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フー・ファイターズの凄腕ドラマー、テイラー・ホーキンスが語る最新作『ゲット・ザ・マネー』



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 フー・ファイターズのドラマー、テイラー・ホーキンスがフロントマンを務めるサイド・プロジェクト<テイラー・ホーキンス&ザ・コートテイル・ライダーズ>の最新アルバム『ゲット・ザ・マネー』がリリースされた。約9年ぶり、通算3作目となる本作には、クイーンのロジャー・テイラーや、本家フー・ファイターズのデイヴ・グロールとパット・スメアなど、多数の大物ゲストが参加している。国内盤リリースを記念して、米Billboardに掲載されたインタビューでの発言とともに、作品の魅力をじっくり深掘りしよう。

凄腕ドラマーが持つ2つの顔

 『ゲット・ザ・マネー』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で1位に輝いたフー・ファイターズの『コンクリート・アンド・ゴールド』(2017年)の約2年に渡るアルバム・ツアー中にテイラーが書き溜めた楽曲が音となって形になった作品だ。すでにフー・ファイターズの新作に取り掛かっているというテイラーは「常にゴーサインで進んでばかり。それに俺には妻と3人の子供もいるし」と、休む暇もなくツアーと音楽制作、父親業に徹しているようだ。

 歌って叩けて、曲も作れるアーティストを目指してきたテイラーだが、それをフー・ファイターズで実現するには乗り越えられない壁がある。「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」とカート・コバーンの若すぎる死が余りにも有名なニルヴァーナでドラマーだったデイヴ・クロールという最高峰ドラマーがいるからだ。ニルヴァーナが解散する前から楽曲をストックしていたデイヴは、1995年に1stアルバム『フー・ファイターズ』で鮮烈なデビューを飾り、そのセルフ・タイトル作では、デイヴはドラムも含めた楽器を全て担当した。1997年の2ndアルバム『ザ・カラー・アンド・ザ・シェイプ』からバンド・ミュージシャンが参加し、「マイ・ヒーロー」や「エヴァーロング」を収録したそのアルバムで人気オルタナティブ・ロックバンドの仲間入りを果たしたフー・ファイターズは、3rdアルバム『ゼア・イズ・ナッシング・レフト・トゥ・ルーズ』でその地位を確固たるものにした。



 今では、世界的な名声を手にしたモンスター・バンドのフー・ファイターズも最初から花道が用意されていたわけではなかったようだ。「3/4が埋まるくらい、フェスなら午後3時くらいにプレイするような前座クラスのバンドだった」とテイラーはバンド初期の頃を振り返る。「デイヴは俺にどんなプレイをして欲しいのか、それをきちんと形にできる方法を知っている。ある日、収録から帰ったあと、精神的な疲れがどっと出たんだけど、それもそのはずだよな。だって世界でも有数のドラマーの一人をハッピーにさせようとしているんだから。フレディ・マーキュリーの代わりにリード・ヴォーカルを務めることと一緒だよ」と、プレッシャーが伴う作業だと話すが、バンドリーダーのデイヴを信じ、彼の要望に応えることで、テイラーはドラマーとしての役目を全うしている。

 そんな彼がフー・ファイターズでの活動に重きを置きつつ、バランスを取りながら自身のもう一つの夢を叶えるかのように、2004年にテイラー・ホーキンス&ザ・コートテイル・ライダーズは結成された。テイラーが気の合う仲間とともに、自ら書き下ろした曲をレコーディングしたアルバム『テイラー・ホーキンズ&ザ・コートテイル・ライダーズ』は2006 年にリリースされ、2010 年には2nd アルバム『レッド・ライト・フィーバー』が発表。同作には、クイーンのブライアン・メイとロジャー・テイラー、デイヴ・グロール、ザ・カーズのエリオット・イーストンなどが参加し話題を呼んだ。バンドはそれぞれ作品をリリースした年にフェス出演のため来日経験もある。テイラーはザ・コートテイル・ライダーズとは別に、ザ・バーズ・オブ・サタンというバンドでアルバム1枚、そして2016年にソロEP『Kota』を発表している。


 郊外で家族を養う暮らしからインスピレーションを得て完成した『ゲット・ザ・マネー』で、テイラーはザ・コートテイル・ライダーズ―クリス・チェイニー(Ba./Key.)、ブレント・ウッズ(Gt.)、そしてフー・ファイターズではお馴染みのプロデューサーのジョン・ウストー(Perc.)―のプレイに合わせて、ドラムと歌声を披露。そこにデイヴ・グロール(4曲に参加)やパット・スメア、ダフ・マッケイガン(ガンズ・アンド・ローゼズ)、ジョー・ウォルシュ(イーグルス)、ペリー・ファレル(ジェーンズ・アディクション)、クリッシー・ハインド(プリテンダーズ)といったゲストスターが名を連ねる。カントリーの歌姫リアン・ライムスがそこに仲間入りしているのには少し驚きを隠せないが、これらのゲストの名前を聞いただけでも、作品への期待感がひとしおに高まらないか。


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これから何があろうと、音楽は止めない

 本作のサウンドについてテイラーは“支離滅裂”と説明するが、それはプログレッシブからグラムなど、ありとあらゆるロックへの敬意を込めて、ヴァラエティ豊かなロック・アルバムに仕上がっているからだろう。また本作を“郊外地獄のおはなし(Tales from Suburban Hell)”と銘打とうと考えていたテイラーの言葉どおり、妻子持ちの47歳の一人の男のリアルな状況が題材にされている。ペリー・ファレルがボーカル、デイヴがギターで参加する「アイ・リアリー・ブリュー・イット」は男女関係(この場合、夫婦)において謝罪するのはいつも男性側であると歌い、「キス・ザ・リング」は妻からどうにかしてヒントを得ようとするサマが表現され、「ユア・ノー・グッド・アット・ライフ・ノー・モア」は「この生活に向いてない(You’re no good at life no more.)」と、妻と喧嘩した時に実際に言われた一文がタイトルになっている。「俺はミュージシャンだけど、その肩書きがあるからって誰かより偉いという意味はない。昔、友人が俺に言ったんだ、『あんたはロックスターだから、何やっても大丈夫だ』って。でもそんなルール、家のドアを開けた瞬間、通用しないんだから。」



 フー・ファイターズは数週間ツアーをしたら、同じだけオフを取るシステムになっているようで、テイラーはオフの間、自宅のスタジオに忍び込んでトラック作りに没頭した。デイヴの象徴的なシャウトが加わった「アイ・リアリー・ブリュー・イット」以外は、特定のゲストを念頭に置かずに書かれたようだ。制作を進めるうちに、「このアルバムを作る上で強い願望になった」と、女性デュエットシンガーを探すことに。しかし、オリビア・ニュートン・ジョンからは“とてもご丁寧に”お断りが入り、米バンドのベルリンのボーカルのテリー・ナンとの共演も残念ながら叶わなかった。

 しかし、このアルバムには強烈なインパクトを残す2名の女性シンガーが参加している。プリテンダーズのクリッシー・ハインドとリアン・ライムスだ。クリッシーと面識がなかったテイラーは、フー・ファイターズでバックコーラスを務めたシンガーのコネで、彼女とコンタクトを取り、今回の共演が実現。ダフ・マッケイガンとジョー・ウォルシュも参加する「ゲット・ザ・マネー」を「なんだかガキっぽい曲」と言いながらもボーカル参加してくれたクリッシーについてテイラーは「タフな女性だけど、スウィートな部分を発見した」と話している。また「シー・ユー・イン・ヘル」に参加しているリアンとは、子供が同じ学校に通うご近所の仲で、学校行事でリアンが歌っているのを見て、テイラーから声をかけたそうだ。リアン・ライムスは史上最年少の13歳で【グラミー賞】の<最優秀新人賞>と<最優秀女性カントリー・ヴォーカル・パフォーマンス賞>を獲得した、1990年代後期~2000年初期にアイドル的人気を誇ったカントリー歌手だ。簡単に言えば、プレ・テイラー・スウィフトと呼べる人気歌手である。



 フー・ファイターズのパットがギター、そしてドラムを始めるきっかけとなったテイラーの憧れの存在のロジャー・テイラー(クイーン)がボーカル参加した「シェイプ・オブ・シングス」がラストを飾るこの作品を聞いて、改めて幅広いジャンルのアーティストが集結した作品であることと、「歌えて曲も作れるドラマー」になりたいテイラーの夢がきちんと実現された作品であることが分かる。

 100%満足のいくショーができなくなれば、デイヴからライブ休止宣言が出る日が来ることを予想しているテイラーは、「毎回、これが最後のライブになるかもしれないと本気を入れている」と話す。どのライブにも全力で挑み、ツアー中とツアーのオフ中に音楽を作り続けるテイラーの制作意欲とバンドマンシップは止まることを知らない。「(『スティール・ホイールズ』を発表した頃の)ローリング・ストーンズと同じ40代に俺らもなった。これから何があろうと、音楽は止めない。だって、楽しすぎるんだからな」と、いつまでも音楽を作っていくことを声高らかに宣言した。


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