に判断できる人なんですよ。だから、オーケストラの一員に近いのかも知れません。歌唱力とアンサンブル能力は違う能力ですので、本当に素晴らしいと思います。
玉置:有り難いお言葉です。オーケストラとの共演を始めた最初の頃は、やはりリズムを取るのが難しかったようですが、だんだん感覚が掴めてきてからはすごく楽しくなってきたと。「JUNK LAND」とかよくオーケストラと合わせられるなと思います。オーケストラとマエストロと玉置浩二が一体となる時間は、私も鳥肌が立ちますね。
栁澤:歌詞とオーケストラのアレンジがよく噛み合っているのも一緒に盛り上げやすい要因なんですよ。もちろん元の楽曲が素晴らしいことが条件ですが、その上でオーケストラアレンジが細部まで本当によくできています。言葉と音楽の一体化という意味ではオペラのイメージに似ているとも言えますね。
――玉置さんは、デビュー33年目に50代でチャレンジしたオーケストラとの共演を“音楽の宿命的出会い”と明言されていますね。
玉置:彼の音楽人生にとって大きな出会いだったと思いますね。私はかまやつひろしさんが生前におっしゃっていた「玉置は人に気を遣う奴だから、ホントはグラウンドを何周も走れるのに1周しか走らないんだよな」という言葉を思い出すんです。オーケストラとの共演は、彼の持っている音楽の能力のすべてを発揮できる場所なんだと思います。そのことに50を過ぎて、ようやく目覚めて、花開いたんでしょうね。
栁澤:そうなんですか!
玉置:「行かないで」という曲はそれまでのコンサートではあまり歌っていなかったんですが、オーケストラによって映画のようなラブストーリーになって、私も感激しました。そういう新たな可能性も発見できました。
栁澤:僕も玉置さんの「ルーキー」という楽曲を初めてCDで聴いたときは涙が止まらなくなりました。「君のためなら僕だってまだやれる」という歌詞と歌が心に突き刺さって、涙がどうしても止まらなくなって・・・。僕はポップスやロックはそれほど聴いてきたわけではないんですが、玉置さんと共演するようになって、あらためて、どこまでもピュアで、どこまでも熱くて絶対的な音楽性を持っている玉置さんを心から尊敬し、感動しています。
玉置:玉置も栁澤さんとはバンド仲間に近い感覚を持っているみたいなんです。ステージに立って客席を向くと、栁澤先生の指揮は見えないのですが、すごく歌いやすいと。
栁澤:アルバムを聴くとジャンルの幅も広くて、僕は指揮者だから分析して聴いてしまうんですが、マイナーの楽曲で最後にそっと優しくメジャーコードになる「Friend」なんかは、絶望の中に最後に一瞬現れるメジャーコードが切なすぎて、楽曲の作り方にも唸らされました。
――2016年には、栁澤さんの著書「バルカンから響け!歓喜の歌」に感銘を受けた玉置さんが、「歓喜の歌」を作曲されましたね。
栁澤:あの曲が生まれたのは、コンサートの終演後、名古屋のホテルのエレベーターホールでしたね。
玉置:そう。あのとき、「あっ、思いついた!」っていきなり歌い始めて、横にいたスタッフが慌てて録音したんです。玉置はなんでもない時に、ふとメロディが出てくる人なんです。
栁澤:モーツァルトのようですね!
玉置:自分の頭の中にはもっといい音楽が鳴っているらしいんです。それを表現するまでは音楽を続けたいと言っています。「歓喜の歌」は、栁澤さんのバルカンでの活動や戦禍にあっても音楽が人を救うというメッセージに玉置が心を動かされて生まれたんですが、音楽の力を信じている同士の共感があったと思います。
栁澤:そうですね。僕は戦禍で傷ついた人たちが、音楽の力で変わっていくことを実際に経験してきました。音楽は苦難を乗り越える助けになることがある。
玉置:音楽は聴く人がいて成り立つものだということを、玉置もこのコロナ禍で強く感じたようです。その分、熱いものを溜め込んでいるはずです。
――今年のプレミアム・シンフォニック・コンサートについて、お二人から見所を教えていただけますか?
玉置:玉置の40年近い音楽人生でこんなに長く人前で歌っていなかったことはなかったので、今回の公演は皆さんの前で歌えることの有り難さを噛みしめるコンサートになると思います。
栁澤:オーケストラもやはり、聴く人がいて成り立つものだし、客席の熱気や気持ちが演奏にフィードバックしていくんだと思います。1年のブランクを経て、玉置さんの圧倒的な歌唱力とオーケストラのアンサンブルはますます熱くなっていく気がしますね。
玉置:音楽の素晴らしい瞬間は人の心がほどける時でもあるし、玉置は客席と一体になった時に丸い輪っかが見えるそうなんです。「あれはきっと愛だな」って言ってました。会場でお客さんとその悦びを早く分かち合いたいですね。
栁澤:玉置さんはリハーサルから全開で歌いますからね。
玉置:リハーサルだからおさえて歌うということが出来ないみたいなんですよ。
栁澤:だから、当日は本番を2回やっているような感じなんですよ。
玉置:私としてはもう少し上手に生きてほしいんですけどね(笑)。
栁澤:でも、そこが玉置さんの魅力なんですよ。玉置さんは音楽にどこまでもピュアな人なんだと思います。僕は玉置さんの楽曲でオーケストラで聴いてみたい楽曲がまだまだあるんです。「aibo」「常夜灯」「虹色だった」「消えない夜」「風」「Juliet」「微笑みに乾杯」「ルーキー」・・・きりがないですね。それに、オーケストラでできなそうな「NO GAME」「最高でしょ?」「金持ちさんちの貧乏人」「”Hen”」みたいな、ロックとクラシックで、普段決して交じり合わうことない音楽たちを、融合アートという形で玉置さんと気持ちを共有してみたいですね。
玉置:栁澤さんセレクトのセットリストも面白そうです。今後さらに、新しい楽曲がオーケストラで花開く瞬間を見てみたいですね。オーケストラとの音楽の可能性をこれからも彼はさらに深く探っていくことになると思います。
▲玉置浩二 Premium Symphonic Concert 2021 『THE EURASIAN RENAISSANCE “ОТТЕПЕЛЬ”』CM
公演情報
玉置浩二 PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2021
『THE EURASIAN RENAISSANCE “ОТТЕПЕЛЬ(オーチェペリ)” 』
東京:2021年1月22日(金)開場17:00 開演18:00 東京文化会館 大ホール ※販売終了
東京:2021年2月11日(木・祝)開場16:00 開演17:00 東京国際フォーラム ホールA ※完売
大阪:2021年2月27日(土)開場16:00 開演17:00 フェスティバルホール ※残席わずか
大阪:2021年2月28日(日)開場15:00 開演16:00 フェスティバルホール ※残席わずか
熊本:2021年3月8日(月)開場18:00 開演19:00 熊本城ホール メインホール ※完売(キャンセル待ち受付中)
札幌:2021年3月23日(火)開場18:00 開演19:00 札幌文化芸術劇場hitaru
出演:
玉置浩二
指揮:
栁澤寿男(東京・熊本公演)
円光寺雅彦(大阪・札幌公演)
管弦楽:
新日本フィルハーモニー交響楽団(1/22)
ビルボードクラシックスオーケストラ(2/11)
京都フィル・ビルボードクラシックスオーケストラ(2/27, 28)
九州交響楽団(3/8)
札幌交響楽団(3/23)
>>公演詳細はこちら
Chocolate cosmos
2020/12/23 RELEASE
COCB-54320 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.Winter Leaf~君はもういない
- 02.むくのはね
- 03.泣きたいよ
- 04.ホームレス
- 05.ママとカントリービール
- 06.マスカット
- 07.花束
- 08.ティンクル
- 09.スコール
- 10.忘れない
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