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特集:COSA NOSTRA、bird、Wyolica ─3組の足跡から振り返る「日本のクラブ・ミュージック」の時代

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 思えば最後に「クラブ」に行ったのはいつだろう? そんな自問自答を誰もが抱えるに違いない2020年の晩夏。でも音楽が遠ざかってしまったように感じられる今だからこそ、求めたくなる音楽というものもまたあるはずだ。感染症対策を行いつつ営業を再開しているビルボードライブでは、この秋、クラブ・ミュージック以降の日本のシーンを彩ってきた COSA NOSTRA、bird、Wyolicaの3組が立て続けに出演。スタイリッシュでオリジナリティあふれるそれぞれのサウンドでステージを彩ってくれる。今回Billboard JAPANでは、そんなライブの開催を記念して90年代以降のシーンの変遷と、彼ら・彼女らアーティスト3組のこれまでの功績をともに紹介する。(以下、テキスト:栗本斉)

日本のクラブ・ミュージックの結晶としてのCOSA NOSTRA

 キラキラとしたバブルの残り香がまだ濃厚に漂う90年代初頭。当時の夜遊びといえば、なんといってもクラブ通いだ。80年代から「原宿ピテカン」「西麻布P.Picasso」「下北沢Zoo」といった場はあったにせよ、本格的にクラブが一般的に浸透していくのは90年代に入ってからだ。一足先に渋谷の公園通り上には「DJ BAR INKSTICK」が存在しユニークなイベントを行っていたが、1991年に「西麻布イエロー」がオープンしてからは海外からのDJも多数来日するようになった。その直後にはKyoto Jazz Massiveの沖野修也がプロデュースした渋谷の「The Room」が華々しく幕を開け、スカパラのメンバーや小西康陽などもレギュラーDJだった「三宿Web」も盛り上がりを見せた。青山の「blue」で行われていたU.F.O.のレギュラー・パーティーにジャズで踊るカッコよさを教えてもらい、「渋谷organ bar」は小箱ながら豪華なDJがブッキングされていて、毎日のように刺激的だった。こういったクラブでは、DJたちが次々と音楽のトレンドを生み出し、当時の渋谷系ムーヴメントとリンクして有名アーティストも多数訪れ、ときにはシークレット・ライヴを行うこともあった。まさに音楽シーンの発信源だったのだ。

 1991年に突如現れたCOSA NOSTRAは、こういったクラブ・カルチャーの結晶ともいえるグループだ。中心人物の桜井鉄太郎は音楽プロデューサーとしてすでに実績があったが、佐々木潤、長田定男というDJを巻き込み、クラブ・サウンドをキャッチーなポップスへと昇華することに成功した。1994年にリリースしたシングル「JOLIE」は、アル・クーパーのカヴァーという一般的にはマニアックな選曲でありながら、すでにレア・グルーヴやフリー・ソウル系のDJやオーディエンスにとってはクラブ・クラシックとなっていたこともあってブレイクし、1996年の「Girl Talk~Never Fall In Love Again~」はCMタイアップにも起用されて大ヒットを記録。CDがリリースされるたびに、タワーレコード、HMV、ヴァージン・メガストアといった大型CDショップで大々的に展開された。彼らの魅力は、DJ視点で構築されたおしゃれな洋楽的サウンドの新鮮さに加えて、鈴木桃子と小田玲子という2人のヴォーカリストによる華やかな歌もポイントだった。とりわけ『LOVE THE MUSIC』(1995年)、『world peace』(1995年)、『SEVEN』(1996年)、『TRIP MAGIC』(1997年)といった90年代半ばに残された傑作群の色鮮やかな輝きは、当時のクラブ・カルチャーを投影しているといってもいいだろう。2000年前後からCOSA NOSTRAはメンバーの脱退や活動休止を繰り返したが、常にクオリティの高いポップ・チューンを生み出し続けているのもさすがとしか言いようがない。


▲COSA NOSTRA『LOVE THE MUSIC』(1995年)

シーンと呼応しながらもその枠組みを超えていったbird

 クラブ・シーンが成熟すると、さらにジャンルも細分化されていき、クラブによって客層も変わっていった。特にヒップホップやR&Bはますます盛り上がりを見せ、1997年にオープンした渋谷の「Club Harlem」などは入場規制がかかるほど人気のパーティーが夜な夜な行われていた。そういったR&Bのシーンから大きなムーヴメントとなったのが、ディーバ・ブームと呼ばれる女性シンガーたちの台頭だ。1998年に颯爽と現れたMISIAはデビュー曲の「つつみ込むように…」のアナログが即完してプレミアが付くという話題性もあって、一気にブレイク。翌年には早くもアリーナ・ツアーを行うほどの人気となった。このジャンルではすでにUAやCharaといったスターは生まれていたが、MISIAに続けとばかり、Sugar Soul、SILVA、DOUBLE、ACO、Monday Michiruなどが続々とメジャー・シーンで活躍していく。


▲bird Bootleg Archives 『SOULS』LIVE 99.3.27

 birdもそういったムーヴメントと呼応してデビューしたひとりだ。もともとは大阪のジャズクラブで歌っていたそうだが、MONDO GROSSOの大沢伸一に認められ、1999年に彼のプロデュースによるシングル「SOULS」で鮮烈なデビューを飾った。同年に発表されたファースト・アルバム『bird』は、ソウル、R&B、ジャズ、ファンク、ヒップホップなどが絶妙にブレンドされた音楽的にも高度な傑作でありながら、70万枚を超える大ヒット作となる。彼女が今も本格派のヴォーカリストとして確固たる地位を築いているのは、ディーバやクラブといった枠組みに甘んじなかったことだ。2000年に発表したセカンド・アルバム『MINDTRAVEL』も大沢伸一が全面的にプロデュースをしていたが、アコースティックなボサノヴァ風の「二人の夜明け」や二胡をフィーチャーしたラヴァーズ・ロック「桜」なども収められ、単なるR&Bディーバではないという意思も感じられた。これには彼女の自然体なキャラクターや、実際にシーンの内側ではなく外へと向かっていったこともあるだろう。もちろんソウルやR&Bのテイストは濃厚にありながらも、ブラジル音楽やレゲエ、沖縄音楽にいたるまで様々なジャンルを取り入れる姿からは、そもそも狭いカテゴリに閉じ込められることができない器の大きさがあったことがわかる。それは、近年の『Lush』(2015年)や『波形』(2019年)といった今の音楽シーンを見据えたアルバムを聴いても十分に感じられるだろう。


▲bird『MINDTRAVEL』(2000年)

「動から静へ」Wyolicaが示したフォーキーという可能性

 90年代末から2000年代初頭の海外では、いわゆるクラブ系のR&Bとは一味異なるディアンジェロやエリカ・バドゥのような「ネオ・ソウル」といわれる新しいタイプのソウル・シンガーが多数ブレイク。そしてインディア・アリーの『Acoustic Soul』(2001年)がオーガニックなR&Bの決定打となった。一方で、クラブで遊んでいた人たちが、「夜カフェ」のような“動”から“静”へとライフスタイルを変えていったのも2000年前後の特徴だ。もちろんクラブ・シーン自体は活性化し続けていたが、経済的な面も含めて派手に夜遊びするという文化が特別なものとなっていき、クラブ・ミュージック界隈もメジャーとアンダーグラウンドの差がじわじわと広がっていった。「癒し系」なんていう言葉が音楽シーンでも普通に使われるようになったのはこの頃からだろう。


▲Wyolica 『Beautiful Surprise ~Best Selection 1999-2019~』紹介動画

 そういった社会背景もあって、多くのディーバたちがコアなR&Bやヒップホップなどに傾倒していく流れとは別に、UAやbirdのようなどちらかといえばオーガニックなテイストを持ったシンガーたちも登場してきた。birdと同じタイミングでデビューしたWyolicaもその系譜に位置付けられるだろう。ヴォーカルのAzumiとギターやプログラミングを担当するso-to(池宮創人)のデュオは、ディーバ・ブームとは別に、アコースティック・ソウルやフォーキー・ソウルといったイメージの音楽で話題を呼んだ。彼らのファースト・アルバム『who said "La La..."?』(2000年)は、birdと同じく大沢伸一がプロデュースを手掛けており、アコースティックなテイストを活かしたサウンド・プロダクションと、伸びやかでナチュラルな歌声が印象的な一作だ。とくにDragon Ashの降谷建志と大沢伸一が共作した「風をあつめて」はスマッシュヒットとなり、フォーキーでありながらヒップホップにも肉薄した新しいタイプの楽曲として高く評価された。出自がクラブのサウンドでありながらも、少しベクトルの違うポップスへと軌道を変えていったのは、彼らの指向性だけでなく時代の流れもあったのだろう。この「フォーキー」というキーワードは彼らの代名詞となり、2002年には『Folky Soul』と題したアルバムもリリースしている。こういった一連の活動は、EGO-WRAPPIN'やorange pekoeらともリンクし、クラブにもアコースティックにも対応できる男女デュオという新しいフォーマットの礎となったとも言える。Wyolicaはその後もアコースティックでソウルフルな世界を追求し続け、Azumiとso-toのソロ活動などを経て、2019年にデビュー20周年を記念して再結成を果たしている。


▲Wyolica『who said "La La..."?』(2000年)

 このようにCOSA NOSTRA、bird、Wyolicaというラインナップを続けて見ると、90年代や00年代を貫くクラブ・シーンの時代の流れを感じさせてくれて非常に興味深い。しかし、彼らは単に流行りに流されながら活動してきたわけではなく、時代を見据えつつも彼ららしさをしっかりと打ち出してリリースやライブなどを行ってきた。“密”が当たり前だった熱いクラブの時代へはもう戻れないのかもしれないが、だからこそアフター・コロナの時代でも、彼らの音楽の魅力は変わることはない。

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