Special
ストレイテナー『Blank Map』ホリエアツシ単独インタビュー
「自分たちの音楽で、まだ自分たちが見ていない景色をもっと見たい」
バンド結成20周年、メジャーデビュー15周年を迎え、そこからかつてない生まれ方をした「スパイラル」のリリース、ACIDMAN、THE BACK HORNとの3バンドによるスプリットツアー【THREE for THREE】などを経て、過去の自分たちを受け入れる姿勢も、過去の自分たちに捕らわれない姿勢も体現してみせた最新ミニアルバム『Blank Map』が完成。今回のインタビューでは、その最新作の収録曲ひとつひとつについて話を伺いながら、明らかに変化している今現在のストレイテナーを紐解いた。10月19日に開催される初の野音ワンマンや、その直後に始まる全国ツアー【Drawing A Map TOUR】、そして彼らの今後についても語ってもらっているので、ぜひご覧いただきたい。
自分たちではない架空のバンドが演奏しているイメージ
--「ファンのひとりの人生の為に1曲作りたいな」という想いから制作したという、かつてない生まれ方をした「スパイラル」のインタビューから約半年。あの楽曲の反響や影響についてまず聞かせてください。
ホリエアツシ:ライブでどーん!と盛り上がりはしないんだけど、でも泣いてしまう。「スパイラル」をライブで聴くと泣いちゃう。そういう反響が多いです。あからさまに涙を誘いにいく楽曲ではないけれど、泣けてしまうというのは不思議ですよね。--今回のミニアルバム『Blank Map』に与えた影響も多大だったんじゃないですか?
ホリエアツシ:そうですね。いろんな作り方が出来るようになった。その象徴のような楽曲として「スパイラル」が生まれたことで、何物にも捕らわれないでひとつの作品を作れて、それがリリースできる。そういう意味で「スパイラル」の存在は大きかったかもしれない。今回『Blank Map』に収録されている5曲は、ぜんぶタイプが違うと言えば違う。ミニアルバムだからこそ出来たことでもあるんですけど、テーマがそれぞれ違うから。--オムニバス感がありますよね、今回のミニアルバム『Blank Map』は。
ホリエアツシ:ミニアルバムという形態でリリースする状況を逆手に取って「いちばん新しい曲たちを入れちゃおう」っていう。結果的に今回選んだ楽曲は本当にいちばん最近できたモノばっかりで。例えば「歌詞書けないなぁ」と思いながらなんとなくピアノを弾いていたら、1曲目「STNR Rock and Roll」がふと出来ちゃったりして、悩んでいるときに違う新曲を作っちゃったパターンなんですけど。やらなきゃいけない仕事があるのについ掃除しちゃう感じ(笑)。--「STNR Rock and Roll」は始まりのセレモニー的な楽曲で、これまた今までのストレイテナーと質感が違いますよね。
ホリエアツシ:ライブの出囃子として作った曲なんですよね。これまで12年間ぐらい、Doshっていうアーティストの曲を出囃子として使っていたんですけど、結成20周年の区切りで新しく変えるのも良いかなと思って。ちなみに、これまでライブを映像作品化するたびにDoshに逐一許可を取っていたみたいなんです。その手間も今回「STNR Rock and Roll」が出来たことで省けるみたいで(笑)。本当に30分ぐらいで出来ちゃった曲なんですけど、ボーカルがオートチューンっぽくなっていて、自分たちではない架空のバンドが演奏しているイメージ。それを次のワンマンライブからずっと出囃子として使っていこうかなって。--では、10月19日の野音ワンマンがお披露目?
ホリエアツシ:そうですね。--想像するだけでグッと来ますね。野外に序盤からシンガロングが響き渡る。
ホリエアツシ:ちゃんと浸透すればそうなるかもしれない。--続いて、2曲目「吉祥寺」。タイトルからしてそうですけど、具体的な状況説明や心境説明がフォークソングや私小説のように明確に成されていて、これもまた今までのストレイテナーのイメージに捕らわれない楽曲となっています。ホリエさん自身の人生や生活の歌でもありますよね。
ホリエアツシ:インディーズからメジャーデビューするまでの期間、リアルに吉祥寺のスタジオで練習していたり、曲を作ったりしていて、ナカヤマシンペイ(dr)は吉祥寺に住んでいたこともあって。バンドマンって曜日感覚がないじゃないですか。それで「日曜日に外出たらめちゃくちゃ人がいてイヤになった」ってナカヤマくんが昔言っていて(笑)。それを歌詞の冒頭で使ったり。あとは、なかなか上手くいかない時期もあったり、でもバンドとか仲間たちがどんどん増えていって、ひなっち(日向秀和/b)やOJ(大山純/g)とも吉祥寺で呑んだことあるし、そうやって過ごしてきた思い出の街なので、自分のふるさと以外で、東京で、ひとつ街を描くとしたら吉祥寺だろうなって。バンドがいちばん動いた、変化した時期に過ごしていた街なので。--なるほど。
ホリエアツシ:前回のアルバム『Future Soundtrack』の収録曲「Boy Friend」では、その時代の“人”にスポットを当てたというか、人間を描いているんですけど、今回は“街”にスポットを当ててみようと思ったんです。- 笑いとか自虐も交えて自分たちをドラマ化できるバンド、それが今
- Next >
笑いとか自虐も交えて自分たちをドラマ化できるバンド、それが今
--言うならば、青春とも呼べる時期を描いた楽曲じゃないですか。それを表現できるようになったのも「スパイラル」同様に今のストレイテナーだからこそですよね。
ホリエアツシ:実際にその時期を過ごしていた自分は「もっと遠くにあるモノを掴みたい」という気持ちのほうが強くて、同じ世代の人たちがそういうことを詞に書いたり表現していることに全くピンと来てなかったんですよ。自分がその頃を振り返られるようになって初めて書いてみたくなって。それは変化なのかもしれないし、やっと直視できるようになったのかもしれない。自分が実際にその境遇にいたときには、直視したくないモノだったのかもしれないですね。--その世界観をそのまま歌うようなバンドじゃない、という感覚もあったんでしょうね。
ホリエアツシ:認められないことを認めたくないというか……不言実行型というか「気づいたら、コイツらやってのけたな」みたいな感じに憧れていたので(笑)。そういう性格だったから当時は表現できなかったのかもしれない。--たしかに、初期の2人組時代とかはその感じがバリバリ出てましたよね。
ホリエアツシ:ハハハハハ! 結構言いよどむというかね、ハッキリ言わなかったですよね(笑)。--インタビュアーの思惑や誘導に従ったら負けだ、みたいな(笑)。
ホリエアツシ:でも今は「格好良い」の概念が変わってきていて。以前は格好付けることが「格好良い」と思って自分たちなりに格好付けていたと思うんですけど、それを今は俯瞰で見られるようになって「すげぇダサかったよ」って言える(笑)。でもその頃があっての今なので、その頃の自分たちを認めない訳ではないんです。「よく頑張ってきたな、よく戦ってきたな」という気持ちもあるし、その頃の自分を振り返ることが出来るというのは凄いことだなと思いますね。笑いとか自虐も交えて自分たちをドラマ化できるバンド、それが今なのかなって。ちなみに「吉祥寺」のミュージックビデオは、自分たちが本人として出演しているドラマ仕立ての映像になっていて、ドラマ仕立てのビデオは「REMINDER」以来なんですけど、15年ぶりに小芝居しています(笑)。--続いて、3曲目「Jam and Milk」。こちらはうってかわって、ストレイテナー特有の攻撃性や実験性を強烈に感じさせるナンバーになっています。音楽でバキバキに戦っている。
ホリエアツシ:たまにこういうタイプの曲が出来ちゃう。ジャミロクワイとかタヒチ80とか、いちばん好きなバンドはフェニックスなんですけど、そのあたりの影響が出ているタイプの楽曲の中ではいちばん直球にアレンジしたかなって。ひなっちはこのタイプのベースは得意中の得意だし、OJもブルースとかブラックミュージック系のギターは得意としているので、だから「このバンドならやれるだろう」と思ったんですけど、いざやってみたら難しかったです。どう今っぽくするとか……でも結果的に生々しいサウンドに着地して。ドラムとかもあんまり加工せずに素のまま、波打ってる感じとかもそのまま曲にしちゃったんですけど、楽しみながらもハードルは高かった。ただ「それっぽいな」って感じだけでは完成と言えないので、「このメロディーは俺しか歌わないメロディーだろうな」とかそういう部分に拘りましたね。--続いて、4曲目「青写真」。ここで満を持してザッツ・ストレイテナーな楽曲が聴こえてくる。
ホリエアツシ:元々の、このバンドの地盤。根っこにある、ロックの概念。それを全面に押し出した曲だと思います。今だからより素直には作っていますね。もうちょっと捻ったりすることも出来るけど、よりシンプルに作ったほうが伝わりやすいかなと思って。--「素直にストレイテナーをやる」みたいな。
ホリエアツシ:そうですね。この一面が「いちばんストレイテナーの好きなところ」と言うファンも少なからずいるだろうと思っていて。フェスとかでよくやる開いた一面ではなくて、こういう曲があるからずっとストレイテナーを聴いてくれている人がいるんだと思います。張り詰めた緊張感みたいなね。--そんなミニアルバム『Blank Map』の最後に「スパイラル」を据えてみて、自身ではどんな印象を持たれていますか?
ホリエアツシ:「スパイラル」は1曲で完結している曲だなと思うので、やっぱりミニアルバムだからこそ入れられた曲だと思うんです。もしフルアルバムだったら「スパイラル」がもっと作品全体を引っ張っていっちゃう。だから1曲1曲が分断されいて、それでも1曲1曲の力で成立させられるミニアルバムでよかったなと思う。1曲目「STNR Rock and Roll」と5曲目「スパイラル」が両端で支えていることで、結果的に一体感みたいなモノも出たんじゃないかなと思います。ACIDMAN、THE BACK HORNとのツアーを終えて~テナーの未来
--今作のリリース後には、野音ワンマンをはじめ多くのライブも予定されていますが、そちらの話を伺う前にストレイテナー、ACIDMAN、THE BACK HORNの3バンドによるスプリットツアー【THREE for THREE】を終えた今の心境、どんなツアーになったなと感じているか聞かせて下さい。
ホリエアツシ:僕ら3バンドが仲良いのはさておき、ファン同士がこの3バンドを好きでいる。その気持ちが上手く伝わってきて。東名阪の3本のツアーでしたけど、3バンドともめちゃくちゃ良いライブをしたし、お客さんとの一体感みたいなモノもあって「みんながしあわせな空間だな」って思いました。あらかじめ「この対バンは対決じゃないから」と言っていて、大木くん(大木伸夫/ACIDMAN/vo,g)なんか「この3バンドでひとつのバンドだと思ってる」という名言を初日に残していましたけど、まさにそういうツアーだったなって。ただ、同期ではあるけど、デビューもバラバラだし、インディーズの頃にACIDMANと対バンしたことはあったけど、メジャーデビューしてからはちょっと距離があって、フェスとかで徐々に一緒にやるようになってきたんですけど、その3バンドではストレイテナーがいちばん遅れてデビューしているから、僕らには僕らの、アジカンとかエルレとかとの仲間感みたいなモノがあって。でもそれぞれ20年間バンド活動してく中で気付いたら今の関係性になっていたんですよ。だから面白いなって。--他に類を見ない関係性になりましたよね。
ホリエアツシ:松田くん(松田晋二/THE BACK HORN/dr)から「20周年を超えちゃうと、いったん燃え尽きてしまって、ファンも燃え尽きてしまうのではないか」と。そこはそれぞれのバンドで乗り越えていくんだけど、そのタイミングで1回集まって「まだまだ続いていく」ということを示す。そういう提案があってのツアーだったんですよね。それで【THREE for THREE】が実現して、その前にthe band apartともツアーをやって、この後にはアジカンとエルレとのツアーもあって。だからすごく仲間に支えられているというか、そういう1年に自然となっていっているんですよね。アニバーサリイヤーは終わったけど、その後の1年がそういう年になっているのは僕らにとって大きいなって。--そんな中での【ONE-MAN LIVE "Fessy" at 日比谷野外音楽堂野音】開催。意外にも野音ワンマンは初になるんですよね。
ホリエアツシ:ストレイテナーの歴史の中で、ライブハウスシーンでのし上がってきた頃にNHKホールでワンマンをやって、お客さんが「どうしていいかわからない」みたいなことがあって(笑)。--ライブハウスで暴れていたファンが指定席で困惑するという、どのバンドも通る道ですね(笑)。
ホリエアツシ:それを経て、徐々にホールに僕らもファンも馴染めるようになってきて、今だったら野音も自然と良いライブの空間が作れるかなと思って。たぶん、もっと若かった頃に野音でやっていれば、そこから定期的に野音でやっていくバンドになったと思うんですけど、若い頃に「俺たちはホールじゃないな」という感覚の時期があったから、気付いたら野音でやる機会がないままここまで来ていて。まわりのバンドのライブを野音で観て「良いな」とは思っていたんですけど、世界観を作るのが難しいなとも思っていたんです。ただ、明るいうちに始めて、そこから夜になっていく。そこを音楽で上手く調和できたら素敵な空間になる。なので、今回の野音はアコースティックとエレキのセットの2部構成でやろうと提案して。明るいうちにアコースティックライブをやって、照明とか生きる夜の時間帯にエレキでやるっていう。せっかく初めてやるし、野外でのワンマン自体も初めてなんで、特別なモノにしたいなと思っています。--今のストレイテナーのモードにも合いそうだし、今だからこその野音という感じもしますね。
ホリエアツシ:上手い流れが出来ているなと思いますね。--そして、10月26日からは【Drawing A Map TOUR】がスタートします。
ホリエアツシ:あんまりライブでやってこなかった曲にスポットを当ててみるのも面白いかなって。今回の「Jam and Milk」みたいなファンク路線やシティポップ路線の曲も既存曲でいくつかあったり、「青写真」みたいなディープでエモーショナルな曲を並べて披露することも出来るだろうし、それで「あ、こんな曲もあったね!」っていうツアーにしたいですね。ここ10年ぐらい、ずっと聴いてくれているファンにとって熱くなれるようなライブにしたいなと思っています。--この先、ストレイテナーはどんなバンドになっていくんでしょうね。
ホリエアツシ:ライブの表現の仕方をもっと多様化していく。音楽の聴かれ方も変わってきている中で、ひとつのアーティストやアルバムに入り込んで音楽を聴く人たちが激減している中で、ライブも広く多くの人に見せていけたらなと思っていて。若い頃はとにかくストイックに演奏で魅せていくスタイルだったんですけど、もっと曲の意味だったり、そういうモノを伝えていかなきゃいけないなと思っています。常に「今、自分たちに出来ること」と「まだ自分たちに出来ていないこと」と向き合ってきていて、それはこれからも続いていくと思っていて、まだ全然やり切った感じはしていないし、行き止まりや終点に来た実感もまったくないので、自分たちの音楽で、まだ自分たちが見ていない景色をもっと見たい。それを「みんなに提供したい」というよりは、まず自分たちが見たい。そういうバンドでありたいですね。関連商品