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エミネム 最新インタビュー~長年のマネージャーと語る過去、現在、未来の展望
2017年12月に4年ぶりのニュー・アルバム『リバイバル』をリリースしたエミネム。『リバイバル』は米ビルボード・アルバム・チャート”Billboard 200”で初登場1位を獲得し、彼は8作連続で全米初登場1位を記録した唯一のアーティストとなった。そんな彼と20年以上苦楽を共にしてきたマネージャーであり、<シェイディ・レコーズ>レーベルの共同経営者でもあるポール・ローゼンバーグが、2018年1月からヒップホップの名門レーベル、<デフ・ジャム・レコーディングス>の新会長兼CEOに就任した。
米ビルボード誌最新号では、1996年にエミネムの地元デトロイトで出会い、紆余曲折を経てそれぞれの道で大成した二人が仲良く表紙を飾っている。彼らが大いに語ったロング・インタビューからは、過去、現在、未来の展望、そして悪友という言葉がぴったりの二人の絆が浮かび上がる。
TOP Photo: Getty Images Entertainment
言い方は悪いけど、“クソくらえ”って思ってる奴みたいに聞こえた
――二人の関係を言い表すなら?
ポール・ローゼンバーグ:彼とは97年から正式に仕事を始めたから、今年で20年目なんだ。仕事仲間で友人同士だった20年だった。
エミネム:地獄の20年(笑)。
ポール:非常に真面目で真剣な時もあるし、すごく呑気で、言ってしまえば幼稚な時もあるね。
エミネム:言うねぇ。
――どうやって出会ったのですか?
ポール:デトロイトでロー・スクールに通っていた頃、ヒップホップ・ショップという7マイル・ロードにあるところによく行ってた。衣料品店なんだけど、土曜だけオープンマイクのフリースタイル・バトル会場になるんだ。ある日プルーフ(Proof、エミネムの親友で故人のラッパー)が俺を脇に連れ出して、「なあ、今日オープンマイク終了後までいてくれよ、俺のダチに会ってもらいたいんだ」って言った。彼は俺がロー・スクールに通っていたのは音楽専門の弁護士になるのが目的だってことを知ってて、俺が卒業して仕事を始めたら地元アーティストがコネを作る手助けができそうな奴だって思ってたから、友人を紹介したかったんだ。で、俺はそこにとどまり、彼がみんなを退出させた後、とある野郎が入って来て…。
エミネム:俺は6、7か月程ラップをやめてたんだ。何だかもうどうにもならないように思えてさ。キム(・スコット、エミネムの元妻)の実家の屋根裏を部屋にしてそこで俺たちは暮らしてた。その時点で俺はプルーフから3か月くらい連絡をもらってなかった。あいつが相変わらず好きなことをやってるのは知ってたけど、あそこまでとは、あんなレベルだとは思ってなかった。でもプルーフから電話があって、「おい、何か書け、明日ここへ来てそれを言え。気に入らなかったら二度としなくていいから」って言われた。10人か15人くらいいたよ。あの日お前に会ったなんて覚えてないぞ。
ポール:お前がキムとやって来たのを覚えてる。なんか白いジャージの上下を着てたよ。
エミネム:ああ、あれはいつも着てたな(笑)。ラップしたら反応がよくて、そこからまた書き始めたんだ。
ポール:そして数か月後にお前が(インディーズ・デビュー・アルバム)『インフィニット』を出して、そのカセットを俺は6ドルでお前から買った。こうやって俺たちは出会ったんだ。
――どういった経緯で一緒に仕事をするようになったのですか?
ポール:彼にはすごく才能があると思ったけれど、その時彼はまだ自分のアーティストとしてのアイデンティティを理解してなかった。他のアーティストみたいになろうとしていた、例えばナズ…。
エミネム:なろうとしてたわけじゃないけど、結果的にそうなってた(笑)。AZ、ナズ、ソウルズ・オブ・ミスチーフ、レッドマン、当時活躍してた偉大なラッパーたちを全部掛け合わせたみたいだった。
ポール:ニューヨークに引っ越して司法試験の勉強を初めてからもデトロイトの音楽シーンのみんなとは連絡を取り続けた。ある日友人から連絡があって、「エミネムの新しいやつ聴いた方がいいぞ」って言われたから、番号を教えてもらって彼に電話をかけて送ってもらったんだ。カセットを受け取って聴いてみたら圧倒された。彼が自分の声を見つけたことに気付いた。自分の発言の内容や言い方に関して自意識過剰気味に気取るのをやめて、言い方は悪いけど、“クソくらえ”って思ってる奴みたいに聞こえた。それが音楽からひしひしと伝わって来たんだ。だから俺は彼に電話して、代理人にならせてくれないかと頼んだ。そうやって始まったんだ。俺は彼の弁護士だった。
エミネム:そして俺は友人たちとニューヨークに通い続けた。
ポール:そうだな、そうやって友情が深まり始めた。二人とも金がなかったから、彼は俺んちのソファで寝泊まりしながら二人でなんとかした。文字通り歩き回ったんだ、当時はデータで送るとかできなかったからね。レコードを腕いっぱい抱えながらクラブを回ってDJたちに配って、ストレッチ・アームストロングとかトニー・タッチとかクラーク・ケントとかに、「やあ、俺はポール。エミネムを聴いてやってくれない?」って頼んだ。あの頃出会った人たちとは今も交流がある。ジジイが昔を懐かしんでるって思われたくないけど、ああやって実際に会って話す時間とか、人と人とのつながりは欠かせない。そこに価値があると思うし、今の時代にはないものだ。
――当時の思い出で印象に残っているのは?
エミネム:The Outsidazとレコーディングしてて、ライムを書いてたんだけど、彼らはフージーズの「カウボーイズ」のミュージック・ビデオに出てたりで、人気が急上昇中だった。で、彼らがウータン(・クラン)のライブに出た時、俺を前座にしてくれて…。
ポール:あれはスタテン島のパーク・ヒルで毎夏行われてた(イベント)パーク・ヒル・デイだった。The Outsidazがパフォーマンしたあと、ウータンが出てきたら、大喧嘩が勃発して、メソッド・マンがスピーカーの上から客席へ飛び降りた。たぶん誰かが銃を発砲したんだと思うんだけど、そしたら人がどっと逃げ出して。マーシャル(エミネムの本名)が俺の方を向いて、俺も彼を見てどっちかが「逃げろ!」って(両者笑う)。あとは、俺がジャージーシティに住んでた頃、何人かルームメイトがいたんだけど、アパートにはソファとテレビが置いてあるロフトがあったから、そこでマーシャルが寝泊まりしてたんだ。
エミネム:ネズミのようなゴキブリがいたよな。俺が寝てたその部屋はマットレスが床にひいてあって、朝起きるとゴキブリが動いてる音がするんだ。それも姿が見える前だ!あんなデカいゴキブリは人生で見たことない。まるで人間のようだった。俺が足で踏むと叫ぶんだ(笑)。「アー!俺を殺したな!ヤメロー!」って。
ポール:それは俺のクイーンズのアパートだな。NYのゴキブリはタフだから(笑)。俺が話してたのは、その後のことだ。多少マシで、まだ4人のルームメイトと暮らしてたんだけど、ゴキブリはいなくてジャージーシティに住んでた頃だ。『ザ・スリム・シェイディLP』が近くリリース予定で、「マイ・ネイム・イズ」のミュージック・ビデオを撮影し終えたばかりだった。まだ貧乏で、ソファで寝てた。MTVをつけてたら、そのビデオがかかったんだ。(エミネムを)テレビで見たのはあれが初めてだった。俺たちはこれで決まりだ、って思った。「あ、やった、ここからおさらばだ」って。
エミネム:自分もそう思ったかどうか分からないけど、「これ現実に起こってるの?」って思ったのは確かだ。シュール過ぎてずっともうろうとしているみたいだった。それまで何度も手に届きそうで届かなかったから、「そんなうまい話があるわけない」って感じだった。
――二人の友情はどのように進展してきましたか?
エミネム:ますます嫌いになっただけだよ。(ローゼンバーグが笑う)色々な目にあったよな……いいことも悪いことも。アルバムのリリースやら、俺のオーバードースやら……。
ポール:ビーフやら、生と死も。大抵彼が怒るのは、俺が彼のリリックを後になってこき下ろすからだ。「何で今更言うんだ?」ってね。
エミネム:彼はいつも俺の(歌詞を)分析してこき下ろしやがる。世界中の奴らと一緒だ。
ポール:そのことでお前をイジるのが好きなんだ。俺はまあまあ批判的だよな。お前が好んで俺をイジるのは何だ?”お偉いマネージャー様をご覧よ”ってか?
エミネム:まあ、今となっちゃお前はマジでお偉いさんだからな。おい、出世する間に小者たちのことを忘れなんよ。
ポール:俺にとってお前はいつまでも普通の男だよ。
▲ 「Walk On Water/Stan/Love The Way You Lie (Live From SNL)」
リリース情報
関連リンク
ヒップホップは常に進化しているし、起きていることを把握しようとする一番大事な理由はそこ
――『リバイバル』についてお聞きします。“リバイバル(復活、再生)”のコンセプトはいつ頃から始動したのですか?
ポール:何年か前にマーシャルに持ち込まれたすごく印象的なトラックがあって、ずっと忘れてなかったんだけど、このアルバムの選曲をしていた時にそれが出て来て、彼が歌詞を書くって言い出した。そうこうしている内にこのトラックでコーラスを歌っていた女性が亡くなっていたことを知ったんだ。二人とも面識がなかったんだけど、彼女のグループの名前はAlice and the Glass Lake (アリス・アンド・ザ・グラス・レイク)だった。(アリシア・レムケは2015年に急性骨髄性白血病で28歳で死去した)マーシャルがこれを使って何かした方がいいんじゃないかって言ってたこともあって、全体をまとめるテーマとして使うべきなのではないかと感じた。その曲の題名が「Our Revival」だったんだ。
――ポールはアルバム制作にどの程度関わっているんですか?
ポール:いつもは自分が行くべき理由がない限りはスタジオには行かない。でも制作している過程でマーシャルが俺に何かを聴かせてもいいと思った時にそれをかけてくれる。でもそれはリック・ルービンも同じだし、ドクター・ドレーもそうだし、インタースコープの人たちもそうだったりする。俺たちは皆それぞれ感想を伝えて、どこが好きでどこが嫌いかを言うんだ。
エミネム:ポールはいつも俺が聞きたくないことを言ってくれる。でもそれを尊重しなくちゃいけないんだよ、簡単なことじゃないからさ。俺がやり過ぎてしまったことあれば、それが何であれ、本当のことを言ってくれるのは彼だ。大抵の場合俺たちが相談して意見がまとまれば、それがリリースの準備ができたタイミングだと感じるね。
――アルバムをリリースした時、どんな気持ちでしたか?
ポール:それなりに不安はあっただろ?
エミネム:色んな感情がよぎるよ。それぞれのアルバムから学べることがあると思っていて、このアルバムやそれに対する反応から受け取れることもある。曲が多過ぎただろうか?フィーチャーが多過ぎただろか?「トラジック・エンディングス」や「ニード・ミー」なんかは、リリック的にリスナーが一息つけるような楽曲だと思ってる。俺は誰も絶対に分かってくれないようなことを随分時間をかけて書いてる。みんながGeniusにアクセスして歌詞の意味について調べてるかなんて知らないし。
▲ 「River feat. Ed Sheeran」MV
――ポールがデフ・ジャムのトップになった今、<シェイディ・レコーズ>は今後どうなるのでしょうか?
ポール:<シェイディ・レコーズ>は色々な面でマーシャルのブランドなんだ。契約してリリースするものは彼の世界観にフィットしなければならない。ブティック・レーベル以上のものにするつもりは最初からなかったから、ずっと小規模のままだった。マーシャルが才能ある人と契約して育ててリリースしたいと思う限り、<シェイディ・レコーズ>は存在し続けるよ。
――エミネムはどうやって新しいアーティストを発見しているのですか?ストリーミングですか?
ポール:最近彼はiPadを持ってるんだよ。
エミネム:傾向はいつも気にしてるよ。
ポール:俺が聞いたことないものを教えてくれることもある。ビッグ・シャックの「マンズ・ノット・ホット」とか、彼が教えてくれるまで知らなかったし。
エミネム:あれは最高だね。俺はいつもみんながやっていることをチェックしてる。きっと俺は大抵の人が思ってるよりはるかに(流行を)把握してると自分では思ってるよ。
――ストリーミングのおかげで、ラッパーとして成功するハードルが下がったようにも見えますが、どう思われますか?
エミネム:場合による。J.コールとかケンドリック・ラマーとかジョイナー・ルーカスなんかは最高のラッパーになる為にラップしてると思う。俺がずっとやろうとしてきたことはそれだけだ。中には最高になろうとは思ってないけどいい曲を書ける奴もいるだろうし、中にはつまんねー曲を書く奴もいる(笑)。でもヒップホップは常に進化しているし、起きていることを把握しようとする一番大事な理由はそこなんだ。
ポール:質が下がったと言うよりは、自分の音楽を投稿して瞬時に世界中の人々に観て聴いてもらえる手段が新規参入への障壁を取り払ったのだと思う。以前だったら誰にも聴いてもらえなかったような程度のものが今なら投稿できる。
エミネム:市場が飽和状態で、レコードの寿命を短くしてる。一日だけあったと思ったらもう無くなってる。起きてきたら、「さあ、次は何を出すんだ?」ってみんなに聞かれるみたいな感覚だ。俺が昨夜自分のアルバムを作ったとでも思ってんの?
――今年の目標は?
ポール:マネージャーとしての仕事、<シェイディ・レコーズ>でのマーシャルとの役割、そしてデフ・ジャムでの大きな責任とのバランスをどう取るか考えなければならない。そのバランスさえ分かれば、仕事をこなす自信はあるから全てうまくいくと思う。全部やりながら、なおかつ人間らしくあって家族との関係を保つ為の時間、エネルギー、そして集中力の適度なミックスを見つけなければならないだけ。
エミネム:俺は自分の答えが何か現時点では分からない。まだソングライター・モードなんだ。
▲ Eminem & Def Jam CEO Paul Rosenberg Talk 'Revival,' Future of Hip-Hop, Trump
Q&A by Dan Rys / 2018年1月25日Billboard.com掲載
リリース情報
関連リンク
リバイバル
2017/12/27 RELEASE
UICS-1338 ¥ 2,750(税込)
Disc01
- 01.ウォーク・オン・ウォーター feat.ビヨンセ
- 02.ビリーヴ
- 03.クロラセプティック feat.フレッシャー
- 04.アンタッチャブル
- 05.リヴァー feat.エド・シーラン
- 06.リマインド・ミー (イントロ)
- 07.リマインド・ミー
- 08.リバイバル (インタールード)
- 09.ライク・ホーム feat.アリシア・キーズ
- 10.バッド・ハズバンド feat.X・アンバサダーズ
- 11.トラジック・エンディングス feat.スカイラー・グレイ
- 12.フレイムド
- 13.ノーホエア・ファスト feat.ケラーニ
- 14.ヒート
- 15.オフェンデッド
- 16.ニード・ミー feat.P!NK
- 17.イン・ユア・ヘッド
- 18.キャッスル
- 19.アロウズ
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