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向谷実 presents “East meets West 2018” ライブレポート
元カシオペアのキーボード奏者、向谷実をリーダーとするコンサート【向谷実 presents “East meets West 2018”】の東京公演が、11月16日に東京国際フォーラムホールCで開催された。向谷を中心に、ドン・グルーシン(key)、アーニー・ワッツ(sax)、ポール・ジャクソンJr.(g)、エイブラハム・ラボリエル Sr. (b)、ハーヴィー・メイソン(ds)という、長年にわたり世界の音楽シーンで大きな功績を残してきたアメリカ人レジェンド・プレイヤー5人、そこにエリック・ミヤシロ(tp)、本田雅人(sax)、二井田ひとみ(tp)、中川英二郎(tb)の、日本の音楽シーンが誇るトップ管楽器奏者4人が加わるという、10月3日にリリースされたアルバム『The Games』の参加メンバー全員が一堂に会した、まさに“日米ドリーム・チーム”による豪華なコンサートだ。
Text:熊谷美広 Photo:青木早霞(PROGRESS-M)
10人編成の“グループ”としてのパフォーマンス
ステージ後方のスクリーンに、スタジオのドアが開いてメンバーが1人ずつ入ってくる映像が流れ、最後に入ってきたハーヴィーがドラム・スティックを振り下ろした瞬間、オープニング曲の「Corona」が始まるというちょっとオシャレな演出から、コンサートはスタートした。「Corona」は、カシオペアの2001年のアルバム『MAIN GATE』に収録されていた向谷作曲によるスパニッシュ・タッチのナンバーだが、『The Games』ではアレンジが大胆に変更され、新しい感覚の楽曲に変身していた。リズム・チェンジが複雑で、ライブで演奏するにはかなり難度の高い曲だが、それをアルバム以上のグルーブとエネルギーできかせるのだから、この10人のミュージシャンたちはすごい。ハーヴィーがしなやかなビートを刻み、エイブラハムがうねるようなグルーヴを弾き出し、ポールが超絶カッティングを聴かせ、向谷とドンが絶妙なハーモニーを構築し、アーニーが渾身のソロを聴かせ、ホーン・セクションがタイトなアンサンブルを畳み掛けてくる。それぞれのメンバーが、最高のアンサンブルを聴かせようと、とても真摯に取り組んでいる。そう、このコンサートは単なるセッションではなく、10人編成の“グループ”としてのパフォーマンスになっているのだ。
この日は『The Games』に収録されていた楽曲が中心に演奏されたが、それぞれの楽曲がライブに合わせてアレンジも練り直され、10人の精鋭たちによってより生き生きとしたサウンドになっていく。続いて向谷のアコースティック・ピアノによるイントロから、彼が国籍、人種、宗教などを越え、ひとつになって何かをやり遂げることの素晴らしさを表現した、今回のプロジェクトの原点ともいうべき楽曲「Friendship」が躍動感豊かに演奏され、会場のボルテージもさらに高くなっていく。
ここで向谷によるメンバー紹介があり、ポール作曲の「2 for 10000」へと続いていく。ポールがステージ前に出て来て、アーニーと並びながらギターとテナー・サックスのアンサンブルを聴かせ、そのままポールのアグレッシヴなロング・ソロ、そしてポールとアーニーの掛け合いへとなだれ込んでいく。
ホーン4人が一旦ステージを降り、エイブラハム作曲の「Holidays」が始まった。エイブラハムのソロが大きくフィーチャーされ、彼もステージ前に出て来て、ステップを踏みながら、様々な奏法を駆使して迫力満点のソロを聴かせる。やはり彼もワン&オンリーのプレイヤーであり、エンターティナーだ。続いては、ハーヴィー作曲のバラード「Argentina」。ドンのアコースティック・ピアノがフィーチャーされ、リリカルな世界へと観客を引き込んでいく。彼らのエネルギッシュなプレイも素晴らしいが、こういったメロディをしっとりと歌い上げるバラードも魅力的だ。
そして再びホーンの4人が戻ってきて、アルバムのタイトル曲「The Games」へ。向谷とドンがオリンピックをイメージして共作したこの楽曲は、複雑で緻密な構成を持っており、高度なアンサンブルが要求される。ポールのファンキーなカッティングからスタートし、二井田のミュート・トランペットと本田のフルートがクラシカルなアンサンブルを聴かせ、向谷のオルガン、アーニーのテナー・サックス、中川のトロンボーン、ポールのアコースティック・ギター、そして本田と向谷の掛け合いと、メンバーのソロがタップリとフィーチャーされ、しかもグループ全体できちんとアンサンブルしてグルーブするという、ライブとは思えないほどの完成度の高い演奏を聴かせてくれた。
ここで向谷とドンの2人がステージに残り、デュオで「Once in a Blue Moon」が演奏された。カシオペアの1991年のアルバム『FULL COLORS』に収録されていた美しいバラードだ。向谷のアコースティック・ピアノとドンのエレクトリック・ピアノによるリリカルで情感溢れる対話は、彼らの絆の深さを表現しているかのように温かく、ハートフルなものだった。そしてハーヴィー、エイブラハム、ポールが加わり、カシオペアの1980年のアルバム『MAKE UP CITY』に収録されていた、向谷の作曲家としてのデビュー曲「Reflections of You」が演奏された。当時一世を風靡していたヤマハのシンセサイザー“DX-7”の音源をそのまま使い、ボサ・ノバ・タッチのリズムで、メロディやソロをじっくりと聴かせる演奏は、彼ならではのアプローチだといえるだろう。
そして再び10人がステージに揃󠄀い、アルバム未収録の、ドンの1981年のソロ・デビュー・アルバム『Don Grusin』に収録されていた「Number 8」が演奏された。ミディアム・テンポのファンキーな曲で、ドンと向谷のソロ、アーニーと本田の掛け合いソロなどがフィーチャーされ、まさに East meets Westバージョンともいうべき新鮮なサウンドで聴かせてくれた。さらに『The Games』収録曲の中では最もジャジーなアーニー作曲の「Letter from Home」では、アーニーの渾身のソロ、エリックのハイノート・トランペット・ソロが炸裂し、さらにハーヴィーのクリエイティブなドラム・ソロから、そこにアーニーが絡んでドラムとテナー・サックスのデュオになったりと、それぞれのソロイストとしての実力が遺憾なく発揮されていた。またこの曲では、ハーヴィーとエイブラハムがクラブ・ジャズ風のリズム・アプローチを聴かせるなど、彼らがただの“レジェンド”であるだけはなく、現代の音楽も消化して進化し続けているという姿勢もしっかりと伝わってきた。
そしてカシオペアの1997年の『Light and Shadows』に収録されていた、向谷のオリジナル「Riddle」では、ドンと向谷が掛け合いを聴かせ、ラストはドン作曲の「Cat Walk」。イントロのクラシカルな超絶技巧フレーズも、メンバーたちがバッチリと決める。そして10人がひとつになった演奏はほんとうに圧倒的だった。この難曲をここまで完成度高く演奏してしまう彼らのスキルの高さ、そして音楽性の豊かさは、ほんとうに驚異的だと思う。
アンコールでは、ホーン・セクションが奏でるメロディに乗って他のメンバーがステージに登場し、「The Games」がショート・バージョンで再び演奏され、コンサートは大盛り上がりで幕を閉じた。
全体的に、日米のトップ・プレイヤー10人がひとつになって奏でる音楽のすごさ、素晴らしさを体感することができたコンサートだったが、それ以上に印象的だったのは、10人がほんとうに楽しそうだったということ。このメンバーで一緒に演奏できることを心から楽しみ、観客たちとこの音楽を共有できることの喜びを全身で表現している。そこには国境も人種もキャリアも関係ない。そしてそれは向谷の人柄、リーダーシップ、そして音楽性の素晴らしさが生み出したものだといえるだろう。出演者も観客も、会場全体が笑顔に、そしてハッピーになれたコンサートだった。
向谷実が生み出した“East meets West”というプロジェクトの素晴らしさ、10人のメンバーたちのミュージシャンとしてのすごさ、そして何よりライブ演奏の楽しさを堪能させてくれた、とても内容の濃いコンサートだった。最後に向谷は“See you next year!”とファンに挨拶した。その言葉からは、“East meets West”は来年も、そしてその先も続けていくという彼の強い意志が感じられた。向谷実、そして“East meets West”は、これからも進化を続く。
◎番組情報
NHK BS4K『向谷 実Presents East meets West2018』
初回放送:2018年12月23日(日)20:30~21:59
再放送:2018年12月30日(日)10:45~12:14
THE GAMES-East Meets West 2018-
2018/10/03 RELEASE
VICJ-61778 ¥ 3,080(税込)
Disc01
- 01.フレンドシップ
- 02.コロナ
- 03.キャットウォーク
- 04.アルゼンチン
- 05.トゥー・フォー・テンサウザンド
- 06.ホリデイズ
- 07.ワンス・イン・ア・ブルー・ムーン
- 08.レター・フロム・ホーム
- 09.ザ・ゲームス
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