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クイーン 特集番組放送記念~映画『ボヘミアン・ラプソディ』で描かれなかった真実とは
映画『ボヘミアン・ラプソディ』で社会現象を巻き起こしたクイーンとそのボーカルのフレディ・マーキュリー。彼らの功績とフレディの生き様に多くの人が胸が熱くなったことだろう。WOWOWでは3月に放送されたクイーンの歴史的ライブの一挙放送に続き、彼らの真の姿に迫ったドキュメンタリー2作品が6月22日にオンエア決定。ひとつは結成40周年を記念して制作された『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々』。そしてもうひとつが、貴重な映像とメンバーや親族らの証言からフレディの素顔に迫る『フレディー・マーキュリー アントールド・ストーリー』だ。今回、そのドキュメンタリー作品の放送を記念して、音楽・映画ライターの粉川しの氏に、それぞれの作品の見どころを語ってもらった。
また50本以上のクイーンの珠玉の映像を3時間以上に渡ってお届けするミュージック・ビデオ・コレクションの放送も決定している。「ボヘミアン・ラプソディ」や「伝説のチャンピオン」、「愛という名の欲望」といった名曲はもちろん、フレディとオペラ歌手モンセラート・カバリエのアルバム『バルセロナ』からの楽曲もオンエアされるので、こちらも必見だ。
“事実は小説よりも奇なり” 『ボヘミアン・ラプソディ』で描かれなかった真実
映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットをきっかけとして、フレディ・マーキュリーとクイーンに対する再評価熱が高まり続けているこの2019年。クイーンの歴史を紐解く文献や、在りし日のバンドの勇姿を焼き付けた映像の数々に改めて注目が集まる中でも、とりわけ必見の映像作品がこの『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々』だ。クイーンの歴史をPART1、PRAT2の約2時間に凝縮した本作は、バンドのオフィシャル・ドキュメンタリーでもある。
『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々』はもともと2011年にクイーンの結成40周年を記念して制作された作品で、BBCで2日間にわたって放送された。また、同年には日本盤も合わせてDVDとしてパッケージ・リリースされている。PART1はクイーンの結成前夜から下積み時代、そして世界的大ブレイクを果たした70年代を中心に構成されていて、PART2は80年代、モンスター・バンドとなったクイーンの低迷と試行錯誤、そこからの復活、そして第二の全盛期の中でフレディの死という悲劇を迎えるまでを追っている。まさにフレディ時代のクイーンのコンプリート・ヒストリーなのだ。
PART1は、まるで映画『ボヘミアン・ラプソディ』のサイド・ストーリーのように観ることができるだろう。60年代のブルースロックの香りを引きずったバンド「スマイル」と、ロック・バンドに憧れ、「レジェンドになりたい」と渇望していたフレディの出会い、そのクイーン誕生の瞬間から頂点へ、自分たちの信じた道を突き進んでいく若き彼らの鮮烈な青春が刻まれたパートだからだ。映画に登場したマネージャーやプロデューサーら関係者も多数出演し、70年代のクイーンがいかに画期的な存在であったのかを、サウンド的側面とカルチャー的側面の両方から詳細に描き出していく。
本作を観て驚くのは、フィクションを多く含んだ『ボヘミアン・ラプソディ』よりも、バンドの100%真実のドキュメンタリーである本作のほうが、ずっとドラマティックだということだ。フレディ・マーキュリー、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、そしてジョン・ディーコン。全く異なる個性と才能を持った4人が奇跡的に出会い、熱い友情を交わしながらも熾烈なライバルとして切磋琢磨し、頭の固いメディアにイロモノ扱いされながらも次々にポップ・ミュージックのステレオタイプを打ち破って成功を掴み取っていく、その足跡はまさに「事実は小説よりも奇なり」を体現したものだからだ。そんなPART1の見所のひとつが「ボヘミアン・ラプソディ」の実際のレコーディング風景で、映画のあの名シーンを補足する貴重なモノクロ映像となっている。
「地獄へ道づれ」がアメリカでクイーン史上最大のセールスを記録し、彼らが世界の頂点に立って終わるPART1に対し、PART2はどこか不穏なムードをはらみながら物語が始まる。PART2は『ボヘミアン・ラプソディ』では描かれなかったクイーンの「空白」の時間を埋めながら、彼らの80年代をより正確に辿っていくセクションだ。映画ではいきなりフレディがソロ活動を宣言してクイーンが空中分解、その後【ライヴ・エイド】で奇跡の復活を果たすというストーリーが恐ろしく駆け足で描かれていたが、実際に80年代のクイーンが辿った道はもっと曲がりくねったものだった。ディスコやブラック・ミュージックに傾倒したアルバム『ホット・スペース』の失敗と迷走、エゴのぶつかり合いで亀裂が走る4人の関係性、そしてアパルトヘイト下の南アフリカで公演を行ったことで巻き起こった激しい非難……ひたすら気分が高揚するPART1と打って変わって、PART2には重苦しい気持ちにさせられるハードなエピソードも多々ある。そしてだからこそ【ライヴ・エイド】での復活のカタルシスが倍増して押し寄せてくるのだ。
▲「地獄へ道づれ」
PART2では『ボヘミアン・ラプソディ』のその後の物語、【ライヴ・エイド】後に再び全盛期を迎えたクイーンの軌跡とフレディの最後の日々も克明に記録されている。『ボヘミアン・ラプソディ』の最大の「嘘」は、フレディが【ライヴ・エイド】の前に自身がエイズであるとメンバーに打ち明けたとされるシーンだ。彼が自身の病について知ったのは実際には【ライヴ・エイド】の後のことで、その真実の物語が、最後の瞬間まで音楽に命を注ぎ込んだフレディの生き様が本作のクライマックスになっている。中でも壮絶な痛みに耐えながらフレディが臨んだ「輝ける日々」のミュージック・ビデオの撮影風景は、胸が締め付けられるような映像だ。
▲「輝ける日々」
『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々』はクイーンのドキュメンタリーであり、彼らが活躍した70~80年代のポップ・ミュージックの有り様が記録された貴重な音楽史の資料でもある。レコードの時代からCDとMTVの時代への劇的な変遷や、クイーンとセックス・ピストルズの出会いのエピソードから見えてくるパンクとオールド・ロックの対比、また、かのデヴィッド・ボウイとのコラボ曲「アンダー・プレッシャー」の誕生秘話と、この曲に対するブライアンたちの意外な評価も興味深い。そしてクイーンが活躍した時代を知れば知るほど、常に時代から大きく外れた破格の異端児であり続けたクイーンの唯一無二を、何度も噛みしめることになるだろう。
番組情報
『クイーン Music Video Collection』
2019年6月22日(土)午後3:15~、WOWOWプライムにて放送
2019年7月6日(土)午後0:45~、WOWOWライブにて放送
『フレディー・マーキュリー アントールド・ストーリー』
2019年6月22日(土)よる7:00~、WOWOWプライムにて放送
『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々-PART1』
2019年6月22日(土)よる8:00~、WOWOWプライムにて放送
『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々-PART2』
2019年6月22日(土)よる9:00~、WOWOWプライムにて放送
番組サイトはこちら→ https://www.wowow.co.jp/music/queensp/
Text: 粉川しの
メンバー、肉親、恋人などの証言から フレディ・マーキュリーの素顔に迫る
歴史的大ヒットを記録した映画『ボヘミアン・ラプソディ』がフレディ・マーキュリーを主人公としたクイーンの伝記映画、もしくはクイーンとしてのフレディ・マーキュリーを描いた作品だったとしたら、この『フレディー・マーキュリー アントールド・ストーリー』はフレディ・マーキュリー個人にフォーカスを絞ったドキュメンタリー作品だ。45年の短い生涯を鮮烈に生きたスーパースターの、知られざる素顔を様々な角度から浮かび上がらせていく貴重な映像集なのだ。
このドキュメンタリーが制作されたのは2000年のこと。本作はフレディのボックス・セット『The Solo Collection』(2000)にDVDとして収録されたが、当時の国内流通盤には日本語字幕はついておらず、2006年になってようやく日本でも字幕付きで限定劇場公開されたレアな作品だ(※)。『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディとクイーンのファンになった人はもちろんこと、長年のファンであっても字幕付きで観ていたという人は少ないんじゃないだろうか。(※注記:今回放送するのはテレビ版で、劇場公開版とは異なる)
本作品はフレディの生い立ちとクイーンとしてデビューするまでの歳月を追った前半と、後期クイーンとフレディがエイズで亡くなるまでの晩年を紐解く後半という、ふたつのセクションで構成されている。ここには「ボヘミアン・ラプソディ」や「伝説のチャンピオン」の秘話や興奮のライブ映像、それこそ【ライヴ・エイド】の話などは一切出てこない。むしろクイーンの全盛期のエピソードは、意図的に省略されているとすら思えるのだ。ちなみにクイーンとしてのドキュメンタリーは『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々』が決定版と呼ぶべき充実の内容になっており、フレディ個人の物語である本作と見事な補完関係を成している。
▲「伝説のチャンピオン」
『フレディー・マーキュリー アントールド・ストーリー』はフレディの貴重なオフショットに加え、彼をよく知る人たちの証言の丁寧な積み重ねによって、知られざる彼のパーソナルな側面を浮き彫りにしていくドキュメンタリーだ。もちろんブライアン・メイやロジャー・テイラー、ジョン・ディーコンもフレディについて語っている(ミック・ジャガーやポール・マッカートニー、エルトン・ジョンら錚々たる面子もチラリと登場)が、本作でバンドメイトの彼らよりも多くを証言しているのがフレディの母や妹、学生時代の友人や恩師といった「クイーンではないフレディ」を知る人たち、フレディが「ファルーク・バルサラ」だった時代を知る人たちだ。
1946年、英保護領のザンジバルの裕福な家庭に生まれたフレディことファルーク・バルサラ。本作ではザンジバルでロケを行い、フレディゆかりの街や商店を尋ねた貴重な映像が収録されている。貴重と言えば、スタッフはフレディが通ったインドの全寮制寄宿学校にも訪れている。当時の面影を残す校舎や現在の学生たちの姿を観ると、フレディが組んだ最初のバンド「ザ・へクティクス」が学校のステージに立っている光景をリアルに想像することができるだろう。
本作では映画『ボヘミアン・ラプソディ』でさらりと描かれていたシーンに、さらに深みを与えるエピソードもふんだんに盛り込まれている。例えばアート・スクールに通っていたフレディが描いたイラスト、ファッション画の数々が映し出されるのだが、その中には当時の彼が憧れて何枚も描いたというジミ・ヘンドリックスのイラストや、ここで初公開された貴重な作品も含まれている。また、映画では酒とパーティーとセックスに溺れた自暴自棄の時代として描かれるフレディのソロ活動も、本作ではNYやベルリンを飛び回り、清濁入り混じったあるがままの自由を謳歌していたという意味で、彼のリアルな生きた証として回想されていくのだ。フレディの生涯の親友メアリー・オースティン、最後の恋人となったジム・ハットンももちろん登場し、ふたりは本作でも特にフレディのナイーヴな内面を知る人物として、貴重なエピソードを物語っている。
▲「ボヘミアン・ラプソディ」
ただし、本作の膨大かつ貴重な証言のモザイクから浮かび上がってくるものは、「本当のフレディ・マーキュリー」といったありがちで一義的な物語ではない。彼ら・彼女たちの証言を通してフレディを深く知れば知るほど、むしろ私たちはフレディのことがわからなくなるだろうし、無数の表情を持った彼の多面性に圧倒されるはずだ。フレディは稀代のエンターテイナーでありながら時に驚くほど内気で、完璧主義のクリエイターでありながら、享楽的なボヘミアンだった。とことん優しいかと思えばとことん驕慢で、ロマンティックなリアリストで、どこまでも自由で、自由だからこそ孤独だった……そして彼のそんな多面性こそが永遠にたどり着けない謎の泉であり、私たちをさらなる深みへと誘うフレディ・マーキュリーの途方もない魅力なのだ。
番組情報
『クイーン Music Video Collection』
2019年6月22日(土)午後3:15~、WOWOWプライムにて放送
2019年7月6日(土)午後0:45~、WOWOWライブにて放送
『フレディー・マーキュリー アントールド・ストーリー』
2019年6月22日(土)よる7:00~、WOWOWプライムにて放送
『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々-PART1』
2019年6月22日(土)よる8:00~、WOWOWプライムにて放送
『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々-PART2』
2019年6月22日(土)よる9:00~、WOWOWプライムにて放送
番組サイトはこちら→ https://www.wowow.co.jp/music/queensp/
Text: 粉川しの
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