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歌詞トピックのトレンド変化を探る~2017年と2019年上半期JAPAN HOT 100の歌詞トピックを比較

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 前回記事『“自分探し”がメイントピックに~2019年度上半期JAPAN HOT 100の歌詞を解析』(http://www.billboard-japan.com/special/detail/2704)にて、歌詞サービス『プチリリ』を運営する株式会社シンクパワーと、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)が共同開発した歌詞探索ツール、「Lyric Jumper」を用いて、複合ソング・チャート、JAPAN HOT100の2019年上半期における上位200曲の“歌詞トピック”を解析した。

 その結論として、今年上半期の歌詞トピックは、「自分」、「みんな」、「希望」、「不安」といった言語出現率の高いトピックの“自分探し”となり、加えてチャートデータから分かることは、徐々に“ラブソング”にメイントピックが移りつつあることだ、とした。そうなると、どのような変遷をたどって2019年上半期のトレンドに落着したのか、知りたくなってくる。

 そこで、2017年上半期結果(http://www.billboard-japan.com/special/detail/1985)を用いて、同じように歌詞トピックを抽出し、2年前と今年の歌詞トピックを比較した。

 2年前のJ-POPシーンを復習しておくと、前年下期から始まった星野源「恋」の大ヒット、RADWIMPSとback numberの台頭、欅坂46の躍進、ピコ太郎の世界的ヒットなどが挙げられる。まずは前回同様に、「Lyric Jumper(https://lyric-jumper.petitlyrics.com/)」サイトにて、アーティスト検索ウィンドウで検索、該当アーティストの上位5トピックの構成比を示すドーナツグラフやトピック構成などを確認してみよう。すると、2017年上半期に注目された3アーティスト、RADWIMPS、欅坂46、back numberで検索すると以下の画面が表示される。「Lyric Jumper」は、このように、歌詞からトピックを導き出し、ユーザーに分かりやすくイメージを伝えるシステムとなっている。

 続いて、2017年上半期JAPAN HOT100上位200曲のトピックをそれぞれ解析し、トピックごとの8指標のポイントをそれぞれ合算、総合ポイントでそれらのトピックをランキング化した。

2017年では“自分探し”が変わらず首位に。第2位は“青春”

 ここで、前回記事掲載後にお問い合わせ頂いた、 「Lyric Jumper」のトピック解析プロセスについて詳述しておきたい。

 まず「Lyric Jumper」では、自動解析して作られた20個のトピックに対して、各トピックでの出現率が高い単語などを参考に、特徴を簡潔に表すトピックの名称が手動で決定されている。そのうえで、歌詞中の単語の出現傾向がどのトピックと最も似ているかなどの情報をもとに、歌詞へのトピックの振り分けを自動解析により行っている。恋愛系の歌詞であっても、表に書かれているような「愛」「好き」「気持ち」「想い」などの単語が多く出現していれば“ラブソング”というトピックが自動的に割り当てられ、「愛」「永遠」「願い」「記憶」などの単語が多く出現していれば“永遠の愛”というトピックが自動的に割り当てられるようになっている。

 これを踏まえて2017年のトピックランキングをみてみると、 「自分」「みんな」「希望」「不安」などの単語出現率が高い“自分探し”が2019年と同じく首位を獲得することとなった。しかも、そのチャートポイント占有率は、32.1%と、2019年より9.4ポイントも高いことから、“自分探し”を歌詞のメイントピックとした楽曲は、2017年から2019年では、むしろ減少傾向にあることが分かる。

 また、2位には“青春”がランクイン。こちらの単語例は「僕ら」「夢」「風」「恋」で、大ヒットしていた星野源「恋」が大きく牽引しての上位となった。例に挙げた楽曲以外には、SMAP「世界に一つだけの花」、NGT48「青春時計」、宇多田ヒカル「花束を君に」、浦島太郎(桐谷健太)「海の声」など、200曲中13曲が該当。2019年では占有率が9.6ポイントと“自分探し”以上に減少しており、確かに肌感覚としても、“青春”をメイントピックとする楽曲が減少しているかもしれない。

 また前回記事同様に、恋愛トピックカテゴリとして、“ラブソング”、“大人の恋愛(男性編)”、“大人の恋愛(女性編)”、“一途な恋”、“永遠の愛“の五つのトピックを合計すると、ポイント占有率は34.3%となる。2019年の合計は53.7%で、 “自分探し” と“青春” の減少を吸収するかたちで19.4ポイントも増加し、過半数を超えている。

 これらから、2017年から2019年の歌詞トピックのトレンド変遷において、 ”自分探し”は1位を守り続けるものの、こちらと“青春”トピックは減少し、それに置き換わるように恋愛トピックが大きく上昇傾向であることが分かってくる。つまり前回記事で述べた、『「分断」と「絆」が表裏を成している』、というよりも、「分断」から「絆」へと、むしろ移行しつつあるわけで、『歌は世につれ~』というならば、「分断」された世界は終わりつつある(またはその状況に慣れつつある)ということではないだろうか。

 続いて、8種類のデータを掛け合わせた総合ソング・チャートJAPAN HOT100ならではといえる、指標ごとのランキングを用いて、2017年と2019年とを詳しく比較・検証してみよう(各指標順位およびTwitter、動画再生回数は2017年データを表示しており、カラオケ指標は当時未加算だった)。

※略称について:R(ラジオ)、CD(シングル)、DL(ダウンロード)、ST(ストリーミング)、LU(ルックアップ=PCでのCD読取数))、TW(Twitter)、MV(動画再生)、K(カラオケ)となります。

“大人の恋愛(男性編・女性編)”が上昇、“青春”と“一途な恋”が下降

 2017年では“自分探し”が7冠を獲得、パーフェクトで総合首位に立った。ところが、2019年ではダウンロード、ストリーミング、ルックアップでそれぞれ2位、3位、2位となり、占有率も29.2%減少と、前項で述べた通り、2017年のほうが“自分探し”をメイントピックとした歌詞の楽曲が上位にあり、完全なメイントレンドだったことがわかる。

 2017年では3位だった“ラブソング”は、2019年に総合2位に、占有率は67.4%増で、その原因として、ダウンロードが3位を守り、ストリーミングが5位から1位にランクアップしていることが大きい。2017年と2019年の大きな市場変化は、「フィジカルからデジタルへ、なかでもストリーミングの拡大」であり、ダウンロードとストリーミングのデジタル2指標で高ポイントを保った“ラブソング”は、このランキングに示す以上に歌詞トピックとして大きなトレンドとなっているに違いない。

 また、“大人の恋愛(女性編)“が7位から総合3位にランクアップ、占有率255.7%増大、”大人の恋愛(男性編)”が5位から総合4位にランクアップ、占有率は115.5%増大と、 “ラブソング” 以上に、「私」「あなた」「涙」「約束」を代表とする“大人の恋愛(女性編)”と「僕」「君」「嘘」「約束」の“大人の恋愛(男性編)”の躍進が目立っている。その一方で、“一途な恋”は4位から総合7位にランクダウン、占有率70.3%減少、“青春”は2位から総合5位にランクダウン、占有率60.2%減少と、「大好き」「大切」「一番」「奇跡」を代表とする“一途な恋”と、「僕ら」「夢」「風」「恋」の“青春”の減退もまた目立つ。

 これらから、シンプルな歌詞からダークな(つまりは“大人”な)歌詞へトレンドが移行し、複雑化した関係性の在り様が見て取れる(ここでは、“ノスタルジー”と“みんなでうたおう”の2トピックについて考察していないが、対象200曲のうち、該当曲が1曲ずつだったため、傾向値としては不適とし、考察から除外している)。以上をまとめると、2017年から2019年にかけて、歌詞のメイントピックはゆっくりと“自分探し”から“ラブソング”に移行しつつあり、なかでも大人っぽい歌詞が増えている、となる。これを世相に置き換えるなら、分断された世界において、複雑化した関係性の再定義が始まりつつある、ということだろうか。

 歌詞トピックのトレンドは「世につれ」今後も変化していくだろう。ビルボードジャパンでは、ジャパンチャートデータと歌詞との関連について考察を進め、当サイトで公表していきたい。

 

※歌詞トピック解析技術について

産業技術総合研究所(佃 洸摂 研究員、後藤 真孝 首席研究員)が研究開発した「歌詞トピック解析技術」は、膨大な歌詞データを与えるだけで、アーティスト、歌詞、単語という3階層の構造を考慮しながら、歌詞でのさまざまな単語の出現の仕方を解析し、各歌詞のトピックを自動的に決定することができる。 この技術は、膨大な歌詞データ全体の単語の出現傾向を考慮しながら、その傾向の差異が端的に表現されるように事前に決めた個数のトピック群を自動的に生成し、各曲の歌詞のトピックとして、その中のどれが適切かを自動的に決定する。(Lyric Jumperでは20個のトピックを生成) これにより、人手では対応できない膨大な歌詞にトピックを付与して利用することが可能となる。

 


Lyric Jumper(リリックジャンパー)

「Lyric Jumper」は、歌詞サービス『プチリリ』を運営する株式会社シンクパワーと、国立研究開発法人 産業技術総合研究所が共同開発した歌詞探索ツール。アーティストの持ち歌の歌詞の傾向を歌詞トピック解析技術によって自動解析して、20個のトピックの比率として可視化できる。また、歌詞の傾向が似ている他のアーティストが「類似アーティスト」として表示されるため、ユーザはこれまでの歌詞検索方法とは違うアプローチによって、さまざまな歌詞との出会いを楽しむことができる。
https://lyric-jumper.petitlyrics.com

 


 


株式会社シンクパワー

歌詞サービス『プチリリ』を運営するシンクパワーは、邦楽・洋楽あわせて270万曲以上の歌詞データを保有している歌詞データカンパニー。歌詞アプリ、Webサイトの運営や提携サービスへの歌詞提供のみでなく、AIスピーカーをはじめとするIoT機器など新たなデバイス向けの提供、「歌詞先読み機能」など音声サービスにも積極的に歌詞サービスを広げている。また、歌詞の傾向を可視化できる『Lyric Jumper』をAPIとして、音楽配信サービスのプレイリスト作成やトレンドの分析など、制作・マーケティングに活用いただけるようなツールを提供できるよう進めている。
https://www.syncpower.jp/

 


 

2019プチリリ上半期ランキング

自社アプリと、プチリリの歌詞データベースを提供している音楽サービスを含めた、「音楽再生とともに歌詞が表示された数」を集計期間内に合算・集計したランキング。定額制聴き放題サービスを含めたさまざまな音楽サービスでの歌詞表示結果が反映されているため、楽曲の売上ランキングとは異なり、ユーザーが歌詞とともに深く音楽を聴きこんでいる曲を知ることができる、他にはないランキングとなっている。
https://petitlyrics.com/contents/2019firsthalf_ranking.html

 

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