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<コラム>デュア・リパ『Future Nostalgia』から紐解く、新世代のポップ・アイコン像と根底にあるジェンダー・イクオリティへの想い



インタビュー

“現実逃避”のパワーを持つディスコ・ミュージック

 「家から出なければよかった」。そう繰り返す「Break My Heart」によって、デュア・リパはパンデミック下の“自粛の女王“になった。本来は情熱的な恋愛への恐怖心を描くダンス・チューンだが、「知っていたら家に閉じこもっていた」とも歌うリリックが、自宅での自主隔離を求められる2020年の状況にピッタリはまったのだ。実のところ、この曲がリリースされた3月より前から、彼女は“自粛の女王”だったとも言える。2019年10月にリリースされた「Don't Start Now」の一節「出てこないで/顔を出さないで」をモチーフにしたウォール・アートもダブリンの街並みに登場しているのだから。



Dua Lipa - Break My Heart (Official Video)




 こうして、デュア・リパの2ndアルバム『Future Nostalgia』は2020年を象徴する作品となった。もちろん、このダンス・ポップ・アルバムを作っていた頃の彼女がパンデミックを予期していたわけではない。偶然によって生まれた自主隔離アンセムと言えるだろう。しかし、この偶然にはしっかりとした下地がある。『Future Nostalgia』のメイン・テーマは“現実逃避”である。時を遡ること2017年ごろ、デビュー・アルバム『Dua Lipa』によってグラミー賞最優秀新人賞を筆頭とする成功を収めた1995年生まれの彼女は、若くして大きな注目と中傷に晒されていった。そこで、デュアはソーシャル・メディアのアプリを削除したデトックス状態で『Future Nostalgia』の制作に専念したのだという。ロンドンで活動するコソボ出身のフェミニストということもあり、過激化する政治混乱への怒りもあった。だからこそ、外界からの意見やプレッシャーをシャットダウンする“現実逃避”のパワーを持つディスコ・ミュージックを志向した。そうした音楽がパンデミックによってより一層求められるようになったことは言うまでもない。アルバム・テーマの核をなすダフト・パンク風ディスコ「Levitating」の第一声を耳にさえすれば、デュア・リパが信奉する“現実逃避”の音楽の力を実感できるはずだ。「私と逃げたいなら銀河系に行きましょう、連れていってあげる」



Dua Lipa - Levitating Featuring DaBaby (Official Music Video)


 「2020年Spotifyで最も再生された女性アーティストのアルバム」となった『Future Nostalgia』の楽曲群は、それぞれ1970年代から1990年代のような独特なダンス・ヴァイブを孕んでいる。当人の言葉を借りるなら、往年のディスコやダンス・クラブとモダンなエレクトロ・プロダクションをミックスした仕上がりだ。そのパワフルなストレートさといったら、王道のダンス・ポップを渇望していたリスナーのあいだで「デュア・リパはポップの救世主」と称揚するムーブメントを起こすほどだった。


ステレオタイプを打破するアルバム

 そんな『Future Nostalgia』のサウンド・スタイル自体も、デュア・リパのパーソナルな体験を基にしている。幼少期、両親がかけたジャミロクワイやモロコ、ブロンディ、プリンスを聴きながら家の中で踊った思い出、そのモダンな復元こそこのプロジェクトのバックボーンなのだ。それゆえ、『Future Nostalgia』にはレジェンダリー・アーティストのクラシックが散りばめられている。ABBAやユーリズミックスのエッセンスをエネルギッシュに放つ「Physical」は、タイトルそのままオリヴィア・ニュートン・ジョンの同名曲をリファレンスしている。サマー・アンセム「Cool」は父親が愛聴したプリンスへのリスペクト。デュアのフェイバリット「Love Again」ではホワイト・タウンの90年代ヒット「Your Woman」がサンプリングされている。若者たちを踊らせる一方、年長者も存分に楽しませる“新しくも懐かしい”ダンス・ポップ・アルバムと言えるだろう。



Dua Lipa - Physical (Official Video)


 「結局、私たちはみな偉人のもとにある。ファッションから音楽に至るまで、すべてが回帰しつづける。だから、重要なのは、それを認識しつつ新しいやりかたを生み出していくこと」。先人へのリスペクトを欠かさないデュア・リパだからこそ、The Blessed Madonnaとのリミックス・アルバム『Club Future Nostalgia』も魔法のような企画になった。星野源やBLACKPINKの参加も話題になった同作は、彼女がインスピレーション源として公言してきたマドンナやグウェン・ステファニーも参加しているのだから、贅沢かつ運命的だ。加えて、2020年11月に主催したバーチャル・コンサート【Studio 2054】でも、「生涯一番のヒーロー」として敬愛するディスコの女王カイリー・ミノーグと共演を果たすこととなった。愛する音楽をネクスト・レベルなかたちで継承する彼女の姿を知れば、オープニング・トラック「Future Nostalgia」における勝ち気な宣言も違ったかたちで聴こえるかもしれない。「タイムレスな曲が欲しいでしょ/私はゲームを変えたい」



 外界をシャットダウンする“現実逃避”なサウンド志向は、デュア・リパにとって「他人がどう言おうと自分が本当に誇れるアルバム」の創造を意味した。彼女を突き動かしたものの一つは、音楽産業にも根強い性差別の問題である。もともと、ソーシャル・メディアのデトックスの一因には、リゾやロザリアといった同性アーティストとの親交がTwitterでバッシングを受けた騒動がある。メディアや批評家、リスナー間の女性蔑視傾向も問題視し、女性同士のサポートやコラボレーションを率先的に行なうデュア・リパが誇りをかけて創造したからこそ、『Future Nostalgia』はフェミニズム作品でもある。たとえば、オープニングの「Future Nostalgia」は、あえてマッチョな男性のように自信を見せる挑発的な歌詞が踊っている。これと対になる楽曲が、クロージング・トラックの「Boys Will Be Boys」だ。男子からの暴力に備えて鍵を拳に潜ませる自身の体験を交えたリリックは、日々の生活で男子との対立やハラスメント被害を避けるように暮らさなければいけない女子の境遇をテーマとしている。「男の子は男の子になる、でも女の子は女性になる」。男児が暴力的な行動を許容されがちな一方、女児はそれらを許容する“大人”になることを求められる……そんな社会規範や大人たちの言い分には従わなくてもいい。そんな想いが、この楽曲には宿っている。“深く考えず踊る幸福”を提供する『Future Nostalgia』のテーマから逸脱したかのようにもうつるラストは、情緒的で、かくもデュア・リパらしい。



Dua Lipa - Boys Will Be Boys (Official Lyrics Video)


 「女性の仕事は常に貶められている」。そう語るデュア・リパは、『Future Nostalgia』のハッピーなダンス・ポップ・サウンドが高評価されにくく、むしろ“くだらない商業作品”と一蹴にされやすいことも理解していた。こうした女性ポップ・アーティストへの過小評価を正すミッション──ステレオタイプを打破するほどの力と魅力を持ったアルバムの創造──もまた、彼女が意識的に立てた目標だ。これはなかなかに険しい道かもしれない。前出の発言が掲載された2020年4月のThe Guardianインタビューの記者も「ポップに身を置く女性が“本物”と評されるのはピアノで悲痛に歌うときだけ」と記している。それでも、デュア・リパは自信を見せていた。「何事も、時が経てば分かる」。案外、彼女が思うよりも早く、その“時”は来たのかもしれない。2020年11月、『Future Nostalgia』は「ダンスミュージック不遇」と囁かれるグラミー賞において、主要四部門のうち、すでに受賞した最優秀新人賞を除く、三部門全てのノミネーションを受ける快挙を成し遂げたのだから。


Text by 辰巳JUNK

デュア・リパ「フューチャー・ノスタルジア・ボーナス・エディション」

フューチャー・ノスタルジア・ボーナス・エディション

2020/11/27 RELEASE
WPCR-18398/9 ¥ 3,190(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.フューチャー・ノスタルジア
  2. 02.ドント・スタート・ナウ
  3. 03.クール
  4. 04.フィジカル
  5. 05.レヴィテイティング
  6. 06.プリティー・プリーズ
  7. 07.ハルシネイト
  8. 08.ラヴ・アゲイン
  9. 09.ブレイク・マイ・ハート
  10. 10.グッド・イン・ベッド
  11. 11.ボーイズ・ウィル・ビー・ボーイズ
  12. 12.レヴィテイティング (feat.ダベイビー)
  13. 13.ドント・スタート・ナウ (クングス・リミックス) (Bonus Tracks)
  14. 14.グッド・イン・ベッド (ゲン・ホシノ・リミックス) (Bonus Tracks)

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