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R+R=NOW『コラージカリー・スピーキング』リリース記念 ロバート・グラスパー最新インタビュー「俺たちよりも若い世代が俺たちの後に続いてくれたらいいと思う」
ロバート・グラスパー、テラス・マーティンらによるスーパーバンド、R+R=NOWが、遂にその全貌を現す。今週6月15日にはバンド初のアルバムとなる『コラージカリー・スピーキング(Collagically Speaking)』をリリース。そして、8月から9月に掛けて、ビルボードライブ大阪、ビルボードライブ東京、【17th TOKYO JAZZ FESTIVAL】での初来日ツアーを開催する。
現代ジャズ出身で今や音楽シーン全般に影響力を誇るグラスパーと、ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』を手掛けたことで一躍最重要プロデューサーの仲間入りを果たしたテラス、さらにクリスチャン・スコット、テイラー・マクファーリン、デリック・ホッジ、ジャスティン・タイソンというスター・プレイヤーが揃ったこのバンドは、果たしてどのような経緯と理由で、何を目指して結成されたのか? 初来日、そして初アルバムを前に、その絶好のイントロダクションとして、グラスパー本人への貴重なインタビューをお届けする。(以下、取材・文:高橋芳朗)
「自分たちの祖先に敬意を示し、感謝の念を表すこと」
――R+R=NOWの結成は昨年の【SXSW】がきっかけになっているそうですね。
グラスパー:「これまでやったことのない何か特別なことをやってほしい」と頼まれて、友達を呼んでスーパーバンドをつくったんだ(笑)。で、実際にショウをやってみたらすごく良かったからレコードをつくりたくなった。すごくシンプルな話だよ。
――このメンバーを選んだのにはなにかしらの基準があったのですか?
グラスパー:それぞれの楽器で、いまの音楽ムーヴメントのリーダーになってる奴を選びたかった。俺にとっては、選んだメンバーそれぞれがニュー・ジャズ・サウンドのムーヴメントのリーダーだと思ってる。メンバーを選ぶときには全員の性格も考えたよ。バンドをつくっても、性格が合わないと良い音楽はつくれない。だから楽に仕事ができるクールな奴ら、エゴを出さずに良い音楽をつくれる奴らを集めたんだ。
――【SXSW】で初めて6人で演奏したときの手応えはいかがでしたか?
グラスパー:すごくオープンでめちゃくちゃ楽しかった。というか、リハーサルしてないんだ(笑)。簡単なサウンドチェックだけやって、大半はステージでぶっつけ本番だった。その場のアドリブでね。なにが良かったって、ステージにいるメンバー全員を信頼できたってことだ。音楽的に信頼できたんだ。共演者を心から信頼していると、パフォーマンスがすごく楽になるんだ。
▲robert glasper & friends live @ empire (sxsw 2017)
――テラス・マーティン、デリック・ホッジ、ジャスティン・タイソンの3人と比較して、テイラー・マクファーリンとクリスチャン・スコットの参加は少々意外に思えました。
グラスパー:テイラーは父親がボビー・マクファーリンということもあるし、特別な存在だと思ってる。彼みたいな奴はなかなか存在しないだろ? ビートボックスで素晴らしいサウンドをつくるのと同時に、偉大なキーボード奏者でもある。テイラーはサウンドの全体像にたくさんの彩りを添えてくれるんだ。彼はさまざまな方法で楽曲に貢献する術を知っている。テイラーと一緒に演奏するのはすごく興味深いことなんだ。クリスチャンは、トランペットの演奏にしても作曲にしても独自の声を持ってる。それに、俺もクリスチャンも牡羊座でガンガンものを言うタイプなんだ(笑)。だから仕事の相性もいい。共通点も多いけど違う側面も持っているから、お互いを補完し合っている感じなんだ。
――アルバムのスリーヴには「俺たちはアートを創造し、変化をもたらすため、そして先祖と未来のためのトーチを持つために結成された」などグループの決意表明といえるような文章が記されていますが、グループを始動させるにあたってメンバー間ではどんな話し合いが行われたのでしょう?
グラスパー:このバンドの命題は、ありのままの自分を率直に表現するということなんだ。それをやることによって自分たちの祖先に敬意を示し、感謝の念を表すことになる。というのも、俺たちがいまこうしてありのままの自分でいられるのは彼らの存在があったからだしね。つまり、ありのままの自分でいるということは自分たちよりも前に生きた人々に対して自動的に「ありがとう」と言ってるのに等しいんだ。彼らの存在なくして、ありのままの俺たちは存在できないんだよ。
来日公演情報
R+R=NOW
ロバート・グラスパー, テラス・マーティン, クリスチャン・スコット,
デリック・ホッジ, テイラー・マクファーリン, ジャスティン・タイソン
ビルボードライブ東京
2018年8月28日(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
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ビルボードライブ大阪
2018年8月29日(水)・30日(木)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
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17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
2018年9月1日(土) 共演:コーネリアス
the HALL daytime SOUNDSCAPE
Open 11:30 Start 12:30
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取材・文/高橋芳朗
「俺たちよりも若い世代が俺たちの後に続いてくれたらいいと思う」
――このコンセプトはR+R=NOWのネーミングのインスピレーション源になっているニーナ・シモンの有名な言葉、「アーティストの義務とは、私たちが生きている時代を反映した作品をつくること」に基づいているわけですよね。
グラスパー:ジャズというジャンルにおいては、本当に心の底から自分の演奏をしている人間を見つけるのは非常に難しいんだ。いまここにいなければ、いまを生きることはできない。音楽でも同じことが言える。いまを演奏しなければいけないんだ。多くの人々が俺たちがやっている音楽に対して「これをしたらジャズじゃない、あれをしたらジャズじゃない」って言ってくるが、そんなのはスーパーブルシットだ(笑)。そもそも、ジャズというのはずっといろいろな音楽の融合体だったんだ。常にいろんな要素が混ざっていた音楽なんだ。だから、年齢を重ねていくごとに選ぶ音楽も増えていく。取り入れる音楽の数は増えていくものなんだよ。俺たちは、それをグループ名で主張したいと思った。そうすることによって、俺たちよりも若い世代が俺たちの後に続いてくれたらいいと思う。そして、本当の自分を表現してほしい。チャーリー・パーカーとか、誰かの真似をするんじゃなくてね。でも、勉強するなって言ってるわけじゃない。常に勉強は必要だ。こういうことを言ってると勉強しなくていいって早合点する奴らがいるけど、「音楽を勉強しろ、音楽という言語を学べ」とは言いたいね。まずは言語を学んで、それから自分の言葉で話すんだ。
▲Nina Simone: An Artist's Duty
――アルバムのタイトル『コラージカリー・スピーキング』にはどんな意味が込められているのでしょう?
グラスパー:アルバムを聴くと、俺たちにはそれぞれが独自のサウンドやテクスチャー、カラーを持っていることがわかるだろ? まるでキルトやコラージュみたいにね。まさにオーディオのコラージュという感じがしたから最初は『オーディオ・コラージュ(Audio Collage)』にしようと思ったんだけど、コラージュで話す、という意味で最終的に『コラージカリー・スピーキング』に決めたんだ。
――R+R=NOWの始動を告げるインタビューにおいて、あなたはアルバムの音楽的方向性について「とても誠実で、ヒップホップ、EDM、ジャズ、時にはレゲエも聴こえてくるような流動的なサウンドになる」と話していました。
グラスパー:ああ、心からそう思う。でも、どんなサウンドになるかはまったくわかっていなかったんだ。唯一わかっていたのは、これが素晴らしいアルバムになるってことだけ(笑)。俺としても完成したアルバムには驚いているし、興味深いサウンドになったと思ってる。きっと良い音楽がつくれるはずだってメンバーのことは信用してたいよ。
▲R+R=NOW - Collagically Speaking (Album Trailer)
――セッションを行う前、事前にメンバー間で共有していたようなテーマはあったのでしょうか?
グラスパー:俺たちはとことん自由な気分だった。どんなアルバムにしようとか、どんなサウンドにしようとか、事前には一切考えていなかったんだ。アルバムの半分の曲は、スタジオに入ってその場のノリでつくってる。収録曲の大半はその場でつくったもので、それをアルバムに入れただけ(笑)。でも、まさにこれが俺の欲しいヴァイブだったんだ。オープンでオーガニックで現場主義な音楽が欲しかった。すべてワンテイクだったからな。ワンテイクだけなんだよ(笑)。
――誰か特定のメンバーがイニシアチヴをとるようなことはなかったと。
グラスパー:全員がボールを回しあうのが好きだからこそうまくいったんだ。6人とも「selfish」(自分勝手)じゃなくて「selfless」(無私)だったからね。メンバー同士で尊敬し合っていたことも大きいな。これほどのメンバーでバンドをつくって、なおかつお互いが尊敬し合っているとなると、全員に光を当てたいし全員に言いたいことを表現してもらいたいんだ。全員が全員すごい才能の持ち主だから、お互いを尊敬し合うのは本当に簡単なことだったよ。たとえば「Colors In The Dark」は俺とデリックが朝からスタジオに入ってつくったんだ。15分でできたよ(笑)。ジャスティンもスタジオにいたから、そこで少し話してワンテイクで完成した。本当に一回だけでね。で、曲ができあがったあとにテラスが来たから「Colors in the dark」と歌ってもらったんだ。
来日公演情報
R+R=NOW
ロバート・グラスパー, テラス・マーティン, クリスチャン・スコット,
デリック・ホッジ, テイラー・マクファーリン, ジャスティン・タイソン
ビルボードライブ東京
2018年8月28日(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
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ビルボードライブ大阪
2018年8月29日(水)・30日(木)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
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17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
2018年9月1日(土) 共演:コーネリアス
the HALL daytime SOUNDSCAPE
Open 11:30 Start 12:30
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取材・文/高橋芳朗
「毎回のセッションが初めての経験みたいなんだ」
――アルバムの完成までにはどのぐらいの時間がかかったのでしょう?
グラスパー:4日間だ。もちろんそのあとにミキシングだとか別の作業はあったけど、レコーディング自体は4日で終わったよ。
――収録曲の中では、オマリ・ハードウィック、テリー・クルーズ、アマンダ・シールズらによるスポークン・ワードの楽曲が強く印象に残りました。特にミュージシャンのクリエイティヴィティについて問題提起するテリーの「The Night in Question」、それから「#MeToo」のムーヴメントに呼応するアマンダの「Her=Now」は「自分たちが生きる時代を反映する作品をつくること」を標榜するR+R=NOWの面目躍如といえると思います。
グラスパー:テリーは俺の友達なんだ。彼はレコーディングの様子を見たくてスタジオに遊びに来ていたんだけど、すごくディープで興味深いことを話し始めたからテリーに内緒でこっそり録音ボタンを押したんだ(笑)。だから、アルバム中で彼が話していることは心からの言葉なんだよ。で、テリーが帰ったあとで曲のなかに彼の言葉を入れて送ってみたんだ。「これどう思う?」ってね。そうしたら「Oh my God, that's amazing!」って言ってくれた(笑)。テリーは多くの真実を語っているから、たくさんの人たちが彼の言ってることに共感してくれると思う。それからアマンダ、彼女とは長い付き合いなんだ。アルバムには絶対に女性も入れたいと思っていた。いまは「#MeToo」ムーヴメントだとか男女のギャラの格差問題だとか、ジェンダーをめぐるいろいろなことが起こっているだろ? だから、それについて語る女性がアルバムには必要だったんだ。俺はアルバムのなかで必ず「いまの時代」を象徴すること、そして「いまの時代」になにが起こってるかを表現しているんだ。
▲R+R=NOW - Needed You Still (Audio) ft. Omari Hardwick
――「いまの時代」になにが起こってるかを表現した音楽作品としては、ここ最近ではなんといってもチャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」が真っ先に挙がってくると思います。
グラスパー:大好きだ。大胆にリスクを取っていて素晴らしいと思う。さまざまな問題をアーティスティックに表現しているところもすごい。露骨にではなく、アーティスティックに表現しながら歴史のレッスンをしてくれている感じだね。ああいうアーティスティックなかたちで現実を表現してくれた彼を讃えたいよ。
▲Childish Gambino - This Is America (Official Video)
――アルバム『コラージカリー・スピーキング』をつくり上げたことで得た最大の収穫はなんでしょう?
グラスパー:宇宙(universe)を信頼して宇宙にすべてを任せれば最高のことが起こる、ということ。人ってすべてをコントロールしようとしがちだろ? なんでも自分の力でやろうとしてしまう。でも、宇宙を信頼してプロセスを信頼して、さらに信頼できるバンドを持つと最高の音楽ができるんだ。エリカ・バドゥの話をさせてもらうと、誰かが彼女に「瞑想することはありますか?」と訊いたら「私の人生は瞑想よ」って答えたんだ。この答えについては俺も考えてみて「わあ、確かにそうだな!」って思ったよ。俺は演奏しているとき瞑想状態になる。だから、俺の仕事は瞑想することともいえる。演奏するたび、ただ目を閉じてなにも考えずにいられる。これが俺の仕事だ。自分仕事で平穏が得られるということを心から幸運に思ってるよ。この仕事で大変なところは移動なんだけど、それでも一旦ステージに上がってしまえばそこが俺にとって平穏な場所になるんだ。
――最後になりますが、8月の来日公演に向けてすでに日本のファンは大きな期待を寄せています。どんなステージになりそうですか?
グラスパー:とにかく率直に演奏してステージを楽しんで、自分たちを表現するつもりだ。なにを期待してくれとは言えないけど、それでも俺たちとしては全力を尽くして最高のショウをするよ。
――最近では「Soul'd Out Festival」に出演するなどライヴ活動も積極的に行っているようですが、6人のケミストリーはセッションを重ねていくにつれてどのように変化してきていますか?
グラスパー:まだ3~4回しかショウはやっていないんだ。それでも毎回すごくオープンで、すごく正直で、そしてすごく自由なんだ。お互いを信頼しているから思いつきでいろいろやってみたりね。めちゃくちゃ楽しいよ。毎回のセッションが初めての経験みたいなんだ。
来日公演情報
R+R=NOW
ロバート・グラスパー, テラス・マーティン, クリスチャン・スコット,
デリック・ホッジ, テイラー・マクファーリン, ジャスティン・タイソン
ビルボードライブ東京
2018年8月28日(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
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ビルボードライブ大阪
2018年8月29日(水)・30日(木)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
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17th TOKYO JAZZ FESTIVAL
2018年9月1日(土) 共演:コーネリアス
the HALL daytime SOUNDSCAPE
Open 11:30 Start 12:30
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取材・文/高橋芳朗
コラージカリー・スピーキング
2018/06/15 RELEASE
UCCQ-1085 ¥ 2,750(税込)
Disc01
- 01.チェンジ・オブ・トーン
- 02.アウェイク・トゥ・ユー
- 03.バイ・デザイン
- 04.レスティング・ウォリアー
- 05.ニーデッド・ユー・スティル feat.オマリ・ハードウィック
- 06.カラーズ・イン・ザ・ダーク
- 07.ザ・ナイト・イン・クエスチョン feat.テリー・クルーズ
- 08.リフレクト・リプライズ feat.スターリー
- 09.彼女=現在 feat.アマンダ・シールズ
- 10.レスポンド
- 11.ビーン・オン・マイ・マインド feat.アンバー・ナヴラン
- 12.リフレクト・リプライズ -MC ROB G ヴァージョン- (日本盤ボーナス・トラック)
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