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ケシャ New Album『ハイ・ロード』特集~完全復活を遂げたケシャは何を伝え、何と歌うのか



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 全世界アルバムセールス1,400万枚、ストリーミング総再生回数70億を誇るケシャが2年ぶりのニュー・アルバム『ハイ・ロード』をリリースした。クラブシーンを賑わすパーティー・ガールのイメージを払拭して、現在は女性運動、LGDBQ、ポジティブマインドについて積極的に唱えるリーダー像を確立しているケシャ。2014年頃から数年間、表舞台から姿を消していた彼女が完全復活を遂げた前作より、シンガーとして、そして一人の人間としてさらに成長したケシャは何を伝え、何を歌うのか。最新アルバムと彼女の経歴について、本作のライナーノーツも執筆する音楽ライターの新谷洋子氏に解説してもらった。

全米No.1パーティー・ガールから、女性ムーヴメント先駆者へ

 ケシャというアーティストにはふたつの顔がある。早い話が、それは“KE$HA”と“Kesha”の違いだ。今から10年前、デビューした当時の彼女は言うまでもなくKE$HAだった。本名ケシャ・ローズ・セバート、1987年にロサンゼルスで生まれ、ナッシュヴィルにてソングライターの母ペベに育てられた彼女は、その母の影響もあって音楽を聴くことと音楽を作ることに幼い頃から興味を抱き、ミュージシャンを志して生まれ故郷に移り住んだのが17歳の時。下積み時代にはバッキング・シンガーやソングライターとして他のアーティストの作品に関わり、フロー・ライダーの大ヒット曲「ライト・ラウンド」で歌ったり、ブリトニー・スピアーズやマイリー・サイラスに曲を提供。にもかかわらず一文無しのままで、なかなかチャンスを掴めないという自分のタフなシチュエーションを皮肉って、名前に“$”を入れたとの有名なエピソードがある。


 しかし2009年にシングル「ティック・トック」でデビューするや否や、9週連続全米1位を独走。一躍大ブレイクを果たす。そして、ロサンゼルスに来てからのワイルドな生活を題材にしたダンスポップを満載するファースト・アルバム『アニマル』(2010年)も全米ナンバーワンに送り込んで、破天荒なパーティー・ガール像を確立。しばしばダーティーで、かつユーモラスな曲の数々は物議を醸しもしたが、「長年オトコたちが歌ってきたことをオンナが歌っただけでしょ?」と切り返すケシャに、誰も反論しようがなかった。


 続いて、2曲目の全米ナンバーワン・シングル「ウィー・ア・フー・ウィー・アー」を輩出したEP『カニバル』を挿んで、セカンド・アルバム『ウォーリア』(2013年/全米最高6位)ではロックにシフト。イギー・ポップをゲストに迎え、ニール・ヤングにインスピレーションを求めるなどして古典的なロックに自分なりのヒネリを加え、新路線を打ち出した。またこの時期の彼女はザ・フレーミング・リップスやアリス・クーパーのアルバムにも客演し、当初はいたってメインストリームなポップシンガーと目されていたものの、そう単純な人ではないことを徐々に明らかにしていく。


 そんな風に順調にキャリアを積んでいた彼女だが、2014年秋になって、音楽界全体を揺るがす大事件の主人公となったことはご存知の通りだ。ケシャの才能を逸早く認め、自ら主宰する<ケモサベ・レコーズ>に契約し、『ウォーリア』までの全作品でメイン・プロデューサーを務めたドクター・ルークことルーカス・ゴットワルドから精神的・肉体的苦痛を長年強いられてきたとして、彼を告発。<ケモサベ>との契約破棄を求めて訴訟を起こす。ルークは全面的にこれを否定して逆に名誉棄損で彼女を訴え、以後泥沼の裁判に突入。#MeTooムーヴメントを先駆けて、ケシャは女性ミュージシャンがキャリアの主導権をプロデューサーやレーベルから奪還する動きを興し、同性のアーティストたちからもファンからも熱烈なサポートを勝ち取るのだった。

 そして2018年、ひとまず<ケモサベ>との契約解消に漕ぎつけたケシャは、名義を“Kesha”と改めて、ようやくサード・アルバム『レインボー』を発表する。リッキー・リードを中心に新たなコラボレーターを見つけて、カントリーやソウルやロックといった音楽的ルーツに立ち返って制作した同作では、よりシンプルなオーガニック・サウンドを志向。何よりも歌唱力と、内省的な歌詞を前面に押し出した。すると、波乱の日々を総括し、闘いに消耗した自分を癒すようにして歌う姿はメディアの賞賛を浴び、彼女は満を持してシンガー・ソングライターとしての評価を確立するとともに、『アニマル』以来となる全米ナンバーワンを獲得。翌年1月の【第60回グラミー賞授賞式】では、シンディ・ローパーやカミラ・カベロなど新旧の女性アーティストたちを従えてシングル曲「プレイング」の圧巻のパフォーマンスを披露し、2010年代のフェミニズムにおけるマイルストーン的な出来事のひとつとして、話題をさらったものだ。


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Last year I had the privilege and HONOR to perform alongside such incredible women, @andradaymusic @camila_cabello @beberexha @cyndilauper @juliamichaels @resistancerevivalchorus, at the GRAMMYs. And this year, @camila_cabello and @beberexha are nominated !!!!!Fuck yes!!! I’m so proud of you ladies and will be rooting for you and just dying of joy because y’all deserve this so much!! Congratulations and good luck!!!!! Love youuuu ❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️😭😭🤩🤩🤩🤩🤩👏👏👏👏👏👏👏👏👏🙌🙌🙌🙌🙌🙌💃🏼💃🏼💃🏼💃🏼💃🏼💃🏼🧜🏻‍♀️🧜🏻‍♀️

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ポップとパーソナルな部分をさらけ出す最新アルバム

 こうして、裁判の決着こそついていないもののヒーリングのプロセスを終え、“重要な社会的役割を担う本格派アーティスト”として認知されるようになったケシャは、『TIME』誌が選ぶ、恒例の“世界で最も影響力のある100人”の2018年版にもランクインした。じゃあ、次はいったいどう出るのか? 彼女は意外にも早く答えを出した。それはずばり、“KE$HA”と“Kesha”のミクスチュアであり、『レインボー』のエモーショナルかつスピリチャルな深みを踏まえて改めてポップ・ミュージックと向き合い、今までになく音楽的な広がりを持つ4作目『ハイ・ロード』を完成。ふたつの顔がひとつに結晶した感がある。なぜって『ハイ・ロード』では、前作のオーガニックなプロダクションを引き継いでいながら、『アニマル』~『カニバル』期のダンサブルさやユーモアや放送禁止用語が復活。<さあ、今夜は遊ぶわよ!>と呼び掛ける「トゥナイト」で幕を開けて、以下パンチの効いたパーティー・アンセムを随所にちりばめながら、パーソナルな信条や人間関係を巡る考察を歌い、ひとりの女性のポートレイトを多面的に描き出す。中でも、父親を知らずに育ったことが自分に与えた影響を掘り下げる「ファザー・ドーター・ダンス」や、親友でもあるソングライター兼プロデューサーのレイベルことスティーヴン・レイベルとの絆を讃える「BFF」は、素顔のケシャに迫る名曲だ。



 もっとも、事件のことにまったく触れていないわけでもなくて、「ポテト・ソング(コズ・アイ・ウォント・トゥ)」と題されたシアトリカルなトーンの曲には、悩み多き毎日にくたびれた彼女の、逃避願望が込められている。<どこか遠い島にでも行って、ジャガイモと花でも育てて生きていたい>とこぼしていて、奇妙なタイトルの意味が分かるはず。


 ちなみにコラボレーターに関しては、スティーヴンを始め、『レインボー』で組んだ人たち――ジャンルをクロスオーバーして活躍するドルー・ピアソン(カイゴ、コーディ・シンプソン)、マックルモアとのコンビでお馴染みのライアン・ルイス、母ペベ――のほかに、ジェフ・バスカー(ハリー・スタイルズ、ブルーノ・マーズ)、スティント(MØ、パニック!アット・ザ・ディスコ)、ジョン・ヒル(シャキーラ、チューン・ヤーズ)などなど、初顔合わせのメンツを起用。ボーダーレスな音楽嗜好を誇るケシャらしいゲストを迎えた2曲も間違いなくハイライトで、「レイジング・ヘル」では、ニューオーリンズのバウンス・シーンを代表するクイアーMCのビッグ・フリーダを招き、まさにバウンスのスタイルを引用して踊らせる。その一方で、カントリー・バラードの「リゼントメント」ではカントリー界の異才スタージル・シンプソンに加えて、あのブライアン・ウィルソン御大がヴォーカルのアレンジで参加。恐らく、ほかに誰も思い付かない組み合わせだ。なのに少しも違和感を抱かせないのが、彼女のマジックなのである。



 そんなわけでデビューから10年を経てケシャはなお進化し、スケールアップして、人々の予想を気持ち良く裏切っているわけだが、2020年現在の彼女――いや、2020年に限らず、これまでもそうだったし、これからも変わらないのだろうケシャのエッセンスを凝縮した曲が、今作にはふたつ収められている。「マイ・オウン・ダンス」と「チェイシング・サンダー」だ。どちらもずばり“自由”をテーマにしており、前者では、“パーティー・ガール”なのか“悲劇の主人公”なのか選ぶ必要はないし、自分はたくさんのパーソナリティを包含しているのだと訴える。


 そしてフィナーレを飾る「チェイシング・サンダー」では、前述したように“ローズ”というミドルネームを与えられた彼女が、<私はバラじゃなくて野生の花>と歌っているのだから面白い。確かによくよく考えてみると、こぎれいに手入れされた庭園に咲いているような、ちょっと近寄りがたいところがあるバラは、彼女のイメージには合致しないのかもしれない。“だからと言って私は道に迷っているわけじゃなくて、ただ放浪するのが好きなのよ”と、釘を刺すことも忘れないケシャ。フェミニスト・アイコンになったのも想定外だったのだろうし、風の吹くままに生きる彼女が、次に出会う時にはどこでどんな表情を見せることになるのか、誰にも知る由はないのだ。


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