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ザ・ニュー・パワー・ジェネレーション来日記念特集~故プリンスを支えたベテランから秘蔵っ子まで…来日公演参加メンバーのキャリアを総ざらい
去る2月4日、ミネアポリスで行われたスーパーボウル2018のハーフタイム・ショウにおいて、ジャスティン・ティンバーレイクがスクリーンに浮かぶプリンスと疑似デュエットを畏敬の念たっぷりに実現させたことは大きな話題となった。プリンスがこの世を去って2年が迫る中、ロンドン、アムステルダムと場所を変えて開催されているプリンス展『My Name Is Prince Exhibition』や、ペイズリー・パークにて4日間に渡って催される複合イヴェント『Celebration 2017・2018』を始め、公式・非公式を問わずいまなお彼の死を悼み、その音楽を慈しむ各種イヴェントが尽きることはない。ここ日本でも、昨年の『ザ・ニュー・パワー・ジェネレーションtribute to PRINCE』に続いて再びNPGが来日する。予想外の総入れ替えとなった今回のメンバーについて、それぞれのキャリアを紹介してみることにしよう。
生前のプリンスのバック・バンドとして彼を支えてきたザ・ニュー・パワー・ジェネレーション(NPG)が殿下トリビュートのために来日したのは昨春のことだから、ほぼ1年ぶりとなる再来日のタイミングは少し早いような気がするかもしれない。とくに前回のステージに駆け付けたリスナーにとっては、同じような内容になりそう……などと早合点しそうなところだが、実は、同じNPGと言っても中身は別バンドと言っても過言ではない。なにせ、メンバーがただの1名も重なっていないのだから。
大ヒット作『Purple Rain』などを彩ったウェンディ&リサ擁するザ・レヴォリューションは86年に解散。名無しとなった彼のバックバンドは、メンバー・チェンジを経ながら90年に入ると再び大層な名前を与えられることになる。それこそがNPGだ。アルバム収録曲を切れ目のない1曲(45分強!)にまとめることで丸々一枚をありのまま聴くことをファンに強いた画期的な(発売当時は素直に感動したが、すぐに不便であることに気づいた)アルバム『Lovesexy』の冒頭で発せられるこの“ニュー・パワー・ジェネレーション”というネーミングは、プリンス自身も相当に気に入ったのだろう。バンド名として『Diamonds And Pearls』から名義に併記するようになり、さらにはレーベル名にも用いることになった。
プリンス・ファンにはよく知られているように、NPGのメンバー変遷はなかなかに激しく、時代によって参加メンバーの顔触れが異なる。たとえば前回来日した際にバンマスだったアンドリュー・グーシェイは、アンドレ・クラウチやワイナンズ、ホーキンス・ファミリーなどのゴスペル畑からキャリアをスタートさせ、コンテンポラリーなゴスペル・ベース・スタイルを確立したベーシストとしてリスペクトを集めるベテランであり、プリンスとは2012年頃から仕事をするようになった“後期組”のミュージシャンだ。同じようにゴスペル・シーンを起点にR&B/ポップへと活動を広げていったキーボーディストのカサンドラ・オニールも後期組なら、若手のサックス奏者エイドリアン・クラッチフィールドほかホーン隊もまた後期組。NPG名義の98年作『New Power Soul』にも参加していたマーヴァ・キングに関しては参加歴がそれなりに長いものの、メンバー全体としては比較的新しいラインナップのNPGだな、という印象だった。
一方、今回のバンマスとされるミスター・ヘイズことモーリス・ヘイズは、ブラウンマークに見いだされてマザラティ入りし、その後93年頃から2010年代まで、一時断続的なところもあるものの、NPGのキーボーディストとして長らく活動してきた人物。ミネアポリス・ネイティヴではないものの、音楽キャリア的にはミネアポリス育ちと言ってよい彼は、文字通り“パープル・レイン”が降りしきる中でパフォームされたいまや伝説となっているスーパーボウル2007のハーフタイム・ショウでのプリンスを支えた鍵盤奏者であり、つまりプリンスが最も信頼を寄せたミュージシャンの一人なのだ。
▲ 「Purple Rain (Super Bowl XLI Halftime Show )」
プリンスとの距離で言えば、マイテと結婚した際の付添人を務め、ペイズリー・パーク・スタジオを任されたマネージャーでもあり、また、2016年4月15日にアトランタからミネアポリスへと向かうプライベートジェットの機内でプリンスの体調が急変した際の、数少ない同行者の一人でもあったカーク・ジョンソンの方がさらに近いと言えるだろう。カークが初めてプリンスと関与した作品は映画『パープル・レイン』。そこではトニー・Mやデイモン・ディックソンと共にダンサーとして、いわばチョイ役を演じるのみだったが(クレジットもない)、NPG立ち上げの頃には、カークはパーカッション/ドラム奏者として、トニーはラッパーとして、デイモンはバックシンガーとしても重宝されるようになっていく。この3人はつまり、映画『パープル・レイン』の熱狂からNPG誕生を含めて経験している“初期組”と言えるだろう。
鍵盤奏者/シンガーのキップ・ブラックシャイアは、90年代後半にNPGに加入してライヴはもとよりスタジオ作品でもプリンスの音楽に貢献。同時に自らのソロ作を2枚発表してもいるアーティストでもある。昨年行われた海外でのNPG公演ではこのキップが“Let's Go Crazy”や“Purple Rain”を歌っており、今回の日本公演でもおそらく粋なヴォーカルを愉しませてくれるはずだ。
シンガーと言えば、テイマー・デイヴィスの参加も話題必至。デスティニーズ・チャイルドの前身アクト(つまりアマチュア時代)に在籍していたティーンの頃からプリンスに目をかけられ、日本人鍵盤奏者のノリコ・オーリング率いるジャズ・ファンク・バンドのアンガザ(コラ・コールマンも在籍)に参加後、“Beautiful, Loved & Blessed”(『3121』に収録)のプリンスのデュエット相手としてセンセーショナルにお披露目されることになる。当初の計画では『3121』と時を同じくして発表されるはずだった全編プリンス制作によるテイマーのソロ作は不運なことにお蔵入りとなるものの、2006年当時、プリンスはテイマーを大々的に押し出したツアーを行っている。彼女はプリンスの秘蔵っ子という絶好のデビュー・チャンスを逃した後も力強く活動を続け、2枚のアルバムをリリース。プリンスが惚れ込んだのも納得の魅力的な声の持ち主だ。
▲ 「Chain of Fools (The Voice 2016 Blind Audition)」
若手では、ベーシストのモノネオンに視線が集まりそう。ベースのヘッドに靴下を履かせ、アーティスト名通りヴィヴィッドな色使いのファッション・センスからして尖った彼の感性がプリンスの目に留まったのは2015年のこと。プリンスの前座を務めるジュディス・ヒル・バンドに雇われたモノネオンは、次のステップとしてプリンスのステージで演奏することになった。その上、世界が悲しみに暮れたあの急逝の数か月前まで殿下と共にレコーディングを行っている。『Black Is The New Black』と名付けられたプリンスの新作アルバムのための録音だったようで、プリンスがプロデュース/ギター/キーボードを担当したその中の1曲“Ruff Enuff”は、TIDALからモノネオン名義で限定リリースされている。ルックス的にも曲も奇抜なタイプではあるものの、オーソドックスなプレイもこなす実力派。歯切れの良いスラップ(チョッパー)でも指弾きでもにじみ出るエッチなセンスが癖になる。
▲ 「Happy (remix)」
このモノネオンとの絡みが期待出来そうなのがミント・コンディションのギタリストであるホーマー・オデール。ミント・コンディションはミネアポリスで結成され、90年代初頭に(ザ・タイムの)ジミー・ジャム&テリー・ルイスのレーベルからデビューを飾り、ペイズリー・パークでパフォームすることもある、広義でのミネアポリス・ファミリーに属するグループだ。基本的にはR&Bバンドでありながら、それだけでは括り切れないファンク~ジャズ~ロック・テイストを持つ多様性とそれを実現する確かな腕が大きな魅力となっており、そんなミントの中でもカッティングはもちろん、歪み系もいけるオデールのギターはとくにNPG向きと言えそうだ。
こうして見ていくと、今回のNPGは、プリンスとの縁の深いメンバーたちと、プリンスによって見いだされた新旧の実力あるミュージシャンを合体させた魅力的な顔ぶれであることが分かる。本国を始め世界各地でのNPG公演を参考に出来るなら、“Sexy M.F.”や“2gether”といったあたりのNPGならではのナンバーも飛び出しそうだし、もちろん、テイマーがいるのだから“Beautiful, Loved & Blessed”も期待出来る。そんな選曲予想も含めて、いまから楽しめるライヴになりそうだ。
▲ 「Sexy M. F.」MV
公演情報
ザ・ニュー・パワー・ジェネレーション
"celebrating PRINCE” with the NPG
ビルボードライブ大阪:2018/3/20(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2018/3/22(木)-23(金)
1st Stage Open 17:30 Start 19:00 / 2nd Stage Open 20:45 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
【BAND MEMBERS】
モーリス・ヘイズ / Morris Hayes(Keyboards)
カーク・ジョンソン / Kirk Johnson(Drums)
トニー・M / Tony M.(Guitar, Vocals)
テイマー・デイヴィス / Tamar Davis(Vocals)
デイモン・ディックソン / Damon Dickson(Percussion, BGV)
ホーマー・オデール(from ミントコンディション) / Homer O'dell(Guitar)
モノネオン / MonoNeon(Bass)
キップ・ブラックシャイア / Kip Blackshire(Keyboards, Vocals)
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Text: 荘 治虫
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