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RONIN来日記念特集 ~約40年ぶりに息を吹き返す伝説のバンド「RONIN」



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 1980年代、ギター/ヴォーカルのワディ・ワクテルを中心に、当時のリンダ・ロンシュタット・バンドのメンバーだったセッションの名手4人が集い結成された西海岸バンド「RONIN」の来日公演が2月に決定。ワディ・ワクテルのほか、ギターのダン・ダグモア、ベースのスタンレー・シェルドン、ドラムのリック・マロッタと、いずれも劣らぬ実力者である彼らは、1980年にバンドとして唯一のスタジオ・アルバム『RONIN』を発表し、その後も各々がミュージシャンとして確固たるキャリアを築いてきた。そのオリジナルメンバーが約40年ぶりに揃う今回の来日公演を前に、伝説のバンド“RONIN”の軌跡を各メンバーや時代背景とともに天辰保文氏に追ってもらった。

約40年ぶりに息を吹き返す伝説のバンド「RONIN」

 まさか ?! そして、信じられないというのが、RONINの来日公演のニュースを耳にしたときの感想だ。このところ、ダニー・コーチマー率いるイミディエイト・ファミリー名義で、そのダニー・コーチマー、ラス・カンケル、リー・スクラー等々、1970年代のカリフォルニアを賑わせたポップ・ミュージックを支え、日本のミュージシャンにも多大な影響を与えた人たちの演奏が生で楽しめるようになった。それでも、RONINの来日には多くのかたが驚くはずだ。なにしろ、1970年代から80年代へ、時代が移行するとき、数多くのセッションで名を馳せた人たちが、一つのバンドのもとでロックンロールの炎をひらめかせ、そして消えていった。そんな彼らの、約40年ぶりの再会だ。

 現代に限らず、歌姫と呼ばれる女性シンガーはいつの時代にも存在し、ポップ・ミュージックの世界を華やかに彩ってくれるが、1970年代、殊にカリフォルニアの歌姫と言えば、リンダ・ロンシュタットをおいて他にはいなかった。例えば、1974年から1980年にかけて6枚のオリジナル・アルバムを発表したが、その中の3枚が全米チャートで1位に輝き、残る3枚もトップ5から外れることがなかった。1977年の『夢はひとつだけSimple Dream』も、全米1位を記録した一枚だ。

 そのアルバムで、彼女を支えていたミュージシャンたちが独立して誕生したのが、RONINだった。ワディ・ワクテル(ギター、ヴォーカル)、ダン・ダグモア(ギター、スティール・ギター、ヴォーカル)、リック・マロッタ(ドラムス)の3人に、そこに直接かかわりはしなかったが、ダンやリックの友人でもあったスタンレー・シェルダン(ベース)の4人で誕生した。リンダのバック・バンドが独立した例としては、イーグルスが有名だ。だから、1979年、彼らがバンドを組んだとき、ロック界は色めき立ち、1980年代のイーグルスの呼び声さえあがったくらいだ。しかも、その熱気あふれるロックンロールは、カリフォルニアの新しい未来をも想像させた。

 もちろん、メンバーたちは凄腕ばかりだった。それ以降の活躍も含めると、リンダばかりか、ジェイムス・テイラー、キャロル・キング、ジャクソン・ブラウン、ポール・サイモン、ウォーレン・ジヴォン、カーリー・サイモン、ダニー・ハサウェイ、スティーリー・ダン、ダリル・ホール&ジョン・オーツ、キース・リチャーズ、ピーター・フランプトン等々、数え上げたらきりがないくらいの音楽を支えてきた。



▲"Love's Coming Into My Life Again" - RONIN


 まず、このバンドの華といったらワディ・ワクテルだ。ギターばかりか、リンダに「最高のロックンロール・シンガーの一人」と絶賛されたほどで、このバンドではほとんどリード・ヴォーカルもこなす。生まれこそニューヨークだが、1968年、カウシルズとともにロサンゼルスヘ、セッション・ギタリストとしての活動を始める。エヴァリー・ブラザーズのオーディションで、ウォーレン・ジヴォンと出会い、二人は急速に接近、ジヴォンとはのちに「ロンドンの狼男 Werewelves Of London 」や「真夜中の暴走Nighttime In The Switching Yard」などでソングライター、またプロデューサーとして貢献するまでになる。ちなみに、ソングライターとしては、ジェイムス・テイラーとJ.D.サウザーが共演した「憶い出の町Her Town Too」にもかかわった。

 リンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスとは、二人がフリートウッド・マックに加入する前からの仲で、スティーヴィーの「エッジ・オブ・セブンティーン」でのワディのギターは、ハイライトの一つだ。また、キース・リチャーズ率いるXペンシヴ・ワイノウズの一員としても活躍、それを機にローリング・ストーンズのレコーディングに誘われ、1997年の『ブリッジズ・トゥ・バビロン』ではほとんどの曲でギターを弾いている。



▲Stevie Nicks - Edge of Seventeen (Official Music Video)


 ダン・ダグモアは、カリフォルニアのパサディナ出身だ。10代の頃は、ビーチ・ボーイズに憧れる少年だった。ペダル・スティール・ギターの奏者として有名だが、ギターはもちろん、マンドリンやバンジョーもこなす。スティール・ギターは、フライング・バリトゥ・ブラザーズのスヌーキー・ピートから教わり、初めてのスティール・ギターも、ピートから買ったそうだ。リンダ・ロンシュタットには欠かせない存在となったが、ジェイムス・テイラー、カーラ・ボノフ、J.D.サウザー等々のバックでも親しまれる。



▲Linda Ronstadt - "Blue Bayou" (Official Music Video)


 リック・マロッタは、ニューヨークの出身だ。19才の頃からドラムを独学で演奏するようになったという。1970年前後に Brethren というバンドを組んでいたことがある。ドクター・ジョンがライナーを書いたり、ジェイムス・テイラーの曲を演奏していたバンドだ。その後、ダニー・ハサウェイ、ボズ・スキャッグス、アレサ・フランクリン、ロキシー・ミュージック、ポール・サイモンら数多くのセッションに参加していく。中でも、スティーリー・ダンの「ペグ」や「ヘイ・ナインティーン」でのドラミングは彼の代名詞となっている。



▲Steely Dan - Peg - HQ Audio -- LYRICS


 カンザス州出身のスタンレー・シェルダンは、ピーター・フランプトンとの活動がいちばん有名だろう。1976年、ライヴ・アルバムとしては異例の、全米だけでも800万枚というセールスを記録して一世を風靡した『フランプトン・カムズ・アライヴ ! 』や『アイム・イン・ユー』などに参加し、ツアーにも同行した。そのピーターとの仕事でリック・マロッタと出会い、ウォーレン・ジヴォンのツアーでベーシストを探していたワディ・ワクテルにリックから紹介されている。



▲Peter Frampton - Baby, I Love Your Way - 7/2/1977 - Oakland Coliseum Stadium (Official)


 この4人で、RONINは誕生した。1980年には、当時リンダ・ロンシュタットやジェイムス・テイラーを手掛けていたピーター・アッシャーのプロデュースのもと、アルバム『RONIN』を発表、ジャケットをデザインしたのは、ワディのお兄さんのジミー・ワクテルだった。ジャクソン・ブラウンの『孤独なランナーRunning On Empty』、ウォーレン・ジヴォンの『さすらい Warren Zevon』、ブルース・スプリングスティーンの『リヴァー』などのジャケットを手掛けたデザイナーだ。

 アルバムの発表にあわせて、1980年夏にはライヴ活動も開始、翌81年には、ピーター・アッシャー・プロデュースによるカリフォルニア・ライヴ・イン・ジャパンで、ジェイムス・テイラー、リンダ・ロンシュタット、J.D.サウザーらと来日、9月11日、横浜スタジアムの、9月12日には阪神甲子園球場のステージに立った。

 RONINとしての来日はこのときの1回限りだったが、メンバー各自は引っ張りだこの状態で、ワディ・ワクテルやダン・ダグモアは、1979年のリンダ・ロンシュタットの初来日公演にも同行、そのとき、竹内まりやの『ユニヴァーシティ・ストリート』に参加した。最近でも、ワディは、ダニー・コーチマー率いるイミディエイト・ファミリーの一員として来日を重ね、また、昨年は、ソロ・アルバム『アンフィニッシュド・ビジネス』を発表したりと、多忙な日々を過ごしている。

 アルバム『RONIN』は、ほとんどがライヴ形式で録音され、ワンテイクで進められたといわれている。実際、贅肉など一切省いた、切れ味のいいロックンロールが全編に弾んでいた。それがこのバンドの最大の特徴であり、魅力でもあった。シンガー・ソングライターに代表されるように、穏やかだが語るべきことを多く含んだ1970年代から、タイトな躍動感を弾ませる1980年代へ、その架け橋のような役割を果たしたのがRONINだった。しかも、時代の流行からはみだし、確かな存在感を放ちながらも、重責を果たしたかのように潔く消えた。そんな彼らが、約40年ぶりに息を吹き返す。

 「優れたロックンロールの曲を書くことは意外に簡単なことじゃないんです」とは、ワディ・ワクテルの言葉だ。それは、曲を書くことに限らず、歌い、演奏することにも通じるのではないだろうか。今回は、ロックンロールとはこういうもんだとばかりの、颯爽としたライヴが楽しめるはずだ。しかも、約40年を経ての貴重な再会に、歳月がもたらす魔法がそこに加わるに違いない。いったいどういうライヴになるのだろうか、想像するだけでもワクワクしてくるではないか。



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