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おお雨(おおはた雄一+坂本美雨)対談インタビュー~結成14年目にしてリリースされたファースト・アルバム『よろこびあうことは』を語る



おお雨 インタビュー

 シンガー・ソングライターのおおはた雄一と坂本美雨によるユニット“おお雨”。二人はこれまで全国各地の様々な場所でライブを積み重ね、その時、その場でしか味わえない豊穣な音楽を紡いできたが、結成14年目にして初のアルバム『よろこびあうことは』を6月にリリースした。10月10日にはビルボードライブで森山直太朗をスペシャルゲストに迎え、アルバムのリリース記念ライブを行う二人に、“おお雨”結成のエピソードやライブの魅力、コロナ禍で制作された1stアルバムについて訊いた。

二人でユニットを結成しようと決めたわけではなく、なんとなく始まった気がします(おおはた雄一)

――お二人が、おお雨を結成されてすでに14年。先ずは結成の経緯から。

坂本美雨(以下:坂本):初めておおはたさんと会ったのは、小淵沢のスタジオでした。そこは合宿をしながらレコーディングができるスタジオで、おおはたさんのレコーディングに参加されたチェロの徳澤青弦さんに連れて行ってもらったんです。

おおはた雄一(以下:おおはた):それが2004年頃だったと思う。その後、美雨さんのライブに参加したと思うんだけど、その辺りの記憶がモヤモヤで。

坂本:おおはたさんがクラムボンと同じ事務所にいらした時に、クラムボンのライブのオープニングアクトに出て、それを観て素晴らしいなぁと思ったんです。

おおはた:そう。最初はクラムボン繋がりでしたね。

坂本:それで興味津々で小淵沢のスタジオまで行ったんです。

おおはた:僕はそのスタジオの環境が好きで、その後も何作かレコーディングしたんですけど、美雨ちゃんが小淵沢までわざわざ来るとは驚きました。しかも、ノート型のパソコンを抱えて(笑)。

坂本:発売されたばかりのiBOOKで原稿を書いていたんです(笑)。

おおはた:当時はちょっと派手な髪型だったよね? そこに最新のPCを携えて現れたから、最先端のヒトがやって来たという印象があった(笑)。そのとき、美雨ちゃんがレコーディングしたばかりの曲のOKテイクを決めてくれたこともよく覚えている。みんなで悩んでいたら、「私はこっちが好き」って言ってくれて。

坂本:そうでしたっけ? その後、名古屋のラジオ局主催の野外イベントで一緒にライブをやることになったんですけど、当日はあいにくのどしゃ降りで。お客さん数人くらいとずぶ濡れの着ぐるみしかいなかった(笑)。

おおはた:そうそう。あの着ぐるみの姿は忘れられない(笑)。

坂本:そのときはまだユニット名はなくて、半分ふざけて「坂本+雄一」なんて名乗ってラジオに出たりしていたんですが、さすがに紛らわしいかなと思っていたら、うちの兄がたまたまライブを見に来て、「二人の名前を取って、おお雨でいいんじゃない?」と提案してくれたんです。その辺りからですね、ユニットの意識が少しずつ芽生えてきたのは。

おおはた:ある日、二人でユニットを結成しようと決めたわけではなく、なんとなく始まった気がします。

坂本:そう。なんとなく始まって、ライブを重ねるうちに自然と絆が深まっていった感じでした。

――ライブのレパートリーは、お二人のオリジナルを中心にしていたんですか?

おおはた:そうですね。お互いのオリジナルをやりつつ、最初からカヴァーも歌っていきたいというのはありましたね。カヴァーはスタンダードやトラディショナルなナンバー、細野晴臣さんの曲など多岐に渡るんですが、今に連なる曲でしたね。

坂本:初期の頃から、レナード・コーエンの「Hallelujah」はカヴァーしていたし、アルバムに収録された曲はこれまでライブでよく歌ってきた曲なんです。

――おお雨としてライブを重ねながら、アルバムをつくるという話にはならなかったんですか?

おおはた:ならなかったんですね、なぜだか。唯一の音源が高野寛さんのトリビュート・アルバムくらいで(『高野寛 ソング・ブック 〜tribute to HIROSHI TAKANO〜』で「ベステンダンク」をカヴァー)。

坂本:私の中では、おお雨はライブをやってゆくユニットという感じがあったんです。おお雨のライブはすごく有機的だし、毎回違うので、それを作品に残すとなると曲のカタチを決めなくちゃいけないじゃないですか? そのイメージや意義が見出せなかったんですね。ライブでは同じ曲をやっていても、そのときのコンディションや会場の環境や湿度によって毎回違うし、その時々のあうんの呼吸でライブをするのが楽しくて。

おおはた:うん。だから、完成形としてパッケージしようとは思わなかった。


おおはた雄一

――2008年には美雨さんのアルバム『Zoy』で、「おだやかな暮らし」と「橋の上から」共作/共演していますね。

坂本:「おだやかな暮らし」はおお雨でも歌っていたし、自分の曲としてアルバムに入れさせてほしいとお願いしたんですよ。

おおはた:あれは嬉しかった。美雨ちゃんはアカペラでも歌えるから、こっちもいろんなアプローチが出来るんです。「この曲はこうでなくちゃ」というのがないので、エレキで伴奏しても楽しんでくれるし、マイクも付けずにアコースティックでプレイしてもそれに対して歌で応えてくれる。決まったカタチを求められない分、自由に自分がやりたい音を奏でられるんですよ。

坂本:その日、その場によって生まれる音楽が違うのが私にはとても新鮮でしたね。そんなに有機的な音楽の経験もなかったし、それを楽しめるほど私がライブに馴れていなかったので、おおはたくんに鍛えられて、ライブの楽しさを教えてもらった気がしますね。

――歌とギターだけのセッションが自由な空気を運んでくれた?

坂本:そう。おおはたくんがこう来るなら、私はこう歌おうと、じょじょにセッションの面白さ、自由さを体で覚えていった感じですね。私は歌の教育を受けてきたわけではないし、元々テクニックもないから、その幅を拡げる機会もあまりなかったんですが、歌だけに限らずライブをどうやるかということをおお雨で学んでいったんだと思います。

――日々の暮らしに密着したおおはたさんの音楽性と美雨さんの歌の相性がとても良かったんですね。

坂本:おおはたくんは日常とステージが地続きの人なんですよ。父や母を含めて、私が小さい頃から見てきたミュージシャン像とはまったく違っていた。

おおはた:そうなんでしょうね。普段着からステージ衣装に着替えても、ほとんど変わらないですからね。水玉のシャツで来て、違う水玉のシャツに着替えるくらいの違いだから(笑)。

坂本:まぁ、彼なりの違いはあるんでしょうけど、微妙すぎて分かりづらい(笑)。そういう人は私の周りにはいなかった。

――おお雨は、これまでFUJIROCK FESTIVALなどの野外フェス、「100万人のキャンドルナイト」、各地のカフェやレストラン、お寺や美術館など様々な場所でライブをしていますね。

坂本:そうなんですよ。商業施設の吹き抜けとか、能楽堂とか色んな場所でライブをしてきました。マイクを通さずに生音、生声でやることもあるし、毎年恒例になっている浅草にある築150年を超える蔵でのライブとか。

おおはた:蔵は音も良いんですよ。様々な場所の音の鳴りの違いを楽しみながら、それをどう自分たちの音にしていくかが、おお雨の醍醐味でもある。

――ライブが難しい環境もありましたか?

おおはたいちばん大変だったのは、美雨ちゃんのお子さんの卒園パーティかな。一生懸命「パプリカ」を覚えたんだけど、イントロが始まった途端、子供たちの大合唱で何も聴こえなかったという(笑)。

坂本:そうそう(笑)。

おおはた:一人では少しめげてしまうような場合でも、この二人だったら「大変だったね」で済むところはありますね。そこがソロとは違う。

坂本:最近はライブスペースではない場所やカフェなどでライブを企画する個人イベンターの方が全国にいて、私たちも呼ばれることが多いんですけど、おお雨はどこでも行ける強みはあるかもしれないですね。

おおはた:セッティングも撤収も早いから、この時代は強いかもしれない。

――ライブで歌う曲もその場の雰囲気やお客さんの層によって変わったりしますか?

おおはた二人の音楽のルーツもフォークやスタンダードに限らず色々あって、意外なところでは例えばリンキン・パークの曲もカヴァーしたよね。

坂本:いわゆる癒し系とは違うタイプのロックな曲もお互いに好きだったりするんですよ。おおはたくんのファンは音楽やギターの好きな玄人感のあるお客さんが多いですよね。

おおはた終演後、僕のギターやエフェクターを熱心に眺めている人も多いですね。それも嬉しいんだけど、おお雨はもっと幅広いですね。

坂本:私と同世代の小さいお子さん連れの家族とか、普段はなかなかライブに足を運べないお母さん方も観に来てくれる。中には子供たちが自由に遊べるスペースを設けた会場もありました。

おおはた自由に遊び回る子供たちを前にライブをするチャンスもなかなかないし、そういう意味でもおお雨は可能性を拡げてくれたと思いますね。

――コロナ禍の状況下では、今年はオンラインで開催された「100万人のキャンドルナイト」や、GinzaSonyParkのライブ配信などに出演されましたね。

おおはた僕らのようなアコースティックな形態の音楽にとってライブ配信はそれほど違和感はないんですよ。今までの形式を変えるわけではないですから。

坂本:二人で目を見てコミュニケーションを取りあってお互いの音に集中するのはいつもと同じですし、お客さんの顔を見て受け取るものがないのは寂しくはあるんですけど、配信を通しておお雨を観てもらえるいい機会でもあると私は前向きに捉えています。ライブに行けない人もおうちでライブを楽しむことができるし、音楽の新しい楽しみ方や可能性を今はみんなが探っているところですよね。


坂本美雨

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この先どんな世界になっても変わらないこと、それは大事な人とよろこびあいたい、ということなんじゃないか(坂本美雨)

ooame

――6月にはおお雨による1st アルバム『よろこびあうことは』がリリースされました。結成14年にしてリリースに踏み切ったのは?

おおはた:何年か前から「今年こそは」と言いつつ、ようやく重い腰を上げました。

坂本:ライブに来てくださる方が会場の物販でそれぞれのソロアルバムを買っていただいて、それを日常で聴いてくれるという実感がじょじょにわいてきたんです。「おお雨の音源は出さないんですか?」という声もたくさんいただいて、私たちの音楽をライブだけでなく、日々の生活の中でも聴きたいと思ってくれる人がいるなら、アルバムをつくってもいいかもしれないと思うようになったんです。普段ライブでやっているような空気感が作品に封じ込められるならと。

おおはた:半分以上の曲がライブでやっている曲なので、自粛期間に入る前の3月中にレコーディングもライブと同じような一発録りで行ったんです。

坂本:レコーディングもその場で生まれるものを大事にしようとエンジニアともお話して。私たちがライブで必ずやっている大事な曲、「おだやかな暮らし」、宮沢賢治の「星めぐりの歌」、「Hallelujah」、エルビス・プレスリーの「Canʼt Help Falling In Love」は入れたいなと。

おおはた:「波間にて」は、原田郁子さんのソロ(『銀河』)と僕のソロ(『光を描く人』)にも収録されている曲なんですが、おお雨のライブでも1曲目にやることが多くて、これは限りなくスタジオ・ライブに近い。

坂本:緊張感はライブ以上にありました。昔ながらのスタジオで二人が同じ空間に入って録ったんですが、どっちかが間違えても修正できない状況だったので1曲録るたびにぐったりして、甘いものが欲しくなった。

おおはた:一発録りはすごく集中力を要するんだけど、その空気も入れたかったというのもありましたね。

――エルビス・プレスリーの「Canʼt Help Falling In Love(好きにならずにいられない)」は、少し意外な選曲のように思いますが?

坂本:そうかもしれないですね。エルビスは十代の頃、ハマったことがあって、そんなに沢山聴いているわけではないんですが、すごく好きなメロディー、曲なんです。

おおはた:エルビスはギタリストも良いんですよ。でも、若い世代にはあまり馴染みがないかもね。

坂本:スタンダード、オールディーズと呼ばれているこういう曲も歌い継いでいきたいと思っているんです。昔の曲も私が十代の頃知った曲もそれを知らない世代に伝えていきたいという意識は自分の活動を通してありますね。

――「Hallelujah」は世界中でカヴァーされている曲ですが、美雨さんの声とおおはたさんのギターだけで深く引き込まれますね。

おおはた:僕はオリジナルではなく、ジェフ・バックリーのカヴァーを先に聴いた世代なんですけど、作者のレナード・コーエンの存在を知ったのはニルヴァーナのカート・コバーンの歌詞だったんですよ。それで聴いてみたら、つぶやくような独特の歌と世界観に惹き付けられて、僕の中ではボブ・ディランと並ぶ存在に。

おおはた雄一

――おお雨としてのオリジナルは4曲収録されました。

坂本:「星たちの物語」は、去年の「100万人のキャンドルナイトin増上寺」のテーマソングとしてつくった曲で、ハーモニカで宮沢和史さんが参加してくれました。「おっぱい」は、猫乳がんの予防啓発プロジェクト「キャットリボン運動」のために私がつくった曲なんですが、シリアスな曲の中のいいアクセントにはなったかなと思います。

おおはた:僕が書き下ろした「プラタナスの木の下で」は、タイトルトラックになった美雨ちゃんの「よろこびあうことは」が出来たことが大きかった。

坂本:「よろこびあうことは」は、まさにコロナ禍に入った頃に書いた曲で、ライブも次々キャンセルになり、この先が見えないいちばん不安な時期だったんです。
そんなとき、「よころびあうことは 間違いじゃない」という言葉がふっと浮かんで、そこから膨らませていきました。この先どんな世界になっても変わらないこと、それは大事な人とよろこびあいたい、ということなんじゃないかって。


――「よろこびあうことは」が出来たことで、今、おお雨のアルバムをリリースする意義も見出せた?

坂本:そうなんです。今だから書けたと思うし、今、聴いてもらいたいと思って。

おおはた:こんなに世界中が立ち止まることってないし、たぶん、色んなことが変わっていくんだろうけど、音楽をじっくり聴く機会が増えていくといいですよね。

坂本:そうなるといいですね。

坂本美雨

――10月10日には、アルバム発売記念ライブが「ビルボードライブ」で開催されます。

坂本:まだ収束が見えない状況ではありますが、いつもの「ビルボードライブ」よりさらにゆったりしたスペースで、対策も十二分にしていただいて、私たちのステージを楽しんでいただけたらうれしいですね。

おおはた:スペシャル・ゲストもありますからね。

坂本:森山直太朗さんがゲストとして参加していただけることになりました。直太朗さんは親同士がユニットをしていることもあり、以前からお互いに親戚のような感覚があって(笑)、去年、私のラジオの番組で一緒にセッションしてから急速に仲良くなって、また一緒に歌いたいなと。

おおはた:僕が友部正人さんのライブに出たとき、彼は観に来てくれたんですよ。ステージで共演するのは初めてなんですが、僕も楽しみにしています。

坂本:直太朗さんとどんな曲を歌うのか私も今からドキドキです。ライブはアルバムを中心に、今の時期に皆さんにより添えるような音楽をお届けしたいですね。

おおはた:おお雨は、これからもフットワークのいいユニットでいたいし、ライブでしか味わえない空気と音楽をぜひ、聴きに来てほしいですね。


▲おお雨(おおはた雄一+坂本美雨) Video Message for Billboard Live TOKYO 2020

おお雨「よろこびあうことは」

よろこびあうことは

2020/06/11 RELEASE
OOAM-1 ¥ 3,080(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.波間にて
  2. 02.プラタナスの木の下で
  3. 03.Can’t Help Falling In Love
  4. 04.おだやかな暮らし
  5. 05.星たちの物語
  6. 06.おっぱい
  7. 07.星めぐりの歌
  8. 08.Hallelujah
  9. 09.よろこびあうことは

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