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ナイル・ロジャース&シック 『イッツ・アバウト・タイム』インタビュー~ガガ/エルトンら豪華ゲストが参加した26年ぶりの新作を語る

インタビュー


 1970年代に音楽活動をスタートしてから、常にダンス・ミュージックの進化と発展に寄与し、世代・ジャンルを超えてリスぺクトされるナイル・ロジャース。デヴィッド・ボウイの『レッツ・ダンス』、マドンナの『ライク・ア・ヴァージン』やダフト・パンクの『ランダム・アクセス・メモリーズ』などの名盤も手掛け、ディスコ・ミュージック界の帝王とも称される彼が、ナイル・ロジャース&シック名義で26年ぶりとなるニュー・アルバム『イッツ・アバウト・タイム』を2018年10月5日に日本リリースした(海外は9月28日)。

 英ロンドンのアビー・ロード・スタジオで制作された今作は、ダンサブルでスタイリッシュな往年のシック・サウンドが、豪華ゲストたちの個性によって鮮やかに彩られた、バラエティ豊かな作品に。気になる参加アーティストは、エルトン・ジョン、レディー・ガガら名だたる大物から、ドクター・ドレーも惚れ込むマルチ・タレント、アンダーソン・パークや気鋭若手プロデューサーのムラ・マサ、人気急上昇中の女性ラッパー、ステフロン・ドンら最強の布陣となっている。

 アルバムがレコーディングされたアビー・ロード・スタジオで行われた今回のインタビューでは、ナイルが今作の制作秘話や長年の音楽パートナーであったバーナード・エドワーズが亡くなった地でもある日本への想いを語ってくれた。

TOP Photo: Jill Furmanovsky

多くの友人たちを失ってきたことを乗り越える時期にきた

−−まずは新作アルバムの完成、そしてリリースおめでとうございます!オリジナル・アルバムとしては1992年の『シックイズム』以来、26年ぶりですよね?今の心境は?

ナイル・ロジャース:ありがとう。ニュー・アルバムがリリースされることは僕も大変嬉しく思っているよ。26年ぶりのリリースで、これまでで最も自分のやりたい放題に作った作品だけれども、僕が伝えたかった重要なストーリーとなっているんだ。

−−ファンはずーーーっと待っていたわけですが、これほどまでに時間をかけた理由は何でしょうか? たしか2015年に当事所属していたワーナー・ミュージックから新曲「I’ll Be There」をリリースして、アルバムもまもなくリリースと言われていましたが…。

ナイル:どういうことだったかと言うと、「I’ll Be There」をリリースした頃は、その後にリリースされるアルバムはサンキュー・アルバムになる予定だった。自分が今の自分でいられるように、これまでの自分を援助してくれた人たちへの感謝のアルバムだ。次にリリース予定だった強力なシングルは、デヴィッド・ボウイのことを歌った曲のはずだった。デヴィッド・ボウイは僕が初めてバーナード無しでコラボしたアーティストで、ナイル・ロジャース&シックのストーリーを継続した内容だった。しかし、彼が亡くなり、そのシングルをリリースすることは、気持ちの上で間違っていると感じたし、彼の死を利用しているように思われるだろうと考えた。『★』(ブラックスター)は作品として成功した。それは大勢の人がボウイに尊敬の念を表したからだ。僕はそのシングルをリリースすることは間違っていると感じたんだ。それで、そのアイディアをキャンセルした。

 プリンスへのトリビュートも考えていた。というのも、彼と僕は非常に興味深い友達となり、彼が僕にジャズのアルバムを作ったらどうかと提案していたからだ。それで僕はジャズ風の曲を作って、サビは“Prince said it”という歌詞になっていた。しかし、その後、二人とも亡くなってしまい、当時自分が考えていたアルバムは違うと感じた。全く異なるアルバムを考え直す必要があった。今作には「I’ll Be There」をリリースした時に関係する曲は1曲も収録されていないよ。



▲ 「I'll Be There」(UK Version)


−−今回のアルバムが発表され、ジャケット・アートワークが公開された時、シックの1stアルバム『シック』のオマージュだったので、ファンには嬉しい驚きでした。これは原点回帰という意図でしょうか?

ナイル:シックの始まりを再起動(リブート)させたようなものにしようと決めたその理由は、当時感じていた多くのことを、今また同じように感じているからだ。世界は自分たちが予想していたよりも多くの問題を抱えていて、2018年には人種差別や同性愛嫌悪といったものはもうなくなっていると思っていた。2000年には異なる人種や宗教も皆が受け入れていると思っていた。全ては変わっているはずだと思っていたんだ。しかし、今は地域紛争や対立も増えて、財政問題が目立っていて、株式市場が良好でも、人々の景気がいいが、個人の景気がいいかというと、そうは感じない。雷は同じ場所に二度落ちるのかもしれない(訳注:「雷は同じ場所に二度と落ちない」という諺をもじって言っている)と思った。シックがファースト・アルバムを出した時には、僕たちはすべてに反論していた。女性のパワーを理想的なものとみなしていたし、平等であること、財政の安定、パーティして楽しむことを享受することを望み、世の中で何が起こっていようとも、ハッピーでいたいと思ったし、オープンな気持ちでいる人間でいたいと思っていた。

−−また『イッツ・アバウト・タイム』というタイトルは、今おっしゃったことが反映されてのタイトルですか?

ナイル:このタイトルには幾つかの意味があって、楽しい軽いノリの意味としては、シックは楽しいバンドで、自分たちのことも茶化したりする。そろそろアルバムをリリースすべき時期だ、前作はだいぶ前にリリースされた、僕は多くの友人たちを失ってきたことを乗り越える時期にきた、という意味だ。シックはコンセプトであって、アルバムを作るべきなんだ。

 それと、アルバム・タイトルの“タイム”は、最も重要な宇宙の測定単位となる時間を意味していて、僕の人生ももう残りわずかとなっている。僕は2度ガンを克服し、心臓が8回止まったことがあって、これからもできるだけ音楽活動を続けていきたいし、今作では重要なストーリーを語りたかった。このアルバムは僕のこと、僕の人生のことで、バーナードやトニーやルーサー・ヴァンドロスといった自分が一緒に音楽活動を始めた人たちはもういないからね。だから、僕の新しい人生のことを語らなければならなかった。その新しい人生にも大勢の人が関わっていて、そこにはシックに関わってはいても、常には関わっていない人もいる。そういった大きな組織を抱えるのはクールだ。キャブ・キャロウェイがレナ・ホーンに声をかけて歌ってもらうとか、ペッグ・レッグ・ベイツに踊ってもらうとか、そういったことだ。

−−今日の取材はアビー・ロード・スタジオで行われていますが、アビー・ロード・スタジオといえば、昨年の4月に、あなたとブルーノ・マーズ、アンダーソン・パーク、ディスクロージャーというメンバーでセッションしていた写真がネットに出ましたが、その時セッションした曲も今回収録されているのですか?作曲でアンダーソン・パークが1曲目にクレジットされていますが。

ナイル:最初に生まれた曲はここアビーロードスタジオでアンダーソン・パークと僕がジャムしていて生まれて、それが出発点となったんだ。それでコンセプトが生まれた。アンダーソンが“The world has gone mad, we might be safer on the dance floor”という歌詞を書いて、僕の頭脳も働き始めた。「ちょっと待てよ、このアルバムはただダンスしたりパーティして騒ぐということ以上のことを語るべきだ」と思ったんだ。「もっとドラマチックなコンセプトであるべきだ」とね。映画では、ドラマチックに幕開けして、最初の筋に入り、その後、問題解決のためにストーリーが展開し、願わくは、最後にハッピーエンドを迎える。最終的には閉幕するけれど、それがハッピーなのかどうかはわからないが、その旅路は楽しいものなんだ。覚えていて欲しいのは、シックの一番の目標は君たちに踊ってもらうことだ。

 覚えていて欲しいのは、シックの抱える最も重要な任務は、みんなにダンスフロアーで踊ってもらってハッピーになってもらうことだ。家に帰ってから歌詞に目を通して、メッセージが何なのかを見てもらえればいい。踊ることで得られる原始的な感覚を得てもらえれば、それでいいんだ。それに、違った音楽のテイストを味わってもらいたい。

 シックのファースト・アルバムとセカンド・アルバムでは様々な音楽のテイストを試している。ちょっとしたレゲエも演奏しているが、僕たちはレゲエ・バンドではないし、ちょっとしたジャズも演奏しているが、僕たちはジャズ・バンドではない。ちょっとしたディスコも収録しているが、僕たちはディスコ・バンドではない。僕たちはそういった様々なスタイルを演奏するバンドなんだ。僕たちがシック的見地から挑戦しないスタイルはない。それが僕たちだ。今回、ニュー・ジャック・スウィングもやっていて、シックらしくやっている。シック的な方法でバラードもやっている。だから、今作は原点回帰であって、僕は雷が二度落ちることを願っているんだ。ファースト・アルバムではスーパーモデルが写っていて、スーパーモデルという言葉が真新しい頃だった。それ以前のスーパーモデルといえば、ツイッギーだけだった。しかし、ファースト・アルバムを作った頃はモデルの個人名が大衆に知られるようになった。今の世の中を見てみると、モデルたちは非常に有名な存在で、今作では最先端を行く二人のモデルを起用して、自分たちの理想の世界を表現した。



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Abbey Road w/ Nile Rodgers and Bruno Mars.

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−−-1曲目はアンダーソン・パークと書いた「Till The World Falls」ですが、ブルーノ・マーズも参加していると言いましたか?

ナイル:ブルーノは1曲目トラックには参加していない。当時、毎日長時間に亘ってセッションをしていて、1曲目は初日にできた曲で、そこにはブルーノはいなかった。ブルーノは二日目のセッションに来たんだ。そこでできた曲は、まだ使われていないということだ。



▲ 「Till The World Falls ft. Mura Masa, Cosha, Vic Mensa」(Lyric Video)


−−歌の内容もアンダーソン・パークと話し合って決めたのですか?

ナイル:勿論だよ。僕が歌詞を考えていた時、次から次へと生まれてきた。アンダーソンが最初の行を考えて、それで僕が違うことを考えはじめて、ダンス・レコードで歌われる典型的なことではないもっと重要なことを歌にしようと考えた。人生やサイエンス、宇宙、僕が見る世界を語った歌にしたかった。そういったことをやれるダンス・アーティストはほとんどいない。取り上げられる題材は限られている。ダフト・パンクやほんの一握りの人たち、昔で言えばアーロンズだけが、他よりもほんの少しだけ洗練された内容の音楽をやっていた。パーティしようぜといった内容とは違う。僕はこれまでダンスやパーティといった言葉から離れたところで歌詞を書いていたけれども、今回はそういった言葉をデヴィッド・ボウイが使うように使って、みんなに理解してもらおうと思った。ダンスやパーティといった言葉を避けるのではなく、デヴィッド・ボウイが使うように使ってみた。僕の言うダンスというのは、恋愛関係で踊るダンス、上手くいっていない間柄、または上手くいっている間柄で踊るダンス、といった幅広い意味で、歌詞を読んでみれば、その意味がわかると思う。そして、僕はダンス・アーティストと呼ばれることにためらいはない。



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−−今作で驚いたコラボレーションの代表はレディー・ガガ、エルトン・ジョンの参加でした(レディー・ガガ参加の「I Want Your Love」はシックのカヴァー)。それぞれ共演のきっかけ、経緯やレコーディング、制作にまつわるエピソードなど教えてください。

ナイル:ほとんど自然とそうなったんだ。エルトン・ジョンとはこれまでも何度も一緒に演奏する機会があって、毎回僕たちの演奏はとても良いものとなる。この曲は、女性の社会的地位向上(エンパワーメント)を歌っている。女性の人生における4つのステージのことで、エルトンは僕の良い友人なんだが、曲のタイトルを笑っていた。「“Queen”か、それは僕のことだね」なんて言ってね。そうではなくて、僕がダイアナ・ロスとフリオ・イグレシアスのショウを観ていた時に、フリオが“Ladies and gentlemen, my queen!(みなさん、僕のクイーンです)”といってダイアナ・ロスのことを指差して紹介した。それがきっかけとなって自宅で「Queen」という曲を書いた。ダイアナ・ロスのことではなくて、人生で4つのステージを経験した女性のことだ。少女だった時に父親は自分のことを愛していると思っていたのに自分のことを捨ててしまった。ティーンエイジャーになってボーイフレンドに愛されていると思ったのに、彼にデートレイプされ、妻となってからは夫に知らぬ間に離婚され、4つ目のステージでは自分の姿を鏡で見て、自分が女王になったように見えるんだ。自分のビジネスも始めて成功している。そういう歌だ。エルトンもこの曲のコンセプトを気に入ってくれて、音楽も気に入ってくれた。トム・ベルへの僕からのトリビュートだ。僕が初めて関わったヒット曲は、ニューヨーク・シティというバンドで、「I’m Doin’ Fine Now」というトム・ベルの書いた曲だった。

−−レディー・ガガはどうですか?

ナイル:彼女とも自然発生的にそうなった。彼女はトム・フォードのキャンペーンをやっていて、そのキャンペーンに使われた曲がシックの曲「I Want Your Love」で、自然とそうなった。彼女はトム・フォードのキャンペーンをやっていて、そこで「I Want Your Love」を使いたいということだった。彼女がこの曲をやった後にデヴィッド・ボウイが亡くなり、彼女が僕に電話してきて、一緒に【グラミー賞】でパフォーマンスして欲しいと言われた。そこで僕たちはとても仲が良くなった。彼女は僕たちのフレンドシップがあってキャンペーンを引き受け、彼女も僕にとってこの曲がどんな意味を持つのか知っていた。

 

 「I Want Your Love」は僕が一音一音夢みて作った曲なんだ。それで、彼女は、作曲者である僕がオリジナルでやったこととは違うことをやりたいと言ってきた。僕はその必要はないと言ったんだが、彼女は是非そうさせてくれと言うので、僕と一緒にスタジオに入り、もう一度レコーディングした。彼女のヴォーカルやストリングスの手直しをした。その後、彼女が好きなようにしていいと言ってきた。「私のヴァージョンでも、あなたのヴァージョンでもいい」とね。それでお互いの真ん中を取ることにして、このアルバムのヴァージョンとなった。僕はとても満足しているよ。2年間、皆がこの曲がリリースされるのを待っていたが、このヴァージョンも気に入ってもらえると思う。他のコラボレーションは僕の大好きな人たちで、僕は彼らと一緒に仕事をしたいと思っていたんだ。忘れないでいて欲しいのは、これは2ヴォリューム・セットで、最初のセットで全員が収録されているわけではない。だから、デビー・ハリーとの曲とかは、まだ日の目を見ていないわけだ。最初のアルバムに収録しようかと思っていたが、この曲のメッセージがある特定な方法でこの映画(訳注:2ヴォリューム・セットのこと)に使用されるべきで、僕は音楽界の(クエンティン・)タランティーノではないから直接的な方法でストーリーを語らないとならないんだが、「Magic」というタイトルの曲で、適した場所に収録されないとならない。



▲ 「I Want Your Love」


−−震災の直後に来日して日本を勇気付けてくれましたね。その後も2回来日していますが、次はいつ来てくれますか?

ナイル:特に決まってはいないが、日本は僕にとって重要な国で、僕のパートナーのバーナード・エドワーズを失った国ではあるが、そのまま活動を続けようという力を与えてくれた国でもある。初期の頃、シックの再編成をしている時にブルーノートで何度もコンサートをやった。そこでは、ジャズ風の曲を演奏できたりシックが生きたシックとなるようなことができて、ファンがそれを喜んでくれた。日本ではあらゆることをしたよ。素晴らしかった。当時、日本でしかできないような色々なステージの入り方を試してみて、今後、世界を廻る時にも同じことを試したいと思っている。今では僕たちがスターとなるヘッドライナーのショウやアリーナでのショウをやっているからね。

−−最後に日本のファンへメッセージをお願いします!

ナイル:シックのナイル・ロジャースだよ。日本は僕たちにとってこれまでずっととても重要で、とても素晴らしい国で、日本の皆さんのことは大好きです。日本に行くのが待ち遠しいよ。僕たちが行けば、パーティとなるのはわかっているからね。それが僕たちのモットーだから。「One, two, aaahh, freak out! Freak out, freak out! ~」やっと歌えた。



▲ 「Le Freak」(Live at Eden Sessions 2013)




ナイル・ロジャース&シック「イッツ・アバウト・タイム」

イッツ・アバウト・タイム

2018/10/05 RELEASE
UICR-1143 ¥ 2,860(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.ティル・ザ・ワールド・フォールズ feat.ムラ・マサ、コーシャ&ヴィック・メンサ
  2. 02.ブギー・オール・ナイト feat.ネイオ
  3. 03.ソーバー feat.クレイグ・デイヴィッド&ステフロン・ドン
  4. 04.ドゥ・ユー・ウォナ・パーティー feat.ランチマネー・ルイス
  5. 05.ダンス・ウィズ・ミー feat.ヘイリー・スタインフェルド
  6. 06.アイ・ダンス・マイ・ダンス
  7. 07.ステート・オブ・マイン(イッツ・アバウト・タイム) feat.フィリップ・セス
  8. 08.クイーン feat.エルトン・ジョン&エミリー・サンデー
  9. 09.アイ・ウォント・ユア・ラヴ feat.レディー・ガガ (ボーナス・トラック)
  10. 10.“ニュー・ジャック”ソーバー feat.クレイグ・デイヴィッド&ステフロン・ドン (テディ・ライリー・ヴァージョン) (日本盤&海外デラックス盤ボーナス・トラック)
  11. 11.メッセージ・フロム・ナイル・ロジャース (日本盤&海外デラックス盤ボーナス・トラック)

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