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前島麻由(ex:MYTH&ROID)インタビュー:負の感情もコンプレックスも、歌に昇華して



 学生時代からバンド活動を行い、2015年からはコンテンポラリー・クリエティヴ・ユニット、MYTH & ROIDのヴォーカリストとして数々のアニメ主題歌を担当した前島麻由が、ファン待望のソロデビューアルバム『From Dream And You』をリリースした。

 負の感情がクリエイティブにおける重要な源泉だという彼女。作詞に関してはそんな彼女の喪失感や悲しみ、やるせなさや怒りなど、そのパーソナリティが如何なく発揮された。一方で、サウンド面はキタニタツヤ、松岡モトキ、宮田‘レフティ’リョウ、YOW-ROWらクリエイター陣が支え、強力な布陣によるコライト体制のもと、彼女のルーツにあるアヴリル・ラヴィーンのエモーショナルな歌像を思い出させるような、キャッチ―で説得力に富んだグッド・メロディが次々と飛び交う仕上がりに。

 2017年11月にMYTH & ROIDから脱退し、本格的にソロ・キャリアをスタートさせた彼女が、自身の名刺代わりとなる今作に込めた想いとは。学生バンド時代のエピソードや音楽活動における譲れない矜持、自身が抱えるコンプレックスの吐露なども交えつつ、アルバム『From Dream And You』を本人インタビューとともに紐解いていく。

自分なりの感情を乗せてほしい

――アヴリル・ラヴィーンが大好きなんですよね?

前島麻由:そうなんです。私は聴く音楽の幅が全然広くなくて、アヴリルの元旦那がいるからって理由でSUM 41を聴いたり、アヴリルが好きって言ってるからグリーン・デイを聴いたりしていました。

――小学生の頃にはダンスを習っていたとか。

前島麻由:ヒップホップをやっていました。そのダンス教室とは別のところで、歌いながら踊ることに挑戦する機会があって、そこでジェニファー・ロペスとかブリトニー・スピアーズを歌うようになったことがきっかけで、本格的に洋楽をうたうことにハマっちゃって。

――アルバム『From Dream And You』には、そんな前島さんの音楽的嗜好がバックボーンとしてありつつ、一方で、悲しみや怒りといった負の感情がアルバム全体のトーンとしてあります。

前島麻由:私、ネガティブな歌詞しか書けなくて(笑)。「よし、明るい歌詞を書いてみよう!」って意気込んでも全然ダメで、何も出てこない。やっぱり消化できなかったものが出てくるんでしょうね。ソロ名義の1stアルバムだし、そういう世界観を強めて、私のことを分かりやすく表現しよう、みたいな狙いがあったわけでもないんです。

――昔からそういった作家性だったのですか?

前島麻由:中学生の時に軽音部に入ったんですけど、その時はアヴリルのコピー・バンドでヴォーカルをやっていました。高校に入ってからはオリジナルにも挑戦し始めて、本格的に作詞もするようになったんですけど、当時すでに出てくる歌詞はネガティブなものばかりでしたね。ちょうどその頃、自分の中で負の感情ばかりが渦巻くようになって。

――例えば失恋の悲しみとか?

前島麻由:恋愛はしたことなかったので、失恋の歌は書けなかったですね(笑)。かといって友だちと喧嘩することも全然なかったから、そういう対人関係の葛藤とかではなく、「昔に戻りたい」みたいな、もっと漠然とした喪失感というか。

――今でも恋愛の感情は書かれないのですか? アルバムに収録されている「when you went away」は、ある種のラブソングのようにも聴こえますが。

前島麻由:ラブソングって世の中にたくさんあると思うんですけど、私の場合はラブがない人生だったので、今でも歌うことはないですね。でも、そう言っていただけるのはすごく嬉しくて。というのも、私が自分の中から引っ張り出して歌に込めた感情を、聴いてくださった方にも同じように引っ張り出してきてほしいとは全く思ってないんです。せっかく英詞で歌っているので、まずはメロディや歌声のフィーリングだけで自分なりの感情を乗せてほしいし、もし「どんなことを歌っているんだろう?」と気になるのであれば、今回は意訳も載せているので、自分なりの解釈をしたうえで、意訳を読んだ時に「この曲はそういう感情だったんだ」っていう発見があればもっと嬉しいです。私自身、洋楽を聴いているとよくあるんですよ。歌詞をよく読んでみたら、自分が感じたものとは全然違う感情を歌っていた、っていう。

――意訳も前島さんが?

前島麻由:そうです。

――作詞は英語で行うのですか?

前島麻由:まず最初にデタラメ英語で歌うんです。そこで自然と出てきた単語とか韻の踏み方って、きっとそのメロディに合う要素だと思うんですよ。だからそういう部分は生かして、そこから前後の歌詞を固めていく。そういう逆算の作り方が多いですね。もちろん詞の内容が伴わないといけないので、そこも考えつつですけど。

――例えば「YELLOW」だと、一番最初に生まれたのはどの部分ですか?

前島麻由:「YELLOW」はやっぱりド頭の“Get down”だったと思いますね。韻の踏みやすさがあるなと思って。



▲前島麻由「YELLOW」Music Video


――作詞でクレジットされている“Misa”さんというのは?

前島麻由:英語が完ぺきではない私をサポートしてくれている方です(笑)。私がぱーって作った歌詞を「ここは違う」って直してくれる、赤ペン先生みたいな役割をしていただきつつ、直したことでメロディに合わなくなったり、韻が踏めなくなったりした時は、別の表現を一緒に考えてもらったりもしています。

――お二人がタッグを組むまでには、どういった経緯があったのでしょう?

前島麻由:昔、スタッフが紹介してくださった同い年の女の子で、面識はもともとあったんです。私が歌うのは自分の内面のことだし、もちろん妥協もしたくなかったので、英詞を作る時、自分がどこかで遠慮してしまうようなことは避けたかったんですよね。それで誰かイイ人いないかなって考えたら、「あ、ちょうどピッタリな子がいるじゃん」って。

――英詞と意訳を並べて読んでも違和感がないというか、どちらもちゃんと詞として成立しているように感じました。

前島麻由:そう言っていただけるとすごく嬉しいです。洋楽の国内盤って意訳が付属していることが多いじゃないですか。でも、あれはアーティスト本人が書いているわけじゃないから、ライターの方独自の解釈が多少なりともあると思うんですけど、私の場合は自分で意訳ができる。だったら行間のニュアンスだったり、漢字とひらがなの使い分けだったり、ちゃんと細かいところまでこだわりたいんですよ。CDを手にとってもらいたい一番の理由はこの意訳かもしれないですね。

――意訳って、通常の作詞とは別のカロリーを消費するものなのでしょうか?

前島麻由:それはないですね。英詞を考えながら、同時進行で意訳もでき上がっていくので。その中でこだわりを散りばめる感じですね。


感情の鮮度を下げないでカタチにしたい

――高校からオリジナルを歌い始めたとのことですが、当時から自分で作詞作曲したいという思いが強かったのでしょうか?

前島麻由:高校生の時から「自分が歌うのに、自分が作ったものじゃない歌をうたうのはないな…」みたいな感じだったので、そういう意味では他の人に作ってもらうっていう考えが最初からなかったですね。どこかで学んでいたわけでもないですし。

――組んでいたバンドは男女混成?

前島麻由:いや、女の子だけです。幼稚園から大学までエスカレーター式の女子校に通っていたので。だからラブがなかったんですよ(笑)。

――なるほど(笑)。

前島麻由:でも、あまりガールズ・バンドっぽくないというか、可愛い感じよりカッコいい感じがいいよねって話はしていましたね。女子校育ちだからなのか、男性がいなくてもカッコいい音楽がやれるってことを証明したいと思っていて。

――どんな活動をされていたんですか?

前島麻由:軽音部のバンドって、みんなライブハウスとかコンテストに積極的に出演していたんですけど、私が中高6年間で組んでいたバンドだけは部活のためのバンドで、ライブを披露する場も学校の行事ぐらいしかなかったんですよ。そしたら1コ上の先輩が、「麻由の歌声と作る歌はすごくイイのに、部活内だけで留めるのはもったいない。もっと外に発信していったほうがいいよ。一緒にバンドやろう」って言ってくれて、自分が作った歌でやらせてもらえるならということで、その子と新しくバンドを組んだんです。

――どこか完ぺき主義というか、自分で手綱を握りたいという気持ちが強かったんですね。

前島麻由:負けず嫌いなんですよね。だから少し完ぺき主義になってしまうところがあるんだと思います。それが一番顕著に出るのが音楽なんですよ。音楽以外はけっこうズボラだと自分では思っているんですけどね。音楽では自分の感情を扱っているからっていうのもあるんだと思います。例えば「そこは憎しみが根底にある悲しみじゃなくて、諦めから生まれた切なさだから、その音は違うかな」みたいなレベル(笑)。感情の鮮度を下げないでカタチにしたいからこそ、そこは私のこだわりがどうしても強くなっちゃう。

――なるほど。今作の作曲や編曲に関してはコライト制とのことですが、みなさん面識がある方々だったのでしょうか?

前島麻由:いや、初めましての方ばかりでした。でも、私がけっこう分かりやすいというか、メロディに関してはアヴリルの影響が真っ先にあって、その他のディテールの部分とは柔軟に向き合えたし、みなさん引き出しが豊富なので、コライトしている最中も、私が「うーん」ってヤキモキすることもなく、ストレスフリーに進んでいきましたね。いいメロディやアレンジの案が出てきたら「はい、採用」みたいな。それこそ学生時代にバンドでやっていた作業に近くて、コライトは私に合っているなって思いました。

――苦戦するような曲もなく?

前島麻由:いつも自分の中から自然と湧き出てきた曲は制作もスムーズなんです。今回はありませんでしたが、最初にコンセプトとかイメージを決めて、そこから作曲していくパターンはけっこう時間がかかっちゃいますね。だから作家さんってすごいなって思います。でも逆に言えば、そんな私がこれだけ作曲に携わって、一つのアルバムを作ることができたことは、いい意味で驚きでした。

――いくつか具体的な曲を挙げていただいて、制作がどのように進んでいったかを教えてください。

前島麻由:「when you went away」「Hello」「From Dream And You」は湧き出てきたタイプの曲で、作ったのもけっこう昔ですね。「when you went away」に関しては、もうちょっとキャッチーにしたいねってことで、サビだけコライトで作りましたけど、他の2曲はほとんど作った当時のままです。

――「Hello」は6年前に作った曲だそうですね。

前島麻由:はい、急に高校に入ってから毎日が楽しくなくなっちゃって。中学3年生までは楽しい日々を送っていたから初めての感覚だったし、理由もよく分からなかったから、初めは「おやおや?」って戸惑うばかりだったんですけど、「Hello」はその状態に慣れ始めた時期にできた曲なんですよ。その時期、時間だけはたくさんあったので「なんで毎日が楽しくないんだろう」とか、もっと遡って「私はこういう性格だけど、何が原因なんだろう」とか本当に色んなことを考えて、自分なりの答えを出した。その答えを踏まえたうえで作った曲です。私と仲が良い子だったら、「こういう気持ちを歌っているのかもな」って想像できるかもしれないですね。


今はどの曲もあまり気張らずに向き合える

――ラストを飾る「From Dream And You」は、アルバムの表題曲でもあります。

前島麻由:これはバンド時代からライブでも披露している、思い入れが強い曲で、一言で説明するなら「自分の人生の曲」なんです。他の曲は「この時のこういう悲しみ」とか「これを失った時の切なさ」とか、歌っている感情が具体的なんですけど、この曲はもっと漠然としている。やっぱりソロデビューアルバムだし、自分の名詞代わりになるような作品にしたいなと思って、前島麻由はこういう人生を送っていますっていうことが分かってもらえるような曲を最後に収録しました。

――この曲の中の“I can't run away from dream and you(夢とあなたからは 逃れることができない)”というラインは、1曲目の「numb」でも登場しますよね。

前島麻由:「numb」はアルバムのプロローグ的なポジションなので、そこでまず全体のテーマを主張しておきたいなと思って。ここで言う“夢”は歌のことで、“あなた”は負の感情の総称で、私の人生はその二つとは切っても切り離せない。負の感情があるからこそ歌うし、逆に歌うからこそ負の感情が生まれる。私はそういう人間で、今後もそういう歌をうたっていくんですよ、という覚悟を最初に伝えたかったんです。



▲前島麻由「From Dream And You」Music Video

――アルバム全体の手応えはいかがですか?

前島麻由:私の性格上、反省点を見つけ出すことも得意だったりするので、「もっとこうすればよかったな」って思う部分はどうしても出てくるんですよ(笑)。だから、次作はそれを踏まえて作りたいなと思いつつ、人生で初めて作ったソロアルバムという意味では、満足のいく作品になったなと思います。

――反省点というと?

前島麻由:4月に「YELLOW」と「Standing Alone」を配信リリースしたんですけど、アルバムの制作はその後からスタートしたので、けっこう期間が短かったんですよ。それにソロデビューアルバムだから、制作のスケジュール感もイマイチ分かっていなくて。なので、後になって「ここはもうちょっと上手くやれたな」って思うことはありますね。

――先日「英詞でうたう理由をいつかしっかり伝えられたらいいな」というツイートをされていましたが、せっかくなのでここで伺ってもよろしいですか?

前島麻由:理由は大きく3つあります。1つがもともと洋楽を聴いたり、うたってきたりしているからか、自分から生まれるメロディも英詞が乗りやすいものなんですね。そのメロディに日本語を乗せると違和感があるものになってしまうので、英語は話せないんですけど、歌詞は英語で考えるようにしています。また、自分の感情の鮮度をストレートに表現するためにも英語が一番適しているので、メロディと歌詞の両面で自分に合っていると思っています。

2つ目は、言語としてではなく、自分のなかでは“洋楽”をジャンルのひとつとして捉えています。ロック好きな人がバンドを組んで活動するように、私も洋楽が好きでそのまま英語の楽曲をうたってきたので、奇をてらっているわけではないんです。

3つ目は、英語がわからない方には一聴しただけでは歌詞の内容が伝わりにくいと思うので、純粋に楽曲の印象で楽しんでもらえると思っています。私の歌詞は暗い内容が多いんですけど、聴いた方の受けた印象、その時のご自身の心情でまずは楽しんでもらいたくて、その後に何を言っているのか気になった方には、意訳を読んでもらって二度楽しんでいただけたら嬉しいなと思っています。

――ちゃんと音楽的な意図があってのものだと。

前島麻由:私自身、海外コンプレックスがすごく強くて。日常生活では英語を避けながら生きてしまうぐらいなんです。英語が喋れない自分がツラすぎて、海外旅行にも行けなくなっちゃって。海外に行くと涙が出てきちゃうんですよ。いま話していても泣けてくるぐらい(泣)。これのせいで私、英会話教室にも行けなくて。教室に行くと、だいたい最初に動機とか訊かれるじゃないですか。その度に泣いちゃうから、それ以降は通いづらくなっちゃうんです(笑)。

――かなり深く根付いているコンプレックスなんですね。

前島麻由:だからこそ、英語が喋れない私が英語で歌う意味を理解してもらえたらすごく嬉しいですし、歌詞の内容と合わせて聴きたい方がいらっしゃれば、ぜひ意訳を読んでいただけたらいいなって思います。

写真



Interview by Mariko Ikitake
Photo by Yuma Totuka

前島麻由「From Dream And You」

From Dream And You

2019/09/25 RELEASE
WPCL-13114 ¥ 3,080(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.numb
  2. 02.when you went away
  3. 03.YELLOW
  4. 04.Hello
  5. 05.You Don’t Know You’re Beautiful
  6. 06.In Your Eyes
  7. 07.the night is gone
  8. 08.Standing Alone
  9. 09.INCUBUS
  10. 10.From Dream And You

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