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リロイ・ハトソン最新インタビュー ~シカゴ・ソウルの伝説的シンガー/プロデューサー 奇跡の初来日を前に貴重な最新インタビュー掲載
70年代のニューソウル・ムーヴメントの一翼を担った米ニュージャージー州ニューアーク出身のソウル・シンガー、リロイ・ハトソン。昨年、未発表だった2曲も収録したベスト・アルバム『ANTHOLOGY 1972-1984』がリリースされてからというもの再評価の気運が高まっていたが、それでも来日公演決定の報を聞いたときはさすがに耳を疑った。作品のリリースは長らく途絶えていたし、近年のライブの様子が伝えられることもなかったし、かつて来日公演を行なったことは1度もなかったし、そもそもまだ現役なのか、もう引退しているのか、それすらはっきりわからなかったからだ。だが、現在72歳のリロイは、どうやらバリバリ元気な様子。5月にビルボードライブ東京と大阪で実現する“奇跡の初来日公演”を前にして、嬉しいことにインタビューにも答えてくれた。(取材・文:内本順一)
近年の活動状況
まずは近年の活動状況について。実は定常的に活動を行なっていたのか、それとも音楽業界から退いた状態だったのか、失礼を承知でそのあたりをズバっと訊いてみると――
「親友だった故ディック・グリフィー(ソーラー・レコードの創始者)との契約を通じてエレクトラから『Paradice』というアルバムを発表したのが1982年。それからずいぶん経った2007年に自分のレーベルであるトライアンフから『Soothe You Groove You』というアルバムをリリースしたけど、そこからアシッド・ジャズ・レーベルでの再リリースが始まるまでは、長らくシーンから遠ざかっていた。だから、半ば引退状態だったと言えるだろうね。ライブもほとんどやってなかったよ。やってほしいというリクエストがあるときにしかやらなかった。というのも、私は若い頃にインプレッションズの一員として、そしてソロとしても十分にツアーをしたので、そういった生活から距離を置いて、家族との時間を優先する生活に自分から変えたからなんだ。最近になって再びライブをやり始めたのは、やってほしいという要望があるから。そして実際やってみると、昔からのファンも新しいファンも来てくれて、アルバムを買ったり、私にたくさんの愛を与えてくれたりする。それはとても心温まることでね」
最近のライブはどんな感じなのだろうか。72歳で、それほど頻繁にライブをやっているわけではないとなると、かつてのように“抑制の美学”をも感じさせる色気のある歌声はもう聞けないのではないか。そんな不安を抱く人だっているだろう。そう思ってYouTubeをいろいろ見ていたら、2017年にロンドンはユニオン・チャペルで行なったライブの映像が見つかった。それを見た限り、リロイは実に艶っぽくて揺らぎのない“いい声”を聴かせている。ファルセットもキレイに出ている。何よりリロイがとても若々しい。これなら来日公演も期待が裏切られることはないだろう。声のよさを維持するために、何か努力をしていたのだろうか。
「休息は、喉を休めるためにもいいものなんだ。私はもともとそんなにお喋りでもないから、休んでいて声を使いすぎるなんてこともない。それに健康にはかなり気を使っているからね。煙草は昔から吸わないし、食べ物はオーガニックなものだけにしている。そしてクリーンな水をたくさん飲んでいるんだ。クリーンというのは汚染物を取り除いた蒸留水のことで、ヒマラヤの塩を少し入れて飲む。何事も続けるのは根気のいることだけど、そのおかげで歌声を維持できるんだから、続けない手はないよね(笑)」
▲Leroy Hutson & His Band 2017 Live at Union Chapel
そんなリロイ・ハトソンの再評価の気運がここにきて高まったのは、冒頭にも書いた通り、カートム時代の名曲群を集めたベスト・アルバム『ANTHOLOGY 1972-1984』が英アシッド・ジャズ・レーベルから昨年リリースされたから。これまでもリロイのベスト盤は正規盤じゃないものも含めて数種出ていたが、これはリマスターによって音質面での向上がしかとなされた決定版と呼んでいいもの。その上、未発表曲が2曲収録されてもいた。米ロードアイランド州のヴォーカル・グループ、タヴァレスの『Madam Butterfly』に収録されていた「Positive Force」のカヴァーと、ディスコ風のオリジナル楽曲「Now That I Found You」がそれで、いずれも未発表だったのが不思議なくらいに鮮やかなもの。「こんなお宝が、なぜ今まで眠っていたのだろう?」と不思議に思ったのは筆者だけじゃなかっただろう。
「その2曲はレコード会社との契約がなかった80年代初頭に録音したものでね。ちょうど一番下の娘が生まれたばかりの頃だった。そのときはさっきも言った通りしばらく家族との時間を最優先しようと決めていたから、その2曲とほかにいくつか録音した曲は、いい条件でまたどこかのレーベルと契約して、いいタイミングで出せるようになるまで、とっておこうと考えたんだ。そこから長い歳月が過ぎたけど、アシッド・ジャズは私の望みに叶うレーベルだったので契約した。そうしてこの2曲も日の目を見ることになったわけだ。ほかにも未発表曲はたくさんあるけど、それらはいずれ私のレーベルであるトライアンフからリリースすることができればいいと思っているよ」
▲Leroy Hutson: Anthology 1972 - 1984
ビルボードライブ公演情報
リロイ・ハトソン
ビルボードライブ東京
2018年5月3日(木・祝)・5日(土)
1stステージ開場15:30 開演16:30
2ndステージ開場18:30 開演19:30
⇒詳細はこちら
ビルボードライブ大阪
2018年5月7日(月)
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:30
⇒詳細はこちら
メンバー
リロイ・ハトソン / Leroy Hutson(Vocals, Piano)
ギゼル・スミス / Gizelle Smith(Vocals)
アンドレ・エスプット / Andre Espeut(Vocals)
カール・ハドソン / Carl Hudson(Keyboards)
ポール・ジョブソン / Paul Jobson(Keyboards)
デイヴ・イタル / Dave Ital(Guitar)
デレク・チャイ / Derek Chai(Bass)
ジェイミー・アンダーソン / Jamie Anderson(Saxophone)
ニック・バン・ゲルダー / Nick Van Gelder(Drums, Percussion)
コフィ・カリ・カリ / Kofi Kari Kari(Percussion)
関連リンク
Text: 内本順一
レガシーの数々と音楽への思い
そうした未発表曲が聴けるようになることも期待したいところだが、今はリロイがカートムに残した作品群をリマスターされた良好な音で聴くだけで十分に楽しい。昨年の『ANTHOLOGY 1972-1984』に続いて、4月4日には1975年発表の3rdアルバム『ハトソン』と1976年発表の5thアルバム『ハトソン2』が完全リマスター盤となって日本発売されたところだし、来日公演初日の前日となる5月2日には1974年発表の2ndアルバム『The Man!』と1978年発表の6thアルバム『Closer to the Source』の完全リマスター盤も日本先行発売されることが決まっている。90年代半ばや2000年代初頭にリロイの過去作のいくつかが国内盤でリリースされたり輸入盤で出回ったりしたことがあったが、正直それらは音がこもっていたりしてたゆえ、今回いろいろ工夫が施されて劇的によくなった音で聴いてみると、新しい発見もたくさんある。リロイのアレンジャーとしての才に改めて唸らされたりもするわけだ。
「若い世代のリスナーにも私のオリジナル・アルバムを聴いてもらえるのは、とても嬉しい。再発の機会を与えてもらって感謝しているし、光栄に思うよ。これらのアルバムの曲を書いてレコーディングしていたときは、こんなことが起こるなんて夢にも思わなかった。再評価された理由? 自分じゃわからないけど、音楽そのものの質によるものだと願いたいね。70年代というのは、長く残る素晴らしい楽曲と素晴らしいアーティストが多く輩出された時代だった。その時代の一部になることができたのは幸運だと思っているよ」
因みに今こうして再発が続いているのは全てカートム時代の作品。カートムはカーティス・メイフィールドと友人のエディ・トーマスにより1968年に設立され、シカゴに拠点を置いたインディペンデント・レーベルで、設立当初はまだ新人だったダニー・ハサウェイもスタッフのひとりだった。レーベルの成功はカーティス・メイフィールドの躍進とイコールで、リロイはというとカーティスの強い勧めで(カーティスに替わって)インプレッションズに加入。カートムの制作におけるブレーンにもなった。今、リロイはこのレーベルにどんな感情を抱いているのだろうか。
「間違いなく重要な人生経験のひとつだったし、才能あるミュージシャンや友人と出会うこともできた。いかなる関係性にもついてまわる“よくない想い出”もあるにはあるけど、ポジティブな気持ちで頑張っていたときのことや、たくさんの曲を書いたりプロデュースしたりする自由を与えられたときのことを記憶に残しておいたほうが人生は素晴らしく思えるから、私はそうしている。あのレーベルで録音した音楽が、まるで昨日作られたかのように今また話題になって、たくさんの人に聴いてもらえているのだからね」
続けて、こう質問してみた。あなたの人生において、あれこそターニングポイントだったと今思える瞬間とは?
「まず、ワシントンD.C.のハワード大学へ進む決断をしたときだ。それは私の人生を大きく変えた。その後の私に起こった全ての良いことは、その決断が呼び起こした結果だった。そこで48年来となる妻と出会ったし、ダニー・ハサウェイとも出会ったんだ。インプレッションズに参加することとなり、最終的にソロ・アーティストとしてカートムと契約することになったのも、全てはハワード大学に行く決断をしたところから始まっているんだよ。そしてミュージシャンとしての忘れられない瞬間はといえば、ワシントンD.C.の15番とTストリートで火曜の夜に起きたあのことだ。ルームメイトだったダニーと私はアパートで古いオープンリール式のレコーダーを使って“The Ghetto”を作ったんだよ。それは私の心から消えることのない、まるで魔法のような瞬間だったんだ」
▲Donny Hathaway - The Ghetto
こうも訊いてみた。「ズバリ、あなたにとって音楽とは?」
「音楽のない世界を想像できるかい? できないだろ? 音楽は私の人生だ。私にとって音楽は最大の喜びで、生きる理由になっている。曲を書き、プロデュースをし、たくさんの人とシェアしながら、私はこれまでの人生をずっと楽しむことができた。そういうギフトを授かったことに対して、心から感謝しているよ」
最後に、キャリア初となる日本公演についての抱負を訊いた。
「日本には私のことをサポートしてくれる素晴らしいファンベースがあることを前から知っていたので、彼らのためにもグレイトなショーをするつもりだ。5月にビルボードライブでみなさんに会えることを本当に楽しみにしている。世界でも有数のファンキーなミュージシャンたちを一緒に連れて行くよ!」
ビルボードライブ公演情報
リロイ・ハトソン
ビルボードライブ東京
2018年5月3日(木・祝)・5日(土)
1stステージ開場15:30 開演16:30
2ndステージ開場18:30 開演19:30
⇒詳細はこちら
ビルボードライブ大阪
2018年5月7日(月)
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:30
⇒詳細はこちら
メンバー
リロイ・ハトソン / Leroy Hutson(Vocals, Piano)
ギゼル・スミス / Gizelle Smith(Vocals)
アンドレ・エスプット / Andre Espeut(Vocals)
カール・ハドソン / Carl Hudson(Keyboards)
ポール・ジョブソン / Paul Jobson(Keyboards)
デイヴ・イタル / Dave Ital(Guitar)
デレク・チャイ / Derek Chai(Bass)
ジェイミー・アンダーソン / Jamie Anderson(Saxophone)
ニック・バン・ゲルダー / Nick Van Gelder(Drums, Percussion)
コフィ・カリ・カリ / Kofi Kari Kari(Percussion)
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Text: 内本順一
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