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15年ぶり復活ライブを前に。J-Jazzシーンを牽引する5人のスーパー・グループ“TKY”特集
J-Jazzシーンを牽引する5人で結成されたスーパー・グループ、“TKY”が、Billboard LIVEに初登場する。TKYは、2004年、TOKU、日野賢二、小沼ようすけ、秋田慎治、大槻"KALTA"英宣という日本ジャズ界で活躍する人気者5人で活動をスタートさせ、1年間だけ活動して解散した伝説のバンドだ。1枚だけアルバム『TKY』を残した。活動終了から約15年、沈黙を破り彼らがBillboard LIVEのステージに遂に登場する。J-Jazzシーンを代表するトップ・ランナー達がスリリングに繰り広げる息をもつかせぬプレイはジャズ、フュージョン・ファンならずとも必見のステージになることだろう。
1. “TKY”とは、何だ?
“TKY”というバンド名は、TOKU、日野賢二(Kenji “JINO”Hino)、小沼ようすけ(Yosuke Onuma)という3人の名前のイニシャルから、作られた(取ったものである)。
TOKUは、1973年2月20日生まれ。日本唯一のヴォーカリスト&フリューゲルホルン・プレーヤー。中学時代にブラスバンドで初めての楽器コルネットを手にする。高校・大学はロック、ポップスのバンドをしていたが、大学時代、セッションに誘われ、ジャズに深く興味を覚える。大学2年の時にオレゴン州に語学留学し、ルームメイトとバンド活動を開始。大学卒業後、ライブ・ハウスで唄い始める。2000年1月、アルバム『Everything She Said』でデビュー。
日野賢二は、1967年8月17日生まれのベーシスト。日本を代表する名トランペッター、日野皓正の次男。1975年、7歳の時に、父、皓正と共に家族でニューヨークに移り住む。ニューヨーク郊外にある音楽専門のハイスクールを卒業後、同校出身のマーカス・ミラーやオマー・ハキムと親交を持つようになる。以後、ジャコ・パストリアス、ハイラム・ブロックなどのミュージシャンとプレイを重ね、プロのベーシストとなる。2003年に帰国する。活動拠点を日本に移し、同年、アルバム『Wonder Lan』でデビュー。
小沼ようすけは、1974年11月24日秋田県生まれのギタリスト。14才で父の影響によりギターをはじめ、ロック・バンドでライブ・ハウスにて活動。その後友人の影響で、ジョージ・ベンソン、グラント・グリーンらに感銘を受け、本格的にジャズ・ギターを学ぶ。1995年、【ヘリテージ・ジャズギター・コンペ】日本代表で世界3位、1999年、ギブソン・ジャズ・ギター・コンテストで優勝。2001年11月、アルバム『nu jazz(ニュー・ジャズ)』でデビューを果たす。3人とも、確かな実力を持ち、デビュー当初から注目を集め、幅広く活動をしていた。
そんなTOKU、日野賢二、小沼ようすけの3人が意気投合して結成したのが、“TKY”である。他のメンバーの秋田慎治はTOKUのバンドから、大槻“KALTA”英宣は小沼のバンドからの参加。こうして、強力な5人組、“TKY”が揃ったのである。3人とも偶然ソニー・ミュージックのレーベルに所属していたので、アルバム作りもスムーズに進んだ。
2.“TKY”の活動の軌跡
2004年夏に結成された“TKY”は、1年間限定で活動することにした。元々、個々にリーダーとして活躍している3人には、それ以外に方法はなかった。まず手始めに、【FUJI ROCK FESTIVAL’04】(2004年7月30日~8月1日)に出演したTKYは、熱狂を持って迎えられた。ロック・ファンの観客は、TKYのハイ・レベルな演奏にびっくり仰天したのだ。TOKUの電化トランペットはまるでマイルス・デイヴィス、日野はマーカス・ミラー、小沼はジョン・スコフィールド、秋田はハービー・ハンコック、大槻はヴィニー・カリウタを彷彿とさせる演奏で強烈だった。2005年になると更に活動が活発化した。2月はモーション・ブルー、3月は名古屋ブルーノート、福岡ブルーノート(当時)、大阪ブルーノート(当時。現ビルボードライブ大阪)、4月は六本木スイート・ベイジル、5月は名古屋クアトロ、心斎橋クアトロ、渋谷クアトロに出演した。TKYのピークは、2005年8月21日に国内最大のジャズ・フェスティバル【東京JAZZ】に出演したときに訪れた。昼の部の最後にマーカス・ミラーが出演し、夜の部の最初にTKYが演奏した。しかも次のバンドは、ハービー・ハンコックのヘッド・ハンターズで、そのメンバーには、ロイ・ハーグローブ(tp)とマーカス・ミラー(b)がいた。TKYは、計6曲演奏したが、最後にハービーの「アクチュアル・プルーフ」を演奏したのだ。これには、驚いた。ハービー本人のバンドの前で、堂々と演奏を行ったのだ。スリリングなテーマ、定期に出てくるバックリフの格好良さ、それを受けて益々白熱するインプロヴィゼーションに聴衆は熱狂した。そんな彼らが、2005年11月15日、品川プリンス ステラボールでのライブを最後に期間限定の活動を終了した。 当日はメンバー全員が心からの感謝を観客に捧げ、感動的なステージが展開された。もちろんアンコールは、ハービーの「アクチュアル・プルーフ」が演奏された。約1年間に渡ったTKYでの演奏が終わり、各個人の活動に戻った。
3.伝説のアルバム『TKY』とは?
アルバム『TKY』は、2004年11月10日~15日に録音。録音時の、メンバーの年齢をみてみよう。TOKUは31歳、日野賢二は37歳、小沼ようすけは30歳、秋田慎治は32歳、大槻カルタ英宣は34歳だった。全8曲中、6曲がメンバーのオリジナル。日野とTOKUの共作が1曲。小沼、秋田、大槻は、各々1曲ずつ。TOKUが2曲。すなわち全員がオリジナルを提供している。他に、ハービー・ハンコック(p)とケヴィン・ユーバンクス(g)の曲を1曲ずつ収録している。楽曲は、1970年代のハービー・ハンコックのヘッド・ハンターズやマイルス・デイヴィスからの影響が大きく感じられる。16ビートに乗って、白熱するインプロヴィゼーションは、まるでライブ・アルバムのような熱気が感じられる。2004年当時のJ-Jazzシーンの最高峰の演奏が、記録されていると言えるだろう。特にハービーのオリジナル「アクチュアル・プルーフ」の演奏が素晴らしい。
4.15年ぶりの復活ライブへの期待
昨年の9月18日のこと、横浜・関内の馬車道にあったライブ・ハウス“KAMOME”が閉店する直前、オーナーにお世話になったたくさんのミュージシャン達がそこに集り、一期一会のセッションとなった。そこで、偶然だが、TKYの5人が揃って(解散以来5人でセッションするのは初)、一曲セッションした。TOKUがSNSに上げたところ、大きな話題となった。それは、今回の復活ライブのきっかけとなった。現在のメンバーの年齢をみてみよう。TOKUは46歳、日野賢二は52歳、小沼ようすけは45歳、秋田慎治は47歳、大槻"KALTA"英宣は49歳になった。今回のBillboard LIVEのライブの選曲は、アルバム『TKY』の収録曲を中心にやる。一体、どんな音楽が生まれるのだろうか?それは、15年間のTKYの5人皆の経験が音楽で一つになったときに生まれる新しい世界である。懐かしさと新しさが合わさり、昔よりも大きく良いエネルギーが、Billboard LIVEの空間を満たすことだろう。TKYの良さは、ライブ演奏でこそ、発揮される。だから、私たちにとっても、TKYの5人にとっても楽しみである。さあ、期待して観に行こう!
公演情報
TKY
ビルボードライブ東京:2020年1月7日(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2020年1月9日(木)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
TOKU /トク(vo,flh)
日野賢二 / ヒノケンジ(b)
小沼ようすけ / オヌマヨウスケ(g)
秋田慎治 / アキタシンジ(p,key)
大槻"KALTA"英宣 / オオツキ"KALTA"ヒデノブ(ds)
Text:高木信哉(音楽評論家)
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