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Superflyが「格好いい私になれ」と歌う ドラマ『わたし、定時で帰ります。』主題歌は“新時代の応援歌”だ
Superflyによる通算25作目のシングル『Ambitious』が完成した。表題曲は、吉高由里子主演のTBS系火曜ドラマ『わたし、定時で帰ります。』主題歌として起用。同ドラマは、朱野帰子による同名小説を原作に、近年の「働き方改革」の中でも特に注目を集めている「残業問題」を切り口として、単なる制度改革ではなく働く人々の意識改革=社会人の持つべき“ライフワーク・バランス”について描いている。そんなドラマの内容と寄り添うように、新時代のための応援歌として優しくも力強くも響く主題歌「Ambitious」は、5月14日より先行配信がスタート。
越智志帆自身のリアリティ
Twitterのタイムラインなどで頻繁に話題になっているな、と個人的に感じている今期のドラマが、吉高由里子主演の『わたし、定時で帰ります。』だ。おそらく世代的なものも大きく影響しており、特に私自身を含めた氷河期世代にとってこのドラマは、自分自身のこれまでの経験と重ね合わさる部分が多く、毎回登場人物がさらけ出す本音の端々に共感したり、あらためて考えさせられたりしている。(ちなみに筆者は、吉高由里子が演じる主人公・東山結衣の上司であり元婚約者でもある、仕事はできるがワーカホリックとも捉えられる男・種田晃太郎を演じる向井理と同い年だ。)
いただいた仕事に必死に食らいつき、なんとか成果を認めてもらい、暗中模索しながら、やっとの想いで次に繋いでいくしかなかった就職氷河期世代が、口には出さずに堪えてきた平成の時代の耐え難き現実を、ドラマの中の登場人物たちが感情の吐露とともに、毎回ぶつけてくる。未見の方にはもしかすると、“アラサー女子のお仕事ドラマ”のように思われているかもしれないこのドラマだが、なかなかどうして、作品中ではかなり骨太に、女性も男性も関係なく、“働くということ”についての姿勢や課題など、誰もが感じたことのある感情をえぐるような描写がここまで続いてきており(これを書いている時点では4話までが放送済み)、なぜか毎度ラストにはホロリとさせられてしまう。
▲『わたし、定時で帰ります。』5/7(火) #4
そして、そんなラストを毎回彩っているのが、Superflyによる主題歌「Ambitious」だ。数々のアーティストを手掛けるプロデューサー、島田昌典との初タッグにより、島田氏の真骨頂であるドラマチックなサウンドと、何より越智志帆の力強く雄大なボーカルが一層際立ち、否応なしに作品を観ているこちらの心を震えさせる。
2016年から2017年にかけて長期休養をとった越智志帆自身の「楽曲制作」や「仕事として、音楽を通して何かを伝えること」のリアリティも、きっとこの楽曲にはふんだんに込められているのかもしれない。昨年リリースの「Bloom」、そして「Fall」といった2曲の振れ幅でも、明らかに“10周年以降の新たなSuperfly”のパワーを見せつけてくれていた彼女だが、今回の楽曲が持つ素直な応援歌としての側面は、「愛をこめて花束を」や「タマシイレボリューション」を20代半ばで聴いてきた私たち世代へまっすぐに届く。越智志帆自身、この氷河期の終わり頃に学生を終え、社会へと出て行くフェーズを経験している世代だ。だからこそ、安易な優しさではない本音と、この先を見据えた大志という二つのものを同時に、詞と楽曲に込めることが可能だったのだろう、としみじみと聴き入ってしまう。清濁飲み込んで進まねばならなかったわたしたち世代の本音を、彼女の歌が掬い、日々を救い、背中を押してくれるのだ。
リリース情報
Superfly New Single「Ambitious」
- 2019/6/12 RELEASE
- ※2019/5/14 表題曲「Ambitious」先行配信開始
- <初回限定盤DVD(CD+DVD)>
- WPZL-31609/10 2,300円(tax out)
- <初回限定盤Blu-ray(CD+Blu-ray)>
- WPZL-31611/2 2,800円(tax out)
- <通常盤(CD)>
- WPCL-13049 1,200円(tax out)
- [CD]
- 01. Ambitious
- 02. 覚醒
- 03. 氷に閉じこめて
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すべての“わたしたち”の共通の美しい祈り
とはいえ、きっとこのドラマもある面から見れば、一種の理想郷でしかないのかもしれない。なぜなら、現実世界には種田さんのようなスーパーマンはほとんど存在するわけがないし、辞めようとする新入社員をなんとか止めようとしてくれるだけでも良い環境だと思えてしまうのだから。吉高由里子演じる主人公が“定時に帰る”ことにこだわり、これを実現できること自体がファンタジーのようだと感じることもあるかもしれない。けれどもこのファンタジー性こそが、答えのない時代に生き方を模索するわたしたちが本音を言い易くするための促進剤であり、Superflyの「Ambitious」を“新時代の応援歌”たらしめている要素の一つだ。
歌詞の前半部分では、<スーツの群れ>や<駅のホーム>と、<夜空>や<月>という対比的なモチーフを並べながら、現実と理想のあいだでせめぎ合うわたしたち現代人の葛藤を描いていく。そうして辿り着く最初のサビでは、<今はきらい oh yeah/でも私は生きている/簡単に手に入るほど未来は楽じゃない>という現実的でどこかニヒルな語り口から始まり、<心配ない oh yeah/明日も起きようね/憧れを手放さないでね/格好いい大人たち>と最後は前向きなメッセージで締めくくられる。越智志帆自身のリアリティとしても、現実が一筋縄ではいかないことを受け止めながら、そのうえでもう少しだけ夢や憧れに寄り掛かってもいいのだと、優しく、力強く肯定してくれるのだ。もはやこの「Ambitious」が掲げているのは、安直な現実逃避や楽観主義などではなく、すでに建前と本音で取り繕えなくなった今だからこそ、本気でファンタジーな理想を謳い、それを実現していく、という腹をくくった気高き矜持のようなものですらある。
▲Superfly「Ambitious」
自分自身のアップデートを求められる時代。
『わたし、定時で帰ります。』の初回、シシド・カフカ演じる三谷佳菜子が「私たちの時代じゃ、そんな働き方は通じなかった」という旨の発言を新人に対して放ち、ぶつかる場面があった。やっとの思いで就職した新入社員の頃、バブル世代に何かと比較され、意見されることがあんなに嫌だったのに、気付いたら自分も年下にそんなことを言い兼ねない状態になっている。そのことにハッとさせられてしまう。たった10年、されど10年。時代の価値観は急速に、大きく変わっているのだ。がむしゃらに目前の仕事をし続けたまま、いつまで経っても下っ端気分でいる自分たちの世代も、気づけばもうそんなに若くない、「十分に大人だ」という事実こそが、私たち世代が2019年に突きつけられている現実だ。一昨年、美しいロング・ヘアーが印象的だった越智志帆がその髪をバッサリと切り、自身をアップデートしたのと同様(また、思えばドラマに登場しているシシド・カフカもかつてはロング・ヘアーがトレード・マークだったが1年半前にショート・ヘアになったのだった)、いろいろ考えながら変わっていくしかない。
日本は奇しくもこの5月から元号が変わった。連休の間の改元は新しい時代の空気に満ち満ちているようでもあったが、はて、“令和初”のウィーク・デイを過ごしてみれば、あの10連休以前にも増してセルフ・ブラックな働き方をしてしまう自分がいたりもする。まあ2週間も経てば、もはや誰も新元号・新時代の話などしていない。それと同様に、何かが一気に好転する、なんてことは現実にはきっと無い。
そして、このドラマ『わたし、定時で帰ります。』の中にも、“ある一つのまっとうな正義”みたいなものは無い。またこの先もきっと、何かが劇的なまでに変わっていくことはないのだろう。なぜならそれが現実なのだから。けれども「Ambitious」で描かれているように、全員がそれぞれの「格好いい私」を目指し、自分自身の価値観を信じて生きていく様が描かれるだけで、観る者はそれぞれの形で自分の気持ちを乗せ、救われるはずだ。
……そんな感じで、かなり真剣に見入ってしまうこのドラマの中にあるからこそ、Superfly越智自身のリアリティや願いが込められた「Ambitious」が主題歌の最後に流れ始めるたび、まるで仕事の納品が終わったかのように、ほっとして涙がこぼれそうになる。彼女の歌「Ambitious」は本音をぶつけ合った後にある、すべての“わたしたち”の共通の美しい祈りなのだ。
リリース情報
Superfly New Single「Ambitious」
- 2019/6/12 RELEASE
- ※2019/5/14 表題曲「Ambitious」先行配信開始
- <初回限定盤DVD(CD+DVD)>
- WPZL-31609/10 2,300円(tax out)
- <初回限定盤Blu-ray(CD+Blu-ray)>
- WPZL-31611/2 2,800円(tax out)
- <通常盤(CD)>
- WPCL-13049 1,200円(tax out)
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- 01. Ambitious
- 02. 覚醒
- 03. 氷に閉じこめて
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