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Takaが語る、ONE OK ROCKの現在地と『Eye of the Storm』の起源



インタビュー

 ONE OK ROCKの約2年ぶり、通算9作目のオリジナル・アルバムとなる『Eye of the Storm』が完成した。昨年10月のフルオーケストラを迎えた単独公演も記憶に新しい彼らの最新作から見えてくるのは、米ヒット・チャートでも記録を残した前作『Ambitions』の頃からすでに大きく歩を前に進めたバンドの現在地。『Ambitions』と4大ドーム・ツアーが一つのゴールだったと語るONE OK ROCKは、敢えて自分たちの音楽性と離れた領域で活躍する海外プロデューサーらを制作陣に迎えた『Eye of the Storm』を掲げ、すでに次のゴールに向かって走り出している。しかし、その目標地点の座標はTakaいわく “見えていない”。どれほど先にゴールが待ち構えているのか、そもそもゴールが存在するのかすら分からない旅路に、それでも大志と希望を胸に抱きながら再出発したONE OK ROCKを突き動かす思いとは。元rockin'on編集長で、海外ロック・バンドを中心に豊富な取材経験を持つ粉川しの氏がTakaに話を訊いた。

今のこの気持ちを伝えないことには始まらない

 ONE OK ROCKの約2年ぶりのニュー・アルバム『Eye of the Storm』は、世界規模のロックのニュー・スタンダードを真っ先に射抜いた日本人バンドのアルバムだと言えるのではないか。そして、アメリカのシーンの最前線で戦う彼らがリーチしたロックのニュー・スタンダードとは、結果として、かつての彼らが鳴らしていたラウド&ヘヴィなギター・サウンド、パンキッシュなビート・ロックからの逸脱を促すものだ。『Eye of the Storm』は、まったく新しいONE OK ROCKのチャプターとなる傑作なのだ。


 実際、『Eye of the Storm』は、旧来型のバンド・サウンドとして捉えると、驚くほどシンプルに研ぎ澄まされた作品だ。音数は制御され、ギターを何本も重ねて厚みと音圧を生み出していくことよりも、開放感のある空間でいかに音をダイナミックに響かせるかという点が重視されたプロダクション。また、ロックの激情型のエモーションに加えて、EDMのピークタイムの演出に似たユーフォリックなアレンジや、ゴスペル的な高揚も生み出されている。つまり、本作はロック・バンドがロックから逸脱して作ったハイブリッドなポップ・アルバムであり、そこまで突き抜けたものこそが、アメリカで勝てるロックのニュー・スタンダードだということなのだろう。ONE OK ROCKとして『Eye of the Storm』で遂げた覚醒について、Takaが語ってくれた。


 「僕らにとって前作の『Ambitions』とその後のドーム・ツアーは、バンドとして好きなようにやってたどり着けた最高のゴールだったんです。でも次のゴールは、好きなように走って辿り着けるような場所にはしたくなかった。自分たちのレベル、幅を広げていくために走りたいし、その延長線上に素晴らしい景色があるんだと思うんです。例えば今回は、“これをやったら大丈夫かな? 嫌われるんじゃないかな”っていう感覚、“好きな女の子に嫌われてしまうんじゃないか?”みたいな感覚も確かにありました。でも、やっぱり今のこの気持ちを伝えないことには始まらないんですよ。この気持ちを伝えてこそ、そして伝えた後にこそまたいい出会いができる、ってくらいの覚悟で新たに提示していったアルバムなんです」




『Ambitions』を引っ提げ、ONE OK ROCKはキャリア史上最大規模のツアーに臨んだ


 ONE OK ROCKが明確にアメリカを目指し始めたのは、2作前のアルバム『35xxxv』からだろう。グッド・シャーロットやブリンク182らを手がけたパンク、モダン・ロックの名プロデューサー、ジョン・フェルドマンをプロデューサーに迎えて制作した『35xxxv』は、ONE OK ROCKがこれまで日本でやってきたことの延長線上で、憧れのアメリカと幸福な合致を見たアルバムだった。


 しかし、前作『Ambitions』で状況は一気にシビアに転じる。アメリカの名門レーベル<フュエルド・バイ・ラーメン(Fueled by Ramen)>と契約を結んだことにより、彼らはアメリカの市場を前提としたサウンドをより戦略的に生み出すことを求められるようになったからだ。<フュエルド・バイ・ラーメン>は、長らくロックの不況が続くUSシーンにあってほぼ唯一健闘しているロック・レーベルで、ONE OK ROCKのレーベル・メイトにはフォール・アウト・ボーイやパニック!アット・ザ・ディスコに加え、2017年にグラミー賞を受賞したトゥエンティ・ワン・パイロッツも名を連ねている。彼らもまた、ONE OK ROCK同様にパンクやエモをルーツとするバンドたちだが、近年ではやはりエレクトロ・サウンドやヒップホップ、R&Bを大胆に取り入れたハイブリッド・サウンドで、ロック・バンドとして大きな成功を収めている。つまり、それが<フュエルド・バイ・ラーメン>の戦略であり、ONE OK ROCKが『Ambitions』で求められたものでもあった。


 「『35xxxv』までのONE OK ROCKの活動は、海外に憧れを抱いてバンドをやっていた少年たちが、僕たちのやりたいことを理解してくれるプロデューサーと出会い、ついにアメリカに飛び出してアルバムを作ったことを単純に喜んでいた、っていうものだったんです。でも、『Ambitions』の経験は全く違うものでした。あそこでアメリカの洗礼を受けたというか、“ああこんなに違うんだな”っていうのを見せつけられて…。アメリカで契約をするっていうことは、もちろんアメリカのマーケットを意識するということなんですよね。僕らもそれは覚悟の上でアメリカに行ったんですけど、それでも当初<フュエルド・バイ・ラーメン>の人間が僕らに求めてくるものが正直、ダイレクトに理解できないことがありました。でも、戸惑ったからといって単に反発するんじゃなくて、自分がしっかり受け止めて、受け止めたうえで見えてくる新しい景色を見ないことには始まらない、っていうスタンスで取り組むって決めたんです。そのスタンスから得たものはすごく大きかったですね。最初は複雑でしたけど、レーベルのA&Rとコミュニケーションを重ねていく中で、アメリカで活動をしていく中で、やっぱりそっちのほうがいいって思えるようになった。振り切れたんですよね」




自身初のフルオーケストラ公演【ONE OK ROCK with Orchestra Japan Tour 2018】で披露された新曲「Stand Out Fit In」


 そんな『Ambitions』リリース後の約2年間は、彼らにとって大きな飛躍と達成の歳月となった。『Ambitions』はビルボードジャパンの総合アルバム・チャート“HOT ALBUMS”で1位を獲得。国内では初の4大ドーム・ツアーやフル・オーケストラ・ツアーが話題を呼ぶなど、名実ともに日本のトップ・バンドへと上り詰めた。一方、海外盤が米ビルボードの総合アルバム・チャート“BILLBOARD 200”で106位を獲得したほか、カテゴリー別の “DIGITAL ALBUMS”で19位、“TOP ALBUMS SALES”で35位、 “TOP ROCK ALBUMS”で12位、“ALTERNATIVE ALBUMS”で9位、“HARD ROCK ALBUMS”では2位と、アメリカでも初めて大きな結果を残した彼らは、過去最大規模のワールド・ツアーを敢行。北米、南米、ヨーロッパ、オセアニア、アジアとまさに世界中を回り尽くした同ツアーは実に100公演に及んだ。つまり、彼らは直近の2年間、日本国内で頂点に立ちながら、世界では頂点を目指して麓から登り始めたという、二つの場所と二つの視点を持っていたということになる。そんな多忙を極めた2年の間に『Eye of the Storm』は制作された。


 「前作のワールド・ツアーが始まったのと同じタイミングで作り始めてはいたんです。でも、あのツアーは1年くらい回っていてので、その間の本当に3か月とか、どうにか時間を作ってました。そこから延びて延びてここまできたから、実際の日数でいうと1年もかかっていないんですけど、ツアーをやりながらアルバムを作るとなると、どうしてもそのくらい時間がかかってしまうんですよね。そこが自分的には苦しいところなんですけど。デモは50曲以上作ったんじゃなかったかな。そこから絞り込んで、様々なプロデューサーと一緒にかたちにしていったんです」


やりたいことはあるけれど、それが何なのか確信的にはまだ見えていない

 『Eye of the Storm』には『Ambitions』以上に多くのプロデューサー、共作者が参加している。その多くがレーベルのA&Rの提案によるもので、ほとんどのプロデューサーが初対面だったという。中にはプー・ベアーのような大物プロデューサーの名前も。プー・ベアーは、ジャスティン・ビーバーとはブレーンの1人として長年コラボレートしている人物で、もともとはR&B、ヒップホップ系のプロデューサーだ。そう、かつてパンク、モダン・ロック系のジョン・フェルドマンと互いのテイストを理解しあい、共鳴しながらアルバムを作ったのとは対照的に、今回の彼らは自分たちのテイストからはむしろ大きくかけ離れたテイストを持つプロデューサーたちと、敢えて未知の領域に挑んだということになる。


 「誰とやったら自分の思うようなサウンドを作ることができるのか、っていう感覚は、もう僕らの中ではっきり分かっているんです。でも、それってもう日本で散々やってきたことなんですよね。今の僕らに必要なことは、分かっていることじゃないんです。分からないこと、やったことがないことが必要なんです。少なくとも、やってみないと分からないことをやるっていう、そのスタンスが大事だっていう認識から『Eye of the Storm』は始まっているんですよね。うん、だからもう今回は郷に入っては郷に従え、なるようになっちまえみたいな(笑)。今回の制作には日本のスタッフはほぼ入っていないです。それこそスタジオに入っていた日本人って、バンドである自分たちぐらいだったんじゃないかな。今回はプロデューサーが提案してくる内容がかなりえげつないことが多かったんですよ(笑)。例えば、僕のボーカルの面で言えば、ボーカロイドをあえて使うとかもそうですし、コンプをすごく強くかけたりとかね。でも結果的に、それがアルバムとして聴いた時にいろんなカラーを生んでいて面白いなって。地声としても日本ではあまりやらない歌い方を意識してやりました。それが英語の発音で歌うってことなのかな、とか。あと、今回はとにかくバンド・サウンドとしてはシンプルです。ギターも各ナンバーで1本しか使っていないですし。シンプルに録ったものを、後からプロダクションで広げていくっていう作業だったんですよね。そして、さらにそれをライブでどう展開していくかっていう」




映画『キングダム』主題歌にも起用されている「Wasted Nights」のミュージック・ビデオ


 ちなみに『Ambitions』にはマイク・シノダが参加している。ONE OK ROCKにとってリンキン・パークは、リスペクトの対象であり、同志ともいえるバンドでもある。2017年にはリンキン・パークの北米ツアーでオープニング・アクトを務めることも決まっていた。しかし、2017年7月にチェスター・ベニントンが急逝し、Takaは大きな衝撃を受ける。しかし、本作にゲスト・ボーカルとして参加しているキアーラとの出会いも、チェスターが結んだ縁だったという。


 「チェスターのトリビュート・コンサートがLAであって。僕も出させてもらったんです。あの時の僕はもう…なんていうんですかね、色々な感情を抱えてステージに立って歌っていたので、ほとんど何も覚えていないんです。悲しみを通り越えたところで生じる緊張感がすごくて、終わった後に本当に疲れて…。それで映像を見返してみたら、“歌、ひでえな”って。でも、それは僕だけじゃなくて、あの日出演していたアーティストはみんな、そういう気持ちになっていたみたいなんですよね。キアーラとは、そんなコンサートで会いました。そう、会って裏で話した時に彼女も「全然ちゃんと歌えなかった」って言っていて…。そこにはスティーヴ・アオキやZEDDもいたんですけど、みんなで終わった後に話していたんです。「俺ら、ここで会ったことをこのあとちゃんとかたちにしたいね」って。それからキアラとも連絡を取るようになって。(キアーラが参加した)“In The Stars”はもともと僕が歌っていた曲だったんですけど、彼女に歌ってもらおうって。そうしたら本当にすごくポップなレディオ・ソングになったんです」




キアーラが参加している「In the Stars」は2月15日公開の映画『フォルトゥナの瞳』主題歌


 アメリカのポップ・ミュージックのメインストリームをヒップホップとR&Bが占めるようになって久しい。セールスの面でも、ユース・カルチャーとしての訴求力の面でも、ロックは今や完全にシーンの隅に押しやられていて、その状態はそう簡単には覆りそうにない。今なお健全にロック・シーン、バンド・シーンが機能している日本のような国は、世界的にはレア・ケースなのだ。


 「なんだろう…。日本って、僕から見ているとすごく平和な国だなって思っちゃうんです。音楽を作っていてもね。結局、日本のロック・バンドが日本で生きていく上での音楽を作る時、何をやっても正解になるんですよ。幸せで平和な、自分たちの国なので。だから、日本のバンドに関してはこのままでいいんじゃないかなって思います。米津(玄師)くんみたいな人が出てきて、ああいう素晴らしいメロディを生み出していて。RADWIMPSみたいなバンドもいたりとか。だから、日本のシーンはそうやって好きなように引っ掻き回せばいいんだと思う。でも、やっぱり海外でやっていくとなると、どうしても難しいですよね」


 『Eye of the Storm』はサウンドの開放感、ポップさ、ダイナミズムと共に、未来へと、光の中へと突き進む強い思いを宿した歌詞も含めて、どこまでもカラフルでポジティヴなムードに満ちたアルバムでもある。それを象徴しているのが、色彩がぶちまけられ、躍動するジャケットのアートワークだろう。これはアメリカの著名なグラフィティ・アーティスト、JonOneが彼らのために描きおろした貴重な作品だ。Takaは、このアートにONE OK ROCKのどんな現在地を見出したのだろう。


 「ある日、ロスのとあるギャラリーを見に行った時、このアーティストの絵を生で見て、“ああ、今のONE OK ROCKっぽいな”って感じたんです。一見するとグチャグチャだけれど、その中にちゃんと芯の通ったメッセージ性も感じられるっていうか…。やりたいことはあるけれど、それが何なのか確信的にはまだ見えていない。何をやるべきかまだはっきり決まっていないけれど、それでも未来がキラキラしているような。この人の絵はカオスだけれども、色使いがすごく綺麗ですよね。そこが今自分たちのいる状況とリンクしたんです」





Interview by 粉川しの

ONE OK ROCK「Eye of the Storm」

Eye of the Storm

2019/02/13 RELEASE
AZCS-1074 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Eye of the Storm
  2. 02.Stand Out Fit In
  3. 03.Head High
  4. 04.Grow Old Die Young
  5. 05.Push Back
  6. 06.Wasted Nights
  7. 07.Change
  8. 08.Letting Go
  9. 09.Worst in Me
  10. 10.In the Stars (feat.Kiiara)
  11. 11.Giants
  12. 12.Can’t Wait
  13. 13.The Last Time

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