Billboard JAPAN


Special

音楽番組の影響力とは?~Billboard Japan Hot 100から分析してみる~

top

 かつて音楽番組では、最新の楽曲を引っさげ登場したアーティストがパフォーマンスやトークをするスタイルが主流だった。しかし現在では、ストリーミングサービスやYouTube等の動画サイトで過去の楽曲も含め簡単にアクセスできることもあり、音楽番組でも過去の楽曲や知られざる名曲を紹介する場面が増えてきたと感じる方も多いだろう。音楽番組ごとに様々な特徴がある昨今だが、そこで今回、主要な音楽番組は楽曲にどのような影響力を持っているのかを、Billboard Japan Hot 100の各指標(CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ、Look Up、Twitter、ミュージックビデオ、カラオケ)のポイントを基に探っていくことにする。

分析するにあたって

 分析した番組は、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系、以下『Mステ』)、『うたコン』(NHK)、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系、以下『関ジャム』)、『バズリズム02』(日本テレビ系)、『COUNT DOWN TV』(TBS系、以下『CDTV』)、の5つとし、各番組が2018年12月~2019年2月までに放送した回でパフォーマンスされた楽曲を対象とする。(※ただし、番組平均視聴率が公表されていない放送回と、『COUNT DOWN TV年越しプレミアライブ』は除く。なお、本コラムで使用する番組平均視聴率はすべて関東地区の世帯視聴率を用いるものとする)

 分析するにあたって以下の計算式を使用することにした。まず放送された週(当週)を対象としたBillboard Japan Hot 100の各指標のポイントを合算ポイントで割ることで、当週での各指標の占有率を出す。そして、前週の占有率も出し、当週の占有率から前週の占有率を引く。さらに、その差を各放送回の視聴率で割った値で、指標ごとの順位付けを行うこととする。この計算方法によって、番組平均視聴率1%につき、どれだけ各指標の占有率に番組が貢献しているかを見ることができると考えた。(※ただし、関ジャムは放送日時の関係上、翌週を当週としている)

 番組平均視聴率は、株式会社ビデオリサーチに許諾を得たうえで、HPで発表しているものを使用した。また、『関ジャム』では、番組の最後に行われるライブ以外にも、企画で様々な楽曲を紹介しているが、そこで特にフォーカスを当てられた楽曲はパフォーマンスされていなくても分析の範囲内とした。対象楽曲数は、『Mステ』が94曲、『うたコン』が71曲、『関ジャム』が28曲、『バズリズム02』が34曲、『CDTV』が54曲である。ちなみに、以下で出てくるリリース日は、フィジカルでのリリース日である。

 それでは、分析によって出た各指標の順位のうち、セールス指標(CDセールス、ダウンロード、ストリーミング)に絞って、順位を見ていくことにする。

CDセールス:新曲が上位に

 まずCDセールスの指標から見てみると、当然のことかもしれないが、TOP10はすべて放送日とリリース日がBillboard Japan Hot 100の集計期間と同じ放送回が並んだ。

 ちなみに11位以下だと、『Mステ』で披露されたジャニーズの新曲や、『うたコン』で披露された演歌が目立つ結果となっている。ジャニーズの楽曲はダウンロードやストリーミングを解禁しておらず、演歌はリスナー層が主にCDを買う人たちであることが影響していると考えられる。

順位 番組 放送日 番組平均
視聴率
出演
アーティスト
番組内で
歌った楽曲
リリース日
1位 バズリズム02 12月28日 2.8 田村芽実 魔法をあげるよ ~Magic In The Air~ 2018/12/26
2位 バズリズム02 2月1日 1.8 みやかわくん 略奪 2019/1/30
3位 CDTV 2月9日 2.8 Kis-My-Ft2 君を大好きだ 2019/2/6
4位 CDTV 2月9日 2.8 IZ*ONE 好きと言わせたい 2019/2/6
5位 バズリズム02 2月1日 1.8 家入レオ この世界で 2019/1/30
6位 バズリズム02 2月15日 2.4 CHEMISTRY もしも 2019/2/13
7位 CDTV 2月16日 2.5 CHEMISTRY もしも 2019/2/13
8位 バズリズム02 1月11日 2.2 Mrs. GREEN APPLE 僕のこと 2019/1/9
9位 うたコン 2月5日 8.6 Kis-My-Ft2 君を大好きだ 2019/2/6
10位 うたコン 2月12日 10.1 STU48 風を待つ 2019/2/13

ダウンロード:過去の名曲やオススメ曲が目立つものに

 CDセールスの時とは様相が大きく変わったことが、まず分かる。特に『関ジャム』は、番組企画内で登場した有名プロデューサーがおススメしていた楽曲でランクインとなった。

 また、1位や9位、10位のように、過去にリリースされた名曲でランクインしている番組が増えたことも特徴だろう。この傾向は22位まで続いているのだが、2010年代の楽曲は新曲以外あまり見られず、それよりも前の楽曲が目立つことも注目すべきポイントだろう。

(※)7位のHONEST BOYZ®「SAKURA feat. KOBUKURO」は、2月15日に先行配信。
(※)9位の小田和正「たしかなこと」は、CHEMISTRY、天童よしみによるカバー

順位 番組 放送日 番組平均
視聴率
出演
アーティスト
番組内で
歌った楽曲
リリース日
1位 バズリズム02 1月25日 1.7 フジファブリック 若者のすべて 2007/11/7
2位 関ジャム 1月20日 3.7 中村佳穂 You may they 2018/11/7
3位 CDTV 12月15日 2.3 LiSA 赤い罠(who loves it?) 2018/12/12
4位 バズリズム02 2月1日 1.8 家入レオ この世界で 2019/1/30
5位 関ジャム 2月24日 5.8 大江千里 Rain 2013/11/27
6位 関ジャム 1月20日 3.7 中村佳穂 きっとね! 2018/11/7
7位 Mステ 2月15日 7.9 HONEST BOYZ® SAKURA feat. KOBUKURO 2019/3/6
8位 CDTV 12月24日 10.2 久保田利伸 with NAOMI CAMPBELL LA・LA・LA LOVE SONG 1996/5/13
9位 うたコン 2月19日 10.3 小田和正 たしかなこと 2005/5/25
10位 Mステ 2月15日 7.9 山崎まさよし One more time, One more chance 1997/1/22

ストリーミング:比較的若いリスナーをファンに持つアーティストが上位に

 ストリーミングの指標に注目すると、楽曲は新旧バランスよく入り混じっており、比較的若いリスナーに親和性のあるアーティストが並んだ。番組としては、ダウンロードの指標よりもさらに『Mステ』が目立つ順位付けとなっている。

 ここでさらに注目したいのが、8位にランクインしている、『バズリズム02』で披露されたみやかわくん「略奪」だ。今回の調査でCDセールス、ストリーミングの指標でTOP10入りしている「略奪」だが、ダウンロードの指標でも11位にランクインしている。リリースしてすぐに披露した楽曲が、セールスの指標すべてで上位にランクインしたことは、楽曲やアーティストそのものの力は当然ながら、番組としても広い範囲で効果があったといえるだろう。

(※)1位の宇多田ヒカル「初恋」は、1月18日にストリーミング配信開始
(※)3位のSEKAI NO OWARI「YOKOHAMA blues」は、2月19日にストリーミングで先行配信

順位 番組 放送日 番組平均
視聴率
出演
アーティスト
番組内で
歌った楽曲
リリース日
1位 関ジャム 1月20日 3.7 宇多田ヒカル 初恋 2018/6/27
2位 バズリズム02 1月18日 2.1 King Gnu Slumberland 2019/1/16
3位 Mステ 2月22日 8.2 SEKAI NO OWARI YOKOHAMA blues 2019/2/27
4位 バズリズム02 2月15日 2.4 IZ*ONE 好きと言わせたい 2019/2/6
5位 Mステ 12月21日 13.8 青山テルマ そばにいるね 2008/1/23
6位 Mステ 12月21日 13.8 AAA DEJAVU 2018/8/29
7位 CDTV 12月24日 10.2 JUJU やさしさで溢れるように 2009/2/11
8位 バズリズム02 2月1日 1.8 みやかわくん 略奪 2019/1/30
9位 Mステ 12月21日 13.8 KICK THE CAN CREW クリスマス・イブRap 2003/11/19
10位 Mステ 12月21日 13.8 EXILE Heads or Tails 2018/7/25

各番組の傾向

 以上のように、セールス指標でも様々な特徴が見てとれたが、ここで番組ごとの特徴をまとめてみることにする。

 先ほどの計算で、視聴率1%当たり、各指標の占有率にどれだけ貢献したかを調べたが、ここでは、最も占有率を上げた指標を楽曲ごとに集計し、番組ごとにまとめてみた。その割合を示した円グラフが以下のものである。(※ただし、すべての指標で全く影響がなかった楽曲は除いた)

写真
写真
写真
写真
写真

 以上の円グラフをみると、まず『CDTV』と『Mステ』のセールス指標の割合が似ていることがわかる。さらに『Mステ』ではTwitterの指標が全番組の中で最も大きな割合を占めている。

 『うたコン』と『バズリズム02』は共に、CDセールスとダウンロードを合わせた割合が全体の半分近くを占めている。理由としては、両番組は共に新曲(『うたコン』の場合、演歌も含まれる)を多く紹介していることが挙げられる。また、『うたコン』はTwitterの指標の割合が他番組より一番低く、さらにストリーミング指標の割合は0%だった。披露した楽曲の特徴とも考えられるが、他番組との視聴者層の違いも感じられる結果となった。

 他番組とは完全に異質なのは『関ジャム』だ。新曲ではない楽曲を比較的紹介している『関ジャム』では、ダウンロード指標もストリーミング指標も全体を占める割合が全番組で最も高い。また、Look Up(CDをPCに取り込んだ回数)の割合も他番組より高いことが分かる。

 音楽番組が指標に与える影響力の特徴を表す例として、2018年5月23日にリリースされたKing & Prince「シンデレラガール」が挙げられる。この楽曲は12月21日に『Mステ』で披露され、かつ翌年の2月24日には『関ジャム』の企画内でも紹介されている。どちらの放送回もリリースから半年以上たったタイミングでの放映だが、『Mステ』が放映された週で最も占有率が上がった指標はTwitter(次いでCDセールス)で、『関ジャム』ではLook Upであった。『Mステ』の視聴者の中には、パフォーマンス等をTwitterで話題にする人が一定数いる一方、『関ジャム』の視聴者の中には、楽曲が気になって、友人から借りたりレンタルしたりして聴いている人が多くいたことがうかがえる。このような人々のアクションがチャートに違った影響を与えているのだ。

最後に

 先述の通り、今回の分析で使用した視聴率は、あくまで関東地区を対象とした番組平均視聴率であり、また各番組の放送も関東での放送日を参考にしている。よって、ほかの地域での視聴率や、数日後や数週間後にほかの地域で放送された場合を反映できていないため、完璧な評価指標と言えないのは確かであろう。また、今回の分析で用いた計算式も、改善の余地があるのは否めない。

 そして当然、音楽番組だけが楽曲の各指標に影響を与えるわけではない。様々な要因が複雑に絡み合って各指標は変動するのであり、その中から音楽番組での露出だけを抽出して、その影響力を調査するのは難しいことかもしれない。

 しかし、この記事を読んだ方の中には、音楽番組、ひいてはテレビ番組の影響で楽曲の人気がどんどん高まっていく現象が存在することを、肌感覚で感じている方もいるだろう。今回の分析は、そんな現象を解明するための第一歩である。そして、さらに分析の精度を上げていくために、より網羅性のあるデータ、そしてそのデータに基づいた計算式を作成しつつ、引き続き探っていきたいと考えている。

 

関連キーワード

TAG