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GACKT 『雪月花-The end of silence- / 斬~ZAN~』インタビュー
GACKT 遂にBillboard JAPANに降臨!
今年でソロデビュー10周年を迎え、怒涛のアリーナツアーや、4週連続シングルリリースなど、壮絶とも言える1年を駆け抜けてきたGACKTが、いよいよニューシングル『雪月花-The end of silence- / 斬~ZAN~』をリリースする。直前にリリースしたアルバム『RE:BORN』についても含め、初登場となる今回は彼が表現にかける想いから、エンターテインメントで変える未来まで。濃密に答えてもらいました!
命を懸けて、本気でやれる人は感動を生み出せる
--2009年はソロデビュー10周年となりましたが、シングル8枚にアルバム1枚。大規模なツアーも開催と、相当にハードな1年になりました。
GACKT:音楽活動の始動となった『Jesus』(2008年12月リリース(通常盤))から考えると、もう次も作っているからトータルでシングル10枚。……まあ10周年だし(笑)。苦しさ? クリエイティヴに苦しさはつきものだよ。むしろ、苦しまないのはクリエイティヴじゃない。女性が子供を産む時、苦しむからこそ産まれたという歓びがあるように、苦しむからこそ出来上がったモノに対しての愛着や愛情が沸く。もっと良いモノ、もっとみんなが感動できるモノを、常に追求し続けるから苦しくなるんじゃないかな。でも、その苦しみは観に来てくれた人たちの喜ぶ顔で、一瞬にして帳消しになるよ。
--より研ぎ澄まされた作品を生み出すために、常に極限まで追求していくGACKTさんの壮絶な様子を見ていると、「そこまでやらなくて良いんじゃないか?」って思う瞬間もあります。
GACKT:やりすぎだと思う人もいるかもしれないけど、そこから感動を得られる人と得られない人といるわけだよね。例えば今、“楽園祭”っていうのをやっていて、そのために僕はX JAPANの曲のドラムを練習しているんだけど、この歳だからこそ感じる事があるんだよ。
X JAPANのドラムはYOSHIKIがやってるけど、彼はずっとこれを仕事にしていたわけだよね。こんな事やってたら身体壊すし、首だって骨だっておかしくなる。倒れたりもするよ。でも、苦しみながらも、それでもやり続ける姿が人に感動を呼ぶんだ。日本の歴史上で、ドラムの販売実績を上げた人って、石原裕次郎さんとYOSHIKIだけだからね。そのふたりが本当に(テクニックが)凄いドラマーだったかって言われたら、そうじゃないって言う人もいるかもしれないけれど、彼らふたりは人に感動を与える事ができる、類い希なるドラマーなんだ。
だから、仮に他のアーティストが僕のステージに立って同じセットリストでやったとしても、僕のステージを観て感動している人たちに同じような感動を与える事はできないと思う。そこに命を懸けている僕だからできるんだよ。命を懸けてやっている姿を見て、感動して涙を流す。それは無条件な事なんだよ、不思議だけど。
--確かにGACKTさんがステージへ懸ける意志は、侍と称しても過言ではないほど壮絶ですよね。
GACKT:例えば今、侍って言葉が出たけど、実際に闘うっていう行為は人殺し、殺し合いでしかないわけだよね。でも、そこでお互いが命を懸け合って、守るべき者のために闘う姿が感動を呼ぶんだ。それって凄く不条理な話だけど、その死が誰かを守るための闘いだったり、命を懸けて何とか守ろうとする姿を観ると、感動して心を打たれる。命を懸けるってそういう事なんだよ、きっと。人の心を動かす。人間の中にある、感動のスイッチを入れてしまうものなんじゃないかな。
どんな時でも命を懸けて、本気でやれる人は感動を生み出せる。むしろ、例え成し遂げたとしても本気を感じる事ができなかったり、命を懸ける程ではない中でできてしまったモノっていうのは、人に感動を与えない。結果としてできた、っていう事実が残るだけなんだ。
--12月2日にリリースしたアルバム『RE:BORN』には、音楽CDに加えてオリジナルドラマCDも収録されています。ドラマは戦争状態にあるドイツが舞台ですが、このストーリーをハッピーエンドと捉える事ができるか。そこがひとつの鍵だと感じました。
GACKT:何をもって幸せとするのか。今の世の中に存在する幸せっていうのは、ありふれたモノの中に存在するから、感じ方が薄くなっているよね。例えば人の出会い。分かりやすく言うと……、今幾つ? 32歳? じゃあ携帯の無かった時代を覚えてるよね。デートする時に外で待ち合わせをする。その人が来るかどうか、本当にドキドキしたよね? 家に電話したって居ないし、時間に遅れていたとしたら余計心配になる。だからこそ、あの時代だからこその感動、人に出逢った事を喜べる自分がいた。携帯や、ポケベルが無かった時代に生まれて僕は良かったと思うよ。
Interviewer:杉岡祐樹|Photo:梅原直也
僕の男のファンって熱いんだよ、本当に
--12月9日にはシングル『雪月花-The end of silence- / 斬~ZAN~』をリリースしますが、本作の詞世界からは共通して孤独を感じました。それはどちらの詞も“あなた”や“君”が傍らにいないからなんです。
GACKT:僕の曲は哀しみだけではないんだよね。そこに優しさも共存していたり、美しさと儚さだったりと、対比するモノが同時に入っていて、人に対する愛の深さと孤独が存在している。感情が入り混じっていて、シンプルじゃないんだ。
今の世の中って何でも便利になってきて、音楽も分かりやすい方向にいって、単純にハッピーな方に行きがちだよね。それがダメだとは言わないし、あって良いモノだと思うけど、僕はあんまり興味が無いから他の人がやった方が良いと思う。僕には僕にしかできない表現をやろうと思っている中で、これだけ多くの人たちが僕の作品を待ってくれている。その人たちに届けたい。
僕がやっている事は凄くコアな事なんだけど、それに対して共感してくれている人が多い。だから大多数に分かりやすい曲をっていう考えで作っていないんだ。人の心に触れるモノを作りたい。一個人の心に触れるモノを作りたいっていう所から始まって、今の結果に繋がっているだけ。 こういう考え方ってある種、古いとか堅いとか、変わってるって言われたりする事が多いんだけど、そんな僕をソロで10年、バンドを含めれば15年も追い続けてくれる人たちが沢山いるのは、本当にありがたい事だよね。
--その上、サウンドに関しても、例えば『斬~ZAN~』はハードな音像の楽曲ですが、綺麗に分離されたミックスで、ラウドでありながら心地よい質感に仕上げています。
GACKT:奇才だからね(笑)。音が聴き手にどう響くかは、ミュージシャンである以上意識したいし、追求しなくなったら終わりだと思う。例えば「今の人はみんなイヤホンで聴くから」って、イヤホンだけを対象にしたサウンドを作ってしまうのはダメでしょ。やっぱり音の構造ありきで、その上でイヤホンでの音も考える。自分たちの音に対するこだわりって、突き詰めていけばいく程、深くなっていくけど、だからといってマニアックな方向に行きたいわけじゃない。人の心に触れるモノを作りたい、っていう方向にいっているだけなんだ。
--でも、GACKTさんのサウンドってマニアックに楽しめる深さもあるじゃないですか。
GACKT:男の子って音にこだわってる子が多いじゃない? 女の子はキャッチーなモノを掴む能力が高いけど、男の子は掴まえたモノを追求する癖がある。ファンクラブ限定ツアーとかにおいて男の子で多いのは、音に対する部分から生き方、考え方も含めて、突き詰めて見てくれる。だから僕の男のファンって熱いんだよ、本当に。「兄貴がやる事には必ず意味がある」ってさ。
僕が何かすると否定する人たちもいるんだけど、「必ず何か意味があるから、それを考える方が先だ」って言ってくれる熱いファンもいる。そういうファンが増えるっていうのは、ある種、戦国時代の忠義な良い家臣が増えていってるような感覚に近いよね。自分の発した言葉に対して、騒ぎ立てる周囲を気にせず完全に信頼してくれるんだって気になるし、だから僕も「彼らを裏切っちゃいけない」って気持ちが出てくるしさ。
--先日、急逝されたマイケル・ジャクソンさんの追悼イベントで、マドンナが「私たちは彼を見捨てた。みんなが彼を裏切った」と語り、会場から共感の拍手が沸き起こりました。そしてその後に大ヒットした映画「THIS IS IT」を観た時、自分はエンターテインメントが本来の姿に戻る時が来ているのではないか、と感じたんですよ。
GACKT:彼は死をもってして、エンターテインメントが歪んだ結果を見せたんじゃないかな。彼の不幸はエンターテインメントのキングであり、キング・オブ・ポップであったが故に、最終的には歪んだ渦の中に巻き込まれる結果になってしまった。今の世の中が間違っているんだってことを、死をもって警告したんじゃないかって思うよね。
Interviewer:杉岡祐樹|Photo:梅原直也
僕のコンサートは参加する事によって感動が得られる
--ではそうした現状の中、極限まで追求し続けてきた自身のエンターテインメントが今後、より広がっていくんじゃないか、という予感は?
GACKT:今って余りにも簡単に音源の感動が手に入るけど、それはあくまで耳の感動であって、目の感動じゃないし五感の感動じゃない。みんなが簡単に携帯でダウンロードして満足しちゃうのは、その音楽がそこで完結しているからなんだ。だから、幾らコンサートをやっても入らなくなるよね、コンサートで聴くのと携帯で聴くのに大差がないから。
僕のコンサートは、その空間に居る事によって大きな感動が得られるんだよ。それは幾らインターネットの動画共有サービスに上げようが関係ない、生で観ないと絶対に得られないから。そして、生で観た人はまた観に行きたくなる。だから僕のツアーは何回も来るリピーターが多いし、一回しか申し込んでなかった人が必死に次のチケットを探してくれるんだよ。僕はステージ上に創る世界にこだわりを持って、命を懸けてやってるから。表現する事にここまで本気でやっている人はいない、今の世の中は圧倒的に少なくなってきている事をみんな知ってる。本物を観たい、本気の人を観たい、本物の感動にみんな触れたいんだよ。
--マイケル・ジャクソンさんはエンターテインメントを通じて世界を変えようとした人物だと自分は思っています。GACKTさんは自身の表現で世界を変えられると思いますか?
GACKT:「今の世界に人種の壁は無い」って言う人がいる。でも僕は全然そう思えないし、いまだにアジア諸国ですら壁は存在していて、これが解消されるのには後何年かかるのか……。それに国が背景についてしまうと、人って攻撃し合ってしまう事が多々あるよね。ただ、一個人 vs 一個人ならリスペクトしあう事もできる。じゃあ何を通してリスペクトできるのか、それは相手の国を、文化を好きだと思った瞬間から変わるんだ。
例えば5~6年前まで、日本には在日だって公表する事に抵抗を覚える人がたくさん居たよね。でも今は、変わったよね。自分は在日だ、韓国籍だって言えるようになってきた。戦後60年間、政府が執ってきた政策が殆ど何の意味も成さなかったのに対して、たった1年の韓流ブームで変わったんだ。たった1年だよ!? あの1年で「韓国の文化って良いよね」ってその文化を認める事をきっかけに、在日の人たちを認める事ができる。差別が減るんだよ。
僕が中学、高校の時は腐る程あったよ! 親の世代が「あの子は在日だから」って、平気で差別するんだ。僕は在日の友達がたくさん居たから、そういう差別に対して、ふざけんな! って子供心に思ってた。「何が違うんだよ!?」って。でも、意味も分からずに親たちは差別するわけだよね、大人が差別を作ってた。ところがたった1年の韓流ブームでそれが無くなる ―――少なくとも軽減するんだよ。
もちろん、まだ差別している人はいるかもしれないけど、昔のような根強い差別が今もあるのか!? 少なくとも在日の人たちが自らの出自を話せるようになった。これが文化の力だよ。それを理解していない、文化の力をナメてる政治家が多すぎる。政治の力だけで押そうとするから、中途半端な国交回復ですら何年経ってもできないんだよ。
--それを自身で変えたい?
GACKT:だからこそ海外でも活動しているしね。まずは自分の国を否定するんじゃなくて知る事、愛する事から始まると思う。そうすれば相手が自分の国を愛している事を認められる。ナショナリズムは他人の国を攻撃する事じゃないんだよ。自分の国を愛しているから、自分の国を愛している人たちを認められる。自分の家族を愛せない人が、他人の家族を愛せる? 自分の恋人を愛せない人が、他人の恋人に優しくできる? そんなの上っ面だよ。そういう事じゃない。
……それを、全員に分かって欲しいってわけじゃなくて、分かってくれる人たちが同じ意識の中で連鎖を起こしてくれたらって思う。だから僕には、韓国や中国、台湾からアメリカ、ブラジルって国を超えたファンが存在する。僕がそういう意識で活動しているのが届いている証拠だよね。それは凄くありがたいよ。
Interviewer:杉岡祐樹|Photo:梅原直也
雪月花-The end of silence-/斬 ZAN
2009/12/09 RELEASE
DSCD-18 ¥ 1,257(税込)
Disc01
- 01.雪月花 -The end of silence-
- 02.斬 ~ZAN~
- 03.雪月花 -The end of silence- (Instrumental)
- 04.斬 ~ZAN~ (Instrumental)
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