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ペンタトニックス 『クリスマス・イズ・ヒア!』発売記念特集~前2作を上回るホリデイ・アルバムが完成



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 ペンタトニックスといえばクリスマス。数あるコーラス~アカペラ・グループの中でも、彼ら以上にホリデー・シーズンを連想させるグループはいない。それほどクリスマスとペンタトニックスが紐付いたのは、過去2作の大ヒットがあるからだろう。

 2014年10月にリリースした第一弾『ザッツ・クリスマス・トゥ・ミー』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”で最高2位をマークし、アメリカだけで220万枚を突破するロングヒットを記録。翌2015年の年間チャートでは、クリスマス・アルバムとしては異例の14位にランクインする快挙を達成した。そして、2016年10月発売の第二弾『ペンタトニックス・クリスマス』では、前年にリリースした4thアルバム『ペンタトニックス』に続き、2作連続の同アルバム・チャート首位を獲得。本作もミリオンを突破し、2017年の年間チャート16位にランクインする大ヒットとなった。ホリデー・アルバム・チャートではどちらも1位に輝き、2012年のEP盤『PTXmas』(最高7位)を含めると、3作連続のTOP10入りを果たしている。

 本作『クリスマス・イズ・ヒア!』は、前2作に続くクリスマス・アルバム第三弾。既にホリデー・アルバム・チャートでは1位を獲得していて、クリスマスまでには、Billboard200でも上位ランクインが予想される。2年周期で新作を届けてくれる、彼らの律義さも好ましい。前作との大きな違いは、2017年9月に脱退したアヴィに代わり、マット・サリーがバス担当としてメンバー入りしたことだろう。今年4月にリリースした6枚目のスタジオ・アルバム『PTXプレゼンツ: トップ・ポップ VOL.Ⅰ』では既に参加していたが、クリスマス・アルバムとしての正式メンバー加入後のクレジットとしては初となる。音楽大学で声楽を専攻していた彼の“存在感”もしっかり引き出しつつ、メンバー編成による違和感を一切感じさせない、すばらしい出来栄えとなった。その待望の新作『クリスマス・イズ・ヒア!』について、メンバーのスコットのインタビューと共にご紹介する。

『クリスマス・イズ・ヒア!』を徹底解説!

 新メンバーであるマットのボーカルから始まるアルバムからの先行トラック「スウェター・ウェザー」は、カリフォルニアのロックバンド=ザ・ネイバーフッドが2012年にリリ-スした、彼らの代表曲にして最大のヒット。米ビルボード・ソング・チャート“HOT100”では最高14位、オルタナティブ・ソング・チャートではNo,1を獲得した。新メンバーへの配慮からか、リードもマットに託していて、彼の温かみと厚みのあるボーカルを際立てながらも、原曲の世界観も決して崩さないクオリティの高いカバーに仕上げた。アレンジはマットが率先して提案したそうで、スコットは「彼のおかげですばらしいアレンジに挑戦することができた」とインタビューで話している。暖炉を囲んで歌うミュージック・ビデオと合わせて聴く(観る)と、よりホリデー感が増していい。



▲Sweater Weather


 9月にリリースされた先行シングル「メイキング・クリスマス」は、ティム・バートンによるアニメーション映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』に起用されたナンバーで、発売日(9月末)を意識した、ハロウィンとクリスマスのシーンが交互に入れ替わるミュージック・ビデオも話題となった。ビデオのみならず、彼らのコーラスワークも静と動が交互に入り乱れるスリリングな展開をみせる。原曲が複雑なだけに、アレンジも難しかったと話すスコットだが、その挑戦が彼らのキャリアにおいて重要なものとなっただろう。過去2作でも、「メイキング・クリスマス」のような選曲やコーラス・アレンジは決して聴くことができなかった。これも、新メンバーであるマットの存在が大きく貢献しただろう。カースティン曰く、「ホラーな感じのアレンジにした」とのことで、イメージ通りの仕上がりになっている。



▲Making Christmas (from 'The Nightmare Before Christmas')


 アルバムのオープニングは、彼らの敬愛するスティービー・ワンダーやポール・ヤング、女性ボーカル・グループの中でも高い実力を誇るアン・ヴォーグなどもカバーした、「ホワット・クリスマス・ミーンズ・トゥ・ミー」。同2018年に自身初のクリスマス・アルバムをリリースした、ジョン・レジェンドの『レジェンダリー・クリスマス』にも収録されているが、ソウルフルという意味では劣るものの、シーズンの到来を予兆させる“ウキウキ感”は、本作に軍配があがる。彼らがいかに楽しんで歌入れをしたかが目に浮かぶような、冒頭を飾るに相応しい一曲。



▲What Christmas Means To Me


 こちらも、シンディ・ローパーやジェシカ・シンプソン、リアン・ライムスなど、トップ・シンガーたちがカバーしてきたブレンダ・リーの「ロッキン・アラウンドザ・クリスマス・ツリー」(1958年)は、原曲のヴィンテージ感を活かしたレトロ・ポップな仕上がりに。マットのバス・パートも強調された9曲目の「サンタクロースがやってくる」も同路線のポップな雰囲気が、来たるホリデー・シーズンを彩る。知らない人はいない(だろう)というほど、クリスマス・ソングの鉄板曲となったこの曲は、 1947年にカリフォルニアの作曲家=オークレー・ハルデマンが手掛けたもので、ビーチ・ボーイズからマライア・キャリーまで、幅広い層の歌手・グループがカバーしたことでも有名。ペンタトニックス・バージョンは、ヒューマンビートボックスで締めくくるラストが特にイイ。

 先日、新作をリリースしたばかりのマイケル・ブーブレが、大ヒット作『クリスマス』(2011年)のオープニングでカバーしたことも反響を呼んだ「イッツ・ビギニング・トゥ・ルック・ア・ロット・ライク・クリスマス」では、カースティンの突き抜けるようなボーカルがフューチャーされている。1951年にビング・クロスビーが歌ったことで世に広まった同曲は、前述のマイケル・ブーブレのほか、ハリー・コニック・Jr.やイタリアのテノール歌手=アンドレア・ボチェッリなど、男性のカバーが主となっていたが、女性ボーカルがメインを務めるのもキュートで聴き心地良いと思わせてくれると同時に、カースティンの類稀な魅力に触れることができる。



▲It's Beginning To Look A Lot Like Christmas


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マライアやホイットニーも納得! 注目女性シンガーと共演

 女性アーティストといえば、本作には、2人の女性シンガーがデュエット・パートナーとして参加している。1人目が、2015年にペンタトニックスがツアーのオープニング・アクトとして参加した、初代アメリカン・アイドルの女王=ケリー・クラークソン。ツアーで意気投合したことや、同テキサス出身、リアリティー番組出身という共通点もあり、子育てやレコーディングで忙しい中にも時間をつくってくれたという。曲は音楽プロデューサーのデイヴィッド・フォスターが、故ナタリー・コールをフューチャーしたクリスマス・ソング「グロウン・アップ・クリスマス・リスト」(1990年)で、ケリー自身も2003年にアメリカン・アイドルのクリスマスショーで披露したことがある。当時よりもさらにパワーと深みが増した彼女のボーカルと、それを引き立てるペンタとニックスのバッキング・ボーカルの相性があまりに良く、思わず息をのんでしまう。



▲Grown Up Christmas List feat. Kelly Clarkson


 もう1人は、2017年の【グラミー賞】で<最優秀カントリー・ソロ・パフォーマンス賞>を受賞し、2018年のエレクトロ・ポップ最大のヒットを記録した、ゼッド&グレイとコラボレーション「ザ・ミドル 」(最高5位)で更に人気と知名度を高めた女性カントリー・シンガー、マレン・モリス。曲は、故ホイットニー・ヒューストンと、ペンタトニックスと共に毎年ホリデー・シーズンを盛り上げてくれる女王マライア・キャリーが、ミュージカル映画『プリンス・オブ・エジプト』のためにレコーディングした、「ウェン・ユー・ビリーヴ」。スコットとマレン・モリスは幼少期、同じ合唱団に所属していたそうで、そのよしみからアルバムへの参加を依頼したところ、 快諾してくれたのだという。彼女の高低差を自在に操る一際高い歌唱力は今さら何もいうことはないが、ハイライトとなる転調後のゴスペル・コーラスには鳥肌がたった。オリジナルにも負けずとも劣らないクオリティの高さに、マライアや天国のホイットニーも納得せざるを得ないだろう。



▲When You Believe feat. Maren Morris


 『ザッツ・クリスマス・トゥー・ミー』収録の「シュガープラムの精の踊り」に続き、本作にはバレエ音楽『くるみ割り人形』から、「ワルツ・オブ・ザ・フラワーズ(花のワルツ)」が選曲されている。これは、メンバーのケヴィンの提案だそうで、彼がお気に入りとする一曲。聴きなじみがあるせいか、比較的歌いやすそうな印象を受けるが、「信じられないほど正確に歌うのが難しかった」とのことで、レコーディングは楽しくも、苦労した点が多かったそう。とはいえ、聴き手に全くそう感じさせないところが彼らの凄さ。「スウェター・ウェザー」のインタールードとして収録された、イングランドの民謡「グリーンスリーブス」もすばらしい。響くような歌声の中に、情感を静かに響かせる彼らのコーラスが、クリスマスらしさを強調させる。

 11曲目の「ホウェア・アー・ユー、クリスマス?」は、映画『グリンチ』の挿⼊歌として、マライア・キャリーとジェームス・オーナー・ウィル・ジェニングズが共作したナンバー。映画では『ゴシップガール』でもおなじみの女優=テイラー・モンセンが歌い、本来はマライア本人が歌う予定だった曲だが、契約上の問題によりカントリー・シンガーのフェイス・ヒルがリリースした、ということはあまり知られていない。マライアの「ホウェン・ユー・ビリーヴ」をフェバリット・ソングとして挙げたスコットのお気に入りだそうで、祈りを捧げるようなコーラスが讃美歌のようにも聴こえる、クリスマスらしいナンバー。対照的に、アルバムのトリを飾るクリスマスのど定番「ジングルベル」は、スタンダード・バージョンではなく、バーブラ・ストライサンドが1967年にリリースした、アップテンポのバージョンをカバーしている。オーケストラとのコラボレーションということで、何かひとつ面白いことをやりたいと、スコットがメンバーに聴かせたものが採用された、という彼ららしいエピソードにもニンマリ。



▲Jingle Bells


 本作について、「アレンジで新しいことを試みた意欲作」だと話すスコット。たしかに、クラシックからポップ、スタンダード、民謡までジャンルも幅広く、彼らとゆかりのあるゲストたちにも参加してもらい、大満足の仕上がりというのも納得の出来栄えだ。前2作を“上回る”と感じる方も多いかもしれない。それは、新メンバーの加入と、新しいことへの挑戦、そして彼らの成熟したハーモニーによって生み出されている。

 ペンタトニックスは、本作を引っ提げて今月から<クリスマス・イズ・ヒア!ツアー>開始する。全米各地を回ったあとは、クリスマス~年末にかけて、それぞれプライベートを充実させるようだが、年が明けたら新作の制作にさっそくとりかかるのではないだろうか。そして、「一番好きなツアーの場所」だと日本愛を公言する彼らが、再び来日してくれる日も近いと、期待していいだろう。まずは、ホリデー・シーズンを本作『クリスマス・イズ・ヒア!』で堪能しよう。



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