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「ピーナッツ」70周スヌーピー・オーケストラ・コンサート 公演直前特集

インタビュー

 2020年12月24日、東京文化会館大ホールにて【billboard classics PEANUTS 70th Anniversary SNOOPY Premium Symphonic Christmas Concert】 が開催される。本公演は、2020年10月に生誕70周年を迎えたPEANUTSと、ビルボードクラシックスのコラボレーションコンサートだ。本稿では、公演を記念し音楽監督を務める宮本貴奈へインタビューを実施。公演の聴きどころや、当日の演奏予定曲などについて話を聞いた。

ヴィンス・ガラルディによる『チャーリー・ブラウンのクリスマス』サウンドトラックの魅力

 『A Charlie Brown Christmas(チャーリー・ブラウンのクリスマス)/ヴィンス・ガラルディ』は配信/ストリーミングを含めると400万枚を優に超えるというベストセラーだ。ジャズではマイルス・デイビスの『カインド・オブ・ブルー』とともに、二強作品と言っても過言ではない。ところが、ジャズ・アルバムのベスト・セラーとして、検索するとなぜかチャートには入ってこない。1963年にグラミー賞を受賞し,2007年にグラミー「ホール・オブ・フェイム」に選ばれ,12年には米国会図書館の「ナショナル・レコーディング・レジストリー」に選定され永久保存されるという栄誉を得た作品であるのに摩訶不思議な様相を呈している。

 1965年12月9日にCBSの30分番組としてオンエアされた『スヌーピーのメリー・クリスマス』は、45%の視聴率を記録し,エミー賞、ピーボディ賞を受賞。ピーナッツのテレビ放映権はワーナー・ブラザーズに、さらにABCがスペシャル番組の権利を得たのち、2020年10月にはアップルTVプラスが権利を取得した。これは55年を経ても永遠不滅のコンテンツであることを如実に物語っている。本編と劇伴(サウンドトラック)はともに輝かしいコンテンツなのに,現代の日本のファンには,もふもふのスヌーピーとピーナッツのかわいい子供たちのクリスマスに「音楽もあったの?」と言われてしまっている…これが二つ目の不思議。

 その理由は,『チャーリー・ブラウンのクリスマス』のサウンドトラックが,日本では音楽作品としてのみならず,ジャズ作品としても認められていないという嘆かわしい実情が大きく響いているのではないかと、筆者は考えてきた。そこで14年の映画『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』の公開にあわせて、筆者が編集長を務める「JaZZ JAPAN」のVOL.64で40数ページにおよぶ「PEANUTS & JAZZ〜スヌーピーが愛したヴィンス・ガラルディの音楽」という特集を組んだのだ。6年が過ぎ、次の機会を狙うなか、ジャズ界で最注目株の宮本貴奈が,【PEANUTS 70th Anniversary SNOOPY Premium Symphonic Christmas Concert】の音楽監修を務めると知り,はやる心を抑えながら彼女にコンサートの抱負を聞いた。

 「このヴィンス・ガラルディの音楽は大好きですし,アメリカでは一家に一枚と言ってもいい作品なのに音楽の良さが日本スヌーピー・ファンにイメージされていないのがとても残念。今回の大役を引き受けるのには大きな責任と使命感を感じています」。

 宮本貴奈、世界的指揮者の栗田博文、東京フィルハーモニー管弦楽団という一流の顔合わせは、スヌーピー・ファンにかけがえのない感動をもたらしてくれるに違いない。しかも、65年の番組『スヌーピーのメリー・クリスマス』は、プロデューサーのリー・メンデルソン、アニメーターのビル・メレンデス、原作者のチャールズ・M.シュルツ、サントラのヴィンス・ガラルディの情熱が結集した作品であり、1+1+1+1=4ではない成果を生んだ作品。いま,時を超えたピーナッツとヴィンスの音楽を愛するものたちの想いが、ここにいくつの数字を加えていくのだろうか。

 では当日のセット・リストを宮本貴奈のコメントとともに紹介しよう。このアニメのテーマ・ソングである「クリスマス・タイム・イズ・ヒア」はトリオ、オーケストラ、合唱団の編成。アルバムではカリフォルニア・サンラファエルのセントポール教会聖歌隊が歌っているが、当日は横浜少年少女合唱団がコーラスで入り、オリジナルと同じ「マイ・リトル・ドラム」や他数曲にも参加する。

 「オリジナルが小学校2~3年生の設定なので、合唱団にはうまくきれいに歌うのではなく、あどけなさとかわいらしさを出して、チャーリー・ブラウンのクラスメートたちが歌っている雰囲気を出してくださいねとお願いしました」。

 「スケーティング」はトリオとオーケストラ編成。トリオはピアノの宮本貴奈と日本で活躍するアメリカ人アーティスト、パット・グリン(ベース)とジーン・ジャクソン(ドラム)。この人選については「こういう機会なのでアメリカンの2人に、アメリカを代表してもらいました」と宮本は語る。たしかに子供の頃からピーナッツに親しんできた2人と、アメリカでの生活経験の長い彼女とのトリオはうってつけのキャスティングだろう。譜面は過去にピーナッツ・クリスマス・コンサートで名演を残したサンフランシスコ・シンフォニー・オーケストラ(以下SFSO)のもの。今回は宮本の新アレンジとSFSOの譜面にアップ・トゥ・デイトも加えたアレンジが楽しむことができる。スヌーピーの見事なスケーターぶりを音で彩った名曲の出来栄えに期待したい。

 そして「ホワット・チャイルド・イズ・ジス(グリーン・スリーブス)」は有名なトラディショナル曲を,ヴィンスへのリスペクトとも思えるトリオ編成に。

 「トリオだけでやっている曲はヴィンス・トリオのサントラの感じや雰囲気を崩さないようしたいですね」。

 「クリスマス・イズ・カミング」と「もみの木(O Tannebaum)」はトリオとオーケストラ編成でSFSOのスコアが使われる。ピーナッツ・キッズのはやる気持ちと厳かな気持ちをジャズで表現したオリジナルが、スコアを華麗に奏でるオーケストラと、刻々と変化するジャズ・ピアノ・トリオとのコラボでどう生まれ変わるのかが楽しみ。さらに「ハーク!ザ・ヘラルド・エンジェルス・シング」は聖歌の雰囲気をコーラスで出しながらブラス(管楽器)・アンサンブル(合奏)が加わり、「マイ・リトル・ドラム」はコーラス、トリオに後半でオーケストラが加わるというオリジナルに沿った構成ながらも彼女の新アレンジなので,何かが起きそうな予感…。

 「ユーアー・イン・ラヴ・チャーリー・ブラウン」は、テレビ版『ピーナッツ』がCBSからワーナー・ブラザーズに変わったと同時に、ヴィンスが長年所属してきたファンタジーからワーナーに移籍した第1作『オー・グッド・グリーフ!』収録曲で、本来の主役であるチャーリー・ブラウンにスポットを当てている。

 「日本では漫画やアニメよりもキャラクターとして知られ、なんとなくプレミア感のある存在ですが、チャーリー・ブラウンはいつも自己嫌悪に陥りがちなごく普通の少年なんです」というコメントにこの選曲がうなずける。

 「マイ・オウン・ドッグ・ゴーン・コマーシャル」は劇中では30秒ほどの曲で、サントラにも収録されていない。宮本はそんなレア曲をあえて選び「アニメではトランペットが印象的ですが、オーケストラのトランペット2本とトリオでチャレンジングにやっちゃいます」。スヌーピーがコンテストで賞金を得るために犬小屋を派手に飾り付けているのを知り、現実のクリスマスを嘆くチャーリー・ブラウンの気持ちがよりコミカルに表現されそうだ。

 「ライナス&ルーシー」は「チャーリー・ブラウンのテーマ」をさしおいてピーナッツ・サウンドの顔となった名曲。シンフォニー・オーケストラが主流だった当時のサントラ界にピアノ・トリオで挑んだパイオニア的存在だといえるだろう。「もとのグルーヴさをいかしながらもちょっとファンク調にしました。クラシックのトランペッターがアドリブに挑むソロもあります」(*グルーヴとは黒人音楽にある独特のうねるようなフィーリングで、そこによりアフロ・アメリカンの匂いであるファンクをプラスしたという意味)。

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スペシャル・ゲストには城田優も出演

 チャイコフスキーのくるみ割り人形「花のワルツ」はオーケストラのみの演奏で。「オーケストラの入った年末のコンサートですので、誰もが知っているクリマス曲を入れたいと思いました。アニメには入らずサントラには入ったメル・トーメ(ヴォーカリスト)の「ザ・クリスマス・ソング」は、城田優さんのヴォーカル・バージョンです」。城田はミュージカルを中心に活躍する俳優/歌手/シンガーソングライター。現在上演中のミュージカル「NINE」の主役に抜擢されるなど、テレビ・ドラマでもミュージカル俳優の実力が再認識されるなか、人気/実力でトップクラスの城田がこのコンサートに参加する意味は大きい。

 その参加曲は宮本のコメントでご紹介しよう。「ザ・クリスマス・ソング」に続き世界の有名なクリスマスのポップス・ソングで城田さんをフィーチャーします。メドレーではマライア・キャリーの「オール・アイ・ウォント・フォー・クリスマス・イズ・ユー」とワムの「ラスト・クリスマス」。さらに城田さんの魅力をあますことなく伝えられる試みも構想中です。デビッド・ベノワの「ジャスト・ライク・ミー」はフル・メンバーでのサポートになります」。デビッド・ベノワはヴィンス・ガラルディ亡き後のピーナッツ・ミュージックを継承したピアニストで、『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』でも大きな役割を果たしている。

 「ベンジャミン」は8エピソードのテレビ・シリーズ『ジス・イズ・アメリカ,チャーリー・ブラウン』に使われたデイブ・ブルーベックの曲で、CD『スヌーピーの月旅行(Quiet as the Moon)』に収録されている。「ジャズ・サンバの曲をオーケストラ・アレンジにして、フルート・セクションが大活躍します。続くリプライズの「クリスマス・イズ・カミング」は終盤でオーケストラの各セクション・リーダーがソリストになってもらい、アドリブ(即興)演奏をトレーディングすることでフィーチャーしたいと考えています。かなりハードルの高いパートになりますので,ベーシックのスコアは念のために準備しますが、完全なアドリブで行きたい方は“どうぞご自由に”という手法をとります。今回のポップス・オーケストラ的アプローチならではのお楽しみとハプニングに溢れたパートです!」。

 「サイレント・ナイト」はピアノとオーケストラとコーラスで既存のスコアを使い原曲に寄り添う。コーラスは英語→ハミング→日本語という構成。「ウィ・ウィッシュ・ア・メリー・クリスマス」も既存のスコアをリアレンジしてトリオ、オーケストラ,コーラスで明るく華やかにエンディングを飾る。

 ステージの演出については、敢えてアニメーションの静止画を使って新たなムービーを作りスクリーンに投影するという試みが行われる。素晴らしい演奏とこの動画が一体化することで、レトロ感と手触り感のあるクリスマス・コンサートになることだろう。アメリカの権利元との細やかなやりとりの中で、海外においても今までにないピーナッツ音楽のコンサートが実現するはずだ。

 最後に宮本貴奈からのファンへのメッセージを。「ピーナッツのストーリーをご存じなくても、ヴィンスのサントラを聴いたことがなくても、オーケストラやジャズを初めて聴かれる方も、スヌーピーをはじめとしたかわいいキャラクターたちをこよなく愛する方々に心から楽しんでもらえるステージをお届けしたいと思います。このステージを聴いて,ピーナッツの音楽に興味を持って戴ければ幸いです」。

 ヴィンス・ガラルディ(1928-1976)はチャーリー・ブラウンやスヌーピーとともに子供も大人もHAPPYにさせる音楽を生み出した。それが辛口なジャズ・ファンにはお気に召さなかったのかもしれない。が,55年を経たいま,宮本と仲間たちの生み出すピーナッツ+ジャズ+クラシックに異論を挟むものはいないだろう。この上なく楽しく,この上なく感動的なコンサートには,泉下のヴィンスも大いに喜んでくれるはずだ。

 『チャーリー・ブラウンのクリスマス』を含むヴィンスの『チャーリー・ブラウン~オリジナルサウンドトラック(Jazz Impressions of“A Boy Named Charlie Brown”)』『ピーナッツ・ポートレイツ』『スヌーピーとかぼちゃ大王』(18年に初作品化)が、生誕70周年記念としてリリースされている。リマスタリングで音質が向上し、古い録音とは思えない音で,ヴィンスとピーナッツの音楽を体験するにはうってつけのCDだといえるだろう。

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