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ゴーストの主宰者トビアス・フォージが語る、レディー・ガガ級ライブ演出「今実現できているのは全体像の10%にしか至らない」

来日インタビュー

 2010年に『オーパス・エポニモウス』でアルバム・デビューを果たし、4thスタジオ・アルバムとなる最新作『プレクウェル』では米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で初登場3位を獲得した、スウェーデンのメタル・バンド=ゴースト(GHOST)。ドゥーム・メタル、プログレ、サイケ、ハード・ロックに北欧特有の哀愁とポップネスが織り交ぜられた中毒性抜群のサウンド、オカルトやホラー(たまにコメディも)の要素を含んだ独特な世界観、アルバムごとに変化していくフロントマン以外のメンバーが正体不明、という00年代以降のメタル・シーンで一際異彩を放つ彼ら。2016年には、3rdアルバム『Meliora』収録の「Cirice」で【第58回グラミー賞】の<最優秀メタル・パフォーマンス賞>を受賞するなど、その高い音楽性と細部までこだわり抜いた“儀式”(ライブ)で、世界中に熱狂的な信者を生んでいる。

 そんな彼らが新たなるフロントマンのコピア枢機卿とともに約5年ぶりに来日。日本初上陸した【DOWNLOAD JAPAN】で久しぶりの“儀式”を行い、観客を熱狂の渦に巻き込んだ。ここではゴーストの全作品を手掛ける主宰者トビアス・フォージが自身のルーツを通じて、バンドの唯一無二のライブや音楽性に迫ったインタビューをお送りする。

ライブ・プロダクションにおいて、
俺がゴーストになってほしい、ゴーストがなるべきだと思うアーティスト像は、
パール・ジャムよりレディー・ガガとの共通点の方が多い

−−昨日の【DOWNLOAD JAPAN】での“儀式”は大成功でしたね。

トビアス・フォージ:ありがとう!

−−GHOSTの名前は、日本のTwitterトレンド入りして、反響も大きかったようですね。

トビアス:へぇ~、そうだったんだね。日本のTwitterで?驚いたな。

−−バンドが日本で演奏するのは約5年ぶりですが、手ごたえはいかがでしたか?

トビアス:そうなんだ。だからどんな反応が得られるか、全く見当がつかなった。5年って長いし、海外で人気があるからって、日本でも人気があるというわけではないから、オープンマインドで臨んだ。特に今回は日本で頻繁に演奏している、キャリアの長いバンドが多いラインアップだったから、怖気づいたわけではないけれど、敬意を払わなければいけない、もしかしたら反応が薄いかもな、という意識もあった。とにかくベストを尽せば、結果はついてくると考えていたから、実際にいい反応が得られたのは喜ばしい。

率直に話すと、俺たちの今回の来日目的は、自分たちの実力を証明し、旧交を温めることだったんだ。俺たちのことを知っているか、または覚えていてくれたか、新たに興味を持ってくれるかを確認し、将来単独ライブで戻ってくることができるかを見極めるために。

−−【SUMMER SONIC 2014】での初来日ライブを観た人々にとっても、新鮮な体験だったと思います。内容も大幅に進化していましたし、何といっても新たなフロントマンのコピア枢機卿が加わっていますから。

トビアス:あの当時よりも実力のあるバンドになっているから、全体的に格段いいライブ体験になったんじゃないかと思ってるよ。前回来日時は、まだアルバムを2枚しかリリースしていなかったけれど、今では4枚のアルバムに加えてEPもいくつか発表している。演奏面においては、600ショー以上こなしてきているし、バンドとしてかなり腕が上がったと感じていて、実力を十分に発揮できるようになったと思っている。


写真
2019.03.21 GHOST @ 【DOWNLOAD JAPAN 2019】 / Photo: Yuki Kuroyanagi


−−ゴーストのライブの大きな魅力はその独特な世界観ですが、ショーを構成する上でどんな部分に重点をおいていますか?

トビアス:これまでのキャリアを踏まえているのは当たり前だけれど…俺からしてみれば、10年前に創造したアイディアを今やっと具現化できているっていう感覚なんだ。俺の頭の中で考えていることは、まだまだ達成できていない。やりたいことがありすぎて、長年俺と仕事をしてくれているツアー・マネージャー、マネージャーたち、ライブ・プロダクションのスタッフは、いつも頭を抱えてるよ(笑)。もし俺たちがやりたいことを可能にできる資源、財的支援が100%揃うとしたら、現状で実現できているのは全体像の10%にしか至らない。バンドとして達成できていないことがまだまだある。徐々にステップアップしながら、抑圧しているアイディアを少しずつ世に出していってる状態なんだ。

アリーナ・ライブも実現してきているけれど、例えば機材トラック5台でツアーするアーティストとレディー・ガガのように機材トラック18台でツアーするアーティストでは、たとえ同じ会場で演奏できても、ショーの内容が全く異なってくる。ライブ・プロダクションにおいて、俺がゴーストになってほしい、ゴーストがなるべきだと思うアーティスト像は、パール・ジャムよりレディー・ガガとの共通点の方が多い。だから、今観客が見ているゴーストのライブは、俺が思い描いている、よりシアトリカルなショーへ辿り着くための単なるステップなんだ。

−−ライブにおけるシアトリカルな演出というのは、昔から惹かれるものがあったのですか?

トビアス:思い出せる限りずっと俺は音楽が好きで、その中でもビジュアル志向のバンドに惹かれてきた。幼い頃、ものすごく引きつけられたのは、KISSやアリス・クーパー、モトリー・クルーなど、80年代初頭にビッグで、恥知らずと言われていたようなバンドだった。

それからザ・ローリング・ストーンズも大好きだった。特に70年代の彼らはグラム・バンドっぽくて…ミック・ジャガーはグラム・シンガーのような存在で、今名前を挙げたバンドと共通するようなアティチュードを持っていた。80年代は、俗に言うコンサート・フィルムは少なかったけれど、ストーンズの『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』はお気に入りで、何度も何度も繰り返して観た。途中映像を止めて、ステージの絵を書き留めたりもして、あの作品からは本当に多くを学んだ。



▲ 『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』トレイラー映像


その後ストーンズは低迷期を経て、80年代後半に『スティール・ホイールズ』のリリースとともにカムバックを果たした。1989年には、同作のツアーも行われて、たしか日本では翌年に開催されたんじゃないかな。あのツアーのステージは、今でも史上最大級の規模だと思うんだけど、巨大で、インダストリアルな感じで、あんなにクールなものはそれまで見たことがなかった。それが当時8歳だった俺にとってのライブ・プロダクションの基準となったんだ。俺もあれと同じことがやりたいって、具合にね(笑)。

−−当時から理想が高かったんですね(笑)。

トビアス:あと、これも1989年の話なんだけど、俺が大好きだったもう一つのバンド、ピンク・フロイドのライブがTVで生中継された。親父が「今夜ピンク・フロイドがベニスでやるライブがTVで生中継されるぞ」って言うから、「え、何それ!マジで」って思ったのが、すごく記憶に残ってる。そのライブっていうのは【A Momentary Lapse of Reasonツアー】の一環で行われたものだったんだけど、これまた自分がこれまで見た中で一番クールなライブだった。ストーンズやピンク・フロイド、他にも色々いたけれど、そういったバンドのライブを観ることで、俺の基盤が形成されていった。今はその理想を追い求め、目指しているんだ。


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2019.03.21 GHOST @ 【DOWNLOAD JAPAN 2019】 / Photo: Yuki Kuroyanagi




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−−こんなところでライブをやってみたいと思う場所はありますか?

トビアス:日本にいるから、やっぱり武道館かな。

−−もっと変わった場所を選ぶかと思っていました。

トビアス:それは君が日本に住んでるからだよ!プロダクションを踏まえると、やはりアリーナでやりたいんだよね。自由が効くし、ショーが天気に左右されたりすることもない。すべてをコントロールしたいから、特別な場所でやることは重要視していないんだ。だから、武道館、(LAの)フォーラム、(NYの)マディソン・スクエア・ガーデンとか、歴史ある王道な会場の方が好みだね。



▲ 「A Pale Tour Named Death」


−−最新アルバム『プレクウェル』の発表に伴い、フロントマンが新たにコピア枢機卿になりましたが、彼がバンド、ライブに注入したものとは?

トビアス:気品かな(笑)。彼自身とてもアニメっぽいから、加わったことでショーが活気づいて、ダイナミズムが増したと思うね。5年前のショーと比べると怖さは減ったかな。

−−確かに邪悪さが、やや薄れたように感じます。

トビアス:邪悪さは減った。この要素は、当時演奏していた小規模な会場によって強化されていた部分もある。より大きな会場でやるようになると、アングラっぽいヴァイブを再現するのが難しくなってくる。観客がたくさんいる小さなクラブでは、多くの人がどっちみちバンドのことがよく見えないから、ライブ中はずっとスモーク・マシーンを焚いていたし、照明もメンバーの背後か、足元からしか照らしていなかった。それはそれでクールだけれど、同じことを武道館でやるとなると、何も見えない妙なライブになる。だから、少しばかり邪悪さを軽減させつつ、ホラーの要素を持たせた演出が提示できるような、新たな方法を模索しているんだ。



▲ 「Rats」MV



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2019.03.21 GHOST @ 【DOWNLOAD JAPAN 2019】 / Photo: Yuki Kuroyanagi


−−彼のペルソナは、新作のよりアップビートなナンバーにも上手くハマっているように感じます。

トビアス:そうかもしれないね。

−−それを踏まえた上で、最新作から彼がフロントマンに抜擢されたのですか?

トビアス:まぁ、テーマは死とペストだけどね。コピア枢機卿は、まだポープ(教皇)になれていないから、その衣装を着ること、髑髏のペイントをすることを許されていない。『プレクウェル』は、前作と次回作の過渡期を象徴している作品だ。だからと言って作品の価値が低いというわけではない。単に変化の時期にあるだけだ。今後どんな方向性で進むかにもよるけれど、仮に以前のようなダークな世界観、教皇の衣装と髑髏のペイントというイメージと近いものになったからと言って「Dance Macabre」をやらなくなるわけではない。

それぞれ確立したアルバムを制作し、バンドのレパートリーを増やしていくとともに、それらに一貫性も持たせなければならない。これは俺が多彩な楽曲を書こうと心掛けている理由でもある。次のアルバムに向けて楽曲制作を行っているけれど、再び「Ritual」と同じような楽曲を書こうとは思っていない。すでに「Ritual」は存在しているから。だから常にリスナーが聴いたことがないような曲を書こうと試みているんだ。






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−−バンドのイメージを保つとともに、トビアス本人の音楽的バックグランドやメタルとポップが盛んなスウェーデン出身ということは、どのようにゴーストの音楽性や方向性に投影されていますか?

トビアス:俺がスウェーデンのバンドからは多大なる影響をを受けているのは確かだ―アバ、ロクセット、ヨーロッパ、カーディガンズなどのビッグな世界的バンドから。俺は(カーディガンズの)『グラン・トゥーリスモ』の大ファンだったし、今でもお気に入りのアルバムの一つだ。驚異的な作品だと思うし、リリースされた当時の1998年、多くのメタル・アルバムよりよっぽど影響を受けた。俺はティーン時代をエクストリーム・メタル・シーンで過ごしたけれど、当時そのシーンで最も活躍が顕著だったバンドはスウェーデン出身だった。エントゥームド、ディスメンバー、グレイヴ、アンリーシュドなどの昔のデス・メタル・バンドやディセクション、あとはノルウェーとかのバンドだな。彼らにはものすごく影響を受けていて、今でもその時代のファンだ。とはいえ、彼らも海外のロックから多少なりとも影響を受けている―たとえばエントゥームドは、リパルジョンやマスターのようなアメリカのバンドからとか。

ポップ面における、スカンジナヴィアの伝統的な音楽からの影響に関して話すと、一番近いのがアバだ。アバの音楽って、スウェーデンのフォーク・ミュージックとビーチ・ボーイズを融合させた感じなんだ。彼らの音楽は世界中どこでも受け入れられているけれど、スウェーデン人からすると、ものすごく伝統的な音楽で、言わばフォーク・ミュージック同様。たとえば、アバの「アライヴァル」を聴くと祖母を思い出す。後、1800年代のめちゃめちゃ古い楽曲とか(笑)。アバの特出している部分や趣向というのは俺の中に流れているもので、それはマックス・マーティンにも同じことが言えるし、Nicke Anderssonにも多少流れていると思う…スカンジナヴィア特有のダークさや憂鬱さ、メロディ。でもゴーストのサウンドとは少し違う。とはいえ新作には、このスカンジナヴィア的フォークの要素が垣間見れる曲がある。それが「Helvetesfönster」だ。タイトルもスウェーデン語で、ゴーストの他の曲と差別化している。




−−あの曲は、ホラー映画のサントラのようなヴァイブも持ち合わせていますね。

トビアス:あぁ、それを意図してオーケストレーションを行っているから。曲は3つのパートに分かれていて、最初と最後のパートはスカンジナヴィアの森林や民話を意識したトーンを用いているけれど、海外のリスナーにとってはホラー映画の音楽を連想させるんだろうね。でも、地元の人間からしたら、とてもスカンジナヴィアっぽい曲なんだ。

−−昨今話題になっているアーティストとその作品は切り離せるかという議論ですが、実際に作っている身としてはどう考えますか?トビアスは、やや異端なキャリアを積んできているので、特に興味深いなと。

トビアス:巨大な質問だな(笑)。アーティストとして何かを創造する際には、自身のDNAが様々な形で注入される。時に、ミュージシャンやアーティストは、自ら作るアートが自分のすべてを包括しなければならないと思う節があるけれど、それはかえって仇となっている。そうなるとたくさんの物事を象徴しなくてはならなくなり、ものすごく巨大なものになってしまう。じゃあ、その反対をやればいいと言っているわけではない。もし時間や少しでも恐れがあるのであれば、辛抱強く待った方がいいのかもしれない。

たとえ俳人であれ、画家であれ、コメディアンであれ、ミュージシャンであれ、アート界で成功するのは難しいことで、何も保証されていない。成功というのは、自分がこれまで作り上げてきた作品すべてを総括したものなのかもしれない。多くの成功したアーティストはこの葛藤を経験し、「一度に何もかも自分にはできない」ということを理解している。なぜなら自分がやりたいことを一度にやるのは不可能だから。でも、その都度ベストを尽くせば、すべてのプロジェクトにおいて自分の痕跡を残せるのではと考えている。それが人々に何かしらの形で伝わるのではないかと。

俺はこれまで様々なプロジェクトに取り組んできた―アングラなエクストリーム・メタル・バンドのRepugnantからその後携わったいくつかのプロジェクト、そして現在のゴーストまで。そしてゴーストとしては「Ritual」から「Elizabeth」、そして「Helvetesfönster」から「Dance Macabre」まで。何かしらパターンはあると思うんだ、俺自身がやってきたことだから。

ちょっと話が脱線してきているけれど、伝えたいのは可能な限りアートを作るべきだけど、あまり考えすぎてはいけないということ。自分の行動すべてから、個人的なつながりを見い出そうとし、考えすぎてしまうと、行き詰まってしまうから。キャリアを回顧する意味で、作品を振り返るのはいいと思うけれど、考えすぎるのは禁物で、流れに身を任せることも必要。恋愛関係と同じだよ。会った瞬間に「俺たち付き合ってるんだよね」って婚前契約書を出されたら引くだろ(笑)。何年か経って、関係におのずと気づくのが自然だ。まぁ、いつかはその関係も終わってしまうかもしれないけれど、アートもそういうものだから。まるで自然の中で変化し続けている生物のようなものだよ。

−−今日はありがとうございました。単独公演で再来日してくれることに期待しています。

トビアス:戻って来れるように頑張るよ。



▲ 「Dance Macabre」MV




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