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歌詞は世相と共に変化するか~2018年と2019年JAPAN HOT100年間チャートの歌詞トピックを比較
歌詞サービス『プチリリ』を運営する株式会社シンクパワーと、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)が共同開発した歌詞探索ツール、「Lyric Jumper」(https://lyric-jumper.petitlyrics.com)を用いて、複合ソング・チャート、JAPAN HOT100の2018年と2019年の年間チャートを解析した。「Lyric Jumper」では、自動解析して作られた20個のトピックに対して、各トピックでの出現率が高い単語などを参考に、特徴を簡潔に表すトピックの名称が手動で決定されている。そのうえで、歌詞中の単語の出現傾向がどのトピックと最も似ているかなどの情報をもとに、歌詞へのトピックの振り分けを自動解析により行っている。
参考までに、「Lyric Jumper」によるアーティスト解析サンプルとして、Official髭男dism、King Gnu、嵐の画面キャプチャーは以下の通り。各楽曲のトピックの解析結果を集約することで、アーティストごとの歌詞トピックの傾向を表示している。ご興味のある方はぜひサイトをご覧頂きたい。
※Lyric Jumper(https://lyric-jumper.petitlyrics.com)の画面画像
本記事では、前回(http://www.billboard-japan.com/special/detail/2718)までの総合200位までの楽曲から、各指標の300位までにチャート・インした楽曲(約1,200曲)の全てが解析対象となるように大幅に拡大し、よりランキング精度を上げた。これらの対象楽曲のトピックを自動的に割り当てたうえで、それぞれの楽曲の各指標のポイントをトピックに紐づけて合算し、高ポイントをマークするヒット曲が多いトピック順にランキングを18年と19年とで生成した。
早速、トピック・ランキングをみてみよう。
2018年、2019年と“自分探し”が連覇。“夢と未来”が大幅ダウン
18年、19年と連覇したのは、19年上半期でも首位だった、「自分」「みんな」「希望」「不安」などの単語出現率が高い“自分探し”だった。前回の記事の通り、17年上半期でもトップは変わらず、かつ18年から19年への増加率も2.39ポイントと全トピックでトップであることから、それ以前でのデータは未調査とはいえ、今日の歌詞トピックの主流は“自分探し”であることが分かる。上記表以外の該当楽曲では、欅坂46「黒い羊」やBTS「Lights」など、ジャンルを横断してヒットしていて、2019年では“自分探し”の世界観を用いた楽曲は255曲と、社会的な共通認識となっている。
2位~4位までは18年19年共に変わらず、“ラブソング”(19年該当148曲 単語例:愛、好き、気持ち、想い)、“大人の恋愛(男性編)”(該当149曲 単語例:僕、君、嘘、約束)、“大人の恋愛(女性編)”(該当97曲 単語例:私、あなた、涙、約束)だった。こちらと19年では8位の“一途な恋”(該当33曲 単語例:大好き、大切、一番、奇跡)の恋愛トピックカテゴリを合計すると、48.87パーセントで、“自分探し”トピックの占有率27.3パーセントに比べ、恋愛トピックがほぼ半分を占め、トレンドとしては“自分探し”だが、主流としては恋愛トピックの歌詞といえる。
各指標順位では、ストリーミング首位は“ラブソング”、19年より新たに加えた指標のカラオケ首位は“大人の恋愛(女性編)”だった。楽曲の聴取方法の主軸がストリーミングに移りつつあることを考慮すると、まだまだ“自分探し”のトップは盤石とはいえ、数年後には“ラブソング”が取って代わる可能性があるかもしれない。また、一人よりも複数で楽しむことが多いであろうカラオケでは、“自分探し”よりも“大人の恋愛(女性編)”のほうが、しっくりくる、というのも、また頷ける結果だ。歌詞トピック“センチメンタル”(該当45曲 単語例:心、思い出、風、いつか)は総合6位で、それを牽引したのがラジオ指標であることも興味深い。リスナー各々に語り掛けるメディアとして有効なラジオに相応しいトピックのひとつが“センチメンタル”だった、というのも、前回記事で述べたように、また世相を映し出しているように思えてくる。
そして、増加率で大きくマイナス5ポイントとなったのは“夢と未来”(該当94曲 単語例:夢、明日、未来、笑顔)トピックで、18年5位から19年では10位まで大きく後退することとなった。続いてマイナスが大きかったのは、“青春”(該当41曲 単語例:僕ら、夢、風、恋)のマイナス1.4ポイントで、このポイント差を比べれば、いかに“夢と未来”の減少が大きいかが良く分かる。米津玄師による“夢と未来”楽曲はゼロ、あいみょんもゼロ、ヒゲダンもゼロ、King Gnuもゼロと、2019年のJ-POPシーンを牽引した4アーティストだけに目を向けても、このトピックを選択した楽曲は皆無だった。時代に明敏な感性を備えるアーティストが選ぶ歌詞の傾向で、「夢」「明日」「未来」「笑顔」などが含まれるトピック“夢と未来”が大きく減少したのは、歌詞が描写する私たちを取り巻く世相について少々不安になってしまう。
それでも、歌詞トピックのトレンドは世相とともに今後も変化していくだろう。ビルボードジャパンでは、ジャパンチャートデータと歌詞との関連について考察を進め、当サイトで公表していきたい。
※歌詞トピック解析技術について
産業技術総合研究所(佃 洸摂 研究員、後藤 真孝 首席研究員)が研究開発した「歌詞トピック解析技術」は、膨大な歌詞データを与えるだけで、アーティスト、歌詞、単語という3階層の構造を考慮しながら、歌詞でのさまざまな単語の出現の仕方を解析し、各歌詞のトピックを自動的に決定することができる。 この技術は、膨大な歌詞データ全体の単語の出現傾向を考慮しながら、その傾向の差異が端的に表現されるように事前に決めた個数のトピック群を自動的に生成し、各曲の歌詞のトピックとして、その中のどれが適切かを自動的に決定する。(Lyric Jumperでは20個のトピックを生成) これにより、人手では対応できない膨大な歌詞にトピックを付与して利用することが可能となる。
「Lyric Jumper」は、歌詞サービス『プチリリ』を運営する株式会社シンクパワーと、国立研究開発法人 産業技術総合研究所が共同開発した歌詞探索ツール。アーティストの持ち歌の歌詞の傾向を歌詞トピック解析技術によって自動解析して、20個のトピックの比率として可視化できる。また、歌詞の傾向が似ている他のアーティストが「類似アーティスト」として表示されるため、ユーザはこれまでの歌詞検索方法とは違うアプローチによって、さまざまな歌詞との出会いを楽しむことができる。
https://lyric-jumper.petitlyrics.com
歌詞サービス『プチリリ』を運営するシンクパワーは、邦楽・洋楽あわせて270万曲以上の歌詞データを保有している歌詞データカンパニー。歌詞アプリ、Webサイトの運営や提携サービスへの歌詞提供のみでなく、AIスピーカーをはじめとするIoT機器など新たなデバイス向けの提供、「歌詞先読み機能」など音声サービスにも積極的に歌詞サービスを広げている。また、歌詞の傾向を可視化できる『Lyric Jumper』をAPIとして、音楽配信サービスのプレイリスト作成やトレンドの分析など、制作・マーケティングに活用いただけるようなツールを提供できるよう進めている。
https://www.syncpower.jp/
自社アプリと、プチリリの歌詞データベースを提供している音楽サービスを含めた、「音楽再生とともに歌詞が表示された数」を集計期間内に合算・集計したランキング。定額制聴き放題サービスを含めたさまざまな音楽サービスでの歌詞表示結果が反映されているため、楽曲の売上ランキングとは異なり、ユーザーが歌詞とともに深く音楽を聴きこんでいる曲を知ることができる、他にはないランキングとなっている。
https://petitlyrics.com/contents/2019ranking.html
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