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中村雅俊『だろう!!』インタビュー
今の年齢になっても「まだまだ」と言う自分がいる
3年連続3度目のインタビュー敢行! 新作『だろう!!』についてはもちろん、初めて祖父役を務めてトレンドとなった北川悦吏子脚本朝ドラ『半分、青い。』や、いくつになっても現役で在り続ける要因~故郷である女川について等々話を伺ってきました。45周年直前、今の年齢になっても「まだまだ」と言う自分がいるというスターの生き様、ぜひご覧下さい。
NHK朝ドラ『半分、青い。』のおじいちゃん役「思いがけないような経験」
--3年連続3度目のインタビューになるのですが、今の中村雅俊が歌うからこそ説得力のあるメッセージソングを毎年リリースしながら全国ツアーもと、ここ数年の動きはひとつのプロジェクト感がありますよね。
中村雅俊:同じスタッフと動いているのもあって「次、どうしようか」という部分がしっかりしている。俺から「どうしようか?」となる前に作家陣から「こういうのがいいんじゃない?」と提案してきたりね。--では、若干、プロデュースされている感もある?
中村雅俊:あります、あります。現に去年あたりからレコーディングディレクターは、前作や今作『だろう!!』の作曲家もしてくれた都志見隆さんがやっていますからね。都志見さんは何でも書けちゃうというか、どのジャンルでも及第点以上のモノを仕上げてくる。それも才能のひとつだし、やっぱり良い曲が多くて、だからついつい都志見さんにお願いしちゃうというか。それは作詞家の松井五郎さんにも言えることだし、松井さんと都志見さんは仲も良いので、そういう意味ではひとつのプロジェクトがちゃんと出来ているし、それが特に今回は上手くいってる。カップリング曲「千年樹」とかも「こういう曲を雅俊さんは歌ったほうが良いんじゃないですか」と向こうから提案が出てくるような関係になれているので、それはしあわせですよね。--そんな新作『だろう!!』もリリースされる今年、2018年は雅俊さんにとってチャレンジングな年だったと思うのですが、自身ではどう思われますか?
中村雅俊:ちょっと思いがけないような経験をさせてもらいましたね。NHKの朝ドラ『半分、青い。』のおじいちゃん役もそうだし、先月まで鴻上尚史さんの舞台【ローリング・ソング】をやっていたんですけど、それも「雅俊さんには、結婚詐欺師役をお願いしたいんです」「え? えぇ?、俺が結婚詐欺師役?!」みたいなとまどいはありました(笑)。でも実際にやってみたらすごく面白い役だったし、自分の広がりとか可能性とかで考えると、あんまり自分を決め付けないほうがいいなと。なので、2018年はそういった新たなお題を提供されて、それに応えていく作業の中で「あ、こんな世界もあったのか」という感じでね、とても良い経験をさせてもらっています。--『半分、青い。』のおじいちゃん役も新たな挑戦でしたよね。
中村雅俊:最初は「おじいちゃん役? えぇ?」と思いましたけどね。まだまだ若いという気は持っているんで「まだおじいちゃん役をやる年齢ではない」みたいな。--視聴者的にも、お父さん役のイメージはありますが、雅俊さんがおじいちゃん役をやるというのは驚きだったと思います。
中村雅俊:息子役を滝藤賢一くんがやったんだけど、それに対しても「そんなに年代的に離れてないだろ」と思って。でも実際には25,6歳下で十分離れていたんだよね(笑)。--雅俊さんは実年齢に対して明らかに若いですもんね。
中村雅俊:まぁでもこの顔と雰囲気で勝負していくしかないんでね、若く見えるならそれに適した役が来るんだろうし。そういう意味では、NHKのプロデューサーや脚本の北川悦吏子さんが俺におじいちゃん役をやらせたいというのはね、そこにいろいろな意図があったんでしょうね。やってみたら俺なりのおじいちゃん像みたいなモノが作れたし、世の中的にも受け入れられたので、やって良かったなと思っています。--楽器屋さんで元々働いていたりとか、今でもギターで弾き語りをやっていたりとか、実際の雅俊さんのイメージとも通ずる部分があって、新しいおじいちゃん像が生まれた印象も受けました。
中村雅俊:そうですね! 北川さんがおじいちゃん役に中村雅俊を持ってきた訳だけど、そこで「あてがき(役者の個性ありきの脚本)です」と言ってくれたので、北川さんの中には従来のおじいちゃん役のイメージじゃなくて、ギター弾いて歌ったりとか、見た目もハイカラなイメージが最初からあったんでしょうね。それを俺のあてがきで描いてくれたのは嬉しかったし、結果も伴ってきたんで、有り難い話だったなと思っていますね。- 今の年齢になっても「まだまだ」と言う自分がいるんだよね
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今の年齢になっても「まだまだ」と言う自分がいるんだよね
--北川悦吏子さんも多くのヒット作を生み出されている方ですが、今回『半分、青い。』でご一緒するまではどんなイメージを持たれていましたか?
中村雅俊:「フジテレビ系の恋愛ドラマをたくさん手がけられた」というイメージはやっぱり強かったんですけど、以前、嵐のコンサートの打ち上げでお会いして、ちょっとお話をする機会があって。実際にお会いするととても可愛らしい方なんですよ。俺が仕事をしてきた脚本家は男性が多くて、女性の方とお仕事をがっつりする機会はこれまであまりなかったんですけど、台本がどんどん出来てくる度に「あぁ、この脚本家は凄いなぁ」と思いながら読ませて頂いて。半年間の流れをちゃんと作って、きっと大変なときもあっただろうけど、それだけの力があって、脚本も魅力的だったんで、あれだけ評判になったんでしょうね。ストーリーとセリフが本当に素敵だったし、それゆえにヒロインの永野芽郁ちゃんはもちろん、豊川悦司くんや佐藤健くん、みんながそれぞれに期待以上の演技をできたんじゃないのかな。なので、素晴らしい脚本家だと改めて思いました。--なるほど。
中村雅俊:まさか俺も劇中で歌を歌って、そんなにリアクションがあるとは思わなかったんで。五平餅をつくってるおじいちゃん、最初はその程度だと思っていたんだけど、亡くなった後も皆さんに残念がられたりしていたので、影響力も凄いなと思いましたね。--雅俊さんは来年でデビュー45周年ですが、このタイミングでまた新しく刺激的な仕事と出逢えるのは面白いですよね。
中村雅俊:本当だよね。運が良いとか悪いとかで語る人がいるけど、やっぱりこういう出逢いね。人との出逢いだけじゃなくて、作品との出逢いでも人生の軌跡は出来ていくんだなと思って。やっぱり役者は作品との出逢いで人生が変わっていくんだなと思いますよ。--その文脈で言うと、雅俊さんはその時代その時代、その年代その年代の代表作が生まれるじゃないですか。で、今回初めてのおじいちゃん役を演じたら、それがまた今の時代のトレンドになった。そういう意味では、雅俊さんの人生も運命めいてますよね。
中村雅俊:そうですね。これで俺がまたおじいちゃん役をやるなんてこともあるかもしれないし。樹木希林さんがね、30代ぐらいからおばあちゃん役をやっていたように、俺も「型」で役者・中村雅俊を見せられたらいいなと思いますけどね。「ただ仕事をやっている」というよりは、そういう風にすごく良い出逢いをしながらやっていけたらいいなと思います。--今回の新作『だろう!!』はもちろん、ここ数年の雅俊さんの新曲は「まだまだこれから!」感を前面に打ち出しているじゃないですか。そういう歌を歌っている今、実際に新しい挑戦と巡り会い、新たな未来を切り拓いている状況になっている訳ですから、自ずと説得力が増していきますよね。
中村雅俊:なるほどね。たしかに、俺の年齢ぐらいになると「夢とかもう持てない年代」と言う人もいるかもしれないけど、実際に今の年齢になっても「まだまだ」と言う自分がいるんだよね。たぶん、俺の同学年の人でも「実はまだまだやりたいことがあるんだよ。夢持ってるんだよ」って思ってる人もいるんだよ。俺はたまたま目立つ職業だから、自分がステージで歌ったり、ドラマに出たりすることによって、そういう人たちに刺激を与えたりね、「中村みたいな生き方って良いよな」と言ってくれる人がいたりね、そういう存在であり続けられたらいいなと思っていますね。もちろん自分の為にやっていることではあるんだけど、でもこの職業は人に刺激を与える職業なんで、人にいろいろ感じさせる仕事をしていきたいなと思います。--今の雅俊さんは、その想いが生き様にも音楽にも表れていると思います。
中村雅俊:ここ数年は毎年秋口にシングルを出して、それを聴きながら俺のコンサートで一緒に腕を振り上げてくれるみんながいて、それはすごく素敵なことだなと思うよね。歌はね、本当に直接なんでね、すごくやり甲斐があるというか、今回の「だろう!!」も9月からコンサートで歌っているんですけど、まだ発売前なのにすごくレスポンスが良いんですよ。ファンレターに「新曲良い」と書いてくれる人がいつもより多いんで、ちゃんと刺激を与えられているんだなと思いますよね。--代表曲や名曲を多く持つ人は、どうしてもそこを期待されてしまうモノですけど、そういうキャリアを約45年も積んできたアーティストが「最新曲が良い」と言われるのは、凄いことだと思います。
中村雅俊:昨年出した「どこへ時が流れても」の歌詞じゃないけど、やっぱり「今を生きる」っていうのが大事だと思う。キャリアを積んだ歌手は過去の財産があって今があるから、過去のヒット曲から離れることはある意味出来ないんだけれども、でも「今のおまえはどうなんだ?」っていうね。その問い掛けに対していつも生きているんであって、だから今を大事にしたいんですよね。今を頑張っていたい。女川で過ごした18年間はその後の人生にも大きく影響している
--その「今を頑張っていたい」という活力の源にもなっていると思うのですが、今秋【おながわ秋刀魚収獲祭2018】に出演されていましたよね。自分も蒲鉾本舗高政の四代目と知り合って、取材で何度か伺わせて頂いているのですが、雅俊さんにとって故郷である女川はどんな存在になっているんでしょう?
中村雅俊:女川という町に生まれて、女川に育てられた部分もあるんでね、当然ながら大切な場所ですよ。高政の四代目、彼は面白い奴だよね。アイドルが好きで女川にももクロとか呼んだり、今年の【おながわ秋刀魚収獲祭2018】もアイドルが来ていたけど、彼は親父と全く性格が違うんだよね。親父は俺と同級生なんだけど、あの親父から生まれた子とは思えないぐらい、俺の田舎の言葉で言うと「おだづもっこ」って言うかね。ひょうきんなところもあるし、でもマジメな話もちゃんと語るしね、女川という町らしい奴だと思う。彼の親父とか俺の世代は結構元気で、女川が被災したときも俺ら世代こそが頑張って「とにかく女川を引っ張っていくぞぉー!」みたいな意気込みだったし、今も元気なんだよね。で、女川は被災する前は本当にやんちゃな町だったんだよ。港町なんで、気の荒い連中がいっぱいいてね、俺なんか高校時代に女の子と海岸通りを歩いているだけで怒鳴られていたからね。--たしかに荒いですね(笑)。
中村雅俊:でもそういう町だから子供の頃から自由奔放。海に飛び込んだり、釣りしたり、野山ですぎっぱ(杉の葉)を拾って燃料の代わりにしたり、そういう自然の地で育てられたんだよね。で、みな親身になってくれる土地柄だしね。まぁちょっとケンカの多い町ではあったんだけど、だからこそ俺は「あの町に育てられた」感は強いですね。高校は石巻だったんだけど、「女川から来た?」ってだけでみんなから……--警戒されるんですか?
中村雅俊:とにかくケンカが多い町で有名だったから(笑)。でもそれだけみんなが生き生きしていた。あの元気すぎる環境で育つことが出来て良かったなと思う。女川で過ごした18年間はその後の人生にも大きく影響しているなと思いますね。--今の雅俊さんの歌が逆に影響を与える可能性も大きいですよね。特に今作『だろう!!』はあらゆる人の心を燃やせる楽曲じゃないですか。
中村雅俊:俺みたいな年代の奴が「まだまだ!」とか歌うと、たしかに「あいつ、頑張ってるなぁ。俺らも頑張らなきゃな」みたいな気持ちになるかもね。--それは『半分、青い。』で雅俊さんを知ったような若い世代に対しても言えるかと。雅俊さんが実際に歌手であることを知って「聴いてみよう」となる、ストーリーが繋がっていく可能性もありますよね。
中村雅俊:そうだよね。繋がっていく可能性はあるよね。そうなってほしいね。まぁ若い連中にしてみれば「人の良さそうなおじさん」かもしれないけど、ちょっと興味を持って、俺の歴史とか知ったら「あ、頑張ってんじゃん。この人、40年以上も頑張ってんじゃん」ってなるかもしれない(笑)。若い連中からすると、大前提として俺らの世代の人間は論外だからね。そりゃそうだよ。俺らも若い頃はおじいちゃんとかおばあちゃんに興味なかったもん。でも『半分、青い。』のおかげでちょっと興味を持ってもらえるステップはあったからね。2日ぐらい前にもご近所さんから「仙吉おじいちゃん!」と声かけられましたけど(笑)、そういう『半分、青い。』とかで興味を持ってくれた人たちにも今回の新曲は聴いてもらいたいな。--そんな状況下で45周年を迎える2019年。明治座【中村雅俊アニバーサリー公演】も決定していますが、どんな公演にしたいなと思っていますか?
中村雅俊:意外と今まで周年パーティーみたいなことをやってきていないんですけど、自分自身に対しても「45年、頑張ってきたぞ」と言いたいし、世の中に対してもちょっとだけ自慢をしたいね。そういう気分ですかね。自分のキャリアには「頑張ってきたな」と思うし、去年「コンサート1500回公演」を迎えたし、連続ドラマの主演も34本やってきたし、自慢してもいいかなって(笑)。その上でちゃんと良い作品を提供したいなと思っています。--45周年以降も現役バリバリで活動していきたい?
中村雅俊:そうですね。まだまだ頑張っている先輩たちもいるし、役者の後輩たちもみんな頑張ってやっているからね。ま、とにかく頑張るしかないって感じだね。まだまだ楽しみながら頑張りたいと思います。関連商品