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<コラム>デュア・リパ『Future Nostalgia』から紐解く、新世代のポップ・アイコン像と根底にあるジェンダー・イクオリティへの想い
“現実逃避”のパワーを持つディスコ・ミュージック
「家から出なければよかった」。そう繰り返す「Break My Heart」によって、デュア・リパはパンデミック下の“自粛の女王“になった。本来は情熱的な恋愛への恐怖心を描くダンス・チューンだが、「知っていたら家に閉じこもっていた」とも歌うリリックが、自宅での自主隔離を求められる2020年の状況にピッタリはまったのだ。実のところ、この曲がリリースされた3月より前から、彼女は“自粛の女王”だったとも言える。2019年10月にリリースされた「Don't Start Now」の一節「出てこないで/顔を出さないで」をモチーフにしたウォール・アートもダブリンの街並みに登場しているのだから。
Dua Lipa - Break My Heart (Official Video)
📸 | A #COVIDー19 @DUALIPA mural spotted in Ireland recently! [@DuaLipaIRL] pic.twitter.com/GTWtQ8M5jk
— Dua Lipa Hungary (@dualipahungary) March 31, 2020
こうして、デュア・リパの2ndアルバム『Future Nostalgia』は2020年を象徴する作品となった。もちろん、このダンス・ポップ・アルバムを作っていた頃の彼女がパンデミックを予期していたわけではない。偶然によって生まれた自主隔離アンセムと言えるだろう。しかし、この偶然にはしっかりとした下地がある。『Future Nostalgia』のメイン・テーマは“現実逃避”である。時を遡ること2017年ごろ、デビュー・アルバム『Dua Lipa』によってグラミー賞最優秀新人賞を筆頭とする成功を収めた1995年生まれの彼女は、若くして大きな注目と中傷に晒されていった。そこで、デュアはソーシャル・メディアのアプリを削除したデトックス状態で『Future Nostalgia』の制作に専念したのだという。ロンドンで活動するコソボ出身のフェミニストということもあり、過激化する政治混乱への怒りもあった。だからこそ、外界からの意見やプレッシャーをシャットダウンする“現実逃避”のパワーを持つディスコ・ミュージックを志向した。そうした音楽がパンデミックによってより一層求められるようになったことは言うまでもない。アルバム・テーマの核をなすダフト・パンク風ディスコ「Levitating」の第一声を耳にさえすれば、デュア・リパが信奉する“現実逃避”の音楽の力を実感できるはずだ。「私と逃げたいなら銀河系に行きましょう、連れていってあげる」
Dua Lipa - Levitating Featuring DaBaby (Official Music Video)
「2020年Spotifyで最も再生された女性アーティストのアルバム」となった『Future Nostalgia』の楽曲群は、それぞれ1970年代から1990年代のような独特なダンス・ヴァイブを孕んでいる。当人の言葉を借りるなら、往年のディスコやダンス・クラブとモダンなエレクトロ・プロダクションをミックスした仕上がりだ。そのパワフルなストレートさといったら、王道のダンス・ポップを渇望していたリスナーのあいだで「デュア・リパはポップの救世主」と称揚するムーブメントを起こすほどだった。
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リリース情報
アルバム『Future Nostalgia (Bonus Edition)』
2020/11/27 RELEASE
2CD/WPCR-18398/2,900円(tax out)
フューチャー・ノスタルジア・ボーナス・エディション
2020/11/27 RELEASE
WPCR-18398/9 ¥ 3,190(税込)
Disc01
- 01.フューチャー・ノスタルジア
- 02.ドント・スタート・ナウ
- 03.クール
- 04.フィジカル
- 05.レヴィテイティング
- 06.プリティー・プリーズ
- 07.ハルシネイト
- 08.ラヴ・アゲイン
- 09.ブレイク・マイ・ハート
- 10.グッド・イン・ベッド
- 11.ボーイズ・ウィル・ビー・ボーイズ
- 12.レヴィテイティング (feat.ダベイビー)
- 13.ドント・スタート・ナウ (クングス・リミックス) (Bonus Tracks)
- 14.グッド・イン・ベッド (ゲン・ホシノ・リミックス) (Bonus Tracks)
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