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Special

佐山雅弘×三舩優子×奥田弦 ジャズ・トライアングル〜 The 3 Pianistsインタビュー



インタビュー


 PONTA BOXのオリジナルメンバーであり、演劇、落語など異ジャンルとのコラボ他、ミュージカルの音楽監督、オーケストラとの共演など作編曲家としても幅広く活躍するジャズピアニスト、佐山雅弘。桐朋学園大学を首席で卒業し、古典から現代にまで幅広いレパートリーをもつ三舩優子。そして10歳で史上最年少ジャズピアニストとしてポニーキャニオンからCDデビュー、アイリスオーヤマ「進化した光」編CM曲や、テレビ高知「イブニングKOCHI」テーマ曲等多数楽曲提供、更にテレビ番組レギュラー出演やオーケストラ共演など幅広く活躍中の17歳ピアニスト・作編曲家奥田弦。そんな3人が、11月16日に開催される【ジャズ・トライアングル~The 3 pianists】で、初共演を果たす。どんなプログラムが繰り広げられるのか、それぞれジャンルの異なる3人のピアニストに話を聞いた。


ジャズミュージシャンが集まったアンサンブルとも、また違う面白さがあるはず

−−11月16日に【かわさきジャズ】の一環で行われる、【佐山雅弘スペシャル・ピアノ・プロジェクト ジャズ・トライアングル~The 3 Pianists】ですが、企画の発端から教えていただけますか。

佐山雅弘:僕は、【かわさきジャズ】がスタートした時から、このフェスティバルには関わっていて、ミューザ川崎シンフォニーホールのアドバイザーも務めているので、このフェスに相応しい企画は何かなって以前から考えていました。ミューザらしいと言えばクラシックだし、でもこのフェスはジャズだし…。それで、この顔ぶれで3台ピアノを使ったステージを思いついたんです。

−−佐山さん、三舩さん、奥田さんの組み合わせでの3台ピアノ公演は、今回が初めてですか。

佐山:初めてです。

奥田弦:僕は3台ピアノのコンサート自体、今回が初めてです。

−−もともと、皆さん面識はあったのですか。

佐山:そうですね。三舩さんとは家が近所だったこともあって、共演させていただいたことがあります。弦は、「噂の天才少年」として小学校の時から知っていました。テレビで見たのが初めてだったかな?すごく上手な子供がいて、しかも僕のことを好きでいてくれるって聞いたので会いに行ったんです。

奥田:佐山さんのコンサートは何度か行かせていただいていて、すごいなあと思っていました。すごくパワフルで、フレーズが自由なのにまとまっていて。「どうやったら、こんな風に弾けるんだろう」って思っていました。

三舩優子:私も、奥田君のことはテレビに出られたくらいの頃から見ていたので、まさかご一緒する日がくるとは夢にも思っていなかったです。

佐山:なので、すごく良い組み合わせなんですよ。ジュリアード音楽院出身の三舩さんと、弦と、根っからのジャズ屋の僕。全然タイプが違うんですよね。ジャズミュージシャンが集まったアンサンブルとも、また違う面白さがあると思います。三舩さんはクラシックのピアニストですが、以前ガーシュウィンの作品を集めたデュオを一緒にやったことがあって、その時の経験からすると譜面通りに弾かなくても何とかしてくれそうなので、うまくいくと思います。楽しみですね。

−−ソロや連弾とは違う、ピアノ3台だからこその可能性とは何でしょうか。

三舩:ピアノは元々、一度に鳴らすことができる音の数が多いので、3台で演奏すると音量だけでなく、音がすごく厚くなります。先ほど、奥田君がおっしゃった通り、佐山さんは自由なのにまとまっているという表現が本当にぴったりで。私はずっとクラシック音楽を演奏してきたので、佐山さんの限りない自由さは、とにかく憧れです。なので、これだけジャンルの異なる3人が演奏すると、音色や全体のまとまりが違う形になるのではと思っています。

佐山:エレクトーンって、一人でピアノとベースとリズムを演奏できますよね。でも、一人でやってもつまらないんです。ピアノを3台で演奏すると、グルーヴが一緒になれば一緒になるほど、ズレるんです。そのズレが面白くって。エンジンに例えれば良いのかな…。演奏していると、3台のエンジンが一緒に回るときと、回らないときがあって、それが面白いんですよね。

−−―曲目を見てみると、奥田さんアレンジの曲が多いですね

佐山:わりと、無茶ぶりしちゃいましたね(笑)

−−どんなイメージでアレンジされたのですか。

奥田:それぞれの見せ場も作りながら、リズムを刻む人とベースラインを担当する人と分けてアレンジした曲もありますし、それぞれの役割をごちゃまぜにした曲もあります。3台ピアノは初めて演奏するので、色々挑戦しながらアレンジしました。佐山さんと三舩さんを、なんとなくイメージしながら書きましたが、リハーサルでどんどん変わっていくと思います。

−−「シング・シング・シング」も演奏されますね。これは、リズムがとても印象的なナンバーですが、どんなアレンジになったのでしょうか。

奥田:それぞれ、入れ替わり立ち替わりで演奏するようなイメージで書きました。



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ジャズは、振り返ったその足跡がスタイルになる

−−ガーシュウィンを特集したコーナーもあります。皆さんにとって、ガーシュウィンはとても馴染みのある作曲家だと思いますが、どんなところに魅力があると思われますか。

三舩:ガーシュウィンはアメリカを象徴する作曲家の一人ですが、ロシア系ユダヤ人ということもあって、クラシック、ラグタイム、ジャズなど様々な音楽の要素を掛け合わせた他にはないタイプの作曲家です。演奏家にとっても、ジャズミュージシャンもクラシックの演奏家も演奏したいと思うようなボーダレスな作曲家で、それぞれ自分のやり方で表現することができるというのが魅力ですね。ご本人の演奏を聴いてみると、とても淡々としていて、ひたすら真っ直ぐ弾いておられるなという印象を受けました。ということは、リズムやビートをとても大事にされていたということです。その点ではクラシック音楽との違いを感じますが、楽譜に全ての音符が書かれているので、クラシックの演奏家にとっても、とても演奏しやすい作曲家だと思います。

奥田:僕も、今まで様々なオーケストラの方と「ラプソディー・イン・ブルー」を演奏しましたが、ジャズとクラシックの間というか、両方をうまく調合させた作曲家だなという印象を持っています。

−−今回、ガーシュウィンの曲をそれぞれ1曲ずつ演奏されます。三舩さんと奥田さんは「サマータイム」の連弾をされますね。

三舩:奥田君にアドリブも含めてアレンジを書いていただいたんですが、すごくアップテンポな作品に仕上がったので驚いています。こんな「サマータイム」は初めてなので、心拍数がついていけないかもしれません(笑)。

奥田:オスカー・ピーターソン演奏の「サマータイム」が好きで。そんな風に弾いてみたいなと思って、アレンジしました。

−−佐山さんと三舩さんは、「ピアノ協奏曲」ですね。

三舩:これは、以前共演させていただいたことがあって。その時は1楽章から3楽章まで全て演奏しましたが、今回は2楽章を演奏します。

佐山:5~6年前だったかな?よくやったよね(笑)。

−−―佐山さんと奥田さんは、「Our love is here to stay」ですね。

佐山:これは、アレンジなしでやります。

奥田:そうですね、その場で。

三舩:羨ましい(笑)

佐山:ジャズの世界では、その時に一番説得力を持った人がリーダーになります。なので、僕が先に弾き始めたら、弦が付いてくるだろうし、どっちが出るか分からない。「見合った、見合った!はっけよーい!」っていう感じですね(笑)。なので相手のことを聞く、でも言いたいことはちゃんと言う、言い出したら途中でやめないということが大切です。

奥田:ジャズのアドリブは、フレーズを通じて相手と話すことと同じだと思っています。ずっと同じことを喋っていてもつまらないし、だからって突拍子もないことを喋りだしても意味が分からない。なので、しっかり話題を盛り上げつつ、どういう風にまとまらせていくことがとても重要で、そういうのが佐山さんはとてもお上手だなと感じています。

−−後半には、それぞれゲストミュージシャンを迎えたコーナーもありますね。佐山さんは、ヴァイオリニストの石田泰尚さんと共演されます。石田さんの演奏の魅力は、なんでしょうか。

佐山:いやあ、分からないんですよね。彼はあまり喋らないし(笑)。でも、なんか良いんですよね。

三舩:見た目のイメージと、演奏が違う方ですよね。

佐山:クラシックからポップスまで、けっこう色んな人の演奏を聴いてきたけど、ああいう音色は聞いたことがないです。音の切り方とかね。予想がつかないんだけど、なんか独特の世界があるんです。ちょっと怖い穴のようというか…。なんか、その先は見ちゃいけないようなというか…。

−−そんな予想がつかない感じが、ジャズに合うのでしょうか。

佐山:そうですね。でも、「僕の書く譜面なんて、全然苦じゃないでしょ」って言ったら、「アドリブパートは、ずいぶん苦です」って言ってました(笑)。弾きなれないフレーズなんですかね。でも、オーケストラで演奏している人って、書いた音符は全部弾いてくれますから。あれは、すごいですよね。だから、ますます図に乗って、いっぱい書いちゃう。

−−当日が楽しみです。三舩さんは、サックスプレイヤーの平野公崇さんとバッハを演奏されます。

三舩:平野さんとは、10年近く前から毎年チャリティコンサートなどでご一緒しています。彼は、作曲や編曲もするので、今回演奏するバッハも編曲をお願いしています。以前も演奏したことがありますが、とても衝撃的なバッハになっていると思います。平野さんは、すごいテクニックの持ち主で、あまりにも早いので吹いているとは思えないくらいなんです。ピアノでもついていけないくらい早くって。プライベートでは、とてもチャーミングな方なんですが、吹き始めると人が変わっちゃう。魔力というか、人を惹き付ける力がすごく強い方だなと思います。あと、バッハ以外に塩谷哲さんの作品も演奏する予定です。とっても綺麗な曲で、平野さんに選んでいただきました。

−−対照的な2作になりそうですね。奥田さんはタップダンサーのHIDEBOHさんと共演されますが、2014年の舞台以来の共演でしょうか。

奥田:そうですね。2014年に『ル・リアン』という舞台のテーマ曲を作曲させていただいたんですが、その時に一度共演させていただきました。「また、何かできたら良いね」って話していたので、今回叶って嬉しいです。

佐山:その時も、ピアノとタップダンスだけで演奏したの?

奥田:いえ、その時はベースとドラムもいました。2人で演奏するのは、今回が初めてなのでどうなるか、分かりませんが、2人だけだからこそできるシンプルな掛け合いをしてみたり、2人でどんどん盛り上げていけるようなステージにしたいなと思っています。

−−HIDEBOHさんのタップの魅力は、どんなところでしょうか。

奥田:早くて正確というのはもちろんなんですが、ストーリー性のあるタップだなと思います。タップの音にはメロディがないのに、音楽の盛り上がりや静けさとかが、タップだけで完璧に表現されていて。音楽なしで、タップだけで聴いても楽しませることができる方だと思います。

−−3台ピアノあり、連弾あり、ゲストもありととても豪華なステージになりそうですね。

佐山:うまく構成できているでしょ?(笑)



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ジャズは上手くいってもいかなくても面白い

−−皆さん、それぞれ長年ピアノを演奏されていますが、皆さんにとってピアノとはどんな存在ですか。

奥田:僕は3歳の頃から、ピアノがずっと側にあったので、逆にピアノのない世界が考えられません。皆さん、息をするときに「今、空気を吸っているな」って考えたりしないと思うんですが、僕にとってピアノを弾くことというのは、それと同じなんです。空気を吸うように、ピアノを弾いているというか。

−−他の楽器を演奏してみたいなと思ったことはありますか。

奥田:ありますし、実際に練習してみたんですが、やっぱりピアノが一番ですね。

−−どんな楽器を?

奥田:以前、サックスを吹いてみたことがあるんですが、やりすぎて肺に穴を開けちゃって。

一同:え!(笑)

奥田:「テイク・ファイブ」を吹けるようになったんですが、ちゃんと体の基礎を作る前に吹きまくっていたからかもしれません。突然体が痛くなって、何とか家に帰ったんですが、そのあと病院に行ったら「肺に穴が開いている」と言われて、驚きました。

−−体も、ピアノ仕様になっていて他の楽器を受け付けないのかもしれませんね。

奥田:そうかもしれません(笑)。

三舩:私は、叔父がギタリストなのでギターを勧められたこともあるのですが、3歳くらいに初めてピアノの音色に惹かれて以来、ピアノ以外を演奏したいと思ったことがありません。近くに楽器が置いてあっても、触りたいと思わないというか。長年弾いていると、ピアノで苦しむこともありました。なので、ピアノで苦しみながら、ピアノに救われるという循環をずっと続けている気がします。きっと、私にとって一番落ち着く場所なのだと思います。

−−今後の目標などはありますか。

三舩:このステージが、私にとってとても大きな挑戦です。お2人のように、パッて振られて弾いたりできませんから(笑)。3人のうちの1人に入れていただけて、とても光栄に思っています。これからも色んな挑戦をしつつ、自分とピアノという関係をより太くしていきたいと思っています。

奥田:僕はジャズやクラシックなどに捕われず、自分だけのジャンルを作れるピアニストになりたいと思っています。

−−佐山さんにとってのピアノとは、どんな存在ですか。

佐山:僕は、ピアノじゃなくても良かったんですよ。好きになった女の子と一緒にいたいばっかりに、ピアノ教室に通っていたので(笑)。小学校1年生の時に弾き始めて、4年生の時にピアノを買ってもらったんですが、もう練習が嫌で嫌で。小学校5~6年生になった頃に、加山雄三さんや沢田研二さんが好きになって、ギターとかベースを弾きたかった。ピアノで音楽の練習をしているはずなのに、自分の好きな音楽とピアノとが一致していなくて。で、ある日ギターで弾けないフレーズをピアノで弾いたら、できたわけ。ギターでは弾けないけどピアノだったら弾けるし、ベースは弾けないけどピアノで左手で弾ける。それからジャズを知ったら、たいていのことはピアノがあればできるなって思うようになって。良い音ですねって言ってもらえるのが不思議で仕方ないんですけど、ジャズ喫茶の環境って劣悪ですから、最初はとにかく大きい音を出すことしか考えていませんでした。森山威男みたいなドラムと一緒にやっても、自分の音が聞こえるようにするには、どうやったらいいかっていうことばかり考えていて。自分の音を弾いているんだなって思ったのは、40歳過ぎてからでしたね。

−−40歳を過ぎたころに、「これが自分の音だな」って気づいたということでしょうか。

佐山:それはまだ、考えないようにしています。自分の声に惚れた歌手みたいで、いやらしいじゃないですか。なので、あくまで演奏中に考えているのは音楽の構築と演出です。シンセサイザーも弾いたことがありますが、ストリングスや鳥の音などをシンセサイザーで作るよりは、ストリングスや鳥の音をピアノで作る方が僕にとっては出しやすい。だから、ずっとピアノを弾き続けています。

−−最後に、今回のステージの見どころを教えてください。

奥田:今回、何曲かアレンジさせていただきましたが、それぞれジャンルが違うピアニストが集まっているので、どんな風にステージで変化していくのか、自分でも分かりません。リハーサルと本番でも、きっと違うでしょうし。なので、3人の音がどんな風に融合して、どんな音になっていくのか。すごく楽しみです。

三舩:名曲揃いなので、どれも見どころなんですが、お客様が高揚してくださるようなステージになると思います。

佐山:ジャズファンにとっては、上手くいくステージだけじゃなくて、上手くいかないのも面白いんですよ。下手っぴな演奏って、すごく面白い。ジャズはアドリブですから、そこからどうやって立ち直るか、誰がどう出るかって見ていると面白いんですよね。あとは、サックスの平野さんは初めてだから楽しみだし、HIDEBOHのタップは昔から大好きです。でも、一番楽しみなのは弦君がどのくらい弾けてくれるかですね。

奥田:(笑)。

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