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K 『Curiosity』リリース記念インタビュー ~純粋な「好奇心」に導かれて完成した新作、そしていま音楽について考えること



K『Curiosity』インタビュー

 つい先月10月30日に、自身7枚目のオリジナル・スタジオ・アルバム『Curiosity』をリリースしたシンガー/アーティストのK。タイトルそのままに、これまでの作曲的なルーティンを抜け出し、期限も設けず、自身の純粋な「好奇心」に導かれて制作した、という同作は、彼にとって新境地を描き出すと同時に、どこか音楽に向き合い始めた頃の志=ブラック・ミュージックのルーツを感じさせる、イノセントで軽やかな感触を湛えた作品となった。来年には同作のツアーもスタート、11月にはそのプレビューとも言えるビルボードライブ公演を開催するKに、新作、そしていま音楽について考えることについて教えてもらった。

今ワクワクするもの、自分の“好奇心”が動くものを作ってみよう

−−ちょうど先日、第二子が生まれたそうで、おめでとうございます。(※インタビューは10月末に収録)

K:ありがとうございます!

−−アルバム・リリースの直前という、縁起の良いタイミングでの誕生になりました。

K:そうですね。明日は、僕が主題歌を担当した映画(『閉鎖病棟 ―それぞれの朝―』)の上映イベントがあるので、本当に良いタイミングでしたね。

−−そんなお忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。早速、新作アルバムについてお話をうかがえればと思います。既に新作に関連したインタビューがいくつも世に出ていますが、新作は、ほぼ9割位をご自宅のスタジオで録音したそうですね。

K:そうですね。前作の『Storyteller』(2018年)も最初のデモ作りは全部、家でやっていて、それをスタジオで差し替える作業が基本でした。そのやり方自体は今までも同じです。でも、今回は家で打ち込んだものを、そのまま本番でも使うことが多く、家での作業も“デモ作り”というより“本番のレコーディング”というイメージで作っていたのが、今までとの一番大きな差でした。『Storyteller』を出した直後、次にいつアルバムを出すか、とかは全然決めず、とりあえず今ワクワクするもの、自分の“好奇心”が動くものを作ってみよう、という形でスタートしました。でも、せっかく作るなら今までとは違うものを作りたいので、打ち込みを前面に出すものにしたいと思ってスタートしました。

 とは言っても、やっぱり僕自身、生っぽい音はすごく好きなので、後から自分でドラムを叩いて、それを音源に混ぜてみたり、わざと古い機材を通して、ざらついたノイズを乗せたり……という作業もやっているんですけどね。

−−他のインタビューでも、チャーリー・プース、ブルーノ・マーズ、トム・ミッシュといった名前が引き合いに挙がっていて。たしかにアルバムを聴いた印象としても、今のUSのメインストリームとかの、モダンなサウンドと親和性が高いように感じました。

K:そうですね。作っているうちに、やっぱり自分が好きだった時代の音楽に寄っていったというか。僕が最初に音楽をやりたいなと思うきっかけはファンクやR&B。彼らの音楽を聴いて「こういうシンガーに、アーティストになりたいな」と思ったのがスタートでした。だから、その時代の音楽には立ち返るんですけど、一方で、いまのミュージシャンたちも、僕が好きな当時の音楽のサウンドを再現しつつ、今風にアレンジしてやっている気がしていて、そこにすごく興味があったんです。『Curiosity』は「70年代や80年代の音楽のニュアンスを持ちながらも今風にやるにはどうすれば良いのか?」ということを、彼らの音楽を聴きながら研究して作り上げたアルバム、という感じでしたね。



▲K - Album『Curiosity』全曲トレーラー映像


−−70年代や80年代のアーティストで、特に影響を受けた音楽家は?

K:なんだかんだ、僕にとってはクインシー(・ジョーンズ)が一番大きいですね。あとはマイケル(・ジャクソン)。90年代に本格的に音楽をはじめた頃は、シーン的にもR&Bがドレンドで、JOEとかベイビーフェイスとかを一番よく聴いていたので、音楽をやる土台として無邪気に聴いていたのはその辺りなのですが、クインシーのやっていた作品が一番耳に残っています。

 当時、ブラック・ミュージックに詳しい友達がいて、彼にクインシーがプロデュースしたジェームス・イングラムのアルバム(『It's Your Night』1983年)を薦めて貰ったらすごく良くて。レコードやCDのクレジットを見るのも好きだったので、そこで初めてクインシーの名前を知りました。そこから「クインシーの作品を聴いてみよう!」となり、既に聴いていたマイケルのアルバムもクインシーがやっていたことに気が付きました。そうやって辿っていたら、当時のR&Bをやっている人たち──それこそベイビーフェイスやテイク6もクインシーと関係が深いことに気が付いて。時代が変わっていっても、どこか線で結ばれているというのが、面白いなと思いましたね。

−−Kさんから見て、クインシーの音楽の魅力はどんなところにあると思いますか?

K:僕はマイケルのアルバムでは『オフ・ザ・ウォール』が一番好きなんです。もちろん、その後のアルバムも素晴らしいと思いますし、大好きなんですけど。よく言われることですが、70年代後半から80年代初頭というのは、録音の技術が一番進化して、80年代の打ち込みの音が入ってくる直前の時代。日本で言うAORもそうですが、『オフ・ザ・ウォール』も、その時代の音楽ですよね。生の音で、アナログのテープで、最高の音で録れるのがコレ、という感じがある。それにプラス、「Rock With You」の、ちょっとしたシンセの音や、パッドやリードの音とか、「これから80年代のシンセサイザーの音が入って来るよ!」というバランスが、すごくよく出来ているアルバムだと思います。




 結局、完全なクリエイティブというのは、僕は無いと思っていて。『オフ・ザ・ウォール』も、それまでのマイケルがやっていたモータウン的なサウンドを、当時の流行のディスコのサウンドで、ちょっとソウルなR&Bなんかもうまく混ぜて、彼を大変身させた。そういうサウンドの作り方が、僕はすごく好きでした。もちろん、当時は「クインシーのプロデュースが素晴らしいから、この名曲が生まれたのか…!」みたいには全く聴いていなくて、プロになってから改めて気付いたんですけどね(笑)。

−−なるほど。

K:あと、クインシーは元々ピアノ弾きで、トランペットも吹いて、弦もアレンジする。そのアレンジャーからプロデューサーになった人で。例えば、デビット・フォスターとかもそうですが、当時は“プロデュース”と言っても、自分でピアノを弾いて参加する作家も多い中、彼は全く楽器を触らないプロデュースの仕方でした。当時もクレジットを見て、プロデュースって書いてあるのに、楽器を触っていない感じがして、「一体何をやってるのかな?」と思っていました。その後、松尾潔さんとのお仕事もそうですが、一歩引いた視点から作品を作っていく感じが、新鮮で面白いなと思いましたね。今でも僕は、自分で歌って、自分で書いて、自分で弾いて……と、やっていますけど、どこか一歩引いた目で見たい、という意識はあるかも知れません。

−−クインシーがマイケルと作り出したサウンドに惹かれたことはもちろん、 “プロデュース”というアイデアについても教えてくれた。

K:そうですね。サウンドの組み立て方とかも含めて、本当に教えてもらったという気がします。

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今回は「コーラスもメイン・ボーカルも楽器の一部だ」という考えで作りました

−−“プロデュース”という観点で言うと、新作はご自身のセルフ・プロデュース作ですね。

K:セルフ・プロデュース自体は、前にもやったことがあるんですけど、今回はリリースが決まってから書いた曲はほとんどなくて、曲を書いていて、それが集まったからアルバムにしよう、という流れでした。時間が空いている時に曲を書いていたら、アルバムの曲が全部書けていたんです。1曲目の「Prelude to curiosity」だけは、アルバム用に作った曲ですけど。だから作っている間は“セルフ・プロデュース”という意識もまるでなくて、やっているうちにそうなっちゃった、という感じですね(笑)。だから、アルバムに入っていない曲もたくさんあるんですけど、僕自身はそういう作り方をずっとしたかったし、自分に合っている気もしますね。

−−普段から予定がないときに曲を書くことは多い?

K:そうですね。やっぱり刺激を受けることが多いんです。例えば、エド・シーランのライブを観ると「かっこいいな」と思う反面、「悔しいな」という思いもあって。チャーリー・プースとかトム・ミッシュとかもそう。彼らのライブを観終わると「こういう風に作りたいな!」ってなる。特に日本も今は、ブラックな色を出す素晴らしいアーティストが増えていて、ラジオとかを聴いていても、すごく刺激を受けます。

−−日本のアーティストでいうと例えば?

K:トム・ミッシュを観に行った時に出ていたSIRUPさんも素晴らしかったし、TENDREさんも素晴らしかった。もちろん、Nulbarichさんもそうですし。あと、僕はほぼラジオで音楽の情報をキャッチしているんですけど、昨日もShazamして「バラードの作り方が素晴らしい!」と思ったのが、DedachiKentaさんです。



▲DedachiKenta - 「Life Line」- Music Video


−−たしかに今は日本にも、ブラック・ミュージックに影響を受けたアーティストが増えている印象です。そういった動きからもインスピレーションを受けているんですね。

K:はい。すごく。

−−『Curiosity』のサウンドについても、もう少し細かく質問させてください。今回、すごく印象的だった曲の一つが4曲目の「MUSIC」。この曲はすごく多くの“声”がトラックに使われていますよね。例えば、「これはどこで録ったのだろう?」と思うような子供の声や、うめき声のような低音のボイス・サンプルも入っていて。この曲に限らずですが、新作は声を加工したり、重ねたりしているものが多いですよね。

K:ありがとうございます。まず、すごく夢を壊すようですけど、「MUSIC」の子供の声は既存のサンプルです(笑)。色んなものを探して、それを加工して作りました。でも、この曲をはじめ、今回はコーラスについては、すごく意識しました。僕は今まで、メイン・ボーカルを録ったら、コーラスはそれを支えるものというイメージでずっと制作をしていたんですけど、今回は「コーラスもメイン・ボーカルも楽器の一部だ」という考えで作りました。特にコーラスをすごく細かく作って、家で全部レコーディングして、歌詞も書いた状態で、「歌は何声なのか?」とか「パンをどうやって振るのか?」みたいな部分まで本番と同じようにイメージして録音しました。

 またクインシーの話に戻るんですけど、前に松尾さんに聞いた話で、クインシーが「愛のコリーダ」をカバーする時に、テンポは変えずに、でも、聴いた時の印象を“速く”したい、というお題があって、悩んだ末に、コーラスの追っかけでスピード感を出した、という話があって。今回は、そこからすごくヒントを得て、とにかく隙間があったらコーラスを刻んで詰める、という地道な作業を「MUSIC」や「LOOP」でしました。他の楽曲もコーラスは、とても意識して、遠くから聴こえるボイス・サンプルなんかでも、色んなリバーブを試して、一番良かったものを採用するようにしました。ある種、パッドのような感じで声を使いましたね。今まで、他のアーティストの方への提供曲では同じ様にやったこともあるんですけど、自分の作品では初めてでしたね。



−−改めて、それをメインのアイデアに据えた理由は?

K:「好奇心に従ってやってみよう」と思ってやり始めて、やりながら気付いたんですけど、僕が韓国で出したファースト・アルバムは割とブラックな曲も多かったんですけど、いつからか曲作りというものが、枠の中での法則のようなものになっていたんじゃないかなと。「○○をして、△△をして……」と積み重ねていけば、というある種のルーティンが自分の中にできていたことに気が付いて。もちろん、その中で色々な組み立てをする面白さもあるんですけど。

 だから、他のアーティストに楽曲を提供するのは楽しいんですよね。あれこれと試行錯誤できる楽しさがあって。でも、それが自分の作品に戻ると苦しさになっていたりする。そういうこともあって、今までのやり方を一度横に置いて、もう一度、楽しい感じで自分の作品を作りたいな、というのは、やっていて思っていました。今回のボイス・サンプルも、とりあえずやってみて、良くなかったらやめよう、みたいな感じでした。

−−先ほども「コーラスを刻む」というワードが出ましたが、今回のアルバム、グルーヴィーな曲は多いですが、テンポという意味では、そこまで早くないですよね。でも、ギターとか、リズムを刻む要素が入ることでバウンシーに感じる。

K:実は、僕は曲を作る上で、テンポはすごく大事にしているんです。これも受け売りなんですけど、前に西寺(郷太)さんと一緒に仕事をした時に、「僕らが好きな70年代とか80年代のソウル・ミュージックのテンポ感って何なんだろうね?」みたいな話になったことがあって。その時に西寺さんが「98の法則」っていうのを教えてくれたんです。「ソウル・ミュージックでヒットした曲はBPM が98のものが多い」っていうものなんですけど。そこから、どんな曲でもBPMを数えるようになりました。

 それは必ずしも「BPM 98」に限った話ではなくて、「ミディアムといったら、このテンポ」とか「その中でもスローなものはこのテンポ」みたいな数字が、自分の中にあって、自分が「かっこいいな」と感じた曲のBPMを測ると、本当に1~2の誤差に収まることが多いんです。だから『Curiosity』でも、「MUSIC」も「LOOP」も「The PURSUIT」も「It’s a sunny day」も、まずはテンポを決める、ということはすごく意識していました。逆に、テンポさえ決めれば、それを速く聴かせる方法や遅く聴かせる方法は、色々とあるんですよ。

−−曲作りの根幹ですね。あと、今回は「光るソラ蒼く」等は除いて、ほぼご自宅での録音ということで、声のニュアンスや距離感も面白いなと思いました。

K:そうですね。ボーカルに関して、スタジオでの録音だとやっぱりちょっと興奮するというか……ちょっと冷静に考えられなくなるくらい、マジックが起こる場所だと思うんです、スタジオって。だから普段できなかったことが出来るようになったりするんですけど、一方で、普段考えられるようなことが考えられなくなったりすることも結構あって、後から「ああすれば良かった、こうすれば良かった」って思うことも多いんです。

 今回は、家で時間を掛けて、例えばマイクの距離感もそうだし、エフェクトをどう掛けて、どう切るかとか、それを全部セットで決めてバウンスしてスタジオに持っていて、それを一個ずつ再現して、再現したけど、家で作ったものの方が良かったり、グルーヴが出たりすることもあるので。そこはエンジニアさんと話し合いしながら決めていきました。やっぱり、全てを家で決めてスタジオに行ったことが、今回は良かったのかも知れないですね。

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自分が一番楽しんでいないと、楽しさって伝わり切らない

−−先ほども話に出た映画主題歌で、スタジオ録音が主体になったシングルの「光るソラ蒼く」も、曲自体は家で?

K:家で全部アレンジして、ドラム・フィルとかベースの動きとかも全て決めた上で、スタジオに持って行きました。これと「Close to me」が唯一、いままでの流れを汲みながら作った曲ですね。

 元々、今回のアルバムでバラードを作る予定はなかったんです。でも、お話を頂いて、ぜひ作りたいなと。最初はアルバムの流れもあったので、この曲も打ち込みで行こうと思ってチャレンジしたんですけど、途中で「やっぱり、そういう必要は無いな」って強く感じたんです。せっかく映画に寄り添う曲なのに、そこで無理はしない方が良いなと。あと、海外の作品を聴いていても、例えば、エド・シーランのアルバムには、EDMもあれば、しっかりとしたバラードもあることに気が付いて。それに最近はアルバムの聴き方も世の中的に、どんどん変わってきていて、それはちょっと哀しい話でもあるんですけど、アルバム単位じゃなくて曲単位で聴く方も増えてきているので。自分のインプットとアウトプットさえしっかりしていれば、アレンジまで細かく揃える必要はないと思って、最終的にこういう形を選択しました。

 でも、そんな中もちょっとだけ拘ったところがあって、自分の中ではイーグルスみたいな、70年代後半のアメリカの西海岸の、ちょっとカントリーの入ったバラードみたいなことはイメージしてたんです。アルバムの流れで聴いた時に違和感が生じないように、あえてピアノは弾かずに、ギターでイントロを作ったりとか、そういう工夫はちょっとしましたね。


▲K - 「光るソラ蒼く」- Music Video -『閉鎖病棟 ―それぞれの朝―』主題歌

−−アルバムの他の曲の70~80年代感と、どこか繋がりがあるようになっているんですね。僕はこの曲を聴いているとき、不思議と懐かしさのような感覚を覚えました。

K:この曲を書く時、他にも実は2曲ほど書いていて。その3曲とも、僕自身、教会で音楽を始めた、ということもあって賛美歌の作り方を意識していました。僕の勝手なイメージなんですけど。最初の歌詞――ハングルなんですけど――そこでも賛美歌に出てくる言葉を使ってデモを作ったんです。

 あとは、難しいことをなるべくやらないようにということも考えていましたね。コードもシンプルで、演奏してくれた皆さんにも「なるべく格好をつけないように演奏してください」「心の中が熱いだけで、外側はクールに演奏して欲しい」とお願いしました。映画もそうですけど、聴いている人が考えるスペースを与えたいな、というのはすごくありました。答えをそれぞれ、探して欲しいなと。

−−では、いよいよ目前に迫ったのビルボードライブについても教えてください。最近はKさんは毎年連続で出演されていますね。

K:どんどん音が良くなっていますよね。最初にやらせてもらったのが2013年だったと思うんですけど、その頃よりもチューニングだったり、技術的なところが進化していて。それはスタッフの皆さんの努力ゆえだと思います。

 あと、とにかくお客さんとの距離が近くて、僕はすごく好きですね。特に日本では、ライブのチケットを買うと「ライブをしっかり聴かなきゃ!」みたいな感じになりがちだと思うんです。でも、実はもっとフェスみたいな感覚でライブも楽しむべきなのかな、と思うこともあって。お酒を飲むことに限らず、普通に話をしながら聴けるくらいのラフな感じの方が、お客さんも構えずにライブを楽しめるのかなと。そういう環境にはすごく適しているハコだと思います。

 僕もお客さんとして行くことも多いんですけど、ライブが始まるまでのワクワク感も大きいですよね。それは楽器が近くで見られるのもあるし、演奏する人が出てきても、ラフな感じが、やっぱりリビングで聴いているような感じで、それが魅力的だなと思います。

−−なるほど。少し、話が逸れますが、Kさんにとってもう少し広い意味で「ライブ」ってどんな場ですか?

K:うーん……難しいですね。でも、僕がライブや──こういうインタビューもそうですけど──人前に立つ時に考えているのは「自分が一番楽しんでいないと、楽しさって伝わり切らない」ということです。例えば料理のシェフも「これは絶対にウマい!」と思って出してくれる料理は美味しいと思うし、「これはどうなんだろう…」って出してくる料理はマズイと思うんです。音楽も一緒で、自分が一番「楽しい!かっこいい!ヤバい!」って思っていないと、その半分も伝わらない気がする。とにかく自分が一番楽しんで、かっこいいと思ってやるのがライブだと思います。それが発信側。で、受信側もそれに「おー!」って反応してくれて、それが発信になって、またこっちが受けとる。それがコミュニケーションだと思うんです。そのためにも、まずは自分が一番楽しまないと。

 そういう話をすると、「自分だけ楽しんで」みたいに聞こえるかも知れないけど(笑)、やっぱり表現者なので、こっちが火を起こさないと伝わらないと思います。火を起こすためには楽しんで、自分が一番かっこいいと思うものをやらないといけない。それが僕にとってのライブかも知れないですね。

−−では、もう年末も近いということで、今年から来年についてのお話です。今回、1年半ぶりとややハイペースなアルバム発表になりましたけど、既に次回作には取り掛かっているんでしょうか?

K:アイデアは溜めてます。打ち込んでまではいないですけど、こういうニュアンスの、こういうメロディの、こういうアレンジの曲っていうのは何曲かあって。今年の終わり……いや、来年やります(笑)。

−−お話をうかがっていると、今回の作り方はKさんにとってもマイルストーンというか、違うステップを上がった、手応えのようなものがあったんじゃないかなと思います。

K:そうですよね。今回のスタイルは、すごくやりたかった作り方の一つなので、やっと新しい一歩を踏み出せた感じがしますね。歌詞とかも、自分で書いたものもあれば、人に書いてもらったものもあって。後者でも、ただ書いてもらっただけではなくて、コンペもやらして貰って、そこでも細かく「ア行で終わって欲しい」とか、リリックの作り方の指示をして作ってもらって。録った後にも、細かいやり取りして直していく、みたいなこともやったので、そこも新しい一つ作り方が形になりつつあるのかなと思います。次回はさらに進化したものをやってみたいな、と思いますね。

−−来年以降も楽しみにしています。最後に、このインタビューは2019年の暮れの一本になると思うので、今年聴いて良かったアルバムなり楽曲なりを教えて頂けますか?

K:ちょっと待ってくださいね。最近は携帯を見ないと……(自身のスマートフォンを取り出す)

−−分かります(笑)。

K:情報量が多すぎて……。なんだかんだ、よく聴いたのはチャーリー・プースとか、クロメオ辺りですかね。あとはYUNA。

−−インドネシアのシンガーですね。

K:そうですね。今作を作る上でも影響を受けましたね。

−−やっぱり、ご自身の制作でインスピレーションを受ける作品が印象に残っていきますか?

K:そうですね。何度も聴いちゃいます。あと、アルバムを全部作った後に聴いたんですけど、ゼッドとケラーニの新曲(「Good Thing」)には撃たれましたね。3連のリズムで「この人はここまでできるのか!」と。あれは衝撃でした。コード進行も「ツーファイブワン」という、ジャズとかでよく使う、僕も大好きなもので。勝手に彼のことをEDMの人間だって思ってたけど、ただの音楽家なんだなって改めて思いましたね。引き出しが本当に多い。素晴らしいなと思いました。


K「Curiosity」

Curiosity

2019/10/30 RELEASE
VICL-65256 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Prelude to curiosity
  2. 02.Curious
  3. 03.It’s a sunny day
  4. 04.MUSIC
  5. 05.the PURSUIT
  6. 06.Street of love
  7. 07.光るソラ蒼く
  8. 08.Close to me
  9. 09.LIFE
  10. 10.LOOP
  11. 11.All of me

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